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パンデミック〈エピソード2〉~ワスレ草の花咲く森で~

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●2人 ●30〜35分程度

●あらすじ

森で記憶を失ったピロテ。そこに現れたアンは、森の秘密を語り始める…。エピソード3で完結予定の第2話部分。

●キャスト

アン
エル・ピロテ

●台本(全文)

森の中。ヒョロリとした草が何本か立っていて、花が咲いている。

花は赤い光で照らされており、舞台の奥は赤い。

下手より歌いながらアン登場。

アンは、魔女っぽい服を着ている。

アン  ♪大きくなれ小さくなれワスレ草 この森は不思議 不思議な永遠 すべてを忘れ すべてを思い出す 花が咲いてちょっと怖い 花が散ってもっと怖い ホラ見てごらんあなたのまわりを……。

アン、ふと足を止めて。

アン  ア〜、なんだっけ。このあとの歌詞が思い出せないや…。さっきまで覚えてたのに…。(花を見て)まぁ、仕方ないか…。とりあえず覚えてるところまでメモしとこっと。

アン、舞台奥でメモをつけはじめる。

上手よりピロテ登場。キョロキョロしつつ舞台中央まで来て。

ピロテ ここはどこなんだ…。…一体、ボクは…。

頭をかかえるピロテ。

アン、ピロテに気づいて。

アン  どうかしましたか? 何かお困りのことでも?

ピロテ …あなたは?

アン  私? 私はアン。…ここに住んでます。

ピロテ ここに? …一人で?

アン  エエ。今は一人です。

ピロテ 今は?

アン  ずいぶん前に、おばあさまがいなくなって…それからは一人なんです。

ピロテ あの…。つかぬことをお尋ねしますが…。

アン  ハイ、なんでしょう。

ピロテ ここは森なんですよね。

アン  (あたりを見回し)これだけ木がはえているんだから森なんでしょうね。たぶん。

ピロテ なんて言う森なんですか?

アン  名前?

ピロテ エエ。

アン  …さぁ、それはちょっと…。

ピロテ 知らないんですか。この森に住んでいるのに。

アン  スミマセン。私、ここから出たことがないもんで…。だから名前とか、そういうのあまり考えたことがなくて…。ゴメンナサイ。おばあさまに聞いて、メモしておけばよかったんだけど…。

ピロテ …そうか。…なら仕方ない…。あの…じゃあ…。

アン  ハイ。

ピロテ この森の場所とか、どっちに行けば出られるとか、そういうこともわからないんでしょうね、きっと。

アン  ハイ。全然。

ピロテ 参ったなぁ…。

アン  あのぅ…。

ピロテ 何ですか。

アン  ひょっとして道に迷われたんですか?

ピロテ …エエ、たぶん。

アン  どこに行こうとしてたんです。

ピロテ …実は、それが…。

アン  アア、わからないんですね。

ピロテ …エ、エエ。

アン  いろんなことが思い出せなくなってるんだ。

ピロテ そ、そうなんですよ。

アン  やっぱり。

ピロテ やっぱりって?

アン  あなた人間でしょ。

ピロテ もちろんですよ。自分が人間だってことくらいはわかりますよ。いくらなんでも。

アン  だからですよ。

ピロテ どういうことですか。

アン  ここに人間が近づくと、花が咲くんです。

ピロテ 花?

アン  (花を指さし)ホラ、これ。

ピロテ 何ですか、これは。

アン  ワスレ草。

ピロテ ワスレソウ?

アン  エエ。ワスレ草。この草、人間が近づくと、いっせいにパァ〜ッと花をつけるんです。不思議でしょ。

アン、ワスレ草の花に顔を近づける。

アン  クシュン!

アン、クシャミ。

アン  ア〜、ムズムズする。…でね、花が咲くと、どういうわけか忘れちゃうんですよ。いろんなことを。

ピロテ …忘れてしまう。いろんなことを…。…じゃあ、この花のせいでボクは…。

アン  たぶん。

ピロテ どうしたらいいんですか。一体どうしたら!

焦るピロテ。

アン  まぁまぁ、落ち着いて落ち着いて。大丈夫よ、大丈夫。…とにかくまだ覚えていることを今のうちにメモしておきましょ。ネッ。

アン、メモを取り出す。

ピロテ …エッ、エエ。

アン  エ〜ッと、名前は?

ピロテ 名前? …名前は…ピ…アッ、そうだ。ピロテ。ピロテです。エル・ピロテ!

アン  ピロテね。(メモをとりつつ)ピロテ…と。すごいすごい。その調子よ。

ピロテ アッ、ハイ。

アン  じゃあ、歳は? 何歳?

ピロテ 年齢ですか…。エ〜ッとエ〜ッと…。ダメだ。思い出せない!

アン  大丈夫よ、大丈夫。焦らないで。(ピロテを見て)ウ〜ン、そうねぇ、二〇歳くらいかなぁ?

アン、手鏡を取り出し、ピロテに渡して。

アン  どう思う?

ピロテ (鏡で自分を見つつ)そうですねぇ…。それくらいかも…。

アン  でも結構童顔だから、実は三〇代後半とか。

ピロテ (鏡で自分を見つつ)イヤ〜、それはないでしょ。お肌にハリがあるもの。

アン  わかった。じゃあ、とりあえず二〇歳にしといてあげる。

アン、メモ。

アン  じゃあ、仕事は?

ピロテ 仕事? (自分の服装を見て)剣と鎧…。兵士ですかね。

アン  ウーン。そうよね、そんな感じよね。どうみても。じゃ、職業兵士ってことで。(メモをとりつつ)…じゃ、どこから来たのかしら?

ピロテ (腕組みをしつつ)ダメだ。全く思い出せません。ゴメンナサイ。

アン  謝らなくていいのよ。あなたが悪いわけじゃないんだから。…エ〜ッと、じゃあ、あれかな。何をしに来たのかもわかんないよね。

ピロテ、うなずく。

アン、メモをとりつつ。

アン  …今までの情報を整理すると、あなたはピロテ、推定年齢二〇歳。たぶん兵士で、どこから来たのかはわからないし、何をしに来たのかもわからない…と。そういうことね。

ピロテ エエ…。

アン  (小声で)かなり重症だな…。

ピロテ 何かおっしゃいましたか?

アン  ううん。気にしないで。大丈夫だから。(ピロテに近づき)他に覚えてることある? なんでもいいんだけど。

ピロテ …他に、ですか。ウ〜ン…。

アン  (ピロテの腰の剣を見て)ずいぶん立派な剣ね。

ピロテ ですね。

ピロテ、剣を抜いてみる。

アン  スゴーい。ひょっとして強いんじゃないの?

ピロテ ですかね。

アン  きっと強いんだよ。普通の兵士がこんな剣もってないもの。あなた、ひょっとして何か特別なソルジャーじゃないの。

ピロテ そう言われてみれば…。こうやって剣を握っていると、なんて言うか、力がみなぎってくるっていうか、やるぞって気になってきます。

アン  でしょ〜。じゃあさぁ、きっと勇者だよ勇者。なんか選ばれし者みたいな感じの。で、特殊な使命のためにここにやってきたんだよ。

ピロテ 特殊な使命?

アン  そう。勇者のあなたにしかできないような何かとてつもなく特殊な使命。

ピロテ たとえば?

アン  …たとえば、森に棲むドラゴンを倒しにきた、とか。

ピロテ オオッ! ドラゴンを!

アン  で、実はドラゴンはお姫様を洞窟に閉じこめてて、にっくきドラゴンを倒した勇者ピロテは、救い出したお姫様とめでたく結ばれるとか!

ピロテ それはスゴい! しかもあり得ない話じゃない!

アン  じゃあ、一応メモしとくね。(アン、メモをとりつつ)…お姫様を救い出し…と。アッ、ネェネェ。ひょっとしたら、そのお姫様、私ってことはないかしら!

ピロテ あなたが?

アン  うん、そう。あり得るわよ。お姫様はドラゴンのすきをみて、洞窟を逃げ出したのかもしれないし…。ひょっとしたらもうすでにあなたはドラゴンを倒してて、私を無事救い出したんだけど、ドラゴンの最後の呪いによってワスレ草の花が咲き、記憶を失っているとか! うん。それがいい! 気に入った! よし、メモしとこ。(メモを取り出し)…ピロテはドラゴンを倒したもののドラゴンの呪いによって二人は記憶を失っている。…私は救い出されたお姫様…と。

アン、うきうきした感じでメモをしまう。

ピロテ …あの。ちょっと。

アン  何?

ピロテ アンさんはお姫様なんですか?

アン  さぁ、どうかしら。そうだといいんだけどね。

ピロテ いいんだけどねって…。ひょっとしてあなたも…。

アン  あなたも何?

ピロテ 自分のこと思い出せないんですか?

アン  (笑って)当たり前じゃない。さっきも言ったでしょ。この花が咲くと、いろんなこと忘れていくんだって。…こうしているうちにもドンドン忘れていくからさぁ、ヤバイのよね。ホント。

ピロテ エ〜ッ! それじゃあ二人ともこのまま何もかも忘れていってしまうってことですか!

アン  大丈夫よ、大丈夫。思い出す方法がちゃんとあるの。

ピロテ アーよかった。それを早く言って下さいよ。どうなることかと思ったじゃありませんか。で、どうすればいいんですか?

アン  まぁまぁ慌てない慌てない。

ピロテ でも…。

アン  だって面白いじゃない。自分のこと忘れちゃうのって。だから自分で自分のこと予想して、それをメモしておくの。で、あとから本当はどうだったかっていうのを確かめて、遊ぶんだ。ネッ、面白いでしょ。

ピロテ エエ…まぁ…。

アン  あなたのこともメモしてあるからさぁ、今から二人で答え合わせしようよ。ネッ。

ピロテ エエ。

アン  ジャジャジャジャーン。

ピロテ 結構ドキドキしますね。

アン  でしょ。

間。

ピロテ で、どうやるんですか。思い出すのって。

アン  簡単なことよ。

間。

ピロテ 簡単って?

間。

ピロテ …どうかしましたか…。

アン  …簡単なことよ。

ピロテ エエ、ですから、どうやるんです。じらさないで下さいよ。

間。

アン  …ちょっと待って。今、思い出すから…。

ピロテ 今、思い出すって…。あなたまさか…。

アン  大丈夫よ、大丈夫。簡単なことのはずなんだから…。

間。

ピロテ 忘れたんですか。

アン  …そんなことないわよ。

ピロテ 忘れたんですね。

アン  エヘヘヘヘ。

ピロテ やっぱり忘れたんだ。

アン  …忘れました。スミマセン。

ピロテ なんだよ、ちくしょう。なんてこった! なんですぐに思い出させてくれなかったんですか!

アン  ゴメン。

ピロテ ゴメンじゃありませんよ。どうしてくれるんです!

アン  だから謝ってんじゃん。

ピロテ …まったく、何が答え合わせだよ。ジャジャジャジャーンとか言ってる間にサッサとやっておけばこんなことには…。

アン  仕方ないじゃん。忘れちゃったんだからさぁ。

ピロテ アーもうおしまいだぁ〜。何もかもすっかり忘れてしまうんだ。アーなんてことだ、クソッ。一体どうしてこんなものが……。(間)…ん? こんなもの? (アンに)ネェネェ。こんなものってなんのことだっけ?

アン  こんなもの? こんなものってどんなもののこと?

ピロテ だからさぁ、二人とも自分のこと思い出せなくなってるわけでしょ。

アン  うん。

ピロテ それってさぁ、何か原因があったはずなんだよね。それがちょっと思い出せなくて…。

アン  エーなんだっけ。ヒントある?

ピロテ …たしか…なんかこう、パッと開くような感じのものでさぁ…。

アン  パラシュート!

ピロテ パラシュート…。イヤ、違うなぁ。そんな大きなものじゃなくて、なんかもっと小さくてヒラヒラの…。

アン  小さくてヒラヒラ…。アア、紙じゃない。紙。

ピロテ 紙。紙か…。うん、そう言われてみればそんな気もするなぁ…。

アン  そうよ、きっとそう。私、さっき何か字を読んでた気がするもの。

ピロテ 本当に? じゃあ紙だ。

アン  うん、絶対そうよ。手紙みたいな感じの。

ピロテ そっか、それに大事なことが書いてあるんだな。

アン  そうよ。それに大事なことが書いてあるのよ。

間。

ピロテ アレッ? …大事なことって…?

アン  そりゃ、二人にとってとても大事なことなんじゃない。

ピロテ 二人にとって?

アン  エエ。

間。

ピロテ …とにかく探そうか。

アン  うん、そうだね。

間。

アン  …何、探すんだったっけ?

ピロテ 紙だよ。紙。しっかりしてよ。

アン  アッそうか。ゴメン。紙か…。そうだよね、紙だよね…。(舞台上を探しつつ、小声で)でも私、なんで紙なんか探してんのかなぁ…。

ピロテ 紙、紙、紙…と。(自分のポケットを探しつつ、小声で)紙ねぇ…。別にトイレに行きたいわけじゃないと思うんだけどな…。まっいいか。

しばらく思い思いに紙を探す二人。

アン  アー疲れた。腰が痛くなってきた。フゥ〜。

アン、手を休め、服のポケットからメモを取りだし、それで額の汗を拭く。

アン  ホント暑いったらありゃしない…。(ようやく手にしたメモに気づいて)アッ。

ピロテ 何?

アン  これじゃないかな。

アン、ピロテにメモを見せる。

ピロテ それは?

アン  メモ…みたい…。何か書いてある…。

駆け寄るピロテ。

ピロテ アッ、ホントだ。名前はエル・ピロテ…推定年齢二〇歳。職業勇者…。(自分の服を見て)これボクのことじゃないか!

アン  (ピロテの服を見て)間違いないわ。あなたはピロテ。推定年齢二〇歳の勇者ピロテよ!

ピロテ、メモをのぞき込み。

ピロテ なになに…勇者ピロテは、森に棲むドラゴンを倒し、ドラゴンによって洞窟に閉じ込められていたお姫様を救い出した…。

アン  すごいじゃない、ピロテ。あなたドラゴンを倒したのよ!

ピロテ ボクが…ドラゴンを…。ちょっと待って。じゃあ、救い出したお姫様っていうのは…。

アン  (メモを見つつ)たぶん私のことじゃない。…ホラ、ここに書いてあるもん。私は救い出されたお姫様って。

ピロテ あなたがお姫様!

ひざまずくピロテ。

アン、しげしげと自分の服を見てピロテに。

アン  でもさぁ、私の格好、お姫様っぽくなくない? どっちかって言うとさぁ…。

ピロテ どちらかと言うと…。

アン  魔女、とか。

ピロテ しかし姫。ひょっとしたら、閉じ込められたときに着替えさせられたのではありませんか。

アン  そっか…。それはあるかも…。でもさぁ、ドラゴンって怪物でしょ。わざわざ着替えとか用意してくれてたのかなぁ…。

ピロテ オタクっぽいドラゴンで、コスプレの趣味があったんじゃないでしょうか。お姫様をつかまえて閉じ込めたのも、そういう自分の趣味を満足させるためだったとか…。

アン  それってキモくない。

ピロテ キモいですよ。キモすぎます! (剣を抜き)なんて卑劣な…。変態ドラゴンめ! ただじゃおかないぞ!

アン  でも、もうやっつけたんだよね。

ピロテ アッ、そっか。そうですよね。やっつけたんですよね。覚えてないけど…。(間)…なんで忘れちゃったんだろ。

アン  (メモを見つつ)ドラゴンの呪いなんだって。ここに書いてある…。

ピロテ 呪い…ですか。…せっかく姫を救い出したっていうのに…。せめて帰り道がわかればなぁ…。

アン  地図とかないの?

ピロテ ちょっとお待ち下さい。今、カバンの中を探してみますから…。

ピロテ、自分のカバンの中を探しはじめる。

ピロテ 地図、地図、地図…と。ありませんねぇ…。…アレッ? なんだろうコレ。

カバンから手紙が出てくる。

アン  どうかした?

ピロテ ハイ、手紙のようなものが…。

アン  手紙? 誰から?

ピロテ エーッと…こっ、これは…。王様です! 王様直々のお手紙です!

アン  じゃあやっぱりそうだったんだ。ピロテは王様の命を受けて私を助けにきたんだわ。…で、パパはなんて言ってる?

ピロテ ハイ…。(手紙を読む)エル・ピロテ。今回の不始末の罰として、汝、ふぬけの森へ行くべし。ふぬけの森にて、汝の言う、人間をたぶらかす悪しき魔女を見つけ出し、首尾良く成敗したる暁には、その罪を許すものなり。ただし、魔女を討ち損じたるとき、または、魔女を討ち果たしたる証拠を持ち帰らざるときは、国内に留まること能わず…。…王、ベテロン。

アン  何それ?

ピロテ 命令書ですね…。

アン  …不始末がどうのとか、罰がどうのとかって何のこと?

ピロテ さぁ…。私には心当たりが…。

アン  国内に留まること能わずって?

ピロテ 追放ってことですね。失敗したら追放ってことです。

アン  パパ、怒ってるのかしら。

ピロテ わかりません。(間)ただ…。

アン  ただ?

ピロテ ひとつだけはっきりしたことがあります。この森に来た目的は、ドラゴン退治じゃなくて、魔女退治だったってことが…。

アン  (メモを見つつ)変ねぇ…。こっちのメモと違うわよねぇ…。

ピロテ (アンを疑いの目で見つつ)…人間をたぶらかす悪い魔女というのは一体誰のことなんでしょうねぇ…。

アン  さぁ、私にも全然心当たりがないけど…。

ピロテ ひょっとして、キミ、ってことはない?

アン  エーッ、私? なんでそう思うの?

ピロテ だって、その格好はどう見たって魔女じゃないか。

アン  だから、これはコスプレ好きのドラゴンが私をつかまえて…。

ピロテ そんなドラゴンどこにいるんだよ。

アン  もういないよ。、ピロテが退治したんでしょ。

ピロテ でもボクには心当たりがない。

アン  じゃあさぁ、剣を抜いてみてよ。

ピロテ、剣を抜く。

アン近づいて。

アン  ホラ、ここ見て。刃がこぼれてるじゃん。これってドラゴンを退治したときにできたキズじゃないの?

ピロテ いや、違うな。これは昨日や今日ついたキズじゃない。もっとずっと前についたものだ。…ボクはドラゴンを退治してなんかいない…。

アン  でもでも、こういうことだってあり得るわよ。ピロテはドラゴンを見つけたんだけど、その時もうドラゴンは死んでたの。病気とか事故で。ひょっとしたら老衰かも…。

ピロテ キミの言うことはすべて憶測だろ。

アン  …そりゃそうだけど、でも、ピロテの言うことだってそうじゃない。

ピロテ (手紙を突き出し)でも、ボクには王様からのこの命令書がある。

アン  それが本当に王様からの命令書だってどうしてわかるわけ?

ピロテ ここに王の印が押してある。

アン  印鑑だってニセ物かもしれないじゃん。ドラゴンが本当にいたのかどうかも怪しいけど、王様だって本当にいるかどうか、同じくらい怪しいんじゃない。違う?

ピロテ そっ…それはそうだけど。…じゃあ、教えてよ。キミは誰なんだい。何者なんだい。姫? それとも魔女?

アン  姫がいいな。どっちかって言うと

ピロテ、剣を構える。

ピロテ ごまかすな! そうやって人間をたぶらかすんだな!

アン  たぶらかしてなんかいないよ。私だって何も覚えてないんだから仕方ないでしょ。

ピロテ 信じられない! 魔女の言うことなんか信じられるもんか!

ピロテ、剣を振り上げる。

アン  アッ、何。私を斬るわけ? ひょっとしたら姫かもしれない私を。

ピロテ 姫…。

アン  そうよ。姫の可能性だってゼロじゃないはずよ。なのにそうやって、すぐ剣を抜いたりするのってどうなの。そんなだから何か不始末を起こして、それで王様が怒ったのかもよ。もしそうだとしたら、お姫様の私に剣を向けたってことで、これまた不始末よね。不始末プラス不始末で、これはもう、ただじゃ済まないかもしれないけど、それでもいいわけね。

ピロテ ンンンン…。クソッ。なんで思い出せないんだ…。ちくしょう!

ピロテ、剣を振り回す。

アン  キャッ!

剣がワスレ草の一本に当たり、花が落ちる。

ピロテ …ボクはエル・ピロテ。お城の料理人…。

アン  アッ、思い出したじゃない。…でも勇者じゃなくて、料理人だったの?

ピロテ ウォオー。

ピロテ、さらに剣を振り回す。

剣がまた別のワスレ草の茎に当たり、花が一輪落ちる。

ピロテ …年齢は一九歳…。

アン  (メモと見比べ)おしい!

ピロテ オリャー。

ピロテ、さらに剣を振り回す。

剣がまた別のワスレ草の茎に当たり、花が一輪落ちる。

ピロテ …父ドン・ピロテのことを仲間にからかわれ、パーティーの夜、厨房にて乱闘。二人を傷つける…。

アン  ほうほう。

ピロテ ソリャー。

ピロテ、さらに剣を振り回す。

剣がまた別のワスレ草の茎に当たり、花が一輪落ちる。

ピロテ …ドン・ピロテは弱虫。ドン・ピロテは逃げてきた。ドン・ピロテはウソつきで臆病者…。ボクは父のことをなじられ、カッとなって包丁を…。

アン  …キレちゃったんだ。

ピロテ トリャー。

ピロテ、さらに剣を振り回す。

剣がまた別のワスレ草の茎に当たり、花が一輪落ちる。

ピロテ …捕まって牢獄に入れられたが、大臣のとりなしで、ふぬけの森へ行くことに。

アン  へぇ〜。

ピロテ ウリャー。

ピロテ、さらに剣を振り回す。

剣がまた別のワスレ草の茎に当たり、花が一輪落ちる。

ピロテ …大臣は言われた。お前の父ドン・ピロテは立派な軍人だった。あの人がデタラメを言うはずがない。…お前にチャンスをやろう。一族の恥をすすいでこい。息子のお前ならふぬけの森の秘密を解き明かせるかもしれない、と。…そうだ、思い出した。それでボクはこの森にやってきたんだ…。

アン  アッ…私も思い出した。そっか。簡単なことだよ。ワスレ草の花を切り落とせば、忘れていたことをまた思い出せるんだった…。

ピロテ なんだ、そうだったのか。

ピロテ、さらに剣を振り回す。

剣がまた別のワスレ草の茎に当たり、花が一輪落ちる。

アン  アッ…。そうだよそうだよ、私、ハサミ持ってるんだった。ほら、ここに!

アン、ネックレスの先についたハサミを見せる。

アン  これね。薬草だけを切るハサミなの。私、おばあさまの手伝いで魔法に使う薬草集めしてたんだ。でね、仕事がはかどるようにって、おばあさまがこのハサミをくれたの。これを手にすれば、ハサミが薬草を見つけ出し、勝手に切りとってくれるからって…。(アン、ハサミを手にとる。ハサミに誘導されるように、アン、ワスレ草の花を切り落とす)ホラね。すごいでしょ。

ピロテ なるほどね。だからキミは、すっかり忘れたとしても、最後には思い出せるってわけか。

アン  そういうこと。ホレホレホレ。

アン、ハサミでパチパチと、咲いている花を切り落としていく。

アン  アー、なんだか頭がスッキリしてきた。よかったね、ピロテ。二人とも元に戻れて。

アン、ハサミをしまい、ピロテの手を握る。

ピロテ、アンの手を振り払い。

ピロテ 馴れ馴れしくするなよ…。

アン  アレッ、まだ怒ってんの。もういいじゃん。思い出せたんだから。

ピロテ でもまだ、肝心なことを聞いていないもの。…キミは魔女なんだろ?

間。

アン  (ちょっと考え)…うん、魔女っぽい気がする。ひょっとしたら魔女かも。つーかたぶん魔女だな…。

ピロテ やっぱりそうか…。

アン  アッでもさぁ、おばあさまはすごい魔女だったみたいだけど、私、魔法とかないし…。ホラ、ホウキとかもないしさぁ。

ピロテ でも魔女は魔女だろ!

アン  かもしんないけど、その命令書に書いてあるのとは違うもん。

ピロテ どういうこと?

アン  だってピロテが探してるのは、「人間をたぶらかす悪しき魔女」でしょ。私、そういうのと違うからさぁ。

ピロテ じゃあこの森には他に魔女がいるわけ?

アン  ううん。いないよ。私一人。

ピロテ だったらやっぱりキミが「悪しき魔女」なんじゃないか!

アン  でもさぁ、よく考えてみて。もし私をやっつけたとしても、それじゃ命令を果たしたことにはなんないよ。

ピロテ なぜ?

アン  だってそうじゃん。私がいなくなっても、またワスレ草の花は咲くだろうし、そしたら森に入ってきた人間はまたたぶらかされちゃうわけでしょ。そしたら、それを知った王様はなんて言うと思う。「魔女はまだ生きている。ピロテはウソつきだ!」って言うよ、きっと。

ピロテ ウソつき? ボクが。そんなことあるわけが…。(間)…いや、待てよ。あり得るな。…そうか、ひょっとしたら父もそうやってウソつき扱いされたのかもしれない…。

アン  どういうこと?

ピロテ ボクの父はドラゴンを退治するため一人でこの森に入ったんだ。

アン  そうなんだ。で?

ピロテ 三日後、父は生きて森から出てきた。そして「ドラゴンは死んだ」って言ったらしい…。

アン  すごいじゃない。やっつけたんだ。ドラゴンを。

ピロテ …けど、森から出てきたとき、父はまるで魂が抜けたようになってしまっていて…。もう正気じゃなかったんだ。何を聞いても「ドラゴンは死んだ。ドラゴンは死んだ」って繰り返すばかりで…。でも、王様には「ドン・ピロテがみごとドラゴンを退治した」っていうふうに伝わっちゃって、それでご褒美ももらったんだけど…。その後、不思議なことが起こるようになった…。

アン  不思議なこと?

ピロテ 人間が森に入るたびに、森が真っ赤に染まるようになったんだ…。しかも、森に入った人は全員ふぬけになって出てきた。だから、あれはドラゴンの仕業だ、ドラゴンが火を噴き、森を真っ赤にしているんだ、それを見た者はあまりの恐ろしさに言葉を失うんだってウワサが広まったんだ…。そのことを知った王様は「ドラゴンはまだ生きている。ピロテはウソつきだ!」って激怒したんだって。その王様の一言で、父はウソつきだってことになっちゃって…。それ以来、この森はふぬけの森、別名ウソつきピロテの森と呼ばれるようになったってわけさ。

アン  へぇ〜。お父さんかわいそう…。

ピロテ でもボクは母から聞いたことがあるんだ。父は絶対ドラゴンを仕留めてるって。(剣の先を指さし)このキズはそのときについたんだって。けど、帰る途中に悪しき魔女の呪いによってふぬけにされたんだって。

アン  ピロテはそのことをみんなに言ったんだ。

ピロテ アア。それでケンカになって…。ならお前の言うことが本当だという証拠を持ってこいって言われて、それでこの森に…。

アン  なるほどね。

ピロテ でもわかったよ。この森が「ふぬけの森」なのは、火を噴くドラゴンがいるせいでも魔女の呪いのせいでもない。ワスレ草のせいだってことがね。(間)…問題はこのことをどうやってみんなに伝えるかだけど…。

アン  ホントのこと言えばいいじゃん。

ピロテ ホントのこと?

アン  うん。森には魔女っぽい子がいたけど、その子はいい子で、人間をたぶらかしていたのは、実はワスレ草っていう草なんですって。悪しき魔女の正体は草ですって。

ピロテ 信じてくれないよ。そんな話。

アン  じゃあさぁ、この花を一輪、証拠に持って帰れば。

アン、ピロテに花を一輪手渡す。

ピロテ この花を…。

アン  うん。それでさぁ、なんか博士みたいな人に調べてもらえばいいじゃん。そしたら全部本当のことだってわかるよ。

ピロテ そんなにうまくいくかなぁ…。

アン  大丈夫よ、大丈夫。

ピロテ …アンの大丈夫は当てにならないからなぁ。

アン  今度は絶対大丈夫だって!

ピロテ そうかなぁ…。結局、悪しき魔女はいなかったんだから、ボクだってウソを言ってたことになるわけだしなぁ…。

アン  大丈夫よ、大丈夫。大臣は「ふぬけの森の秘密を解き明かせ」って言ったんでしょ。そういう意味では、立派に役目を果たしたわけじゃない。だから大丈夫だよ。

ピロテ アア、そうか…そうだよね…。少なくともふぬけになる原因は突き止めたわけだからな。

アン  そういうこと! さっ、行った行った。グズグズしてると、またワスレ草の花が咲いちゃうよ。

ピロテ エッ、ホントに。

アン  うん。人間がいると、何度でも咲くんだ。次はきっと、さっきよりたくさん咲くと思うよ。

ピロテ エエッ! そうなの! そういうことは早く言ってよ!

慌てるピロテ。

アン  ゴメンゴメン。とにかくこの森はヤバイんだ。おばあさまがいなくなってから…。

ピロテ、急いでカバンに花をしまいつつ。

ピロテ いなくなったって、どういうこと?

アン  …私にもよくわかんない。歌いながらフ〜ッとどこかに行っちゃってさ…。それっきり。あれは初めてこの森にワスレ草が咲いた日だったなぁ…。きっとおばあさまもワスレ草にやられたんだと思う。…アッ、ねぇねぇ。おばあさまの歌、聞いてみる? 私、結構、歌うまいんだよ。

ピロテ い、いいよ、いいよ。長くなりそうだから。

アン  アッそっか。そうだね。ピロテはすぐに森を出たほうがいいもんね。

ピロテ ア、アア。…じゃ、じゃあね。…あのさぁ…アンは大丈夫なの?

アン  私? 私は大丈夫だよ。

ピロテ ならいいけど…。じゃあ、行くね…。

ピロテ、下手へ去る。見送るアン。

アン  じゃあね。バイバーイ。

アン、ピロテの去っていったほうをながめつつひとりごとのように。

アン  ピロテこそ大丈夫かな…。…大丈夫だよね。たぶん…。

ややあって、アンは歌いつつ上手へ去ろうとする。

アン  ♪大きくなれ小さくなれワスレ草 この森は不思議 不思議な永遠 すべてを忘れ すべてを思い出す 花が咲いてちょっと怖い 花が散ってもっと怖い ホラ見てごらんあなたのまわりを……。

間。

アン  …おかしいな。やっぱりこの後の歌詞が思い出せないや…。

アン、ふと足をとめる。

胸元からネックレスを取りだし、ハサミを手にする。

アン、ハサミに誘導されるかのように舞台の端へ。

アンの足元には小さなワスレ草が一輪残っている。

アン  なんだ、こんなところにまだ一輪残ってたのか…。

アン、パチンとワスレ草の花を切る。

アン  アッ…。思い出した。

アン、立ち上がり、歩きながら歌いはじめる。

アン  ♪……花が咲いてちょっと怖い 花が散ってもっと怖い ホラ見てごらんあなたのまわりを…… ホラ見てごらん世界の終わりを 一人は狂人あとはバカ 一人は狂人あとはバカ…。

アン、立ち止まって。

アン  変な歌…。

アン、上手へ消える。(幕)

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