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合格ラインがやってきた!

●5人 ●45〜55分程度

●あらすじ

仲良しの60点と59点、ある日そこに「合格ライン」が現れて、二人の間にセンを引く作業を開始。合格ラインによって離ればなれにされることになった60点と59点は、なんとかセン引きをやめさせようとするものの…。後半は零点と百点もからんで、結末へ。 道具の少ないお芝居です。

●キャスト

五九点
六〇点
合格ライン
零点
百点

●台本(全文)

暗い中、スポットがグルグルと交錯。

あわただしい音楽とともに、白ずくめの服を着た「合格ライン」が登場。手には新体操で使うようなヒラヒラのリボン。

合格ライン、上手より下手へ走り抜ける。

ややあって、今度は下手より走り出て、中央でちょっとリボンの演技をして、上手へ去る。

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明るくなって。

下手より六〇点と五九点、腕を組んで仲良く登場。

二人は背中におのおの「六〇」「五九」とプリントされた服を着ている。

五九点 知ってる? 三三点の話。

六〇点 ううん。知らない。

五九点 聞いた話なんだけど、自分のことすごくラッキーだと思ってて、結構まわりにイヤがられてるらしいよ。

六〇点 へぇ〜。ラッキーねぇ…。どうしてかな…。

五九点 さぁ〜。思いこみキツいみたい。(間)でね、この前、その三三点が七七点とバッタリ会っちゃったんだって。

六〇点 ふぅ〜ん。

五九点 でさぁ、七七点って言ったらさぁ、いつも自分のことラッキーセブンの倍とか、わけのわかんないこと言ってるヤツじゃない。

六〇点 ああ、聞いたことある。その話。

五九点 しかも七七点は、三三点のウワサ知ってて、内心ずっとムカついてたらしいのよ。

六〇点 ヤバイじゃん。

五九点 でしょぉ〜。なのに三三点たら、逆に目とかバチバチ合わせちゃって、いきなりチョー険悪な雰囲気になったんだって。

六〇点 で、どうなったの?

五九点 まず三三点がね、「ああ、七七点っていうのはお前のことか」とか言い出して、「八〇点に三点足りないお前が、何でラッキーなんだよ。もしよかったらオレの三点わけてやろうか」とか言ったんだって。

六〇点 それって完全にケンカ売ってるじゃない。

五九点 そしたら七七点がさぁ、「オレに三点くれるのはいいけど、そしたらお前三〇点で、赤点だぜ」って。

六〇点 アハハ。それは言えてる。

五九点 そしたらさぁ、今度は三三点が「お前、オレたちのことバカにすんのかよ。謝れ」とか怒り出して、そしたら七七点も売り言葉に買い言葉で「お前にだけは謝らねぇ。謝ってほしかったら、土下座して頼め」とか言っちゃって…。何か子供のケンカみたいでしょ。結局、まわりが止めに入ってその場はおさまったらしいけど…。

六〇点 レベル低いよね。

五九点 あんまりほかの点数のこと気にしなけりゃいいのにさぁ。

六〇点 気にするだけ損だよね。

五九点 ホントホント。

六〇点 でも、あれなのかなぁ〜。七七点と三三点くらい離れちゃうとやっぱりダメなのかな…。

五九点 うん。違うって言えば違うからね…。たしかに。

六〇点 その点、ボクたちはさぁ。

五九点 だよね。

六〇点と、五九点、背中の数字が見えるようにくるりと後ろを向く。

ふたたび、くるりと前を向いて。

五九点 よかった!

六〇点 何が?

五九点 六〇点のとなりで。

六〇点 うん。ボクもよかった。五九点のとなりで。

五九点 うん。

六〇点 座ろうか。

五九点 アッ、私も今、ここに座ろうって言おうと思ってたんだ。

六〇点 ホント! すごいね。

五九点 …私、前から思ってたんだけど、六〇点って、私とすごく似てない?

六〇点 うん。ボクもそう思ってた。

五九点 ホント?

六〇点 うん。

五九点 どうしてだろ。こんなに気が合うのって。なんか隣にいてすごく落ち着くし。

六〇点 バカだなぁ〜。それは、ボクが六〇点で、キミが五九点だからに決まってるじゃないか。

五九点 そっかぁ〜。やっぱり六〇点はすごいね。頭がいいよ。

六〇点 たった一点じゃないか。同じだよ。

五九点 ううん。一点でもエラいのはエラいよ。

六〇点 一点くらい、一緒だよ。

五九点 一緒?

六〇点 うん、一緒。

五九点 これからもずっと一緒だといいね。

六〇点 うん。

五九点 …私ね。

六〇点 何?

五九点 ううん。やっぱりやめとく。

六〇点 何? 言いなよ。

五九点 …私ね。

六〇点 うん。

五九点 六〇点のこと好きだと思う。

六〇点 (真剣な顔で)そっかぁ〜…そこはボクとは違うなぁ〜。

五九点 エッ。

六〇点 (ニッコリと)だってボクは五九点のことが好きだから。

二人、しばし沈黙。

五九点 …うん。(五九点うなずく)

六〇点 …うん。(間)座ろうか。

五九点 うん。

二人、並んで座る。

上手より合格ライン登場。

キョロキョロしつつ中央へ。

六〇点と五九点を見つけて、おずおずと。

ライン あのぅ〜。

六〇点と五九点、ハッとして振り向く。

六〇点 アッ、ハイ。何か?

ライン ここ、どこですか?

六〇点 ここ?

ライン エエ…。(間)何点あたりなんでしょうか?

六〇点 アア。ボクたち六〇点と五九点です。

ライン エッ、ホントに! よかったぁ〜! やっぱりこっちでよかったんだ。…エ〜ッと、ちょっと失礼。

合格ライン、ウキウキした感じで、六〇点と五九点の間に割って入り、座り込む。

五九点 何なの、この人…。

六〇点 さぁ…。

六〇点と五九点、いぶかしげに立ち上がる。

ライン (二人の様子を全く気にせず)いえね、何だか急に連絡が入ったもんで慌てちゃって…。…どうせ一直線なんだから迷うこともないだろうとタカをくくってたのが間違いの元でした。いざ来てみると、もうどこがどこなんだか…。急いでるときっていうのは得てしてそういうもんなんでしょうが、焦れば焦るほど見つからなくて…。そうこうしているうちに、ここをあっさり素通りしちゃいましてね。私、一ケタのほうへ行っちゃってたんですよ。ハッハッハッ。

六〇点 一ケタ?

ライン エエ、一ケタ。九点以下って言うんですか。いやぁ〜すごいですね、やっぱ一ケタは。

五九点 どうすごいの?

ライン 何て言うんでしょう。妙に落ち着いてるんですよ。

六〇点 落ち着いてる?

ライン ええ。まわりのこと気にしてワーワー騒いだり、細かいことで一喜一憂するのは一〇点までですね。一ケタになると、もうそんなことは超越しちゃってるって言うか、気にとめないんですよ。

六〇点 へぇ〜、そうなんだ。

ライン しかも、どういうわけか一ケタになると順位が逆転するんですよ。…つまり、点数が低いほうがエラいっていうか…。上なんです。「なんだ、お前、五点かよ。オレなんか二点だぜ、ヘッヘッヘッ」みたいな。

五九点 おもしろいね。

六〇点 うん、知らなかった。

ライン ですからね、当然一番エラいのは零点ってことになるわけです。

五九点 零点に会ったの?

ライン ハイ。

五九点 どんな感じ?

ライン 「頼れるヤツ」って感じでした。

六〇点 暴走族のリーダーみたいな?

ライン う〜ん。ちょっと違いますね。そういうイキがった感じはなかったな…。実は、私、無我夢中で走ってたもんで、ドーンと零点さんにぶつかっちゃったんですよ。で、二人ともふっとんじゃって…。けど、零点さん、怒りもしないで「大丈夫かい」って、私を起こして言ってくれたんです。なんか暖かい人だなぁ〜って思いました。それでね、「この先はないんですか」ってたずねたんですよ。そしたら何て答えたと思います? 零点さん、ちょっと笑って「ないね。この先には意味がない」って。なんかカッコよくありません? カッコいいですよね。やっぱり極めると違うんですかねぇ〜。強さの中に、静かぁ〜なあきらめの境地みたいなもの感じましたね。

六〇点 ふ〜ん…。

ライン しかも、ずいぶん面倒見のいい方で、「ゆっくりしていきなよ」とか「よかったらずっとここにいていいんだぜ」とか、おっしゃって下さって…。いやぁ、いい方でした。

五九点 (六〇点に)会ってみたいね。零点に。

六〇点 うん。一度行ってみたいね。(間)アッ、でも(合格ラインを指さし)この人みたいに引きとめられちゃって、返してくれなくなったら困るよ。

五九点 …そうか。それは困るか。(間)アッ、じゃあさぁ、上のほうはどうかな。

六〇点 上のほうって、九〇点以上とかってこと?

五九点 うん。行ってみたくない?

六〇点 どうかなぁ〜。上のほうはなんかツンツンしてそうだけど。

ライン そうでもないですよ。

六〇点 知ってるの?

ライン 実は、私、そっちにも行っちゃったんですよね。

五九点 そうなの?

ライン エエ、零点さんに引きとめられて、すっかり時間潰しちゃったもんで、こりゃいけないと思いましてね。思いっきり逆走したんですよ。そしたらまた行き過ぎちゃって、ハハハ。

六〇点 で、どうでした?

ライン ウ〜ン、確かに八〇点台くらいまでは、おっしゃるようにツンツンした方もいましたけど、九〇点超えると、皆さんもっと大人の雰囲気なんですよ。スパーンと頭切りかえられるって言うか。

六〇点 頭を切りかえられる?

ライン バカやるときはバカやるけど、勉強もしてまっせ。みたいな。

六〇点 なるほど…。で、百点には会ったの。

ライン ええ、会いましたよ。

六〇点 どんな感じなんですか。百点っていうのは。

ライン おちゃめ。

六〇点 おちゃめ?

ライン ハイ。なんかチョロチョロした感じで、とても百点やってるようには見えませんでしたね。

六〇点 へぇ〜。

ライン 私が「道に迷いました」とか言って泣きそうになってたら、「すぐに答えが出たらつまんないじゃない」とかってキャッキャ笑って。…でもそれが全然イヤミじゃないんですよ。逆に、ホッとするっていうか…。

六〇点 百点っていうのはそういう感じなのか…。

ライン ええ、トップに立ってるとあんな風にスッと抜けた感じになれるんですかねぇ〜。そばにいるだけで気持ちが落ち着きますね。でも、いつまでもいちゃ、いくらなんでもマズイんで、早々に失礼したんですけどね…。

五九点 なんでマズイの?

ライン だって、変でしょ。私が百点さんのところにいちゃ。

六〇点 どうして?

ライン どうしてって、合格ラインが百点だなんて、あなた、そりゃおかしいですよ。それじゃみんな不合格になっちゃうもの。

五九点 …ゴーカクライン?

ライン ええ。

六〇点 あなたが?

ライン ハイそうです。私、合格ラインです。

六〇点 で、何をしに?

ライン (笑いつつ)何をって、私のすることって言ったらひとつしかないでしょ。センを引くんですよ。センを。

五九点 どこに?

ライン ここに。

六〇点 ここに!

ライン ええ。

合格ライン、リボンをパタパタさせ、二人の間にセンを引くしぐさ。

五九点 ちょ、ちょっと待ってよ!

ライン 何か?

五九点 ここにセンを引いたら、私たちはどうなるのよ。

ライン そりゃ、わかれますよ。

二人 別れる!

ライン ええ、合格と不合格に。だって合格ラインですもの。(六〇点に)あなたはギリギリゴーカークで、(五九点を見て)あなたはギリギリフゴーカクってことになるんじゃありませんか。

六〇点 「ありませんか」って、あなた人ごとみたいに言わないで下さいよ!

六〇点、合格ラインにくってかかる。

ライン そんなこと言われても…。言われたとおりにやってるだけなんですから、私に文句を言われても困りますよ…。

五九点 言われたとおり? …それって、やりたくてやってるんじゃなくて、仕事でやってるだけってこと?

ライン ええ、まぁ…。

五九点 だったらさぁ、ちょっとずらしてよ。

五九点、合格ラインを下手にひっぱるが、合格ライン動かない。

ライン ダメですよ…。

五九点 誰にも言わないから。ネッ。

ライン それはできませんよ。そういうことは…。

五九点 どうして?

ライン 言われたとおりにキチッとセンを引くのが私の役目ですから。

五九点 そんなカタイこと言わないでさぁ。

ライン ダメなものはダメですよ…。

五九点 いいじゃない。ケチ!

五九点、合格ラインを強く下手に引っぱり続ける。

合格ラインがちょっと困ったように、軽くリボンを振ると、五九点、下手にふっとぶ。

五九点 キャ〜!

六〇点 (合格ラインに)何すんだ!

ライン アッ、すいません。つい…。

六〇点 「つい」だって? 今のは明らかに暴力じゃないか!

ライン …いや…だって、しつこく引っぱるから…。

六〇点 (五九点に)大丈夫?

六〇点、合格ラインの前を通って、五九点のほうに駆け寄ろうとする。

合格ライン、それを制止して。

ライン アッ、ちょっと困ります。

六〇点 何が!

ライン (リボンを床にたらし)このセンを超えないで下さい。

六〇点 これを?

ライン ハイ。これがセンになるんです。

合格ライン、リボンをまっすぐにして、ところどころ押さえたりしはじめる。

ライン 近づかないで下さいよ。まだ固まってないんだし…。

六〇点 固まってない?

ライン ええ、いろいろ手続きがありましてね。それが終わらないとちゃんとしたセンには…。

六〇点 てことは、まだこのセン、動かせるってことじゃ…。

ライン いや、そういうわけじゃ…。…なんていうのかな。接着剤が乾くまで、みたいなもんです。

六〇点 アッ! やっぱりそうだ。だったら今のうちにはがせばいい!

六〇点、サッとリボンに手をかける。

と、バチバチッという電気的な音がして、六〇点、上手にふっとぶ。

ライン 何てことを! あなた気は確かですか。

六〇点 ウ、ウウゥ…。なんだよこれ…。

ライン センに触るなんて無茶ですよ。これは私しか触れない、とっても扱いの難しい、デリケートなシロモノなんですから。

六〇点 …それを早く言ってくれよ…。

五九点 大丈夫、六〇点!

六〇点 アア、たぶん。…しびれてるけど…。

五九点 (合格ラインに)ねぇ。

ライン ハイ。何でしょう。

五九点 ホントにここなわけ?

ライン どういう意味ですか?

五九点 さっき、あなた、急に連絡が入って急いでたって言ったよね。

ライン ハイ。

五九点 聞き間違えたんじゃない? センを引く場所。

ライン いやぁ、それはないでしょ。確かに五九点と六〇点の間だって…。

五九点 でもさぁ、普通、センを引くなら、四九点と五〇点のアイダじゃないの。

ライン そりゃまぁ、そういうこともあるでしょうけど…。

五九点 もう一回、確認してみてよ。じゃないと私、納得できない!

ライン そうですか…。そんなに言うんなら…。

合格ライン、ケータイを取りだし、電話。

ライン あっ、もしもし。スミマセン。あの…合格ラインですが…。あっ、ハイ。スミマセン。ちょっとバタバタしちゃいまして…。あっ、いえ、もうセンは置いてありますから大丈夫です…エエ、すぐに作業を…。…で、ちょっとつかぬことをお伺い致しますが…。あのですね、センを置く場所なんですが…五九点と六〇点のアイダってことで…。…アッ、やっぱり。ハイ、そうですか。そうですよね。エエ、そうだとは思ったんですが、五九点さんが確認してくれっておっしゃるもんで…。(急に直立不動になって)ハイ。もちろんです。…イエ、そんなつもりでは…。(お辞儀をして)申し訳ございません。ハイ。ハイ。ハイ。…ハイ。失礼致します。

合格ライン、電話を切る。

ライン フ〜ヤバかった。(五九点に)やっぱりここでいいみたいですね。

五九点 何で? 何でよりによってここなのよ!

六〇点 (立ち上がって)そうだよ! 何でここじゃなきゃいけないのか、その理由を聞かないうちは納得できないな!

ライン 何でって言われても…。…どこかにセンを引かなきゃいけないわけだし…。

六〇点 説明になってないよ。

五九点 そうだよ。自分のやってることわかってんの! オーボーすぎるよ!

ライン 勘弁してくださいよ。

六〇点 あのさぁ、もし自分がこんな目にあったらあんたどう? イヤだろ。

ライン そりゃ、まぁ…。

五九点 自分がされてイヤなこと、人にするわけ。仕事ならなんでもやっちゃうんだ。

ライン でも、もう決まったことですから…。

六〇点 知るか。そんなこと!

五九点 そうよ。勝手なこと言わないでよ!

六〇点 (合格ラインに)いいからどけ!

六〇点、合格ラインをつきとばそうとする。

が、合格ラインびくともしない。

ライン やめて下さい。ダメだってば…。危ないから近づかないで…。

六〇点 うるさい!

六〇点、合格ラインの胸ぐらをつかむ。

ライン ああ、もう…。

合格ライン、リボンを手にとりムチのようにはらう。

六〇点、上手にふっとぶ。

六〇点 うわっ!

ライン 大丈夫ですか…。…だから言ったのに…。(リボンを見ながら)ア〜ア、せっかくセットしたのに、はがしちゃったじゃないですか。…また一からやり直しだよ…。

合格ライン、ゆっくりとリボンを床に置こうとする。

六〇点、再び合格ラインに突進するかまえ。

合格ライン、置こうとしたリボンを手にとり直し。

ライン いいかげんにしないと、ケガしますよ。

六〇点 うるさい! (五九点に)いいか、ボクがこいつに飛びかかる。そしたらこいつがリボンを振り上げるから、そのスキに、リボンの下をくぐってこっちに来るんだ。

五九点 うん。わかった。

ライン (リボンをパシパシ振りつつ)やめて下さいよ。お願いだから。

六〇点 いくぞ!

五九点 ハイ!

六〇点、合格ラインに突進。

合格ライン、リボンを振り上げ、六〇点をはじき返す。

五九点、六〇点のほうへ行こうとするが、リボンが戻ってきて出来ない。

五九点 ダメだよ。早すぎる!

六〇点 あきらめちゃダメだ。もう一回!

ライン こんなことやめて下さい。気持ちはわかりますけど…。

六〇点 うるさい!

六〇点、再び突進するかまえ。

合格ライン、リボンをクルクルと回して威嚇。

六〇点 いくぞ!

五九点 ハイ!

ライン ダメだってば!

六〇点、突進。

合格ライン、リボンを振り上げる。

短い暗転。

////////////////////

パッと明るくなる。

中央に合格ライン。リボンを床に置き、ヒラヒラさせている。

上手には六〇点。下手には五九点。ともに荒い息で、がっくりと床に手をついている。

五九点 ハァハァハァ…。

六〇点 ハァハァハァ…。

ライン 何度やっても無駄です。…もういいでしょ。私だってつらいんです…。

六〇点 あんなこと言ってるよ…。

五九点 どうする…。

六〇点 どうするって…。(間)わからないよ…。

五九点 わからないって、このままじゃ私たち別れさせられちゃうんだよ。

六〇点 ……。

五九点 何とか言ってよ!

六〇点 何とかって言っても…。

五九点 やだよ。私。

六〇点 そりゃ、ボクだって…。

五九点 だったら!

六〇点 ちょっと静かにしてくれないかな。今、考えてるんだから。

五九点 …だって。

六〇点 アア、もう、何でこんなことになるんだよ…。(ブツブツと)話も通じない…。力ずくでもムリ…。

五九点 …ねぇ。

六〇点 何だよ。

五九点 アッ、怒ってる。

六〇点 怒ってないよ。

五九点 怒ってるよ。

六〇点 アーもう!

五九点 …私のこと、キライになったんじゃないの?

六〇点 …そんなことないよ。

五九点 ううん。キライになったんだよ。

六〇点 何でそんなこと言うんだよ。

五九点 だって、優しくないもん。

六〇点 今はそんなこと言ってる場合じゃないだろ。

五九点 こんな時だから、優しくしてほしいんだよ…。

六〇点 …優しくって言われても…。

間。

五九点 ねぇ。

六〇点 何?

五九点 このままだと私、不合格ってことでしょ。

六〇点 アア。

五九点 六〇点は合格なんだよね。

六〇点 …まぁ。

五九点 やっぱり一点でも違ったら全然違うんだよ…。

六〇点 何が言いたいんだよ。

間。

五九点 おめでと…。

六〇点 何だよそれ。イヤな言い方すんなよ!

五九点 だって、ほかのこと言ったら涙出そうだもん…。

六〇点 あきらめんなよ。

五九点 だって今さら頑張りようがないじゃない。頑張ったらあなたと一緒の六〇点になれる? 無理でしょ、そんなの。そうでしょ。…だからおめでとうって言うしかないじゃない。

六〇点 何でそんな投げやりなことばっかり言うんだよ。いつもそうだよ五九点は。もうちょっと頑張ればいいなってときでも、すぐ「疲れた」とか、「私、もういい」とか言ってごまかしちゃうんだよ。だから…。

五九点 だから? だから何?

六〇点 …いいよもう。

五九点 よくないよ。六〇点、私のことそんなふうに思ってたんだ。

六〇点 違うよ。違うけど…。

五九点 どう違うのよ!

六〇点 だからさぁ、とにかく今はそんなこと言ってる場合じゃないだろ…。

五九点 ごまかさないで!

六〇点 ごまかしてるんじゃないよ。ただ状況を考えろって言ってんだよ!

五九点 …ずるいよ。六〇点は。

六〇点 だったらいいよ。ずるくて。そうだよ、ずるいよ。ずるして一点取ったんだよ。だから合格したんだよ。それでいいんだろ!

五九点 ひどい…。

六〇点 …そっちこそ。

五九点 バカ!

五九点、下手に走り去る。

ライン (六〇点に)あの…。

六〇点 何だよ。

ライン スミマセン。

六〇点 もういいよ…。

六〇点、上手へ消える。

ライン アッ、ちょ、ちょっと…。

暗転。

しばらくコチコチという時計のような音流れる。

音が消えて、パッと明るくなる。

合格ライン、床に置かれたリボンにペンで何かを書きながら首をひねっている。

ライン ふぅ〜。やれやれ…。苦手なんだよな…。計算って…。

合格ライン、立ち上がってリボンから少しはなれて、全体をながめつつ。

ライン もうちょっとか…。それにしてもやっかいな作業だなぁ〜。…ええっと、九八八までいったんだから、次は…。えっと、なんだっけ、九八八の次だから…。(頭をたたいて)いかんいかん、ボーッとしてきた…。八の次は…九だから、一のくらいが九に変わるだけだから…。九八九。そうだそうだ、九八九だ。一〇〇〇引く九八九。

合格ライン、リボンに式を書く。

ライン イコール…。イコール…。ええっとイーコォール…。ダメだ。かなりヤバイ状況になってるのが自分でわかる…。

合格ライン、ペンを置き、体をほぐすような体操をはじめる。

ふと。

ライン アッ、わかった! 一一だ。一一。よしよし…。

合格ライン、リボンに「11」と書く。

ライン よしよし。ええっと次は…、次は…。九八九の次だから…。九九九? 違う? ちょっと違うか? まっいいよね。九九九で。

合格ライン、リボンに「1000−999=」と書いたらしい。

すると、キーンというイヤな感じの音。

合格ライン、急に頭をかかえて苦しみはじめる。

ライン イテテテテ。スミマセン。ごめんなさい。間違えました。…イテテ。すぐやり直しますから!

合格ライン、今書いたところをあわててペンで消す。

音、消える。

ライン ふぅ…。まいったなぁ…もう。ええっと九八九の次だよね…。九の次だから…。

合格ラインが悩んでいるところに、下手より、零点に付き添われて五九点が現れる。

零点、リボンに書かれた数字を見て。

零点  だいぶいってるな…。

ライン アッ、零点さん。よかったぁ〜。ちょっとお聞きしてもいいですか。九八九の次っていうのは…。

零点  (ちょっと笑って)零点のオレに聞くのかよ。

ライン ああそうか。じゃあ五九点さん。あなたならわかるでしょ? 九八九の次。

五九点 ハァ?

零点  (五九点に)答えないほうがいいぜ。

五九点 どうしてですか?

零点  終わりが早くなるだけだから。

五九点 終わり?

零点  …仕上げにかかってる。

五九点 仕上げ…。

零点  リボンに書かれてる計算、見てみなよ。

五九点 計算? …アッ、全部「一〇〇〇引く」になってる! しかも順番に。

零点  (合格ラインに)カウントダウンだろ。

ライン あっ、ハイ。よくご存じで。

五九点 カウントダウンって?

ライン このセンを完成させるための仕上げの作業ですよ。こうやって、一〇〇〇引く一から順番に計算していって最後までいけば無事センが引かれるってわけです。

五九点 最後って?

ライン 一〇〇〇引く一〇〇〇。

五九点 それでセンが引かれるわけ。

ライン ええ。「センを引く」ってことで。

五九点 そんなのダジャレじゃない。

ライン ええ、そうなんですよ。順番に計算していって最後に一〇〇〇を引いたら、(リボンを指さし)このセンも完成するってことで、つまり数字の一〇〇〇を引くのとこのセンを引くのをかけてるわけなんです。引き算なのにかけてるっていうのも変ですけど…。つまり、その…、おっしゃるとおり、ダジャレなんですよね。エヘヘ。(間)…ただ、こういうダジャレでもそれらしくやってると、だんだんそれらしくなっちゃって、パターンっていうか、しきたりっていうか、儀式っていうか、セレモニーって言うか、まぁ、ひとつのルールみたいになってきちゃって、これやんないわけにはいかなくなっちゃってんですよね。

零点  簡単に言っちまえば、センを引くからにはそれなりに「もったいぶった」感じがいるんで、それでそんな面倒なことさせられてるんだろ。

ライン エエ、まぁ…。

五九点 …わけわかんない。

零点  そう…誰にもわけがわからない。だから怖いんだよな…。

五九点 …。

零点  センを引いてる本人さえ、何のためにやってるのか、どうしてセンを引かなきゃなんないのかわかってないっていうのに、それでもちょっとずつ、でも確実にセンは引かれていってる…。

ライン そうなんですよねぇ〜。私も何でこんなことしなきゃなんないのかなぁ〜って、最初は思ってました。でもね、そう思いつつも続けてるうちに、今じゃ、このカウントダウンをすることでホントにセン引きが完成しちゃうようになってきちゃってるんです。不思議でしょ。(少し笑いながら)やってる私も不思議で不思議で。なんでこんなことでセンが完成するのか…。まさに数字のマジックですよね。(ふと)アッ、ひらめいた! 九九〇だ。九九〇。よしよし。

合格ライン、うれしそうにリボンに「1000−990=」と書く。

零点、その様子をながめつつ、ひとりごとのように。

零点  …しかも、こいつはそれほど悪いヤツじゃない、それが、またやっかいなんだ…。まったく…。

ライン ん? これってたしか…。一〇? 一〇ですよね。そうだそうだ。一〇ですよ。一〇。

合格ライン、「10」と書き。

ライン (ブツブツと)一〇か。いよいよカウントダウンらしくなってきたな。…それにしても、こういう計算って、なんか決まった法則のようなものがあるような気がするんだが…。どうもそれがわからん…。(間)まっいいか。どうせもうすぐ終わるんだからな。…え〜っと次は…。

零点  …ここまできたら止めるのは無理か…。

五九点 (合格ラインをながめて物思いにふけっている零点に向かって)…あのぅ、セン引きっていうのが完成したら、不合格にされるこっち側はどうなるんですか?

零点  (ゆっくりと五九点のほうに振り向いて)ゼロになる。

五九点 ゼロに?

零点、うなずく。

五九点 どういうことですか。

零点  不合格になるってことは、五九点でも零点でも同じになるってことさ。つまり点数自体に意味が無くなるんだよ。

五九点 意味が…なくなる…。

零点  そう。ゼロ。みんなゼロさ。こっち側にされるってことはそういうことなんだよ。(リボンを指さし)こうやってセン引きされるってことは、単に二つに分けられるってことじゃない。このセンから向こう側、六〇点から百点までは一点刻みの世界、つまり順位をつけたり分けたりすることのできる意味のある世界として残って、このセンからこっち側は全部ゼロ。もう意味のない世界になるわけだ。なんていうか…切り捨てるって感じだな。

五九点 そんな…。

ライン スミマセン。そのとおりです…。

五九点 やだ。そんなの! どうして一点足りないだけの私が意味のない世界に閉じこめられなきゃなんないのよ!

五九点、リボンに近づこうとする。

バチバチという音。

五九点、近づけない。

ライン 近づかないで! もう、近寄れなくなってますから。

五九点 そんな…。

上手より、百点に付き添われて六〇点登場。

六〇点は落ち込んでいる様子。百点、零点と五九点を見つけて。

百点  あっ、いたいた。

零点  オウ。百か。

百点  久しぶり。

零点  …だな。

百点  寂しかったよ。

零点  よせよ。

六〇点 (百点に)お知り合いですか。

百点  まぁね。

六〇点 零点とですか。

百点  うん。一応つきあってたんだけどなぁ〜。ゼロは変わってるから。

零点  オレに言わせりゃ、百のほうがよっぽど変わってるけどな。

百点  そうかしら。

零点  で、おもしろいか。そっちは。

百点  そうね。やりがいはあるよ。…そっちはどう?

零点  おもしろいね。どうしょうもないやつばっかりでおもしろい。

百点  あいかわらずだね。

零点  まぁいいだろ、そんな話は。ところで、そいつ六〇点だろ。

百点  そうなのよ。落ち込んじゃってどうしようもないから、とりあえず現場検証に来たってわけ。

零点  なるほど…。(六〇点に)なぁ。(五九点を指さし)この子さぁ、泣きながらオレのとこまで走ってきてさぁ、「もう死にたい」とか言って、大変だったんだぜ。

六〇点 そうですか…。

零点  なんか言ってやれよ。

零点、五九を少し中央に押す。

百点も六〇点を少し中央に押す。

零点は下手に、百点は上手に少し離れる。

六〇点 …やぁ。

五九点 …やぁ。

六〇点 あのさぁ…。

五九点 (顔をあげ、六〇点を見つめて)私、ゼロになるから。

六〇点 ゼロ? ゼロって?

五九点 ゼロはゼロだよ。

六〇点 …それって、あの人と一緒に、ってこと。

五九点 そうだよ。一緒になるんだよ。

六〇点 …そうか。わかったよ。

五九点 サヨナラ。

五九点、六〇点に背を向けて、零点のほうに歩いていく。

零点  いいのかよ。

五九点 だって、しかたないもん…。顔見てるとつらいだけだし…。

零点  正直になったほうがいいと思うけどな。

六〇点も背を向け、上手へ。

百点  (戻ってきた六〇点に)ダメじゃん。

六〇点 えっ?

百点  あれはね、あの子が自分自身を諦めさせるために言ってんだよ。

六〇点 そうですか? でもゼロと…。

百点  「ゼロと一緒になる」っていうのは、不合格になって、こっちとは別の世界になっちゃうっていう意味だよ。

六〇点 でも…。

百点  ダメだなぁ〜。こんなミエミエのひっかけ問題が解けないようじゃ。

六〇点 …。

百点  そんなにグジグジしてるんなら、私が先にお別れ言ってくるね。ゼロに。

百点、中央に出て行こうとする。

その時、合格ライン、ひらめいたように。

ライン あっ、そうだ。一〇〇〇引く九九一は九!

合格ライン、リボンに「1000−991=9」と書く。

ライン そうかそうか。とすると…。一〇〇〇引く九九二は八!

続いて合格ライン、リボンに「1000−992=8」と書く。

ライン よっしゃぁ〜。このまま一気に!

百点、ススッと中央に出てきて、リボンをながめ。

百点  (合格ラインに)あれぇ〜。今の変だよ。

ライン エッ! どういうことですか? どこか変ですか?

百点  うん。変だったよ。

ライン どこがでしょう?

百点  さっき八って書くとき、お団子二つ重ねるみたいにして書いたでしょ。

ライン 違うんですか。

百点  違うよ。全然違う。

ライン エエ〜ッ。じゃあこうですか。三を向かい合わせに書くみたいな…。

百点  遠くなった。

ライン エエエ〜ッ。ほかにあるかなぁ…。

合格ライン、頭を抱える。

百点  (小声で)これで少しは時間がかせげるかな。

零点も中央に出てきて。

零点  (合格ラインを指さし)彼、どっちかっていうと(下手を指さし)こっち側だよな。

百点  そうだね。フフフ。

零点  …で、どうする。あの二人。

百点  さぁ、どうしようかな…。(声を大きくして)そんなことよりさぁ。私たちももう会えなくなるね。

零点  (同じくわざとらしく声を大きくして)寂しいよなぁ〜。

百点  ねぇ、合格ラインさ〜ん。

ライン あっ、ハイ、なんですか?

百点  このセンが完成したらさぁ。このセンがもし完成したら、私たち、どうなるのかなぁ〜。

ライン えっ、皆さんですか。

百点  そうよ。皆さんよ。

ライン …それは、つまり…。

零点  忘れるんだろ。

六〇点と五九点、その言葉にギクリとして、中央に注目。

ライン …ハイ。忘れます。このセンでくぎられたら、反対側の世界のことは忘れてしまいます…。

零点  完全に。

ライン ハイ。すっかり。

零点  もう、思い出したくても、思い出せなくなる?

ライン …ええ。

六〇点と五九点、離れてはいるが、目と目が合う。

百点  いろんなこと思い出すなぁ…。ゼロとのこと。

零点  よせよ。

百点  だって、今思い出しとかないとさ。ゼロとの思い出、消えちゃうんでしょ。楽しかったことも、悲しかったことも、全部忘れちゃうんでしょ。(間)ゼロがいたことさえ…。

零点  まぁな…。

六〇点と五九点、少し中央に歩み寄る。

百点  私ね。ゼロがゼロになるって言ったとき、すごく怒ったでしょ。あんな怒ったことそれまでなかったなぁ〜。でもゼロったら全然話聞いてくれなくて。結局、ちゃんとしたお別れもしてくれないで、ふっと消えちゃうんだもん。…私ね、ゼロが行っちゃったあと、ものすごく泣いたんだよ。まわりで見てたみんなが、洪水になるかと思ったっていうくらい。

零点  …悪かった。

百点  でもね。泣きながらね。ちょっとだけ。ちょっとだけ、うれしかった。

零点  なんで?

百点  だって、ゼロはみんなのためにゼロになったんでしょ。誰かがゼロにならなきゃいけないって知ってたから。

零点  …。

百点  私、わかってた。ゼロはそういうやつだって。だから、そういうゼロのこと好きになったことだけはちょっとうれしかったんだ。

零点  そんなんじゃないよ。バカなだけだって。

百点  ホントバカ。私のことフルなんてね。

零点  …そうだよな。

合格ライン、前に出てきて百点に。

ライン あの、スミマセン。ギブアップです。…教えていただけないでしょうか。

百点  もう少し頑張ってみたら?

ライン でも、もうこれ以上は…。

キーンというイヤな音。

合格ライン、頭をおさえ苦しみ始める。

ライン アッ、…わかりました。…ハイ、許して下さい…。…ハイ、すぐに…。(合格ライン、ロボットのような動きになって)センヒクキュウヒャクキュウジュウサンハナナ…センヒクキュウヒャクキュウジュウヨンハロク…センヒクキュウヒャクキュウジュウゴハゴ…。

合格ライン、リボンに向かい「1000−993=7」「1000−994=6」「1000−995=5」と続けざまに書いていく。

零点  ヤバイぜ!

百点  コントロールされちゃってる。

零点  百。もう戻れ。カウントダウンが終わる前に。

百点  でも、まだあの子たち。

零点  あとは何とかするから。戻れ!

百点  でも…。

零点  お前、百だろ。いいから戻れ!

百点  うん。(上手に去ろうとして、振り向き)…ゼロ!(零点に軽く投げキス。上手に走って消える)

零点  (投げキスを受け取って、口に入れる仕草。去っていく百点に)ガンバレよ!

零点、覚悟を決めたような感じで、合格ラインに近づく。

バチバチという音。零点、しびれつつも近づき、合格ラインの持っているペンを取り上げ、下手に投げ捨てる。

ライン ナニヲスル。

零点  それはこっちのセリフだよ。

合格ライン、零点を突き飛ばす。

合格ライン、ロボットのようにカクカクとした足取りで下手へ消える。

零点、よろよろと立ち上がり、そのあとを追いかけつつ。

零点  (五九点と六〇点に)いいか。できるだけ引きとめる。けどそんなには無理だ。いいな。言いたいことがあったら、今しかないんだからな。

五九点 零点さん!

零点  じゃあな。

零点、下手へ消える。

二人だけになる六〇点と五九点。

リボンの近くまで歩み寄るが、バチバチという音がして、それ以上近づけない。

見つめ合いながら。

五九点 あのさぁ…。えっと…。

六〇点 うん。ナニ。

五九点 …あっ、そうだ。三三点ってやっぱり嫌われてるんだって。あとね、一一点ってサッカーが大好きなのにチョー運動音痴でボールとか蹴ろうとしてカラぶりするらしいよ。あとね…。あと…。(間)何言ってんだろ、私。…どうでもいいことしか思いつかないよ。ねぇ、六〇点。
六〇点が何か言って。何でもいいから。

六〇点 アッ…エッと…。…さっきはゴメン。

五九点 ヤダ! あやまんないで! 最後の思い出が「ゴメン」だなんてヤダよ!

六〇点 あっ、そうか…。そうだね…そうだよね…。…ゴメン。

五九点 あっ、また。(間)でも、私もゴメン。…ゴメンね。私がバカだからこんなことになっちゃって…。

六〇点 バカなのはボクのほうだよ。

五九点 そんなことないよ。

六〇点 ううん、バカだよ。今頃気づいたんだもの。五九点のこと本当に好きだったってこと…。

五九点 (ハッとして)ねぇ、どれくらい? 私のことどれくらい好き? 教えて。最後に。

六〇点 どれくらい?

五九点 うん。

六〇点 (間)どれくらい…。(うなだれて)ちくしょう! 何て言ったらいいか、言葉が思いつかないよ。

六〇点、自分の頭をなぐる。

五九点 …やめて。…そうだよね。私もそう…。六〇点のこと大好きだけど、うまく言葉で言えないや…。(うなだれて)こんなことなら、もっと時間を大切にすればよかった。もっともっと二人で笑ったり泣いたりしとけばよかった…。いっぱいいっぱい思い出積み重ねて、絶対絶対壊れないくらい大きな気持ちにしとけばよかった…。そしたらきっと、こんなときでも素敵な言葉が出てきたかもしれないのに…。

合格ライン、ロボットのような感じで、下手から戻ってきて、六〇点や五九点にはわきめもふらずリボンに近づく。

五九点 どうしよう。戻ってきたよ!

ライン センヒクキュウヒャクキュウジュウロクハヨン…センヒクキュウヒャクキュウジュウナナハサン…センヒクキュウヒャクキュウジュウハチハニ…。

合格ライン、リボンに向かい「1000−996=4」「1000−997=3」「1000−998=2」と続けざまに書いていく。

ライン …センヒクキュウヒャクキュウジュウキュウハ…。

六〇点 待ってくれ!

五九点 お願い! 止まって!

ライン …センヒクキュウヒャクキュウジュウキュウハ…。(意識が戻ったような感じになり)早くして…ください。言いたいことがあれば…。早く…。

キーンというイヤな音。

合格ライン、苦しみつつ。

ライン 早く。早くして…。(再びロボットのような感じになり)…センヒクキュウヒャクキュウジュウキュウハイチ。

合格ライン、リボンに向かい「1000−999=1」と書く。

五九点 何か言って! お願い、何か!

六〇点 愛してる!

五九点 私も。私も愛してる!

ライン …センヒク…。センハ……。(意識が戻ったような感じになり)ダメだ。もう答えが見えてきた…。

合格ライン、自分で自分の手を押さえつつ。

ライン センハ…。セン…ハ…。

六〇点と五九点、思わず近づこうとするがバチバチという音がして、近づけない。

五九点 もっと何か!

六〇点 忘れない! 絶対!

五九点 忘れない! 私も!

ライン センハ…ゼロ…。

二人で 離れたくないよ!

ガシャーンという、鉄の扉がしまるような音。

暗転。

////////////////////

中央スポット。

リボンの前に、合格ラインが放心したように立っている。

ふいにケータイの音。

合格ライン、ハッとしてケータイを取りだし。

ライン …アッ、もしもし。…ハッ、ハイ、そうです。…アッ、ハイ、そうです。指定された位置にいます。…アッ、ハイ、申し訳ありません。以後気をつけます…。エエ、ハイ、それは大丈夫です。…ハイ? 問題? …問題ですか?

舞台全体がぼんやりと明るくなる。

上手に六〇点、下手に五九点、いずれも客席に向かって背中を向け、置物のような感じで、じっとひざをかかえて座っている。

合格ライン、二人のようすを見てから、寂しそうに。

ライン いえ…特に問題はありません…。セン引きは完成しました…。(間)…では、失礼致します…。

合格ライン、ケータイを切ろうとするが、ふと思いとどまり。

ライン アッ、あの! …ひとつお聞きしてもよろしいでしょうか…。……あなたは…。(意を決したように)あなたは誰なんですか!

ガシャーンという音。真っ暗になって(幕)

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