少人数向け演劇台本を無料提供。

天使の声が聞こえたら

●3人 ●40〜50分程度

●あらすじ

自分の声が「近頃の人間には届かなくなった」と悩む天使。そこへ悪魔が現れ、「天使や悪魔がちゃんと働けるフツーの世の中にしよう」ともちかける。二人はまず手始めにブラブラしていたマユを更生させようとするが、天使は相手にしてもらえず…。

●キャスト

マユ
天使
悪魔

●台本(全文)

真っ暗な中。

下手にスポットが当たると、台の上に天使が立っている。

服は白。背中に羽のついたガウンを着ている。

天使 (舞台中央を見て心配そうに)アア…やっぱり…。キョロキョロしはじめたよ。…ヤバイなぁ〜あの子。…アッ、手に取った。ダメだよダメ。それをカバンに入れちゃ。…そうそう。そのまま手に持ってレジまで…ア〜またキョロキョロしてる…。やめようよ。ちゃんとしようよ。欲しいものがあったらお金出して買おうよ。それが普通じゃない。ねぇ、ちょっと。ねぇってば。(大きな声で中央に向かって)万引きは犯罪ですよ!

天使に当たっていたスポット消える。

中央にスポット。

CDケースを持ったマユが立っている。

天使の声が聞こえたかのように、ふと動きをとめるが、また、キョロキョロしはじめる。

マユのスポット消え、天使にスポット。

天使 聞こえてないんだよなぁ〜。(客席に向かって)聞こえないんですよ、最近の若者には。昔はね、こういうことあんまりなかったんだけど…。何て言うのかなぁ〜。声が届かなくなったって言うか、いくらこっちが叫んでも振り向いてもくれないんだもの。ひどいもんです…。正直、天使やっててむなしくなるときあります…。(間)私だって天使のはしくれですからね。「ダメですよ。そんなことしちゃ」とか、「目をさまして!」とか、手をかえ品をかえやってるんですよ。…でも効き目ないんだよなぁ〜。声枯れちゃうくらい叫んでるんだけど…。最近の子は聞く耳をもたないって言うか…。…サジ投げたくなりますよ…ホント…。(チラッと中央を見て)アッ! コラ! ヤメロ! やめないか!

天使消える。マユにスポット。

マユ、持っていたCDをカバンに入れる。

マユのスポットはそのままで、天使にもスポット。

天使 …取ったな。完全に取った。

マユ、キョロキョロしつつ、もう一枚手に取る。

天使 アチャ〜。もう一枚盗む気だよ。(大きな声で)ヤメロ! コラ! いいかげんにしなさい!

マユが、もう一枚もカバンに入れようとしたところで。

天使 クソッ。まったく。けしからん! コラ! ヤメロ! ア〜もう、じれったい! ダメだ、ここからじゃ!

天使、羽のついたガウンをサッと脱ぐ。

全体、明るくなり、天使、中央のマユに駆け寄る。

天使 ちょっと君!

マユ アッ。ヤバ!

天使 今、CD取ったでしょ。出しなさい!

マユ (ギクリとするが、すぐに天使をにらみかえして)店内じゃんか!

天使 ハァ?

マユ まだレジ通ってないじゃん。

天使 それが何か?

マユ 万引きしたことにならないでしょって言ってんの!

天使 したじゃないか。君、今、カバンの中に入れたろ。

マユ (天使をジロジロ見て)アンタ、ケービじゃないでしょ。

天使 ケービ? アア…それは、まぁ…。

マユ だったらごちゃごちゃ言わないでよ。

天使 そういうわけにはいかないよ。

マユ ナンデ?

天使 何でって、それは…その…。(キリッとして)天使だから!

マユ 何それ。

天使 天使だよ。天使。悪魔の誘惑からあなたを守る天からの使者。テ・ン・シ。

マユ アンタ頭おかしいんじゃないの。

マユ、立ち去ろうとする。

天使、それを引きとめ。

天使 ちょ、ちょっと待ちなさい。私だって覚悟決めて降りてきたんだから、話ぐらい聞きなさいよ。

マユ はなしてよ! 人呼ぶわよ!

天使 そんなことしたら君だって万引きで…。

マユ (天使の手を振り払い)アア、そういうこと。弱みをにぎってそれでアタシを脅すつもりなわけね。ア〜ヤダヤダ。大人はヤダなぁ〜。(間)でも残念でした。さっきも言ったけど、アタシまだ万引きしてないから。

天使 してるじゃないか! こっそりカバンに入れたら、それは万引きってことだろ!

マユ (ちょっと笑って)でもレジでカネ払うかもしんないじゃん。そしたら普通の客じゃん。

天使 それはそうだけど…。ホントにお金払うつもりだったの?

マユ さぁ〜ねぇ〜。

天使 さぁって…。

マユ 気が向いたらね。

天使 そんな…。やっぱり万引きするつもりだったんでしょ。

マユ どーでもいいでしょ。そんなこと。

天使 よくないよ。(きっぱりと)これは大事なことです。

マユ ケービでもないくせに。

天使 (小声で)警備でもないくせにって、…いつの間に、天使より警備のほうが格上になったんだよ…。そりゃぁ警備の人もがんばってると思うけど…。でもさぁ根本的に立場が違うと思うんだよなぁ…。天使だよ。天使。天からの使者だよ、こっちは…。

マユ 何ブツブツ言ってんの。ホント、早めに病院行ったほうがいいよ。じゃあね。

マユ、再び去ろうとする。

天使、マユの腕をつかんで。

天使 待ちなさい!

マユ 何なのよアンタ。まだインネンつける気?

天使 (ちょっと考え)…わかりました。いいでしょう。私は警備員じゃない。認めます。そして君はまだ万引きをしていない。それも認めます。そのかわり君も認めて下さい。さっきそれを盗もうとしていたことを。

マユ 知らないわよ。そんなこと。

天使 どうして正直になれないんです。万引きしようと思ったことは事実でしょ。まずそれを認めて、反省しなきゃ…。

マユ ヤダよ。めんどくさい。

天使 (諭すように)ちゃんと反省しなきゃ、ちゃんとした人になれないんだよ。

マユ 意味わかんない。

天使 意味がわからないって…。(首をかしげ)ひょっとして熱でもあるんじゃ…。

天使、マユに近づき、おでこに手を当てる。

マユ、天使を突き飛ばし。

マユ アンタ。ホントに人呼ぶよ。そもそも自分のこと天使だとか言ってる時点で説得力ゼロじゃんか。それがわかんないわけ?

天使 イテテテテ。だから本当に天使なんだってば。

マユ じゃあ羽は? 天使なら羽あるはずじゃん。

天使 アッ…それは…置いてきました。

マユ 家に?

天使 …家っていうか…。まぁ、そうです…。

マユ あのさぁ、今度は忘れないようにしたほうがいいよ。じゃないとわかんないもん。天使だって。

天使 急いで降りようと思ったもんだから…。それに羽はまずいでしょ、目立ちすぎて…。

マユ そんなことないって。羽あるほうがカワイイじゃん。わかりやすいし。その格好じゃ、ただの白い服着たおせっかいだよ。

天使 …おせっかい。

マユ じゃ、そういうことで。今度は羽もつけるんだよ。バイバ〜イ。

天使 あっ、ちょっと!

マユ 何?

天使 私も行きます。

マユ だから、いいってば。ほっといてよ! アンタ本当にイカれてるんじゃない?

天使 何と言われてもついていきます! だってレジで君が…。えっと、君、名前は?

マユ マユ。

天使 マユさんがちゃんとお金払うのを見届けないと。

マユ いいってば。そんなこと。

天使 よくありませんよ。

マユ だってアタシ払う気ないから。

天使 どうしてそういうこと言うんです。

マユ カネもってないもん。

天使 じゃあやっぱり万引きじゃないか。

マユ (イライラして)ア〜もういいよ! そんなにアタシを万引きで補導したいんなら、入り口出たところで待ってなよ。で、アタシがちゃんと万引きしたら、そのあとつかまえればいいじゃん。好きにしなよ!

マユ、走り去ろうとする。

天使、追いかけ、マユの手をとって。

天使 待って下さい。そんなことできるわけないでしょ。

マユ ホントに?

天使 あたりまえでしょ。

マユ じゃあさぁ〜。本気でアタシを万引き少女にしたくないんだったらさぁ〜。アンタがカネ出してよ。

天使 エッ?

マユ 本気でアタシのこと心配してんなら、(CDをカバンから取り出し)これ買ってって言ってんの!

天使 私が…買うんですか。

マユ うん。それならいいじゃん。アタシも万引きしなくてすむしさぁ〜、アンタだって気がすむでしょ。丸くおさまるじゃん。

天使 …それはそうですけど…。そういう解決の仕方でいいのかなぁ…。

天使、悩む。

マユ、それを見て。

マユ やっぱりな。やっぱり口だけだ。あれはダメ、これはダメって口は出すけど、カネは出さないんだ。(間)じゃあね。

マユ、再び去ろうとする。

天使 待って下さい。出します!

マユ ホント?

天使 エエ。そのかわり約束して下さい。もう二度と万引きはしないって。

マユ (あっさりと)いいよ。

天使 本当に?

マユ たぶん。(間)とにかく買ってよ、これ。

マユ、持っていたCDを天使に渡す。

マユ (さらに、棚に並んでいるCDを何枚か無造作に選んで、天使の腕に差し込むようにして)あと、これとこれもお願い。

天使 エエーッ!

マユ いいでしょ。さっレジ行こ。

マユ、天使を引っぱって上手へ消える。

暗転。

しばらくしてスポット。

天使、とぼとぼと上手より出てくる。

天使 …よかったのかなぁ、あれで。…一応、万引きは防げたけど…。でもなぁ〜…。

どこからともなく、悪魔の声。エコーがかかっている。

悪魔の声 いいじゃないか。あの子は喜んでたぜ。また今度万引きしそうになったら、さっきみたいに出て行って、またどっさり買ってやれよ。

天使、キョロキョロしつつ。

天使 そっ、その声は!

悪魔の声 まぁそう力むなよ。そこがアンタの悪いクセだ。もっと力抜いていこうぜ。そのほうがずっと気持ちが楽になるからな…。

天使 出てこい! 悪魔!

下手にスポット。

黒ずくめの悪魔が浮かび上がる。声のエコー消える。

悪魔 よう。久しぶり。

天使 悪魔よ、消え失せろ!

悪魔 おいおい、「出てこい」って言うから出てきてやったのに、いきなり「消え失せろ」はないだろ。オレたちは永遠のコンビなんだぜ。

天使 あなたとコンビを組んだ覚えはありませんよ。

悪魔 とか何とか言っちゃって、ホントはオレに出てきてほしかったくせに。

天使 そんなわけないでしょ。

悪魔 いやいや、隠したってわかる。一人じゃどうしていいかわからなかったんだろ。あのマユって子のこと。

天使 そっ、それは…。

悪魔 フン、ズボシだな。…オレでよければ話を聞いてやってもいいぜ。

天使 結構です! あなたの力は借りませんよ!

悪魔 でも相談相手が欲しいんだろ。

天使 もしそうだとしても、天使が悪魔に相談するわけないでしょ。

悪魔 それはどうかな。悩みごとってのは、誰かに打ち明けたくなるもんだからな…。たとえそれが悪魔だとしても。

天使 ほっといて下さい。

悪魔 ホゥ〜。「ほっといて下さい」か。かまって欲しいやつに限ってそういうことを言うもんなんだぜ。さっきのあの子みたいにな。

天使 あの子が? …そうなんですか?

悪魔 アア。そういうもんさ。(ちょっとうつむき)何て言うか…、まっ、要するに、相手にされないから、焦ってるのさ。

天使 焦ってる…。

悪魔 あの子も。アンタも。(間)…そしてオレもな。

天使 あなたも? 悪魔のあなたが焦ってる?

悪魔 アア。

天使 そりゃまたどうして。

悪魔、天使の肩に手を置き。

悪魔 なぁ、相棒。

天使 私はあなたの相棒じゃ…。

悪魔 (天使の言葉をさえぎり)まぁそうカリカリせずにオレの話も聞けよ。(間、少し寂しそうに)実はオレもお前さんと一緒の境遇で…。。

天使 一緒の境遇?

悪魔 早い話が、出る幕がないってことよ。

天使 そんなわけないでしょ。これだけ世の中が乱れてるのは、全部あなたのせいじゃありませんか!

悪魔 ところがどっこい、悪魔が世の中を悪くしてたのは昔の話。今は違うんだワ。

天使 どう違うんですか。

悪魔 オレがそそのかさなくったって、さっきみたいな子は、バンバン勝手に万引きでも何でもパッパァ〜ッとやっちまう。だからオレ様の出る幕はないってことよ。

天使 なるほど…。

悪魔 でさぁ、たまに、ウジウジしてるやつをさぁ、そそのかそうと思って近づいたりするとさぁ、これが態度豹変。キッとにらんで「うるせーよ」とくるわけだ。

天使 そりゃぁ大変ですねぇ…。

悪魔 なんていうのかなぁ、悪い心が自立しちゃったっていうか、一人歩きしはじめちゃったっていうか…、オレ様の話術でコントロールできる範囲を超えちゃってんだ。つまり…早い話が…聞く耳もたなくなったっていうことかな…。

天使 アッ、それわかります!

悪魔 そうか。わかってくれるか。うれしいぜオレは。

悪魔、天使の肩を抱く。

悪魔 でね。オレはオレなりに、この状況を重く受けとめて、「このままじゃいかん」「何とかしなくちゃ」って思ってるわけ。アンタもそう思うだろ。

天使 エエ、エエ。

悪魔 でさぁ。いろいろ考えた結果、たどりついた結論っていうのが…。

天使 何です?

悪魔 とりあえずアンタにがんばってもらうしかないかな、と…。

天使 私ががんばる?

悪魔 そういうこと。

天使 どうして?

悪魔 つまり、フツーの人間がいるとするだろ。

天使 ハイ。

悪魔 フツーの人間ってのは、どういう人間かっていうと、つまりフツーの人間なわけだ。それはつまり、別にいいことも悪いこともしてないヤツってことだろ。

天使 まぁそうですね。

悪魔 アンタ、フツーの人間に向かって「いいことしなさい」って言うか?

天使 あっ、いや、それはしませんね。そこまでは。

悪魔 だろ。要するにオレたちの出番っていうのは、フツーの人間がちょっと出来心起こして、悪いことしちゃおうかなって思ったときにさぁ、まずアンタが出て行って「ダメですよ。そんなことしては」みたいなクサいセリフを言ってさぁ…。

天使 クサい…。

悪魔 (気にせず続ける)その後で、千両役者のオレ様の登場ってことになるわけじゃない。順番的に。だろ?

天使 …まぁ、大筋ではそのとおりです…。

悪魔 だから、アンタがオレの見せ場まで「出来心起こしたフツーの人間」ってのをちゃんと引っぱってきてくれないと、オレいつまでたっても出る幕ないわけじゃない。

天使 ハァ…。

悪魔 オイオイ、しっかりしてくれよ。つまりさぁ、基本的に、フツーの人間がたくさんいなくっちゃお互い商売になんないわけ。だから、さっきみたいな子を、まずフツーの状態までアンタの力で引き上げてほしいんだよね。わかる?

天使 エエ、それは…。

悪魔 それで、フツーの状態に戻ったらさぁ、その上で、ちゃんとお互いの役割果たそうよ。どう? いいよな、それで。

天使 …でも、どうしていいかさっぱり…。

悪魔 オレが応援するよ。

天使 あなたが私を?

悪魔 アア。いくらなんでもオレが直接そういう世の中のためになることするわけにはいかないだろ。だから、オレ、アンタのサポート役になるよ。で、二人で力を合わせて、世の中をオレたちの働きやすい、フツーの社会にしようぜ。

天使 あなたと手をにぎるわけですか? 私が。

悪魔 そのかわり、世の中がフツーになったらオレはオレのやりたいようにやるから、アンタも好きにしな。

天使 なるほど…。一時休戦ってわけですか。

悪魔 そういうこと。どうだい? 悪い話じゃないだろ。

天使 エエ、まぁ…。

悪魔 よし、じゃあこれで契約成立な。

悪魔、天使と握手。

天使 なんだか悪魔に魂を売ったような…。

悪魔 何ブツブツ言ってんだよ。そうと決まったら、さっそく行こうぜ。

天使 行くって、どこへ?

悪魔 決まってんだろ。さっきのマユって子。追いかけんだよ。

天使 イヤ、でも、あの子はちょっと…苦手だな…。

悪魔 (大げさに)アッ、天使が人助けすんのに、選り好みするんだぁ〜。

天使 そっ、そんなことありませんよ!

悪魔 だったら行こうぜ。(ニッと笑って)善は急げって言うからな。

悪魔、天使の手を引き、下手に去る。

暗転。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

中央にスポット。

カラオケボックス。

マユ、マイクを持って一人で歌を歌っている。

しばらくして、下手、天使と悪魔、スポットで浮かび上がる。

中央、マユのほうは、曲の音も歌声も消える(歌い続けているが、カラオケの音もマユの歌う声も消え、ゼスチャーで歌っているような感じ)。

悪魔 見ろよ。

天使 何やってんですかね。

悪魔 カラオケだよカラオケ。

天使 アア、カラオケね。(手帳を取りだし、パラパラとめくって)…これは特別悪いことじゃないな。よしよし。

悪魔 そーでもないようだぜ。

天使 えっ? 何か?

悪魔 よく見てみろよ。

マユ、マイクをテーブルに置き、タバコを吸い始める。

天使 喫煙してる!

悪魔 なかなか慣れた吸い方だ。

マユ、こんどはビールを飲み始める。

天使 飲酒してる!

悪魔 うまそうに飲むねぇ〜。

マユ、再びタバコを吸う。

天使 また喫煙してる!

悪魔 いちいち、叫ぶなよ。

天使 注意してきます!

悪魔 大丈夫か?

天使 …ええ、たぶん。

悪魔 油断すんなよ。

天使 わかってます!

天使、中央へ。

悪魔、消え、全体明るくなる。

天使 マユさん!

マユ ゲホッ、ゲホッ。…アンタまた来たの?

天使 もちろん。

マユ 完全なストーカーじゃん。

天使 違いますよ。失礼な。私はマユさんをそっと影から見守ってただけです。

マユ やっぱストーカーじゃん。

天使 とにかくお酒とタバコはダメです。未成年なんだから。

マユ また説教かよ。

天使 私はマユさんのためを思って…。

マユ アタシのため?

天使 ええ。

マユ あのさぁ、アタシが酔っぱらって溝に落ちようが、ニコチン中毒で死のうが、アンタには関係ないでしょ。親切ぶるのはやめてよ。

天使 でも、ダメなものはダメです。

マユ ナンデ?

天使 何でって…。また、そんなことを…。

マユ 何かアタシ、迷惑かけてるかなぁ〜。

天使 迷惑ってことじゃないけど…。(間)…あと、一人でカラオケっていうのもどうなんでしょう…。

マユ いいじゃん。練習じゃん。人の勝手じゃん!

天使 そんなにジャンジャン言わないで下さいよ。セミじゃあるまいし。…それに、さっきお金持ってないって言ってたじゃありませんか。(間)…まっ、まさか今度は無銭飲食しようってつもりじゃ…。

マユ (ニッコリと)アア、それは大丈夫。あとで何人か来ることになってるから。

天使 誰が来るんですか。

マユ 知らな〜い。

天使 知らない? 知らないってどういうことです。

マユ だぁ〜かぁ〜らぁ〜。さっき声かけられたの。

天使 声? 

マユ で、ダチも連れてくるからここで待っててくれって言うんで、そうしてんじゃん。悪い?

天使 名前は?

マユ なんとかって言ってた。…よく知んないよ、そんなこと。

天使 男の人でしょ。

マユ 当たり前じゃん。女が女に声かけるわけないじゃん。

天使 とにかく、そういう誘いに乗っちゃいけません。今すぐここを出ましょう…。

マユ アンタこそ出てったほうがいいんじゃない。マジ、ヤバイよ。このままここにいたら。

マユ、タバコを吹かして、横を向く。

下手、ソデから悪魔顔を出す。

悪魔、天使を手招き。

天使 アッ、ちょっと、待っててね。すぐ戻るから。

マユ いいよ。戻ってこなくて。

天使、悪魔のほうに駆けよる。

悪魔、ソデから出てきて。

悪魔 ダメだよ。全然ダメ。

天使 そうかなぁ…。

悪魔 カタイよ、話が。あれじゃ逆効果じゃん。

天使 でも、きちんと注意しないと、反省してもらえないでしょ。

悪魔 わかってないなぁ〜。そういう押しつけがましいのが一番イヤがられんだぜ。

天使 それはそうかも知れないけど、他に方法がないじゃありませんか。…はたから見てるだけだから気楽なこと言ってるけど、じゃあ、あなた、お手本見せて下さいよ。

悪魔 だから、それはムリだって。オレ、悪魔なんだからさぁ。…ただ。

天使 ただ?

悪魔 方法がないわけじゃない。

天使 と言うと?

悪魔 間接的な方法で、あの子がアンタのこと、頼らざるを得ないようにはできるってことさ。

天使 どうするんですか? 教えて下さい!

悪魔 要するに、あの子を誘ったヤツがカラオケボックスに現れなきゃいいわけだろ。そうすりゃ、あの子、お金持ってないわけだし、トーゼン困るよな。そういう心細い状況を作っておけば、あの子だって、アンタをそう邪険には扱わないと思うぜ。

天使 ウ〜ン…。さすが悪魔の考えることは違う…。でもどうやって…。

悪魔 それは心配いらねぇよ。人をそそのかすのは悪魔の得意技だからな。オレが何とかする。

悪魔、スカーフをかぶったりして女装をはじめる。

天使 何してるんですか?

悪魔 変装だよ。変装。…こういうことしないとさ、最近はなかなか難しいんだ…。

天使 ハァ…そういうもんですか。

悪魔 そうだよ。結構苦労してんだぜ、オレだって。…悪魔の姿じゃ、相手にされねぇからな…。情けない話だが…。

天使 なるほど…。

悪魔 だからさぁ、ホント協力するから、アンタも頑張ってくれよ。オレだってこんなことばっかりするの、イヤだからさぁ。ちゃんと悪魔の姿で仕事できるような正しい世の中にさぁ…。…頼むから。

天使 エエ、できるだけのことは…。

悪魔、女装がすすむにつれ、話し方がナヨナヨしてくる。

悪魔 あん、もう。しっかりしてよ。「できるだけ」とかじゃ困るのよ。「全力で」とか「死ぬ気で」とかそれくらいの気合いでやってよね。あっ、あと、ひとつ忠告しておくけど、絶対上からモノを言っちゃダメよ。若い子、特にああいう女の子はそういう物言いが大嫌いなんだから。ネ。わかった。

天使 あっ、ハイ…。

悪魔 まずは友達っぽくなって、一緒にワイワイやろうよ、ぐらいの余裕がないとダメよ。

天使 ワイワイですか…。

悪魔 そう。ワイワイ。

天使 わかりました。

悪魔 じゃ、アタシ行くから。いい、あの子のケータイが鳴ったら、それがサインだからね。(間)今度はうまく頼むわよ。じゃぁネ。

悪魔、天使に投げキッスをして、ソデに消える。

天使 (悪魔の後ろ姿を見送り)…ある意味、プロだな。…よし。こっちだって。

短い暗転。

中央、カラオケボックスにマユ。

そばに天使隠れている。

マユのケータイ鳴る。

マユ アッ、(ケータイを取って)もしもし…遅いじゃん。…うん…うん。…エ〜ッ、なにそれ。どういうこと! …アタシはどうなんのよ。信じらんない。…エッ? 何? 聞こえない! アッ! ちょっと!

マユ、ケータイ閉じる。

マユ なんなのよ。…ていうか、ヤバイじゃん。

天使、よしよしという感じでうなずき、気合いを入れてマユの前に。

天使 お嬢さん。

マユ アッ、アンタ…。

天使 何かお困りのことでも?

マユ エッ。…うん、まぁ…。

天使 力になりましょうか?

マユ ホント? ラッキー! アンタひょっとしてホントにいい人?

天使 ええ、まぁ、一応天使ですから。

マユ まだ、そんなこと言っての。(間)まぁいいや。とにかく飲も。

マユ、コップを天使に持たせ、ビールをつごうとする。

天使 アッ、いや、結構。

マユ いいじゃん。飲みなよ。未成年じゃないんでしょ。

天使 ええ、それはそうですけど。

マユ だったら遠慮しないで。さ、ググ〜ッと。

天使 だって、まずいでしょ…。

マユ 何、アタシのお酌じゃ、マズくて飲めないって言うの。

天使 ち、違いますよ。そういう意味じゃなくて…。

マユ じゃあ飲んで。全部飲んで。

マユ、強引につぐ。

天使 困ったなぁ…。

マユ せっかくなんだから楽しくやろうよ。

天使 ワイワイ?

マユ そうそう。そうだよ。わかってるじゃん。

天使 …わかりました。いただきます。

天使、グラスにつがれたビールを飲みほす。

天使 プハ〜ッ!

マユ いよっ。日本一。ささ、もう一杯。

天使 いやいやいや。

マユ いやいやいや。

マユ、再びビールをつぐ。

マユ グーッとグーッと。

天使 まいったなぁ、じゃ、もう一杯だけ…。

天使、グラスにつがれたビールを飲み干す。

ちょっとぐったりして。

天使 …ア〜なんか、雲の上にいるみたいだ…。

マユ さすが天使!

天使、マユの手をとり。

天使 マユさん! やっと天使だと認めてくれたんですね。ありがとう。…シクシク。

マユ ヤダ。泣いてる。ひょっとして泣き上戸だったりする?

天使 うれしいんですよ、私は。やっとマユさんと…。

マユ アッ、ねぇねぇ。歌おうよ。

天使 ヒック…。歌ですかぁ〜。歌はどうかなぁ〜。

マユ 聞きたい、聞きたい!

天使 ヒック…。でも、よく知らないっすよ…。

マユ 何でもいいからさぁ〜。

天使 ヒック…。でもなぁ〜、ちょっとなぁ〜。

マユ はずかしがっちゃダメ。天使でしょ。ホラ勇気を出して!

マユ、天使にマイクを渡し、立ち上がらせる。

天使 勇気でありますか。

マユ そうよ。勇気よ。成せば成るよ!

天使 アッ、ハイ。ガンバルであります。

天使、敬礼。体はグラグラしている。

マユ ヨッ、お兄さんやる気だね! じゃあ景気づけにもう一杯!

マユ、ビールをつぐ。

天使 ありがたくいただくであります!

天使、立ったまま、つがれたビールを飲み干す。

だんだんと暗くなっていき暗転。

♪「帰ってきたヨッパライ」のような曲がしばらく流れる。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

音楽小さくなり、明るくなる。

ベンチが一つ。

天使、横になっている。

そのそばに悪魔。

天使 ウ〜ン…。

悪魔 オッ、気がついたか。

天使、体を起こして。

天使 アッ…。ここは…。

悪魔 公園。

天使 (あたりを見回し)公園…。アレッ? マユさんは?

悪魔 どこかに行った。

天使 えっ…そうなんですか…。…私どうしてました?

悪魔 聞きたいか?

天使 …ええ。

悪魔 カラオケボックスで酔っぱらって、あの子にサイフとられて、おいてけぼりにされて、店員にたたきだされて、気を失って…。

天使 …もういいです…。

悪魔 まったくよう…。

天使 アア、なんてことだ…。

悪魔 アンタの手にはおえなかったみたいだな…。やれやれ…。

悪魔、去ろうとする。

天使 どこへ行くんですか?

悪魔 さぁな。…オレの勝手だろ。

悪魔、去る。

天使、一人になり、ガックリとベンチでうなだれる。

天使 やっぱり無理だったんだ…。離れてようが、近くにいようが、届かないもんは届かないんだ…。便利なときだけはいい顔してくれるけど、それは本当に心を開いてくれてるわけじゃない。(間)天使なんかもう誰もありがたがりはしないんだ。ありがたがるのはお金とかCDとかタバコとかお酒とかそんなものだけなんだ…。彼女たちに天使はいらない…。その場だけの刺激さえあればそれでいいんだ…。(間)帰ろう…。遠くはなれた雲の上で、黙って目をつぶっていよう…。

天使、とぼとぼと去る。

暗転。

・・・・・・・・・・・・・・・・

下手スポット。

悪魔が立っている。

頭には猫の帽子。

悪魔 (客席に向かって)いやぁ〜、まったくニャ〜。気の弱い天使っていうのもやっかいなもんだニャ〜。ちょっとしたしくじりで、へこむことへこむこと。あれ以来雲の上でひきもり状態なんだよニャ〜。(間)…まぁニャ、天使も悪魔もお呼びじゃない世の中なんで、天使がひきこもろうが、特段、困ったこともありゃしないんだけどニャ…。エッ? なんだか今日はしゃべり方が違うんじゃニャイかって? アアこりゃ失礼。ついさっきまで公園で猫のケンカをけしかけてたもんで、つい。…まっ、こっちもヒマしてるんで、話を聞いてくれそうな相手の前なら、猫だってなんだってかぶるってわけで…。(サッと帽子をとり)何しろこのご時世だ。悪魔だと知っててそそのかされるようなやつは…。オッといけねぇ。ここで時間をつぶしてる場合じゃねぇや。

後ろを振り向き。

悪魔 よう、天使。いるのか。いるんだろ?

スポット。少し奥。台の上で天使が背中を向けてうずくまっている。

悪魔 こりゃ予想以上のへこみかただな…。オイ天使。オイってばよぉ。

悪魔、台の上へ。

天使、少し顔を上げ。

天使 アア、悪魔か…。

悪魔 何だよ何だよ。しけたツラしてやがんなぁ〜。そう落ち込むなよ。

天使 別に…。

悪魔 元気ねぇなぁ…。ショックだったのはわかるけどよう。そういつまでもグジグジしてんのも大人げないんじゃねぇのか。

天使 ほっといて下さいよ。私の勝手でしょ!

悪魔 (ちょっと笑って)「私の勝手」か。そりゃそうだ。確かにアンタの勝手だよな…。(間。わざと独り言のように)…危ない危ない。とんだおせっかいになるところだったぜ…。傷ついてるやつのそばで、ギャーギャー言うのは天使のオハコ。それじゃぁ傷口に塩をぬるようなもんだからな…。

天使 (ムッとして)私がいつ傷口に塩をぬったって言うんですか! 私はただ…。(間)それに、あの子はちっとも傷ついてなんかいなかった。傷ついたのは私のほう…。

悪魔 ホントにそうかねぇ〜。

天使 どういう意味ですか。

悪魔 いやぁね、ひょっとしたらあの子、なんとなくいろんなことに傷つき続けてたんじゃないかなって、ちょっとそんな気がしてきたもんだから。

天使 そんなわけないでしょ。お金とモノだけですよ、ああいう子は。傷つくほどの真剣さなんて持ち合わせてやしないんだ!

悪魔 う〜ん。オレもそんな風に思ってはいたんだが…。でもなぁ〜、じゃぁ、あれはどういうことなのかなぁ…。

中央にスポット。

マユ、ぼんやりとベンチに座っている。

雨の音。

天使 あれは…。

悪魔 あの子だよ。

天使 あんなとこで何してるんですか。

悪魔 何もしてないよ。ただ雨に打たれてる。

天使 だから、何で雨に打たれたままあんなとこにいるんですか!

悪魔 帰るところがないんだろ。たぶん。

天使 家に帰ればいいじゃないか。(ハッとして)アアそうか。電車賃も使っちゃったのか。

悪魔 まぁそれもある。…でもまぁたぶん、お金を持ってたとしても家には帰らないんじゃないかな。

天使 どうして?

悪魔 さぁ…。ただ何となく帰りたくないんじゃないの。

天使 何となく?

悪魔 アア。だから、ただ何となく雨に打たれてるんじゃない。

天使 何となくったって、雨宿りくらいしたらいいでしょ。あのまま雨に打たれてるよりはそのほうがいい。

悪魔 さぁ、それはどうだか…。

天使 だってカゼひいちゃうでしょ。

悪魔 かもな。

天使 …あの子、何か事情でもあるんですか?

悪魔 いや、別に。フツーだよ。フツーの事情だよ。

天使 でも、フツーならあんなところで雨に打たれてるはずないじゃありませんか。何か特別な事情があるはずですよ。

悪魔 世の中、そういうことばっかりじゃないだろ。(ちょっと考えて)オレたちさぁ、あの子のこと、フツーにしようと思ったじゃん。

天使 ええ。そうです。

悪魔 でも、なんかあの子、はじめからフツーだったんだって気がしてきたんだよなぁ。

天使 あの子がフツー? あれで? バカ言っちゃいけませんよ。

悪魔 いや、きっとフツーの子だよ。

天使 あなたの言ってることの意味がわかりませんね。万引きしたり、お酒を飲んだり、家にも帰らず雨に打たれてるってのは、どうみてもフツーの子がすることじゃないでしょ。少なくとも私の知ってるフツーではありませんね。あの子がああなったのには何か理由があるはずです。たとえば家庭の問題であるとか、学校の成績とか友人関係のトラブル、あるいは失恋とか、そういったことが。まずそれをはっきりさせて、それに対する…。 

悪魔 (天使の言葉をさえぎり)あのさぁ、なんでもかんでもいちいち理由みつけんのやめてくんないかなぁ。イライラすんだよね。そういうの。

天使 でも何らかの原因があって、その結果として…。

悪魔 アンタ、そんなことばっかり考えてて楽しいか?

天使 楽しくはないですよ。こっちだって…。でもそういうこと考えてかないと、答えは見つからないじゃありませんか。

悪魔 (語気を強めて)相手は人間だぜ。数学の問題解いてるんじゃないんだからさぁ、そんなに綺麗な答えが出るわけねぇだろ。(間)あの子はさぁ、フツーの事情で、フツーに焦って、フツーに傷ついてんだよ。それが悪いかよ!

天使 悪くはないですよ、別に…でも…。

悪魔 じれってぇなぁ! 天使なら、ほかにできることあんじゃねぇの? いいじゃんかよ、話なんか聞いてくれなくてもさぁ。いいじゃんかよ、バカにされたって。いいじゃんか、ダマされても。それでも何かしてやれることあるんじゃねぇの、天使ならよぉ!

天使 何とかって言われても…何をしたらいいか…。

悪魔 それはそばに行ってから考えな!

悪魔、天使を中央へ突き飛ばす。

天使 アッ!

天使、マユのそばに。

マユ、気づかずうつむいている。

天使、おずおずと。

天使 …あのぅ…マユさん…。

マユ、顔を上げる。

マユ アア、天使…。

天使 マユさん。あなた、どうして…。(間)アッ、いや、何でもありません。(間)…でも、そんなところにいたら…(間)アッ、いや、何でもありません。

マユ (うつむいて)ゴメンネ。お金、使っちゃった…。

天使 いや、いいです、そんなことは…。それより…。

マユ 何?

天使 えっと…、あの…、寒くない?

マユ ちょっと…。

天使 あっ、そうだ。よかったら、これ…。

天使、羽のついたガウンを脱ぎ、マユにかける。

マユ …あったかいね。

天使 ええ。

マユ 軽いし。

天使 ええ。

マユ (つぶやくように)どこで売ってんの?

天使 …それは売ってないんですよ。

マユ そう…。

天使 …座っていいかな?

マユ いいよ。

天使、マユの横に座る。

マユ、天使のガウンにくるまり。

マユ これ、気持ちいい…。

マユ、天使にもたれて目を閉じる。

マユ なんか…ネ…。

天使 ハイ。何でしょう。

マユ ちょっとつかれた…。

マユ、ため息。

天使 わかります。大丈夫です。私、ここにいますから安心して…。

マユ …。

天使 …寝ちゃった…かな。

悪魔、カサをさして現れる。

悪魔 よう。

天使 アッ、悪魔さん。

悪魔 寝てんの?

天使 エエ、そうみたいですね。

悪魔 ガウン貸してやったんだ。

天使 エエまぁ。

悪魔 羽生えて天使みたいになってるじゃん。その子。

天使 ホントだ。天使だ。(間)…あのう。

悪魔 何だよ。

天使 さっきはスミマセンでした。

悪魔 さっきって? アア、雲の上のこと?

天使 エエ、わざわざたずねてきてくれたのに、乱暴なこと言って…。でも私、うれしかったです…。

悪魔 何か勘違いしてない?

天使 エエ、勘違いしてたかもしれません…。

悪魔 いやいや、そういうことじゃなくてさ。

天使 どういうことでしょうか?

悪魔 オレって悪魔じゃん。悪魔って基本的にいいことしないからさぁ。

天使 でも…。

悪魔 悪魔のメンツもあるから、はっきり言っとくけど、オレ、アンタやその子を助けようと思ってやってたんじゃないから。

天使 …。

悪魔 オレさぁ、一度やってみたかったんだよね。人間じゃなくて、天使をそそのかしてさぁ、堕落させるっていうの。そういうパターン。

天使 エエ〜ッ。まさか…。

悪魔 結構おもしろかったぜ。特にカラオケボックスで酔っぱらったとこは最高だったな。…そのあと雲の上でひきこもっちゃってさぁ。

天使 全部、あなたの筋書き通りだったってことですか!

悪魔 そういうこと。

天使 それじゃ、さっきあなたが私の背中を押してくれたのは…。

悪魔 トドメのつもりだったんだけどな。もう一回せっついて、地上に降ろして、何にもできなくて泣き崩れるアンタを見たくてさ。…でも、何かいい感じになってるところを見ると、ツメが甘かったって言うか、オレもまだまだ青いってことかもな…。

天使 そんなぁ…。(間)でも、おかげで目がさめました。そのことについては私、やっぱり、一言あなたにお礼を…。

悪魔 ちょっと待った!

悪魔、持っていたカサを閉じ、天使に突き出すようにして。

悪魔 それ以上、言うんじゃねぇ。オレは感謝されると変なブツブツが体中に出るンだ。しかもそのあと、とてもカユくなる。

天使 スミマセン…。知りませんでした…。

悪魔 …チッ。まったく…。

悪魔、持っていたカサを天使にポイと投げつけ。

悪魔 じゃあな。

悪魔、去っていく。

天使 あっ、カサ。

悪魔 (振り向きもせず)知らねえよ、そんなもん。好きにしな。バーカ。

悪魔、去る。

天使、悪魔の去っていったほうに向かって頭を下げる。

天使とマユにスポット。

雨の音、さらに激しくなっていく。

天使、キッとした表情で空を見上げてから、マユが濡れないようにカサをさす。

激しい雨の音を打ち消すかのように曲が流れはじめ、それがだんだんと大きくなる中で。(幕)

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