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渋谷でもらった不思議な木の実の話

●5人 ●60〜70分程度

●あらすじ

渋谷で遊んでいた中学生ルナが、偶然出会った占い師から不思議な竹の実をもらい、言われるままにトイレに流すとタイムスリップ。するとそこは60年前の渋谷。防空壕の中で旧制中学の生徒タケシと知り合い意気投合する。次の日、現代にもどったルナは、空襲で渋谷に再び大きな被害が出ることを知り、タケシを救うため再び空襲下の渋谷にタイムスリップする。

●キャスト

ルナ
ユリ
タケシ
占い師/予測師
警備員

●台本(全文)

車の音や、人の声。その他、雑踏のもろもろの音。

客席の後ろから、ルナとユリ登場。客席の間を歩きながら。

ユリ  何時?

ルナ  (ケータイを取り出し)九時半。

ユリ  これからどうする?

ルナ  どうしようか?

ユリ  お金もないしね。

ルナ  ブラブラする?

ユリ  さっきからずっとブラブラしてるじゃん。

ルナ  じゃあもっとブラブラしてみる?

ユリ  どうやって?

ルナ、大げさに手をブラブラさせながら歩く。

ユリ  何それ。

ルナ  ブラブラ感アップさせてみたんだけど。

ユリ  意味わかんないよ。

ルナ  でも、結構おもしろいかも。

ルナ、さらに手をブラブラさせる。

ユリ  やめてよ、ハズカシいから。

ルナ  誰も見てないって。

ユリ  (キョロキョロして)ホラ、見てるじゃん。あの人、今見てたよ。

ルナ  見ても覚えてないよ。

ユリ  そうかなぁ…。

ルナ  そうだよ。だって渋谷だよ、ここ。いちいち誰も気にしてないって。

ユリ  でも、じゃまだよ。そんな歩き方。

ルナ  (急にあわてて)アッ!(ケータイを取り出し、客席の一人を写真に撮る)

ユリ  何?

ルナ  ねぇねぇ、今の人、誰かに似てない?(と言ってケータイの画面をユリに見せる)

ユリ  誰かって、芸能人?

ユリ、ケータイをのぞき込み、首をかしげる。

ルナ  うん。誰だっけなぁ〜。お笑い系の人でさぁ。

ユリ  う〜ん。そういえば誰かに似てるけど…。

ルナ  アッ、そうだ。エミに聞いてみよ。(ケータイを打ちつつ)「コレダレダッケ」と。

ユリ  知ってるかな、あいつ。

ルナ  知ってるでしょ。エミ、芸能界に強いから。

ユリ  めざしてんの?

ルナ  さぁ?

ユリ  スカウトされたとか?

ルナ  スカウトくらいされるでしょ。中三なんだから。

ユリ  エ〜ッ、私されてないよ!

ルナ  されてたじゃん、さっきも。

ユリ  ああいうのはノーカウントだよ。ああいうのじゃなくてさ。もっとちゃんとしたやつ。

ルナ  ああ、そういうのはちょっとユリには無理かもしれんなぁ〜。

ユリ  ヒッドーイ。

ルナ  (ケータイ鳴る)アッ、来た来た。(ケータイの画面を見て)プッ、そうだそうだ。さすがエミ。

ユリ  誰だって?

ルナ  林家ぺー。

ユリ  ああ、なるほど。そうだそうだ。髪型そっくりだったもん。

ルナ  近くにパー子もいるかもよ、だって。

ユリ  バカだね、エミも。

ルナとユリ、笑いながら舞台に上がる。

上手から荷物を持って占い師登場。

ルナ、占い師を見つけて。

ルナ  アッ! あれパー子じゃん!

ユリ  ホントだ、パー子だ!

ルナとユリ、占い師のところへ走って行き、ケータイで写真を撮り始める。

占い師 (荷物をひろげつつ)こらこら、まぶしいじゃないか。

ルナ  パー子、こんなとこで、何してんの?

占い師 (ちょっとルナをにらんで)私ゃパー子じゃないよ。

ユリ  ウソだぁ〜。そんなピンクの服着てるのパー子だけだよ。

占い師 シッシッ、商売のじゃまだよ。

占い師、二人を追い払う。

ルナ  商売って何?

占い師 (机を組み立てる。机の前に「占い」と書いてある)見てわかんないのかい。

ルナ  占い?

ユリ  パー子占い師なんだ!

占い師 パー子パー子って言うんじゃないよ。

ユリ  じゃあ何て言う名前なの?

占い師、旗を出して机に差す。旗には「ジュテーム・マギー・フランソワの昔話占い」と書いてある。

占い師 見ればわかるだろ。

ユリ  プッ! 何これ。

ルナ  ねぇパー子ぉ〜。ジュテーム…マギー…フランソワって、これ全部名前?

占い師 悪いかい。

ルナ  悪くないけどさぁ。変だよ。

ユリ  変て言えば、その下に書いてある昔話占いってのも変だよね

ルナ  なんかものすごく当たらなそうなんだけど。

占い師 フン! それはためしてみればわかることだよ。

ルナ  お金いるんでしょ。

占い師、看板を立てかける。看板には「本日サービスデー。占い無料」と書いてある。

ルナ  エ〜ッ! タダなの。

ユリ  やってみなよ、ルナ。

ルナ  ホントにタダなの?

占い師 書いてあるとおりだよ。

ルナ  じゃあ、私のこと占ってよ。

占い師 あんまり気は進まないけど、まぁいいか。ごちゃごちゃ言って商売のじゃまされるよりはマシだからね。……そこにお座り。

ルナ、椅子に座る。

占い師 あんた名前は?

ルナ  ルナ。

占い師 歳は?

ルナ  十四。

占い師 (大きな虫眼鏡でルナの顔をしげしげと見つめ)ホー。

ルナ  何?

占い師 …なるほどぉ〜。

ルナ  何よ。

占い師 あんた、化粧はハデだが、意外と顔のつくりは地味だね。

ユリ  当たってる!

ルナ  (ユリに)ケンカ売ってんの!

占い師 (気にせずルナの顔に虫眼鏡を近づけ)……ウ〜ン。これはいけない…。

ルナ  何、何がいけないのよ。

占い師 (ルナの頬を指さし)ニキビが出来かけてる。

ユリ  (ルナの顔をのぞき込み)ホントだ!

ルナ  ねぇ、それって占いなわけ?

占い師 いや、ちょっと気になったんもんでね。…え〜っと、占うんだよね。

ルナ  大丈夫なの、マジメにやってよ。

占い師 大丈夫大丈夫。(ルナの顔に再び虫眼鏡を近づけ、突然大きな声で)オオオ〜ッ!

ルナ  びっくりするじゃない、何よ!

占い師 あんた、結構モテるね。

ルナ  そっ、そうかなぁ〜。うん、わりとそうかもね。

ユリ  当たってるよ。それ、当たってる。ルナったら、どういうわけかよくコクられるんだよね。

占い師 一度に何人も?

ルナ  何人もってことはないけど…。

ユリ  何人もじゃん。この前だって立て続けに五人からコクられてさぁ。

ルナ  ああ、あれね、あれはまぁ…。

占い師 …で、その五人とはどうなったかと言うと…。

ユリ、手をクロスさせて「バツ」にする。

占い師 なるほどぉ〜。男を手玉にとる相がハッキリと出てる。

ルナ  違うよ。そんなんじゃないよ。だって、ちゃらちゃらしたヤツばっかなんだもん。軽いって言うか、バカなんだもん。向こうが悪いんだよ。

占い師 ほほぅ〜。でもそれは、あんたがそういう男の子にしか好かれないってことでもあるわけだ。

ルナ  そんな子しかいないんだもん。しょうがないじゃん。

占い師 アア。もうわかった。あんたはね、昔話占いで言うと、典型的なかぐや姫タイプだよ。

ルナ  かぐや姫?

ユリ  いいじゃん、ルナ。かぐや姫なんて。

占い師 (深刻ぶって)いや、それがそうでもないんだよ。

ルナ  どういうことよ。

占い師 昔話占いではね、かぐや姫の幸せ度は十二人中、十二位なんだよね。

ユリ  最低じゃん!

ルナ  なんでそうなるわけ!

占い師 そりゃそうさ。せっかく大事に育てられて、男の人にもモテモテなのにさ、どういうわけか満足できなくて、月に行っちゃうんだもの。かぐや姫は。

ルナ  でもさぁ…。

占い師 恵まれてない人や悪いことした人が不幸になるのは当たり前だけど、恵まれてるのに幸せじゃないってのはどうよって話さ。

ユリ  うん、なんかフランソワの言ってることわかるような気がする。

占い師 だから十位の「さるかに合戦」の猿タイプよりも、十一位の「カチカチ山」の狸タイプよりも順位が下なんだよ。…このままじゃ、あんた、ダメになるよ。

ルナ  じゃあ、どうすればいいのよ。

占い師 ま、抜け出す方法がないわけじゃない…。

ルナ  教えてよ。

占い師、袋からグッズを取り出す。

占い師 え〜っと、これがかぐや姫用の厄払いグッズなんだけどね。

ルナ  ヤクハライ。

ユリ  グッズ。

占い師 厄払いグッズを使うと、グングン運が向いてくるんだよね。たとえばこれ。

占い師、ルナに青竹を手渡す。

ルナ  何これ?

占い師 かぐや姫用健康青竹踏みキット。

ルナ  ハァ?

占い師 厄が払える上に、健康になれるっていうすぐれものでね、今なら何と一万円。

ルナ  エ〜ッ。

ユリ  高くない。

占い師 そうかい。

ルナ  だって竹でしょ。

占い師 かぐや姫専用だからねぇ〜。ほら、ここに翁印のロゴ入ってるし。

ルナ  いらないよ、そんなの。

占い師 じゃあ、これなんかどうだい。「かぐや姫の超不思議お団子ダイエットセット」。

ルナ  何それ。

占い師 一見何の変哲もない月見団子なんだけどね、なんと、厄払いができるうえに、食べるだけでダイエットにもなるんだよ。

ユリ  すごい!

占い師 だろ。しかも、今なら、ホラこれ。(本を取りだし)「月見団子でアッという間に一〇キロやせる」がついてくるんだよ。

ユリ  一〇キロやせるの? 食べるだけで。

占い師 ああ。

ユリ  スッゴーイ! これがいいじゃん。

ルナ  いくら?

占い師 たったの五〇〇〇円。

ルナ  ムリ。

占い師 お買い得だけどねぇ…。…じゃああんた、いくらくらいのものなら買えるのさ。

ルナ  一〇〇〇円くらいかなぁ〜。あ、でも帰りの電車賃があるから五〇〇円くらいかな…。

占い師、グッズを片づけ始める。

占い師 (独り言)あ〜、まったく子供ばっかりの街になっちゃって、まともな商売なんて出来やしないよ。(ルナとユリに)さぁ、もう占いはおしまい。帰んな帰んな。

ユリ  エ〜ッ、それじゃ、ルナ、厄払い出来ないじゃんか。

占い師 そんなこと、知ったことじゃないよ。あたしゃ人助けのボランティアじゃないんでね。

ユリ  ヒッドーイ。

占い師 ひどいもんか。甘ったれんじゃないよ。

ルナ  もういいよ。行こ。

ユリ  でも…。

ルナ  だって,こんなの変だよ!

ルナとユリ去ろうとする。

不意にザザーッという大きな音と地鳴りのような響き。

ルナ空を見上げて。

ルナ  …雨?

ユリ  エッ。どうかした?

ルナ  今、雨の音しなかった? それと地震。

ユリ  聞こえなかったけど…。

ルナ  …そう。気のせいかなぁ…。

ルナとユリ、歩き出す。

占い師、ルナに。

占い師 ちょっとお待ち。

ルナ  何。

占い師 あんた、今、音が聞こえたって言ったね。

ルナ  言ったよ。

占い師 ザザーッていう音かい。

ルナ  そうだよ。それと地震みたいな…。

再びザザーッという大きな音と地鳴りのような響き。

占い師とルナ、空を見上げる。

ルナ  ほら、また。

占い師 …聞こえるんだね。

ルナ  うん、地鳴りもした。(ユリに)ほらね。

占い師、真剣な顔になって。

占い師 こっちへ、おいで。

ルナ  なんで。

占い師 いいから。

ルナ  何よ。

ルナ、しぶしぶ占い師のそばへ。

占い師、首に下げた巾着から、小さな箱を取りだす。

占い師 ルナさん。あんたにはこれがいい。

ルナ  いいよ。お金ないから。

占い師 お金はいらない。

ルナ  タダ。

占い師 アア。もらっておくれ。

占い師、小さな箱から竹の実を取り出し、ルナの手に渡す。

ルナ  何、これ?

占い師 竹の実だよ。三粒ある。

ルナ  …これ、どうすんの?

占い師 流すんだよ。

ルナ  流す?

占い師 渋谷駅の西口を出たところに公衆トイレがあるだろ。

ルナ  ええっと…。

占い師 二四六にかかってる歩道橋の左。

ルナ  ああ。あるね。

占い師 そこの女性用、奥から二番目のトイレにそれを一粒流してごらん。

ルナ  流すの、これを。…トイレに? 何でそんなことしなきゃなんないのよ。

占い師 やってみればわかるよ。

ルナ  エ〜、やだよ。

再びザザーッという大きな音と地鳴りのような響き。

占い師 (空を見上げて)…供養してやっておくれ。

ルナ  クヨウ?

占い師 それがあんたのためでもあるんだし…。

ルナ  よくわかんないんだけど。

占い師 それは、昔、この渋谷に生えていた竹の実でね…。

ルナ  これが?(しげしげと眺め)…ふ〜ん。

占い師 昔、と言っても、それほど昔でもないんだが…。…あんた、竹が実をつけるのに何年かかると思う?

ルナ  さぁ〜三年くらいかな…。

占い師 六〇年以上かかるんだよ。

ルナ  (「トリビアの泉」風に)へぇ〜。

占い師 しかも、一度実をつけたらもうそれでおしまい。竹は枯れちまうんだよ。

ルナ  (「トリビアの泉」風に)へぇ〜へぇ〜へぇ〜。

占い師 (独り言のように)つまり、竹の記憶は全部その実に詰め込まれてるってわけさ…。

ルナ  竹の記憶?

占い師 アアそうさ。竹が見てきたこと。この町であったことはその実が教えてくれる。それを聞いて、竹を供養してやってくれないかね。

ルナ  なんだか、変な話…。

占い師 それに、その実をちゃんと供養してやれば、あんたも「かぐや姫」じゃなくなるはずだよ。

ルナ  本当?

占い師 アア。本当さ。とにかく、今すぐ行っておくれ。いいね。西口を出たところの女性用トイレ、奥から二番目だよ。今夜一粒、わかったね。

ルナ  あっ、でもユリが。

占い師 (キッパリと)一人で行くんだ。あんた一人で。

ルナ  そんなこと言っても…。

占い師 さぁ、早く!

占い師、ルナを突き飛ばす。ルナ、突かれて、ユリの待つのとは反対のほうへ消える。

ユリ  あっ、ルナ!

占い師 (ユリに近づき)あの子はちょっと用事ができちゃってねぇ…。

ユリ  エエッ〜。どこ行ったの。(ケータイを取り出す)

占い師、ユリのケータイの電源を切って。

占い師 まぁまぁいいじゃないか。そんなことより、あんた名前は?

ユリ  ユリ。

占い師 そうかい、そうかい。じゃ、ちょっと占ってあげようか?

ユリ  えっ、そう。じゃぁ…。

占い師、ユリを椅子に座らせる。

暗転。

中央にドアがひとつ。

下手よりルナ登場。

ケータイで話しをしながら。

ルナ  …でさぁ〜。私のことかぐや姫だって言うわけよ。…うん、そう。そのおばさんが。えっ? …違うよ。そういうんじゃなくてさぁ。…うん、そうそう。占いなんだって。で、グッズとか買わされそうになって…。お金ないとか言ったら怒っちゃったんだけどぉ〜。…でしょぉ〜。で、ムカついて帰ろうとしたわけよ。もう、行こっとかユリに言って。そしたらなんか急に態度変えちゃって、「この実を供養してやっておくれ」とか言いだして、粒みたいなの渡されたんだわ。…違うよ。そういうんじゃないよ。ヤバイもんじゃないと思うんだけどさぁ。えっ? ユリ? …知らない。…そうだよ。一人で行けとか言われてさぁ〜。…うん。捨てちゃってもいいんだけどさぁ…。なんか気持ち悪いじゃん、かえって。祟りとかありそうで。…でしょぉ〜。なんか魔法使いのおばあさんって感じだったし…。まぁ流すだけならいいかと思って。…うん。今来たとこ。そうだよ。トイレだよ。駅の横の。…うん、そうそう…。

ルナ、ケータイで話しをしながら、ドアのうしろに回り込み、ドアを開けて中央に出てくる。かすかにザザーッという音と地響き。

ルナ  ……アッ、もしもし。もしもし? 何これ。画面消えてるじゃん。信じらんないよ。…ったく。(ケータイに向かって)もしもーし。壊れたんですかぁ〜。アーもう、ついてない! (竹の実を一粒取り出して)あんた、供養するからさぁ、とりあえずケータイ直してくんないかな! お願い!

ルナ、竹の実を投げ入れ、柏手(かしわで)。

水を流す。

ゴーッという水の音。

真っ暗になる。

やがてゴーッという音が、飛行機の爆音に変わる。

爆音に、ウーウーという警報の音がかぶさる。

しばらくして、中央のドアが開き、タケシが入ってくる。

タケシは懐中電灯を持っている。

あわただしく動き回るタケシ。倒れているルナにつまづく。

タケシ 痛っ。

タケシ、気にせず、部屋のランプをつける。ポォッと部屋が明るくなる。

何も無い部屋。

タケシ、ようやく倒れているルナに気づく。

タケシ 誰?

タケシ、ルナに近づき。

タケシ 君。しっかり。(ルナをゆすりながら)しっかり!

ルナ、目を覚ます。

ルナ  ……ん。…んん。

タケシ アア生きてる。

ルナ  …えっ? …私?

タケシ よかった。大丈夫?

ルナ  ええっと…。(思い出して)ああ、そうか…。

ルナ、抱き起こしているタケシを見て。

ルナ  あんた誰?

タケシ 誰って…。

ルナ  なんでここにいるわけ? ひょっとして変質者?

タケシ ヘンシツシャ? …違うと思うけど。

ルナ  (まわりを見回し)ここどこ?

タケシ おじさんの家。

ルナ  ハァ? …ひょっとして誘拐とか?

タケシ それは違うと思う。おじさんはそんなことする人じゃないよ。

ルナ  だって変じゃん。私、トイレにいたんだよ。それがなんであんたのおじさんの家にいるわけよ。

タケシ トイレ? さぁ…。それは…。とにかく…(と、言いつつルナの顔をしげしげと見て)君、まさかアメリカ人じゃないよね。

ルナ  えっ? 私、そんな風に見える?

タケシ だって、髪の毛の色が…。

ルナ  (ニコッとして)あんた結構おもしろいじゃん。名前なんてーの。

タケシ タケシ。

ルナ  あっ、そう。タケちゃんね。あたしルナ。

タケシ ルナ? …ルナコさん?

ルナ  あんたチョーゆかいじゃん。マジメそうな顔してんのに。

タケシ ルナコさんじゃないんだ…。

ルナ  ルナだよ。ルナ。

タケシ そう…。

ルナ  ルナリンでいいよ。

タケシ ……長くなってるんだけど…。

ルナ  (気にせず)ねぇタケちゃん、学校は?

タケシ あっ、学校。一中だけど。

ルナ  イッチュー? 中学生?

タケシ うん。

ルナ  あたしも。何年?

タケシ 四年。

ルナ  (吹き出して)プッ! タケちゃん、お笑い目指してんの?

タケシ オワライ? …いや、別に…。

ルナ  いっつもそんなとぼけたことばっか言ってんの?

タケシ ボクからすると、ルナさんのほうが…。

ルナ  (気にせず)ねぇ、学校おもしろい?

タケシ 去年から行ってないから…。

ルナ  アアそういうことか。行ってないんだ。じゃ何してんの?

タケシ 工場で働いてる。…住友通信。

ルナ  バイト?

タケシ バイトって?

ルナ  違うの? 正社員? スゴいじゃん。

タケシ いや、そういうんじゃないよ。動員かかってるから、それで…。

ルナ  (タケシの言葉にかぶせて)まっ、どーでもいいよね、そんなの。いろいろあるからね。(しばらく考えて)…あたしも辞めちゃおうかな…。学校。

タケシ ルナさんは、どこの中学なの?

ルナ  柏。

タケシ 柏? 柏って常磐線の?

ルナ  うん。

タケシ 柏に中学ってあるんだ。

ルナ  ア〜ヒッドーイ。バカにしてる! 完全な田舎モン扱いじゃん!

タケシ ゴメン。知らなかったから…。

突然、ザザーッ、ドーンという大きな音。

ルナ  何!

タケシ 今のは近かったね。

ルナ  だから何?

タケシ B29。

ルナ  ビーニジュウ…? バンド?

タケシ B29知らないの? 爆撃機だよ、アメリカの。

ルナ  アメリカのバクゲキキ? ここゲーセン?

タケシ ゲーセン? ううん。防空壕だけど…。

再びザザーッ、ドーンという大きな音。

ルナ  (ちょっと焦って)ボークーゴーって何するとこなの!

タケシ 大丈夫? 頭でも打ったんじゃ…。

再びザザーッ、ドーンという大きな音。

タケシとルナ、身をかがめる。

タケシ つまり、こうやってじっと隠れてる場所だよ。…外に出ると危ないからね。(上を指さし)焼夷弾が降ってくるから。

ルナ  ショウイダン?

タケシ うん、燃える爆弾。雨みたいに降ってくる。ザザーッてね。

ザザーッ、ザザーッ、ドーン、ドーンという大きな音。

タケシ ほらね。

ルナ  爆弾! マジで?

タケシ マジ? …ゴメン。言葉の意味がよくわからないんだけど…。

ザザーッ、ザザーッ、続けてドーン、ドーンという大きな音。

ルナ  これ夢じゃないの?

タケシ 夢ならいいけど夢じゃない。

ルナ  ここにいれば大丈夫?

タケシ 直撃しなければなんとかね。

ルナ  直撃したら死ぬ?

タケシ たぶん。…この防空壕、庭に穴掘っただけだから。

ルナ  ダメじゃん。

タケシ うん。でも外に出るよりはいいよ。

ザザーッ、ザザーッ、ドーン、ドーン、ドーンと続けて爆発音。

暗くなる。

しばらく爆発音が続く。

やがて爆発音の回数が少なくなり、ゴーゴーという爆音も遠ざかる。

ウーウーという警報が鳴り、やがてそれも小さくなる。

明るくなって。

タケシ 行ったみたいだね。

ルナ  終わったの?

タケシ うん。警報が解除になったから、もう大丈夫。

ルナ  …ねぇ。

タケシ 何?

ルナ  ひょっとして戦争とかやってたっけ?

タケシ やっぱりおかしいよ、君。何か怖い目にでもあったんじゃ…。

ルナ  だよね。そんなわけないよね。アメリカの飛行機が渋谷に爆弾落とすなんてこと、あり得ないよね。

タケシ …ええ〜っと。…その通りなんだけど。

ルナ  そうなの?

タケシ うん。

ルナ  いつから?

タケシ いつって…。最初に空襲があったのは確か一七年だったけど…。今年になってから急にひどくなったよね。隅田川のほうは三月の空襲で…。(ルナの顔を見て)…あの空襲も知らないの?

ルナ  うん。

タケシ 先月はこのあたりも少しやられたし、横浜も…。川崎も浜のほうはもうダメだね。

ルナ  ねぇ。

タケシ 何?

ルナ  あたし、ひょっとしてタイムスリップしてる? タイムマシンとかそういう感じで。

タケシ ああ、タイムマシン! ウエルズのタイムマシン読んだんだ。あれおもしろいよね。ルナさんも時間旅行とか好きなんだ。

ルナ  別に好きじゃないよ…。ていうかよくわかんない…。

タケシ そうなんだ。じゃあベルヌはどう? 海底二万里とか読んだ?

ルナ  ゴメン。読んでない。

タケシ あっそう。そうだよね。一応敵性文学だからね。でも久しぶりに聞いたよ。

ルナ  何を。

タケシ (声をひそめて)英語。

ルナ  そう…。

タケシ 中学でも一年の途中までしか授業なかったから…。

ルナ  ねぇ…。

タケシ うん。

ルナ  今、何年の何月何日?

タケシ 二〇年の五月二四日。あっ、でももう一二時過ぎたから二五日か。

ルナ  やっぱりやばいじゃん! 未来じゃん!

タケシ そうなの?

ルナ  だってあたしさっきまで一九年の五月二四日にいたんだよ! まるまる一年飛んじゃってる! どうしよう!

タケシ (ちょっと考えて)…でもボクが思うには、ルナさんは過去から来たんじゃないと思うけどなぁ…。

ルナ  どうしてわかんの?

タケシ (ちょっと笑って)だってそんな服着てた時代は、今までの日本の歴史の中にはないよ。

ルナ  (自分の服を見て)変?

タケシ 変って言うか。…ちょっと…どう言っていいかわからないけど…。

ルナ  フツーだけどなぁ〜。

タケシ どっちかって言うと、未来っぽいような…。

ルナ  ミライ? でも二〇年なんでしょ。私、さっきまで絶対一九年にいたもん。

タケシ 一九年の五月二四日かぁ…。

ルナ  うん。

タケシ う〜ん。でも一九年の五月だとしても、開戦は昭和一六年一二月八日だからなぁ…。この戦争のことを知らないってのは不可解だよね。

ルナ  あのさぁ…。

タケシ 何?

ルナ  今、ショーワって言った?

タケシ うん、言った。

ルナ  どうしよう。私、ヘーセーなんだけど。

タケシ ヘーセー? ヘーセー時代?

ルナ  時代って言うか、ヘーセーだよ、ヘーセー。ショーワの後。

タケシ …昭和は終わったの?

ルナ  うん、私、ヘーセー四年生まれだもん。

タケシ (考えをまとめるように、手でおでこをたたきながら)ア〜…。エ〜っと…。

ルナ  何?

タケシ ひょっとして、この戦争は終わってるのかなぁ…。ルナさんの言うヘーセーって言う時代には。

ルナ  戦争はしてないよ。たぶん。

タケシ 日本はどうなったの?

ルナ  別に、特に変わったこともないけど。

タケシ …負けたの?

ルナ  エッ? 勝ったとか負けたとかそういうの無いよ。

タケシ 無い? ひょっとして停戦したとか?

ルナ  ……エエッと…。ゴメン。今度聞いとく。

タケシ 知らないの?

ルナ  うん、よく知らない。…でもね、平成になってからはアメリカとは戦ってないよ。どっちかっていうと仲いいほう。

タケシ とにかく日本はあるんだ…。

ルナ  あるよ。日本だって渋谷だって。

タケシ …フ〜ン…。そうか…。

ルナ  ねぇ?

タケシ 何?

ルナ  私、思うんだけどさぁ〜。もしタイムスリップみたいなことが、今、私たちに起こってるとしてよ…。

タケシ うんうん。

ルナ  なんかタケちゃん、すごく冷静じゃない?

タケシ …そうだね。あんまり驚いてないね。

ルナ  でしょ〜。実は私もそうなの。タケちゃんと話してても、別にすごく驚いたって感じはしないんだよね。

タケシ …何でだろうね?

ルナ  (独り言のように)…そういえば、ユリたちと騒いでても、なんかあんまり本気で驚いたりしたことないしなぁ〜。

タケシ (独り言のように)慣れてきちゃったのかなぁ〜。(指で上を指し)こういうのが普通になっちゃってるから…。

二人、顔を見合わせて。

ルナ  けっこう怖いものナシなのかもね、私たちって。

タケシ そうだね。…でも、さっきの空襲のときは、ルナさん、キャーキャー言ってたよ。

ルナ  あれは、ちょっとビックリしただけだよ。

タケシ それって驚いたってことじゃないの。

二人、笑う。

暗転。

占い師が、ユリを座らせて、占いをしている。

ユリ  ねぇ、どう?

占い師 う〜ん、そうだねぇ〜。

ユリ  いいかげん教えてよ。ルナのときはすぐに答えてたじゃん。

占い師 そうだったかい。すまないねぇ、目がしょぼしょぼして…。

占い師、目薬を出して、さす。それから時計を見て。

占い師 じゃあ、そろそろ、占うかな…。エエ〜っと…。名前は?

ユリ  だから、ユリだってば。さっきも言ったじゃんか。

占い師 ああ、そうか、ゴメンゴメン。(ユリをしげしげと見て)う〜ん。ちょっと立ってみてくれる?

ユリ、立ち上がる。

占い師 背は高くないねぇ。

ユリ  …うん、まぁね。

占い師 じゃあ、一寸法師タイプでいいね。

ユリ  ちょっと待ってよ。いいねって何よ。それ占いじゃないじゃんか。

占い師 じゃあ「一寸法師」。決定!

占い師、かたずけて立ち去ろうとする。

ユリ  あっ、何、ずいぶん待たせたくせにもう終わり?

占い師 アア。

ユリ  タイプの説明とかはないわけ?

占い師 ああ、そうか。

ユリ  そうだよ。ただ「一寸法師」タイプだって言われても、喜んでいいのか悲しんでいいのかわかんないじゃん!

占い師 (面倒くさそうに)ええっと、…一寸法師は都に憧れてる田舎モンで…。

ユリ  何、それ。

占い師 打ち出の小槌で、ビッグになるのを夢見てるんだわ。

ユリ  アア、なるほど。で、なれるの? ビッグに。

占い師 さぁねぇ…。そういう人は多いからねぇ〜。

ユリ  そうなんだ…。

占い師 ちなみに、一寸法師の幸福度は一八人中九位で…。

ユリ  ビミョーね。

占い師 まぁ、何度も言うようだけど、よくあるタイプだからね…。じゃ、そういうことで。

再び、去ろうとする。

ユリ  アッ、待ってよ。

占い師 はぁ?

ユリ  まだ、あるでしょ。

占い師 何が?

ユリ  グッズだよ、グッズ。グッズ紹介がまだじゃん。「一寸法師愛用幸福のお茶碗」これでご飯を食べればみるみる背が伸びる、とかそういうの。

占い師 …でもあんた、どうせ買わないだろ。

ユリ  買わないけどさぁ、聞きたいじゃん。

占い師 買わないならイヤだよ。それに、今はそんな気分じゃないんだよ。

ユリ  ずるいよ! ルナには何か渡してたじゃんか!

占い師 あれは、違うよ…。

ユリ  何が違うわけ?

占い師 アア、もううざったいねぇ…。(カバンの中から針を取りだし)じゃ、これあげるから。

占い師、ユリに針を渡す。

ユリ  何、これ。

占い師 一寸法師の針だよ。

ユリ  針。…どうやって使うの?

占い師 誘惑に負けそうになったら、これで自分を刺すんだね。目がさめるから。

占い師、去る。

ユリ  エエ〜ッ。痛いじゃんか! あっ、待ってよ。もう!

暗転。

中央に扉。

タケシとルナが打ち解けた感じで座っている。

ルナ  へぇ〜、そうなんだぁ〜。中学って五年まであるんだ。

タケシ 今は、五年生も学校には行ってないけどね。

ルナ  ドーインなんでしょ。

タケシ うん。一中の四、五年は全員、住友通信で働いてる。

ルナ  何してんの?

タケシ 電探作ってる。

ルナ  デンタン?

タケシ 電気探索機。どう言ったらいいかな。電波をね、敵の飛行機とかにぶつけて、その反射で位置を知るっていう機械なんだけど…。

ルナ  レーダーみたいなものか…。

タケシ そうそう。まさにそれだよ。

ルナ  すごいじゃん。

タケシ ハンダ付けしてるだけだけどね。言われたとおりに。…でも嫌いじゃない。

ルナ  ハンダ付けが好きなの?

タケシ ううん。電波に興味があるんだよね。…不思議だと思わない? 電波って。

ルナ  ああ、それはそう思う。(ケータイを取りだし)こんなもんで誰とでも話しできるんだもん。

タケシ 何、それ?

ルナ  ケータイ。

タケシ ケータイって何?

ルナ  ケータイはケータイだよ。話ししたり、メールしたり、ゲームしたり。いろいろ。

タケシ (身を乗り出し)スゴいね。

ルナ  そう?

タケシ 話しができるんだ。

ルナ  一応電話だからね。

タケシ 無線式の電話か…。なるほど…。…どれくらい届くの? 電波は。

ルナ  どれくらいって、いろいろだけど…。これなら世界中だよ。ハワイとかパリとか。

タケシ 本当に!

ルナ  うん。

タケシ スゴい! スゴいよ!

ルナ  でも、調子悪くて。今使えないんだよね。

タケシ …それは、あれじゃないの。時代が違うから…。

ルナ  ああ、そうか。

タケシ …ちょっと見せてくれる。

ルナ  いいよ。

ルナ、タケシにケータイを貸す。

タケシ、ケータイをさわりながら。

タケシ ああ、これがアンテナか…。ふ〜ん。

ルナ  …ねぇ、タケちゃん。

タケシ 何?

ルナ  ここっておじさんちなんでしょ。

タケシ うん。

ルナ  おじさんは?

タケシ 工場。今夜は帰ってこないよ。今週は夜勤の週だから。

ルナ  ふ〜ん。…タケちゃんの家族は?

タケシ 母さんと姉さんたちは藤代の親戚の家にいる。

ルナ  離ればなれなんだ。

タケシ うん。危ないからね。家もないし。

ルナ  燃えちゃったの?

タケシ 建物疎開でつぶしちゃったんだよ。

ルナ  タテモノソカイ?

タケシ 家がたくさんあると、燃えやすいからね。燃える前に倒しちゃうわけ。

ルナ  エ〜、やじゃん。そんなの。

タケシ しょうがないよ。

ルナ  でも藤代だったら休みの日とかに会えるね。

タケシ ちょっとムリだね。休みもないし。

ルナ  ないの?

タケシ (ちょっと笑って)ないよ、そんなの。昼間働く週と夜働く週があるだけだよ。

ルナ  大変だね。戦争って。

タケシ 大変だよ、そりゃぁ…。

しばらく、沈黙。

タケシは興味ありげにケータイをさわっている。

ルナ、バッグからチョコレートを取りだし、食べはじめる。

タケシ、ふとルナを見て。

タケシ …それって?

ルナ  チョコ。タケちゃんも食べる?

タケシ …いいの?

ルナ  うん。

ルナ、バッグからチョコレートを取りだし、無造作にタケシに渡す。

タケシ これ全部?

ルナ  うん。いいよ。

タケシ、もらったチョコレートを口に入れる。

タケシ、大きくため息。

ルナ  どうしたの?

タケシ 涙が出そう。

ルナ  どうして?

タケシ あんまり甘くて。

ルナ  甘いのダメなの?

タケシ その反対。おいしくて…。

ルナ  タケちゃん、大げさだよ。

タケシ、ドンドンチョコレートをほおばる。

そして、ちょっとムセる。

ルナ  大丈夫?

タケシ ウッ、うん。

ルナ  タケちゃんって甘いモノ好きなんだね。でも太るよ。あんまり食べ過ぎると。…あたしもダイエット中だからさぁ、好きだけど控えてるんだよね。(思い出したように)アッそうだ。…ねぇねぇ、あたしねぇ、昔話占いで言うと、かぐや姫タイプなんだって。でもね、かぐや姫って良くないんだって。幸福度一八人中一八位で。理由はね、幸せなのに幸せじゃないからなんだって。やんなっちゃうでしょ。

タケシ へぇ〜かぐや姫か…。でもいいじゃない。かぐや姫だったら月に行けるんだもの。いいよねぇ、宇宙旅行とかさぁ…。

タケシ、上を見て。

タケシ そうだ。

ルナ  どうしたの?

タケシ、ケータイをルナに返し、ふと立ち上がる

タケシ ちょっと外の様子、見てくるね。火が出てたら消さなきゃ。

タケシ、扉を開けて、出て行く。

扉が閉まって、バタンという音とともに暗転。

すぐに明るくなって,雑踏の音。

ルナ、立ち上がり、扉を開け,回り込んで正面に出てくる。

ルナ  渋谷だ…。戻ってる。…あっ,ケータイも。

暗転。

舞台には何もない。

予測師登場。占い師に似た格好で、片手にはノートパソコン、もう片方には、「知りたいこと、何でも教えます。街角の予測師フランチェスカ・ルーシー・シルビア」と書かれた旗を持っている。

予測師、バスガイド風に。

予測師 え〜、毎度ごひいきになっております、街角の予測師、フランチェスカ・ルーシー・シルビアでございまーす。サクサク検索、すばやくクリック。ネットでズバッと一発回答。さぁ〜さぁ〜気になってること知りたいこと、何から何までその場で答える便利屋でございますことよぉ〜。(ふと,あたりを見回し)…なんだか今夜は人通りが少なくてよ…。アッそうだ…(予測師、かちゃかちゃとノートパソコンを打ちながら)エーっと、今夜の商売繁盛度は…と(リターンキーを押す)エエッ! ゼロパーセント! なんですのこれは! (胸を押さえながら)落ち着け,落ち着くのよ,ルーシー。まずは客寄せよ。人を集めるの…。そうだわ! 誰かを選んで…。

予測師、取り出したホワイトボードに「あなただけ無料」と書き,客席に座っている女性にホワイトボードを見せながら話しかける。

予測師 ちょっと、そこのお嬢さん。ワタクシ気になってること、知りたいことを、アッという間に解決しちゃう、チョー便利な検索のプロなんですの。おわかり? 今日は特別サービス,タダで,あなたの気になってること予測して差し上げますわ。(と言いつつパソコンのキーをたたき、リターンキーを押す)。…ハイ、出ました。あなたのお悩みはズバリ、ダイエットに成功するかどうか、でしょ? いいのいいの。わかってるわかってる。見ればわかるわよ。…じゃあ、次はどういうダイエットがいいか、予測して差し上げますからね。え〜っと…ちょっとまってね(と言いつつパソコンのキーをたたき、リターンキーを押す)。ハイ。出ました。ズバリ、あなたにピッタリのダイエットは「黒酢ダイエット」よ。(キーをたたきながら)…もし、あなたが黒酢ダイエットを三カ月間続けたとしたら…(リターンキーを押す)ハイ出ました。三カ月後、今より五キロやせる確率七七・五パーセント、三キロ以上やせる確率は…なんと九二パーセントよ! どう。自信がわいてきたでしょ。そうなのよ。目標の達成度をこうやって予測することで、俄然やる気が出てくるものなのよ。(客席を見渡し)いかがですか、皆さん! 見てくださいこの方の笑顔。これからはデータですよ、データ。インチキ占いにお金使ったりせず、キチッと状況を把握して、最小限の努力で最大の効果をあげませんこと。(サッとホワイトボードを裏返し)さぁ、誰か他にも!

予測師,客席に向かってアピールを続ける。

客席の奥から、ルナとユリ登場。舞台にむかって歩きながら。

ルナ  ホント。マジですごかったんだから。

ユリ  あるんだね、そういうこと。

ルナ  ユリはあれからどうしてたわけ?

ユリ  それがさぁ、フランソワに一寸法師とか言わちゃってさぁ。

ルナ  ユリって一寸法師なんだ。

ユリ  でも、なんかチョー適当って感じでさぁ、つまんなくなって帰った。

ルナ  そっかぁ〜。あたしも一応帰ったけどさぁ、なんかいろいろ考えちゃって…。寝不足気味。

ユリ  大変だったね。

ルナ  うん。でもさぁ、タケちゃんってなんかいいんだよね。

ユリ  何が?

ルナ  雰囲気って言うのかなぁ。なんか気が合っちゃって。

ユリ  へぇ〜。珍しいね、ルナが男の子のことそんな風に言うの。

ルナ  うん。今どきの子じゃないって感じでさぁ。

ユリ  そりゃそうでしょ。ショーワ…何年だっけ?

ルナ  えっと、…たしか二〇年。

ユリ  結構昔じゃん。たぶん。だってうちの親、ショーワ三十何年とか言ってたもん。

ルナ  だよね…。アッそうだ。タケちゃんに聞かれてたことあったんだ!

ユリ  何?

ルナ  戦争、どっちが勝ったかって。

ユリ  戦争? どっちって?

ルナ  アメリカと日本。

ユリ  ああ、何か聞いたことあるけど…。アメリカじゃん。アメリカ。

ルナ  マジで。

ユリ  だって強そうじゃん。

ルナ  ホントに知ってんの?

ユリ  知ってるよ、それくらい。

ルナ  じゃあ、いつ終わったわけ、戦争は。

ユリ  だいぶ前じゃん。親とかが生まれる前。

ルナ  もうちょっと、ハッキリわかんないかなぁ〜。

ルナとユリ、舞台に上がっていく。

ユリ、予測師を見つけて。

ユリ  アッ! フランソワ!

ルナ  ホントだ!

ルナとユリ、予測師にかけよる。

ルナ  よかった! 探してたんだよ。昨日のことだけどさぁ…。

予測師 昨日? 昨日お会いしましたっけ?

ユリ  何よ、フランソワ。シカトする気?

予測師 フランソワ? あっ、占いの。

ユリ  そうよ。やっぱ知ってんじゃん。

予測師 姉がまた何か…。

ユリ  姉? あなたフランソワの妹なの?

予測師 エエ…まぁ…。…で?

ルナ  厄払いグッズのことなんだけど。

予測師 アアやっぱり! スミマセン。(小声で)ホントにもう、お姉ちゃんたら…。で、何を?

ルナ  竹の実。

予測師 エエッ! 竹の実。お姉ちゃんたら、あれを売ったの!

ルナ  あっ、イヤ、買ったんじゃなくて、もらったんだけど…。

予測師 もらった? 竹の実を? どうしてあなたが?

予測師、慌てた様子でパソコンで調べはじめる。

ルナ  よく知らないけど、とにかくもらったワケ。でね、それはいいんだけど…。

予測師、パソコンに夢中で、ルナの言うことは聞いてない。

ユリ  (ルナに)ねぇ、ルナ。ちょっと。

ルナ  何?

ユリ  (旗を指さし)この人、教えてくれるんじゃない。

ルナ  ホントだ。(置いてあったホワイトボードを裏返し)しかも、ほら。

ユリ  ウワォ!

ルナ  ラッキー! ねぇ、ルーシー。

予測師 (やっと気がつき)何ですか?

ルナ  ちょっと教えてほしいことがあるんだけど。

予測師 ああ、お客? どうぞどうぞ(と、振り返り、ルナの持っているホワイトボードに気づく)。

ルナ  (間髪を入れず)タダなんでしょ。

予測師 あっ、それは…。…見ちゃいましたか。…やっぱり私の予測は当たるのね…。うれしいような悲しいような…。

ルナ  で、さぁ。早速なんだけど。戦争のこと教えてくれない?

予測師 戦争? 戦争って?

ルナ  日本とアメリカが戦争してたことがあるらしいんだけど…。

予測師 してましたよ。それは。

ルナ  どっちが勝ったの? やっぱりアメリカ。

予測師 そうですよ。

ユリ  調べてないじゃん。この人、無料だからテキトーに答えてるよ。

予測師 そんなこと、(パソコンを持ち上げ)これを使うまでもないでしょ。

ユリ  じゃあ、その戦争がいつ終わったかも言える?

予測師 昭和二〇年八月一五日。

ユリ  ルーシー、スゴーい。歴史とか得意なの?

予測師 それも常識の範囲だと思うんですけどねぇ…。どうせなら何かもうちょっと歯ごたえのある質問にしてもらえる?。一応プロだから。

ルナ  じゃあ、これはチョー難しいよ。いい。昭和二〇年の五月。ここ渋谷にアメリカの飛行機が飛んできて、燃える爆弾を落としました。さて、それは何日だったでしょう。

予測師 (やや顔色を変えて)あなた、どうしてそんなことを…。

ルナ  アア〜。やっぱりわからないんだぁ〜。

ユリ  (パソコンを指さし)それで調べればぁ〜。

予測師 …いいえ。それもわかりますよ。この街が空襲にあったのは昭和二〇年五月二四日の深夜。

ルナ  スゴい。ルーシー! そんなことまで知ってんだ!

予測師 それと、その次の日。昭和二〇年五月二五日の夜一〇時三〇分から…です。

ユリ  (ルナに)ネェ、異常なまでに詳しくない。(予測師に)ルーシー、その時、渋谷に住んでたんじゃないの?

予測師 私は疎開してました…。

ルナ  ちょっと待って。昨日って五月二四日だよね。

ユリ  うん。

ルナ  ってことは、今日は五月二五日。

ユリ  うん。

ルナ  ヤバイよ! もしルーシーの言ったことが本当なら今夜また渋谷に爆弾が落ちるんだ!

予測師 今夜って、どういうこと? あなたまさか…。

ルナ  ルーシーお願い。もっと詳しく教えて!

予測師 (無言でパソコンを開き、キーを打つ)これがその時の被害状況です。

ルナとユリ、画面をのぞき込み。

ユリ  昭和二〇年五月二四日。B29二五〇機来襲。渋谷区全域の全焼家屋八八五五戸、死者二〇名。重傷者二四〇名。罹災者三万一五五七名。

ルナ  昭和二〇年五月二五日。B29二百数十機来襲。渋谷区内で死者九〇〇名、重軽傷三八六〇名、全焼家屋二万八六一五戸、罹災者一一万六三七七名…。

予測師 そして、これが被害地域の地図。

ルナとユリ、画面をのぞき込み。

ユリ  この黄色い部分は何?

予測師 二四日の空襲で燃えた地域です。

ユリ  これって…。

予測師 道玄坂のあたりですね。

ルナ  じゃあ、黄色い部分のまわりにあるこの赤い大きな部分は?

予測師 二五日にやられた場所。

ルナ  (画面を指さし)駅の西口ってここだよね。

予測師 ハイ。

ルナ  やっぱりヤバイよ。今夜の空襲で、タケちゃんち、焼けちゃうんだ!

予測師 タケちゃんて…。あなたやっぱり!

ルナ  (時計を見ながら)八時か。あたし今から行ってくる!

ユリ  行くって、ヤバイんじゃない。

ルナ  でも、タケちゃんに教えなきゃ!

ルナ、走り去る。

ユリ  アッ、ルナ!

ユリも追いかけようとする。

予測師 (キーを打ちつつ)ちょっと待ちなさい。

ユリ  何よ。

予測師 一人で行かせてあげなさい。

ユリ  なんでよ。

予測師 あの子にとってもそれがいいことである確率は、(リターンキーを押して、パソコンの画面を見せながら)ホラ一〇〇パーセントよ。

ユリ  …ルナは大丈夫なんでしょうね。

予測師 (ユリの言葉には耳をかさずに)あなた名前は?

ユリ  ユリ。

予測師 (キーを打ちつつ)フ〜ン…。渋谷で朝まで過ごすつもりだったんだ。

ユリ  エッ? う、うん、まぁ…。

予測師 (画面を見つつ)だったら明日の朝、一緒に病院に行きましょう。

ユリ  病院? ルナ入院するの? ホントに大丈夫なの!

予測師、パソコンの画面を閉じ、何も言わず歩き出す。

ユリ  アッ、ちょっと、ちょっと待ってよルーシー。

ユリも予測師の後をついて行く。

暗転。

少し明るくなる。

中央に扉。

ウーウーという空襲警報。

ゴーゴーという爆音が聞こえる。

扉が開き、タケシが入ってくる。

明かりをつけると、ルナが倒れている。

タケシ アッ。ルナさん。

タケシ、ルナを揺り起こす。

ルナ、目をさまして。

ルナ  …アッ、タケちゃん…。

タケシ 大丈夫?

ルナ  …う、うん。

タケシ また、来たんだ。

ルナ  …エッ、あっ、そうなのよ! あのね、タケちゃん、落ち着いて聞いて。

タケシ うん。

ルナ  ここはヤバイの。だから逃げて!

タケシ ヤバイ?

ルナ  そう。チョーやばいの。ここにはね、今夜すっごくたくさん爆弾が落ちてくることになってんだよ!

タケシ 知ってるよ。

ルナ  ?何で。

タケシ だって、今落ちてる真っ最中だもの。

ルナ  エエ〜ッ、そんなはずないよ。クーシューは一〇時半からのはずだもん。

タケシ 今、一〇時半だよ。

ルナ  ダメじゃん。なんでそうなるのよ。八時過ぎだったはずなのに!

タケシ …気を失ってたんじゃないかな。昨日もそうだったもの。

ルナ  …そんなぁ。どうしよう…。

タケシ どうしようって言っても、今、外には出られないよ。

ルナ  でもここにいちゃダメ。今夜渋谷は、全部燃えちゃうんだよ!

タケシ …ルナさん、ひょっとして…。

ルナ  何?

タケシ それをボクに教えるために?

ルナ  うん、そうだよ。

タケシ そうなんだ。…ありがとう。

ルナ  だって友達じゃん。

爆音、遠ざかる。

タケシ 行ったみたいだな…。

ルナ  終わったの?

タケシ まだ終わってない。今のが第一波で、次のがもうすぐ来る。

ルナ  今のうちに逃げようよ。

タケシ ムリだよ。五分や一〇分じゃ、この町からは出られないもの。

ルナ  じゃあ、どうするの。

タケシ ここにいるしかないよ。

ルナ  ダメ。それはダメ!

タケシ …ひどいことになるんだね、渋谷は。…それを調べてきてくれたんだ…。

ルナ  アッそうだ。戦争ね。アメリカが勝つって。

タケシ アメリカが勝つ…。

ルナ  昭和二〇年の八月一五日だって。

タケシ 八月! あと三カ月じゃない。

ルナ  だから逃げて! あと三カ月どこかに隠れてて! こんなとこにいたら…タケちゃん死んじゃうよ!

タケシ (自分の手のひらをジッと見つめて)…うん,そうかもしれない。(独り言のように)…死ぬかもね。なんだか,そんな気がする…。(上を見上げて)ア〜ア,でもなぁ〜,みんな頑張ったのになぁ〜。…大勢死んだし。…それでも,やっぱり日本は負けるのか…。

ルナ  元気出してよタケちゃん。日本が勝っても負けてもいいじゃない。そんなことどうでもいいよ。でも、あたし、タケちゃんが死んじゃうのだけはイヤだからね! だから逃げて!

タケシ …逃げられないよ。…しかたないよ、戦争だもの。

ルナ  ダメだよ。あきらめちゃ。

タケシ 生きたいけどね。できれば。…でもよかった。戦争に負けたって、ルナさんたちは幸せになれるんだから。

ルナ  タケちゃんも幸せになって!

タケシ 無理だよ。(ルナの顔を見て)…泣いてるの?

ルナ  泣くよ。当たり前じゃん。

タケシ ボクのために泣いてくれるんだ。

ルナ  だって,こんなの変だよ!

タケシ うん。そうだね。(深呼吸をして)…でも,なんかスッキリした。

ルナ  エッ?

タケシ …会えてよかったよ。

ルナ  …うん。それはそう思う。

タケシ あっ、そうだ。ケータイ持ってる?

ルナ  うん。

タケシ 見せて。

タケシ、ルナから渡されたケータイを手にとり。

タケシ …いいなぁ〜。昨日からずっとこのことばかり考えてたんだ。…いつでもどこでも世界中の誰とでも話しができる…。こんないいものがもし今の時代にできてたらね…。

ルナ  どうするの?

タケシ そりゃぁ、まず、今この上を飛んでるB29の操縦士に電話してさぁ、とりあえず焼夷弾を落とさないでって頼むよ。未来から友達が来てるんですって言ってさぁ。

ルナ  信じないよ…。

タケシ それから、どうせ八月には戦争が終わるから、もう殺し合いはやめようって言うよ。

ルナ  それも信じないよ…。

タケシ だったらトルーマンとチャーチルに電話して、もうやめてくださいって言えばいい!。 …ああ、そうだ。それならいっそ天皇陛下に電話するのがいい! 日本は負けるんです。負けても大丈夫ですからって!

ルナ  よくわかんないけど,たぶんそれもムリだよ…。

タケシ だったら誰でもいい。オハイオ州のマイケルさんでも、ニューオーリンズのピーターさんでも、誰でもいい。片っ端から電話をかけて、戦争はやめましょうって言うよ。そしたら絶対戦争は終わるし、もう二度と戦争は起こらないよ!

ルナ  ……。そうだね、そうかもね。…きっとそうだよね。

タケシ だろ。(ケータイをルナに返して)ハイ。これ。大事にね。

ルナ  (受け取って)うん。

飛行機の爆音再び響いてくる。続いてザザーッ、ザザーッ、ドーン、ドーン、ドーンという音、激しくなる。

タケシ 来たみたいだね。

ルナ  クーシューの続き?

タケシ うん。

ルナ  どうしよう…。

タケシ ルナさんは、帰るべきだよ。

ルナ  帰る?

タケシ 元の時代。ヘーセーに。

ルナ  でも、あたし帰り方知らないもん。

タケシ ボクは知ってる。

ルナ  どうすんの?

タケシ 昨日と同じようにすればいいんだよ。

ルナ  昨日と?

ドーン、と一発大きな音。

ルナ  キャッ!

タケシ 時間がない。サヨナラ。

タケシ、扉の前に立ち、出て行こうとする。

ルナ  待ってよ、タケちゃん。どこ行くの!

タケシ 外に出る。

ルナ  どういうこと?

タケシ 昨日、ボクが防空壕の外に出て、帰ってきたらルナさんは消えてた。つまりボクがこの扉の外に出て、君を一人にすれば、君はヘーセーに帰れると思うんだ。

ルナ  今出ちゃダメ!

タケシ でも、今そうしないとルナさんも危ないじゃないか。焼夷弾が直撃したら、ここにいたって死ぬんだよ。

ルナ  でもイヤだよ。あたし、タケちゃんと離れたくないよ!

タケシ かぐや姫がそんなこと言っちゃおかしいよ。

ルナ  やだ。一緒にいる!

ドーンと再び大きな音。

ルナ  キャ〜!

ルナ、倒れる。

タケシ ありがとう。ルナさん。

タケシ、扉の前に立ち、振り向いてルナに敬礼。

くるりと背を向けて、扉の外へ。

ルナ  タケちゃん!

ドーンという大きな音。

暗転。

上手に病室。ベッドにルナが寝ている。

下手は病院の廊下。

ケータイで話しをしながらユリ登場。

ユリ  …うん、そう。うん、倒れてたんだって、トイレで。うんうん。…なんかタイムスリップして、あっちで知り合った子がいて…。知らないよ。あたし一緒じゃなかったし。でもルナがそう言ってたから、そうなんじゃないの。…えっ? 親? ああ、もうすぐ来るんじゃない。病院の人が連絡してたから。あたし? うん、昨日は帰ってない。…違うよ、バカ! なんかネットでいろいろ調べてくれるおばさんと知り合っちゃってさぁ、朝までつきあわされたんだよ。…そうそう、そうなのよ。そのおばさんがさぁ、この病院にルナが運ばれる確率一〇〇パーセントだって言うから来てみたら、ホントにいたわけ。ねっ、チョースゴくない。スゴいよね。見た目怪しいんだけどね。うん、ルーシー。…いや、完全な日本人。…うん、よくわかんない。とにかくそういうわけだから。何かあったらメールするワ。じゃ。

ユリ、ケータイを切る。

予測師、登場。

ユリ  あっ、ルーシー。

予測師 (パソコンをたたきながら)あの子、あと一分で目が覚めますわよ。

ユリ  ホント。

ユリ、時間を見る。

予測師 一〇〇パーセント。

ユリ  じゃあ、病室に入ってようよ。

予測師 わたくしは、ここでバイバイですわ。

ユリ  どうしてよ。

予測師 (パソコンを閉じて)あとは、あなたが付いていてあげれば大丈夫。

予測師、去ろうとするが、ふと立ち止まり。

予測師 ああ、そうですわ。最後に一つだけ。

ユリ  何?

予測師 あの方、目が覚めたら、またあのトイレに行くって言いますことよ。

ユリ  一〇〇パーセント?

予測師 (うなずき)でも、それを止めちゃいけませんワ。

ユリ  そうなの…。わかった。ルーシーがそう言うんだったらそうする。

予測師 じゃあ、あとはよろしくね。…あっ,それと,タケのことありがとうって,ね。

ユリ  えっ? …。

予測師、去る。

ユリ、見送る。(間)ユリ、ハッとして病室に駆け込む。

ユリ、ルナのかたわらに立ちカウントダウン。

ユリ  一〇、九、八、七、六、五、四、三、二、一、ゼロ!

ルナ、目を覚ます。

ユリ  スゴい!

ルナ  ここどこ?

ユリ  ビョーイン。

ルナ  あたし病気なの?

ユリ  気を失ってただけ。トイレで。

ルナ  トイレで…。(ハッとして)タケちゃんは!

ユリ  いないよ。

ルナ  エッ…、そんな…。…そうか。

ルナ、ベッドから飛び起き。

ルナ  あたし、行かなきゃ!

ユリ  スゴい!

ルナ  えっ?

ユリ  ううん。何でもない。あとはまかせて。

ルナ  ありがと。サンキュー。

ルナ、廊下に飛び出し、下手に去る。

暗転。

中央に扉。

工事中の札。

警備員が立っている。

上手よりルナ走って登場。

工事中の札を乗り越え、トイレに入ろうとする。

警備員、それを見つけて。

警備員 アッ、ダメダメ。

ルナ  何よ、離してよ。

警備員 今日から工事なんです、他に行ってもらえませんか。

ルナ  工事?

警備員 作り直すんですよ。古くなったから。

ルナ  ちょっと待ってよ。あたし、しなきゃなんないことがあるんだから。

警備員 それはわかりますけど、他のトイレを使ってくださいよ。

ルナ  他じゃダメなのよ!

警備員 そんなにガマンができないんですか?

ルナ  できないわよ。いいから離して!

ルナ、警備員を突き飛ばしてトイレに駆け込む。

実を投げ込み、すぐに水の音。

暗くなって、すぐに明るくなる。

ルナ、ゆっくりとあたりを見渡して驚きの表情。

がっくりとヒザをつき。

ルナ  何、これ…。なんにもない…。

暗転。

暗い中で、警備員の声。

警備員 大丈夫ですか。返事してください! 大丈夫ですか。

明るくなって、ルナ、扉のうしろから出てくる。

警備員 アア、よかった。どうしたのかと思いましたよ。もう工事の車が来てるんで…。あのぅ、もういいですか。

ルナ  もういいです。

ルナ、とぼとぼと歩き出す。

ユリが迎えに来ている。

ユリ  どうだったの?

ルナ  わかんない。

ユリ  会えなかったんだ。

ルナ  うん。…ボークーゴーは無くなってた。焼けた原っぱがあって、穴から煙が出てた…。

ユリ  そう…。

ルナ、肩を落とし無言で歩きはじめる。ユリ,その背中に。

ユリ  あっ,そうだ。ルーシーがね,竹のことありがとうって言ってたよ。

ルナ,ハッとして立ち止まり,空を見上げる。

ルナ  タケちゃん…。

車や人のざわきめき。雑踏の音が聞こえてくる。

それに、流行の歌。芸能ニュース。野球中継、戦争やテロのニュースを伝えるアナウンサーの声、その他もろもろの音が重なっていき、雑音のように大きくなる。やがて、その他の音は小さく聞こえなくなり、戦争やテロのニュースを伝えるアナウンサーの声だけが流れる。

ルナ、ゆっくりとケータイを手にとり、番号を打ち始める。

ユリ  どうしたの、ルナ。誰に打ってるの?

ルナ  わからない…。わからないけど、誰かにつながるまでやってみる。タケちゃんとそう約束したから…。

ユリ  …つながるとどうなるの?

ルナ  戦争はなくなるんだって…。

次第に暗くなっていき、ルナだけにスポット。

ルナ、黙々と番号を打ちつづける。

アナウンサーの声も消え,それに代わって飛行機の爆音とザザーッという雨のような音。それにドーンという爆発音が聞こえる。

ルナ,一心不乱にケータイを打ち続ける。

やがてルナに当たっていたスポットも消え、真っ暗な中、爆音,雨のような音,爆発音が流れ続け,突然すべてがプツリととぎれる。

静かな暗闇の中でルナの声。

ルナ  もしもし!

          (幕)

注:2007年版です。上演する際はその時点の西暦・元号等をご考慮の上、改変して下さい。
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