少人数向け演劇台本を無料提供。

絶滅危惧種全員集合!

●4人 ●50〜60分程度

●あらすじ

山奥からビオトープに逃げてきた絶滅危惧種のカミキリ。同じく絶滅危惧種のチョウやトンボと知り合い、人間に保護された環境で新しい生活を始めるものの、そこへ管理事務所に住んでいるゴキブリが現れて…。

●キャスト

シルビアシジミ
ベニイトトンボ
フサヒゲルリカミキリ
ゴキブリ

●台本(全文)

ここはビオトープ。

小河のせせらぎ、小鳥のさえずりなどが聞こえてくる、のどかな風景。

中央には大きな花。

その前で、チョウとトンボが手鏡で化粧をしている。

チョウは水玉模様のきらびやかな服、トンボは赤。

チョウ  (化粧をしつつ)ネェネェ、見た?

トンボ  (化粧をしつつ)見たって、何を?

チョウ  さっきよ、さっき。さっき水辺のホテイアオイにとまったときよ。

トンボ  どうかしたっけ?

チョウ  エ〜ッ、気づかなかったの!

トンボ  何に?

チョウ  (声をひそめて)ホテイアオイの下。

トンボ  下?

チョウ  いたのよ。

トンボ  誰が?

チョウ  タ・ガ・メ。

トンボ  ウソー! ホントに? 全然気づかなかった。

チョウ  私も最初は気づかなかったんだけど、なんかイヤ〜な視線感じたから、チラッと見たのね。そしたらタガメがさぁ、すっごい視線で下から見てたのよ、私のことを!

トンボ  ヤダァ〜。

チョウ  だから私、あなたに「行こう」って目くばせしたのに、ベニ子ったら知らん顔してるんだもの。

トンボ  ゴメ〜ン。私、上見てたから…。

チョウ  ダメよ、あなた。いつもキョロキョロ上ばっかり見てちゃ。

トンボ  …そうね。でも、おなか減ってたし…。何か飛んでないかと思って…。

チョウ  そういうイヤシい態度は良くないわね。私たち絶滅危惧種は、どんなときでも気品ってものを大切にしなくちゃいけないのよ。おわかり?

トンボ  …そうね。

チョウ  そうよ。もっとなんていうの、私のように綺麗な花を見たりして、心を豊かにしないと。

トンボ  でも、シルビアが花の中をのぞくのは、ミツを吸いたいからでしょ。

チョウ  まぁ、それはそうだけど…。…それはいいのよ。チョウなんだから。

トンボ  アラ、だったら、私だってトンボなんだからさぁ…。

チョウ  じゃあ、まぁ、いいけど…。(間)とにかくタガメのやつはキモイって話よ。(タガメのマネをしつつ)こんな格好しちゃってさ。(ブルッと震えて)ア〜、ヤダヤダ。思い出しただけでもゾッとするわ。あれは完全に私を狙ってた目よ。いくら私がカワイイからって、身のほど知らずもいいとこよ。誰があんなヤツと付き合うもんですか!

トンボ  …ていうか、狙ってたのは狙ってたのかも知れないけど…。…それって、マジ狙ってたんじゃないの?

チョウ  そうよ、マジに狙ってたのよ。

トンボ  だから、付き合うとか付き合わないとかじゃなくて、エサ的に。

チョウ  エサ?

トンボ  うん。あいつ、動くものは全部自分の食べ物だと思ってるからさぁ。…まぁ、水に落ちなきゃ大丈夫だけどね。

チョウ  エ〜ッ! じゃあ私を食べようとしてたってこと! この私を! ふざけないでよ! 私は絶滅危惧一類のシルビアシジミなのよ! そんな私を食べようとするなんて、非常識にもほどがあるわ!

トンボ  それはそうだけど…。タガメだって絶滅危惧種ではあるわけだし…。

チョウ  アラ、ベニ子、タガメの味方? トンボのくせにタガメの味方をするの?

トンボ  別にそういうわけじゃないけどさぁ…。ここにはいろんな虫が集まるからさぁ…。

チョウ  そのことについても私、一言あるのよ。こういうビオトープを作って貴重な虫を保護しようっていう考え方には大賛成なんだけど、タガメだとかナントカゴミムシだとか、ああいう下品なヤツらはいらないと思うのね。

トンボ  アア、それはそう思う。なんかさぁ、ここって昆虫密度が高くってかえって不自然だよね。

チョウ  でしょ〜。私、ベニ子のような美しい昆虫以外とは一緒にいたくないわ。

トンボ  アラ、美しいだなんて、そんなホントのことをズバッと言わないで…。

チョウ  美しいものは美しいのよ。ベニ子、あなたは美しいわ!

トンボ  ありがとうシルビア! あなたは本当の友達よ!

手を握り合うチョウとトンボ。

上手より三つ編みで黒い服、リュックを背負ったカミキリ登場。

三つ編み部分には、綺麗なガラス玉が付いている。

カミキリ、チョウとトンボを見つけて駆け寄り。

カミキリ スミマセン!

チョウ  アラ。なにかご用?

カミキリ ここ、ビオトープですか?

トンボ  そうだけど。

カミキリ アーよかったぁ〜。(リュックをおろし、ホッとした感じで)私、三日三晩飛び続けてやっとここまで来たんです。ホント、死ぬかと思った。

チョウ  三日三晩?

カミキリ ええ、そうなんです。住んでた草原がこの前の台風で水浸しになっちゃって、それで、もう行くとこなくて…。

トンボ  それでここに逃げてきたわけ。

カミキリ はい。

チョウ  フーン…。

チョウ、カミキリに近づき、ジロジロとカミキリを観察。

ふと三つ編みに付いているガラス玉に気づき。

チョウ  アラ。結構いいもの付けてらっしゃるのね。

カミキリ アッ、これですか。ええ、まぁ…。

チョウ  …ところであなた誰?

カミキリ アッ、私、フサヒゲルリカミキリって言います。

チョウ  フサヒゲ…ルリ…カミキリ。

トンボ  ちょっと待って。

トンボ、本を取りだし、パラパラとめくって。

トンボ  アッ、あったあった。

チョウ  (本をのぞきこみ)どこどこ。

トンボ  フサヒゲルリカミキリ…。アッ、すごい! 一類じゃない!

チョウ  ホントだ。(カミキリに)あなた、私と同じ絶滅危惧一類ね。

カミキリ はぁ、そうですか…。

チョウ  そうよ。一類よ。珍しいわ…。(ガラス玉をさわって)それにこの玉。触角にこれが付いてるからフサヒゲっていうわけね。…フーンなるほど…。(間)合格よ!

カミキリ 合格って?

チョウ  あなたは今日から、私たちの仲間ってこと。

カミキリ えっ、仲間。うれしい! 私、知り合いいなくてすごく心細かったんです。よかった、皆さんに出会えて。

チョウ  こちらこそ。…私は、あなたと同じ一類のシルビアシジミ。よろしくね。

カミキリ シルビア…シジミ…さん。

チョウ  シルビアでいいわ。

カミキリ アッ、ハイ。

トンボ  私は絶滅危惧二類のベニイトトンボ。二類だって絶滅寸前なんでヨロシクね。…アッ、ベニ子でいいよ、ベニ子で。

カミキリ ベニ子…さん。

チョウ  エ〜ッと、あなたはフサヒゲルリカミキリだから…。ルリ子。ルリ子でいいよね。

トンボ  うん、いい、いい。いいじゃない「ルリ子」って。(カミキリに)ルリ子。今日から私たち友達だから、ビオトープのことでわからないことがあったらなんでも聞いてね。

カミキリ ありがとうございます! (ホッとして)良かったぁ〜。私、ここに来るまで不安で不安で…。何しろヒナビタところにいたもんで、あんまり世の中のことわからなくて…。ビオトープっていうのも、ウワサでしか知らなかったんですけど、他に行くところがなくて、藁にもすがる思いで飛んできたんです。でも、こんなにいいところで、こんなにいい方たちがいただなんて…。ホント、夢のようです。

チョウ  そう。苦労したのね。でももう安心よ。ここはね、私たちのような貴重なムシのための、いわばムシのオアシスなの。ここにいれば台風だろうがなんだろうが、絶対大丈夫だから。

トンボ  シルビアの言う通りよ。ここではね、よけいな心配は一切しなくていいの。私たちはただひたすら美しくあればいいの。

カミキリ 美しく…ですか。

トンボ  そうよ。

カミキリ でも私、皆さんみたいに綺麗じゃないから…。

チョウ  何言ってるの。その玉があるじゃない。

トンボ  そうよそうよ。触角に宝石を付けてるムシ、私、初めて見たわ。

カミキリ 宝石だなんて、そんな大したもんじゃありません。ただの飾りですから…。

チョウ  アラ、ルリ子さんって、案外控えめね。

トンボ  ここでは、もっと自分のいいところをアピールしたほうがいいわよ。

カミキリ アピール…ですか?

トンボ  そうよ。

足音。

チョウ、下手を見て。

チョウ  アッ、人間よ!

カミキリ、花の後ろに隠れようとする。

チョウ  (笑って)何やってんのよ、ルリ子。

カミキリ (花の影から顔だけ出し)だって人間が…。

トンボ  (笑って)ルリ子。ここではね、人間は味方なのよ。

カミキリ 味方? 人間が?

チョウ  そうよ。だってこのビオトープを作って、私たちを守ってるの人間だもん。

トンボ  だからビオトープの中では人間は絶対私たちに危害を加えないのよ。

カミキリ そうなんですか…。

チョウ  だから、ホラ見て。あっちから来る人間を。網じゃなくてカメラを持ってるでしょ。

カミキリ ホントだ。

チョウ  あれはね、私たちのような貴重なムシを撮影に来てるの。

カミキリ サツエイ。

トンボ  そうよ。だからね、ここでの教訓その一、「人間が来たら、出て行くべし」。わかった、ルリ子。

カミキリ 出て行くんですか、人間の前に…。

チョウ  そう。そしてベストアングルで撮影してもらうの。

カミキリ 撮影してもらうと何かいいことがあるんですか?

チョウ  あるわよ。ビオトープがどんどん良くなるの。

カミキリ …ハァ…?

トンボ  人間って、貴重なムシの写真が撮れると、すっごく嬉しくなっちゃって、もっと保護しなくっちゃって思うらしいのね。だから、いい写真が撮れれば撮れるほど、ますますこのビオトープを良くしていこうと頑張っちゃうのよ。

カミキリ なるほど…。

チョウ  それにね、うまく撮ってもらえると、ネットとか雑誌に私たちの写真が載ったりもするのよ。どう、スゴいでしょ。

トンボ  この前、シルビアなんか『月刊ムシ』の表紙になったんだから。

チョウ  エヘヘヘヘ。まぁ、あれはね、とまってた花もよかったし、たまたまよ。

トンボ  そんなことないって。シルビアのポーズが絶妙だったから、それでよ。

チョウ  そういうベニ子だって、夕日をバックにしたいい写真、あったじゃない。

トンボ  でも、それは夕日に赤トンボっていう、おきまりのパターンにはまっただけだから…。オホホホホ。

チョウ  私たちって、どうしてこんなに人気者なのかしらねぇ、オホホホホ。

足音、近づく。

チョウ  見て。来たわよ。

チョウとトンボ、下手に向かっていろいろなポーズをとる。

それに合わせてシャッター音。

チョウ  (ポーズをつけつつカミキリに)さっ、ルリ子。あなたもよ!

トンボ  (ポーズをつけつつカミキリに)触角をアピールするといいわ!

カミキリ、三つ編みを手に持ち、ブラブラさせて。

カミキリ こうですか?

チョウ  もっと大胆に!

トンボ  やりすぎるくらいでちょうどいいの。写真ってそういうものよ!

カミキリ ハ、ハイ!

カミキリ、三つ編みをグルグル振り回す。

シャッター音、終わり、足音遠ざかる。

チョウとトンボ、ポーズをやめ。

チョウ  ハイ。一丁上がり。

トンボ  チョロいもんね。

カミキリだけは、人間が去ったことに気づかず、三つ編みをグルグル振り回し続けている。

チョウとトンボ、カミキリの様子を見て。

チョウ  初々(ウイウイ)しいわ。

トンボ  ホント。新人はこうでなくっちゃ。

チョウ  でもこのままだと遠からず倒れるわよ。

トンボ  それもそうね…。(カミキリに)ルリ子。ルリ子ってば。

カミキリ アッ。ハイ。

トンボ  教訓その二「シャッター音が終わったら、ポーズは不要」。いい?

カミキリ アッ。ハイ。

チョウ  (下手を指さし、カミキリに)よく見てご覧なさいよ。さっきの人間を。ものすごく嬉しそうでしょ。

カミキリ ええ。

トンボ  そりゃそうよ。私たち三匹をいっぺんに撮影できたんですもの。今夜は興奮して眠れないかも。

チョウ  あるある。で、眠れないもんだから、さっそくネットにアップすんのよ。自慢たらたらのコメント付きで。

トンボ  まっ、そんなとこね。で、そのサイト見たヤツが、つられてまたやってくる、と。

チョウ  バカみたいよね。

トンボ  うん、バカよバカ。見つかってあげてるだけなのに。

カミキリ …。

チョウ  わかったでしょ、ルリ子。私たちの美しさの前には、人間といえどもひれ伏すしかないってことが。

トンボ  私たちのはかない美しさっていうの、滅びの美学っていうの。こういうのに人間って弱いのよね。

チョウ  そうそう。私たち、ひょっとしたら近々、滅んじゃうかもしれないけど、だからこそ最期くらいは美しくありたいじゃない。わかる? そういう感覚。

カミキリ エ、エエ…。なんとなくは…。

再び、下手より足音。

トンボ  アッ、また来たわよ。

チョウ  待って! 子供よ。…しかも何、あの子、お菓子を食べながら歩いてるじゃない。

トンボ  ホントだ。非常識よね。ここをどこだと思ってるの! 親はどこ? 注意しなさいよ…。ヤダ、知らん顔してる。見て見ぬふりよ。…ったく、最近の親ときたら…。(カミキリに)いい、ルリ子。教訓その三「人間は私たちの味方だけど、ああいうガキだけは例外」。わかった? あんなのの前に出て行ったら、つかまって、触角や羽、台無しにされるのがオチだからね。

カミキリ ハ、ハイ。

チョウ  とにかく花のカゲに隠れましょ。

三匹、中央の花の後ろに隠れる。

近づく足音。

上から段ボールの丸い板、落ちてくる(上が無理ならソデから)。

カミキリ キャッ!

しゃがみ込むカミキリ。

足音遠ざかる。

トンボ  (花の前に出てきて)行ったわ…。

チョウ  あのクソガキ…。来んじゃねぇよ、バーカ。

トンボ  ホント、ビオトープをなんだと思ってるのかしらねぇ…。(後ろを振り返ってカミキリに)もう大丈夫よ、ルリ子。

カミキリ (花の前に出てきて)ア〜びっくりした…。(段ボールを見て)なんですかこれ?

チョウ  ポテトチップスよ。

カミキリ ポテト…チップス。

トンボ  そう。人間の食べ物。人間はいろいろ食べるから…。

今度はカサカサという音。

チョウ  シッ、静かに! また誰か来る!

トンボ  (上手を指さし)あっちよ!

カサカサという音近くなり、上手よりゴキブリ登場。

さっと舞台中央に走り出て、段ボールを小脇にかかえる。

チョウ  ゴ、ゴ…。

トンボ  ゴキブリ!

ゴキブリ (振り向いて)ヨウ。

チョウ  ヨ、ヨウじゃないわよ。

ゴキブリ へ? 用じゃなくって何?

ゴキブリ、チョウに近づこうとする。

チョウ  だからさぁ、用なんかないってば! …ちょっ、ちょっと、来ないでよ!

トンボ  ここをどこだと思ってるの!

ゴキブリ ここ? ビオトープだろ。

トンボ  なんでゴキブリのあなたがビオトープにいるのよ!

ゴキブリ アア、オレ、このビオトープの隣にある管理事務所に住んでんだ。だから…。

チョウ  だからじゃないわよ、うす汚い!

ゴキブリ オレ、人間が言うほど汚くないって。(自分の腕をクンクン嗅ぎつつ)そんなにクサくもないし。

カミキリに近づいて、腕をカミキリの顔の前に突き出し。

ゴキブリ なっ、クサくないだろ?

カミキリ エエ。そんなには。

チョウ  ちょっとぉ〜。ダメよ。そんなヤツに近づいちゃ。

トンボ  そうよそうよ。そいつはゴキブリよ!

カミキリ ゴキブリって…。

チョウ  エーッ! ゴキブリを知らないの? ゴキブリって言うのはね、害虫の中の害虫、昆虫類イチの嫌われ者よ。

トンボ  しかも、ものすごく数が多くて、殺しても殺しても増え続けるゾンビみたいにしつこいヤツらなの。つまり、美しくか弱い私たちとは正反対の、醜く図太く、その上、下品な昆虫なの。だから人間からも徹底的に目のカタキにされてんのよ!

チョウ  つまり、私たちとは住む世界が違うムシだってことよ。(ゴキブリを睨んで)さぁ、出てって! そして二度とこのビオトープに立ち入らないで!

ゴキブリ なんだよなんだよ。のっけからメチャメチャ言うなよ。人間に嫌われてるのは確かだけど…。オレたち同じムシじゃん。仲良くしようぜ。

チョウ  絶対お断り!

トンボ  死んでもイヤよ!

ゴキブリ (カミキリに近づき)ネェネェ。こいつらってさぁ、いつもこんな風にピリピリしてんの? それとも今日はなんか「ムシのいどころが悪い」とか。ウヘヘヘヘ。今のわかった? 「ムシのいどころ」っての。どう? おもしろかった?

カミキリ (小声で)エエ、ちょっとだけ。

チョウ  ダメよ、ルリ子。話に乗っちゃ。

ゴキブリ アッ、何。この子、ルリ子って言うんだ。(カミキリに)オレ、ゴキブリ。ゴキでいいよ。ゴキで。ヨロシク。

ゴキブリ、カミキリに手を出す。

トンボ  握手なんかしちゃダメ。死ぬわよ!

ゴキブリ そんな大げさな…。(カミキリをしげしげと見て)それにしても、ルリ子ってさぁ、なんか似てない? オレと。色とか、格好とか。

チョウ  なんてこと言うの、ルリ子に向かって!

トンボ  そんなわけないでしょ! 今度、そんなこと言ったら承知しないわよ!

チョウ  そうよそうよ。ルリ子に謝んなさいよ!

ゴキブリ でも、似てるぜ…。(カミキリに)似てるよな。

チョウ  (カミキリに)無視よ。無視!

ゴキブリ …ムシだけに無視か。あんまりおもしろくないなそれは…。

チョウ  ふざけないで! いい加減にしないと、ヒトを呼ぶわよ!

トンボ  そうよそうよ。私たちがここで飛び回ったら、すぐに人間がやって来るんだからね!

ゴキブリ オーこわ。そんなに言うなら、姿、消すけどさぁ、(段ボールを指さし)コレはもらってくぜ。

チョウ  どうぞ、どうぞ。

トンボ  そんなゴミ、いるもんですか。

チョウ  ホント、ゴミよゴミ。よくそんなもの食べてるわね。

トンボ  いやしいったらありゃしないわ。

ゴキブリ だってウマイんだもん。ポテトチップス。

トンボ  あり得ない。

チョウ  それに、いくらオイシイからってなりふりかまわず飛びつくなんて下品よ。

ゴキブリ でもさぁ、(チョウに)お前だって、ミツ一杯のうまそうな花見つけたら、すっ飛んでくだろ?

チョウ  アラ、私はエチケットを守って、上品にミツを吸ってますわよ。それに花粉を運んだりして、花の役にも立ってるの。一緒にしないで。オホホホホ。

ゴキブリ (トンボに)お前は、肉食だから、わかるよな。そういうキレイごとじゃすまないってこと。

トンボ  私は、蚊とかハエとか、あなたの仲間であるところの害虫を駆除してるだけよ。悪いけど私は益虫なの、ご免あそばせオホホホホ。

チョウ  よく言ったわ、ベニ子。あなたは、美しく、そして正しいわ!

ゴキブリ (カミキリに)じゃあ、お前は? ルリ子は何食べてんの?

カミキリ 私は…。私、ユウスゲとか、そういう草をかじったりして…。

ゴキブリ アア、じゃあさぁ、どっちかって言うと害虫じゃんか。バリバリ食ってるだけだろ、葉っぱを。

カミキリ うん、まぁ。

ゴキブリ (チョウに)ホラ見ろ。ルリ子は…。

チョウ  違うわ! ルリ子は絶滅危惧種だから、少しくらい葉っぱをかじったってそういうことは大目に見てもらえるのよ。ネ〜、ルリ子。

カミキリ よくわかんないけど…。

ゴキブリ まっ、どーでもいいよ。上品だとか下品だとか、いろいろ理屈こねないでさ、お互い食いたいもん食えばいいじゃんか。とにかく、オレはこのポテトチップスを頂いていくからよ。

チョウ  あげるから、消えて!

トンボ  シッシッ。

ゴキブリ じゃ、そういうことで。また来るわ。

チョウ  来なくていい!

ゴキブリ またまたぁ。ホントは会いたいくせに。

チョウ  バーカ!

ゴキブリ (笑顔で)ゴキブリだけにゴキ・ゲンヨー!

ゴキブリ、下手へ。

ふと立ち止まり、振り返ってカミキリに。

ゴキブリ アッ、そうだ。ユウスゲだったらさぁ、池の東のはずれに何本か咲いてたぜ。あとで行ってみなよ。じゃあな。ゴキィー。

ゴキブリ、下手へ去る。

カサカサという音、遠くへ消えていく。

チョウ  ア〜ヤダヤダ。気分悪。

トンボ  せっかくルリ子と会えて、今日はいい日だって思ってたのに、台無しだわ。

チョウ  ルリ子、気にしなくていいからね。ゴキブリの言うことなんか。

トンボ  そうよそうよ。あんなヤツ、そのうち人間が駆除してくれるわ。

カミキリ クジョ?

トンボ  エエ。駆除よ駆除。人工的に絶滅させるの。アア、早くその日が来ないかしら。

チョウ  大丈夫。人間は、ゴキブリ退治の方法を日夜考えてるから、あいつが死ぬのもそう遠くないはずよ。

カミキリ そんなに悪いムシには見えないけど…。

チョウ  何言ってるのルリ子。

トンボ  ルリ子、ゴキブリに興味あるわけ?

カミキリ そういうんじゃないけど、気さくっていうか、親切そうだし…。

チョウ  絶対ダメよ、あんなヤツと付き合っちゃ。

トンボ  そうよ。あんなのと一緒にいたら、不幸になるだけ。

チョウ  ゴミ箱あさったり、泥水飲んだり、底辺の生活することになるのよ。

カミキリ う、うん。別に付き合おうとは思わないけど…。

チョウ  とにかくゴキブリと一緒にいたら、絶対写真なんか撮ってもらえないからね。

トンボ  教訓その四「美しいものは美しいもの同士で」よ。いい?

カミキリ わかった…。

チョウ  でも、なんなのかしらね。あの癇にさわるバカっぽさは。

トンボ  バカだから三億年も前からいて、今でも繁栄し続けてるのよ。きっと世の中ってのは、あれくらい図々しくないと、生きていけないんだわ…。

チョウ  そうね。そういうことよね。でも、醜く長生きって、どう。

トンボ  最悪! 頭は小さいくせに態度ばっかデカくてさ…。

チョウ  その上、無神経。

カミキリ (ポツリと)ムシだけにムシンケイ…。

チョウ  (パッとカミキリのほうを向いて)ダメよルリ子!

トンボ  しっかりして! それとなくゴキブリの影響受けちゃってるじゃない!

チョウ  私たちは絶滅危惧種だってことを忘れないで!

トンボ  はかない美しさをアピールして人間に気に入られることこそが、私たちの使命なんだからね!

カミキリ ゴメン。

チョウ  それにしてもムシャクシャするわ。何かスカッとすることないかしら…。

トンボ  アー。シルビアったら忘れてるぅ〜。

チョウ  何かあったっけ?

トンボ  今夜よ、今夜。

チョウ  アッ、アレか。

トンボ  そうよ。アレよ。

カミキリ アレって?

トンボ  実はね、今夜「夜のビオトープにはいろんなムシがいるんじゃない会」っていうイベントがあるのよ。

カミキリ なんですか、それ?

トンボ  夏休みだからってんで、希望者を募って、夜行性の昆虫の生態を観察しようって会なんだって。要するに撮影会よ、撮影会。

チョウ  それに私たちも参加しようと思って。

カミキリ アッ、でも私、夜行性じゃないから…。あの…シルビアさんたちは夜行性なんですか?

チョウ  まさか。ガじゃあるまいし。…でもだからいいんじゃない。

トンボ  そうよそうよ。そのほうがインパクトがあるでしょ。サプライズよサプライズ。

チョウ  夜には見つからないはずの私たちが、さっそうと現れたときの人間たちの驚いた顔を想像してみて。チョー楽しくない?

トンボ  人だかり間違いなし。人気独占間違いなし。「月刊ムシ」の表紙間違いなしよ。ネッ、行きましょ!

カミキリ …でもやっぱり…。

チョウ  ダメよルリ子。勇気を出さなきゃ。

トンボ  怖いことなんかあるもんですか。このビオトープは私たちのためにあるのよ。いざとなったら人間が守ってくれるんだし。

カミキリ …うん。

チョウ  じゃあ決まりね。

トンボ  楽しみぃ〜。

暗転。

暗いまま、フクロウの鳴き声、犬の遠吠えなど、夜の雰囲気。

マイクで声。

声    皆様、大変ながらくお待たせ致しました。ただ今より、ビオトープ、この夏一番のナイトイベント、「夜のビオトープにはいろんなムシがいるんじゃない会」を開催致します。なお、写真撮影に当たりましては、お足元にくれぐれも注意の上、保護区域への立ち入りはご遠慮願います。また、踊り子さん…失礼…昆虫その他ビオトープ内の動植物には決してお手を触れないようにお願い致します。(調子が変わって)オーケー! レッツ・ダンシーング!

突然ダンスの音楽。カクテル光線。

声    エントリーナンバーワン。シルビアー。

チョウ、下手より登場。踊りつつ。

チョウ  ハーイ。私、シルビア。絶滅危惧一類のシジミチョウ。みんなノッてるぅ〜!

チョウ、激しく踊り続ける。シャッター音。フラッシュ明滅。

しばらく踊り続けて。

チョウ  サンキュー。みんな大好きぃ〜!

チョウ、上手へ去る。

声    エントリーナンバーツー。ベニベニ、ベニ子ぉ〜。

トンボ、上手より登場。踊りつつ。

トンボ  イェーイ。私、ベニイトトンボのベニ子。今夜はスペシャル。オールナイトで踊りまくるよ!

トンボ、激しく踊り続ける。シャッター音。フラッシュ明滅。

しばらく踊り続けて。

トンボ  バイバーイ。拍手〜!

トンボ、下手へ去る。

声    続いてはエントリーナンバースリー。これは珍しい。フサヒゲルリカミキリのルリ子ぉ〜。

カミキリ出てこない。

声    お〜っとどうした。まさか絶滅かぁ〜? ナンバースリー、ルリ子、カモーン!

カミキリ、下手よりトンボに押し出される。

音と光にとまどいつつ。

カミキリ あ、あの、えっと…。

カミキリ、三つ編みをブラブラさせるがノリが悪い。

ざわめきとブーイング。

両ソデよりチョウとトンボ出てきて。

チョウ  何やってんのよルリ子。

トンボ  もっとアピールしなきゃ、みんな行っちゃうよ。

カミキリ …こういうの私…。

チョウ  ノレばいいのよ。ノレば。

カミキリ でも…。

トンボ  いいからいいから。私たちに合わせて。

チョウとトンボ、カミキリをはさんで踊り始める。

それでもぎこちないカミキリ。

突然、音楽止まる。

ドシン、ドシンという音。ゲコゲコという鳴き声。

赤い光が明滅、避難を知らせる警報音。

トンボ  警報よ。

チョウ  何か来る!

チョウ、振り向き。

チョウ  ゲッ! ヒキガエル!

トンボ  ヤバ!

チョウ、トンボ、ソデに走り去る。

カミキリは逃げ遅れ、立ちつくしたまま。

カミキリ エッ、何。ヒキガエルって…。

カミキリ、振り返る。

カミキリ キャ〜!

バクッという音。カミキリしゃがみ込む。

カミキリ ヤダ。誰か助けてぇ〜!

ブチッという音。

髪を振り乱すカミキリ。

カミキリ イタッ!

ゴキブリ、下手より走ってきて。

ゴキブリ こっち!

カミキリ ハイ。

カミキリ、ゴキブリに手を引かれて上手へ逃げる。

赤い光の明滅・警報音止まる。

上手より、ゴキブリ顔を出し。

ゴキブリ 行ったみたいだな…。

ゴキブリ、カミキリ、舞台中央へ。

ゴキブリ 大丈夫か?

カミキリ うん…。(頭に手をやり)アッ!

ゴキブリ どうした?

カミキリ 触角が…。

ゴキブリ (三つ編みがほどけたカミキリの髪を見て)ホントだ。ヒキガエルの野郎、頭から丸飲みにするつもりだったんだな…。

カミキリ どうしよう…。

ゴキブリ でもまぁ、よかったじゃん、触角だけですんで。触角がとれてなきゃ、今頃、ヒキガエルの腹の中だぜ。

カミキリ うん…。

ゴキブリ それよりさぁ、なんでこんなとこにいるんだよ。夜行性?

カミキリ (首を横に振って)ううん。撮影会があるからって…。

ゴキブリ はぁ、撮影会ねぇ…。あんまり無理すんなよ。夜は危険度アップするし、特にこういう水辺はヤバイんだぜ。

カミキリ うん…。

ゴキブリ 元気出せよ。助かったんだから。

カミキリ でも…。

髪型を気にするカミキリ。

ゴキブリ アア、触角。平気平気。そんなの全然平気だって。

カミキリ でも、なんか頭がスカスカするし…。(間)…変じゃない?

下手よりチョウとトンボの声。

チョウ声 ルリ子ぉ〜。

トンボ声 どこぉ〜。

ゴキブリ おっと、お友達だぜ。じゃあな。ゴキ・ゲンヨー。

ゴキブリ、上手に走り去る。

カミキリ アッ、ゴキ…。

暗転。

小河のせせらぎ、小鳥のさえずりなどが聞こえてくる、のどかな風景。

中央には大きな花。

その前で、チョウが手鏡で化粧をしている。

トンボ、下手より登場。

トンボ  オハヨ。シルビア。

チョウ  あっ、ベニ子。オハヨ。

トンボ、チョウと並んで化粧を始める。

チョウ  (化粧しつつ)昨日は驚いたよね。

トンボ  (化粧しつつ)あんなとこから、ヒキガエルが出てくるなんてね〜。

チョウ  ああ、それもそうなんだけどさぁ、その後よ。

トンボ  その後? ああ、ルリ子のこと?

チョウ  うん。…気づいた?

トンボ  触角でしょ。もちろん気づいたわよ。

チョウ  両方なくなってたよね。バッサリ。…かわいそうだから気づかないふりしてたけど。

トンボ  私も。

チョウ  …でもさぁ、いくらなんでもヒキガエルに触角ちぎられるなんて、不注意っていえば不注意じゃない?

トンボ  うん。いくらなんでもねぇ…。

チョウ  撮影会でちょっと舞い上がってたっていうかさぁ、あの子自身にもスキがあったんだと思うわけよ。

トンボ  それにさぁ、こういうこと言うのどうかとも思うんだけど、軽やかじゃないっていうの。私たちみたいにパッと飛べないっていうの。そういうとこあるじゃない。あの子。

チョウ  そうそう。ハッキリ言って飛ぶのに向いてないんだよね。

トンボ  だからさぁ、私思ったんだけど、昨日ゴキブリがあの子に「オレと似てない?」とか言ったじゃない。あれ聞いたとき、「そんなわけないでしょ」とか言って、あの子のことかばったけど、ちょっとそうかなって気もしたのね。ホントは。

チョウ  その後さぁ、「カミキリも害虫じゃん」みたいなこと言ってたけど、あれも当たってるっていえば当たってると思わない?

トンボ  思う。

チョウ  結局カミキリっていうのはさぁ…。

カミキリ、上手より登場。

トンボ、チョウに目くばせ。

チョウ、気づいて黙る。

カミキリ …おはよう。

チョウ  (聞こえないふりで、トンボに)アッ、ねぇ、ベニ子ぉ〜。今日はどこ行く?

トンボ  そうねぇ、西の池がいいんじゃない。あそこ最近、撮影スポットになってるから。

チョウ  そうだね。じゃ、行こうか。

トンボ  うん。

チョウとトンボ、下手に去ろうとする。

カミキリ あの!

チョウ  (振り返って)アラ、ルリ子さんじゃない。どうかした?

カミキリ 私…。

トンボ  何かご用?

カミキリ 私も…。

チョウ  ひょっとして、あなたも一緒に行きたいの?

カミキリ …できれば。

トンボ  エーッ。それは無理よ。ねー、シルビア。

チョウ  うん。無理。悪いけど。

カミキリ …どうしてですか…。

チョウ  どうしてって、あなた、そんな頭で人前に出られるわけないでしょ。

トンボ  そうよ。非常識よ。あなたは触角がキレイだったから仲間に入れてあげたのよ。それなのに触角無くなっちゃったわけでしょ。触角のないあなたと一緒にいたら、こっちまで笑われちゃうじゃない。

チョウ  ハッキリ言うけど、もうあなたとつるむ気はないの。ゴメンネ。さっ、ベニ子。行きましょ。

チョウとトンボ、下手へ消える。

カミキリ …そんなぁ。

暗転。

せせらぎの音。

暗い中。声だけで。

チョウ声 ねぇ、ベニ子。最近、あのカミキリ見かけなくなったわね。

トンボ声 昨日、ビオトープから出て行くの見たっていう子がいたけど…。

チョウ声 あっそう。出て行ったの。

トンボ声 らしいよ。居づらくなったんじゃない。

チョウ声 どこへ行ったのかしら?

トンボ声 なんか管理事務所のほうに行ったとか言ってたけど…。

チョウ声 管理事務所? 何、あの子、ゴキブリの仲間になる気?

トンボ声 かもね。

チョウ声 変なの。まっ、別にどーでもいいか。

トンボ声 どーでもいいよ。

せせらぎの音、消える。

////////////////////

管理事務所。

暗い中、下手よりカミキリ。スポットで。

カミキリ 暗くてわかんないよ…。…イタッ!

カミキリ、つまづく。

カミキリ ヤダ、もう…。

上手、ゴキブリ浮かび上がる。

ゴキブリ よう。ルリ子じゃんか。

カミキリ あっ、ゴキさん!

カミキリ、ゴキブリに駆け寄ろうとする。

ゴキブリ ストップ! 足下に気をつけな。

カミキリ あっ、ハイ。

ゴキブリ どうしたんだよ。…まさか管理事務所で撮影会ってこともないだろ。

カミキリ …あの、実は…。あっ、そうだ。この前、助けてもらったのにお礼も言わなくて、それで…。

ゴキブリ ああ、あれ。いいよ別に。大したことじゃない…。

カミキリ あっ、でも私にとっては大したことで…。

カミキリ、声を詰まらせる。

ゴキブリ オイオイ、どうしたんだよ。

カミキリ 私、ビオトープを出てきたんです…。

ゴキブリ 出てきた? 怖くなったわけ。ヒキガエルが。

カミキリ 違います。ヒキガエルが怖いんじゃありません。私…。

ゴキブリ 泣くなってば…。

カミキリ 私、嫌われてるから…それで…。

ゴキブリ 嫌われてる? 何かしでかしたのかよ。

カミキリ (首を横に振って)私は何もしてません! それなのにチョウもトンボも、みんな私をのけ者にするんです!

ゴキブリ それはヒドイな。

カミキリ そうなんです。ヒドイんです。触角が無いからって笑いものにして! 夜の撮影会に無理矢理連れて行ったのはあいつらなのに! それなのに私がこんな姿になったら急によそよそしくなって…あんなの友達でもなんでもない! そうでしょ!

ゴキブリ まぁ、それはそうだ…。

カミキリ だから私、出てきてやったんです。もうあんなところ二度と戻ってやるもんですか!

ゴキブリ でもさぁ、ルリ子はビオトープみたいなところでしか生きられないんじゃないの? ここにはユウスゲも無いし、綺麗な水もないわけだから…。

カミキリ でもイヤ。絶対にイヤ! 私、もうあそこには帰りたくないの。…だからここでゴキさんと…。…ダメですか? 私、なんでもしますから。お願いします!

ゴキブリ (間)…ゴメン。悪いんだけどそれは無理かな…。

カミキリ (間)…そっか。…そうですよね。シルビアたちの仲間だったわけだし…。今さらここに来たいだなんて、ホント、ムシが良すぎますよね…。ゴメンナサイ。今のは忘れて下さい。…さようなら。

カミキリ、下手へ去ろうとする。

ゴキブリ オイ、待てよ。違うんだよ。なんつーのかなぁ。あんまり言いたくないんだけど、事情があってさぁ…。

カミキリ 事情?

ゴキブリ アア。助けてやりたいのはやまやまなんだけど、助けてあげられないんだよね。今のオレ。

カミキリ どういうことですか?

ゴキブリ 実はさぁ…。

パッと明るくなる。

上手から家の形をした箱が突き出ている。客席側は柱だけの素通し(ゴキブリホイホイを、中が見えるように半分に切ったようなもの)。

ゴキブリ、その中に立っている。

カミキリ なんですか、それ?

ゴキブリ ホイホイ。

カミキリ ホイホイって…?

ゴキブリ んーなんて言うのかなぁ〜。足下にネバネバのついてる家っていうの、そんな感じなんだけど…。

カミキリ どうしてネバネバの家に住んでるんですか?

ゴキブリ 住んでるんじゃないんだよな…。出たくても出られないんだわ。ネバネバして。

カミキリ どうしてそんなものが…。

ゴキブリ オレたちゴキブリは、人間に嫌われてるからね。…仲間も随分やられたよ。…で、今夜、とうとうオレもしくじったってワケさ。

カミキリ どうなるんですか?

ゴキブリ どうって、朝になったら人間が来て、「アア、一匹入ってるな」ってことで、ゴミ箱にポイさ。

カミキリ ヒドイ…。

ゴキブリ まぁ、ゴキブリだからね。そういう最期、お似合いっていえばお似合いなんだけど…。それにしてもミスったよなぁ〜。

カミキリ 逃げられないの?

ゴキブリ アア、絶対無理。ホイホイにつかまって助かったヤツは一匹もいないよ。それにヘタに逃げようとしてもがくと、かえって他の足にもネバネバがくっついて…。そりゃ悲惨なんだぜ。ダチが引っかかったときも、見てらんなかったよ…。だから賢いオレは、せめて安らかに死のうと思ってこの体勢でじっとしてるってワケ。わかった?

カミキリ そんなぁ…。

ゴキブリ でもちょうどよかったよ。話し相手ができて。…ヒマっていえばヒマだから、悩みごとの相談にならのるぜ。言ってみなよ。聞くからさぁ。

カミキリ そんなこと言われても…相談なんかできないよ。今の状況、どう考えたってゴキさんのほうが深刻じゃない。

ゴキブリ そりゃまぁそうだけど、オレのほうはどうしようもないからさぁ…。

カミキリ 諦めちゃダメだよ!

ゴキブリ そうは言ってもなぁ…。

カミキリ 私、ゴキさんに死んでほしくない!

ゴキブリ 泣かせるねぇ〜。大概のヤツは「お前なんかさっさと死んじまえ」ってスタンスなんだけどな。ヘヘヘ。

カミキリ 何バカなこと言ってるのよ。

ゴキブリ だって、事実だからさぁ…。…オレが死んでも誰も泣かないよ。

カミキリ 自分のこと、そんな風に言っておもしろい?

ゴキブリ おもしろくはないけど…。

カミキリ とにかく、なんとかしなきゃ!

ゴキブリ ダメダメ。もう夜が明ける…。そしたら人間がやって来てオレはポイさ…。…いいんだいいんだ。いまさら悪あがきしてもしょうがないよ。まな板の上の鯉とホイホイの中のゴキブリはジタバタしないんだって…。せめて最期くらいは美しくさぁ…。

カミキリ …美しく? 美しくですって! ふざけないでよ!

ゴキブリ …いや、別にふざけては…。

カミキリ 弱虫!

ゴキブリ 弱虫?

カミキリ そうよ、弱虫よ! 何諦めちゃってるわけ。あなたゴキブリでしょ! どんな過酷な環境でも生き抜いて、しぶとくしぶとくやってきたから絶滅しないで三億年もやってこれたんじゃないの? それが何よ。たかがホイホイくらいですっかり悟ったような顔しちゃってさ。「最期くらいは美しく」ですって? 笑わせないでよ。あなたいつから絶滅危惧種になったの! そんなの全然ゴキらしくない! そんなゴキ、私、見たくないからね!

ゴキブリ ゴメン。…悪かったよ、怒んなよ。…でもさぁ、実際問題、気合いだけでどうなるもんでもないからさぁ…。(間)つーか、なんでオレ、ルリ子に説教されてんだ? お前、オレに相談しにきたんじゃ…。

カミキリ 今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょ。どーでもいいわよ、触角の一本や二本。とにかく私は、あなたを助ける。なぜだかわからないけど、今、無性にあなたを助けたいの! ただそれだけ!

ゴキブリ そりゃぁオレだって、助かるもんなら助かりたいけど…。どうやっていいか…。

カミキリ まず、落ち着いて状況を把握しましょ。こういうときは焦っちゃダメ。

カミキリ、ゴキブリに近づく。

ゴキブリ ストップ! 近づきすぎだよ。ルリ子までやられるぜ。

カミキリ わかってる…。(ゴキブリの足下を見て)なるほど…。かなりしっかりくっついてるな…。

カミキリ、ゴキブリの足をひっぱる。

カミキリ トリァ〜! ドリァ〜! オリァ〜!

ゴキブリ ダメだろ?

カミキリ うん…。すごい粘着力…。

ゴキブリ やっぱ無理なんだってば。

カミキリ でも何か方法があるはずよ。

ゴキブリ ダメダメ。とれないよ。…くっついたところを切り離さない限りは…。

カミキリ 切り離す…。

ゴキブリ アア。

カミキリ 待って! それなら私、できるかも!

ゴキブリ なんで?

カミキリ だって、私、カミキリだもん。

ゴキブリ アア、なるほど。

カミキリ ゴキの足の下のほうだけ、私の口で切ればいいんでしょ。やらせて。切るのは得意なんだから!

ゴキブリ う〜ん。…でもやっぱりヤバイよ。もし顔近づけて、床にくっついたら、ルリ子まで逃げられなくなるんだぜ。

カミキリ でもやりたい。お願い。私にやらせて!

ゴキブリ …けどよぉ〜。お前、絶滅危惧種だろ。そういう貴重なムシがホイホイで死んだとあっちゃ、…それこそ笑いものだぜ。

カミキリ 関係ないよ、そんなこと。

カミキリ、ゴキブリの足下に顔を近づける。

ゴキブリ マジかよ…。いいんだぜ、オレならどうなったって…。

カミキリ、立ち上がって。

カミキリ 今度そういうこと言ったら、ぶつよ!

ゴキブリ アッ、ハイ…。わかりました。

カミキリ よろしい。

カミキリ、ゴキブリの足下に顔を近づける。

ゴキブリ …オイ、気をつけろよ。ネバネバに触れたら終わりだぞ…。

カミキリ わかってる!

ゴキブリ アッ、ヤベェよ。近づきすぎだ。

カミキリ 大丈夫。

ゴキブリ そんなに足下で切らなくていいって…。

カミキリ 静かにしてて。

ゴキブリ アッ、ハイ…。

カミキリ …よし、ここを…。

ゴキブリ いけそうか…?

カミキリ うん、たぶん。…切るよ。

ゴキブリ オウ。

シャキンという音。

ゴキブリ イテテテテ。

カミキリ 大丈夫?

ゴキブリ アア。

カミキリ どう?

ゴキブリ (靴の脱げた右足をブラブラさせて)ヨッシャー!

カミキリ アッ、まだダメ。まだあと一本くっついてる。

ゴキブリ オウ。

カミキリ ゆっくりとこの足をホイホイの外に出して。

ゴキブリ わかった。

ゴキブリ、右足を大きく前に出し、ホイホイの外に。

カミキリ あと一本切るよ。すぐだからね…。

ゴキブリ アア…。できれば早くしてくれ。この体勢キツイ…。

カミキリ うん。…でもちょっと奥だな…。

ゴキブリ 無理すんなよ。

カミキリ 無理するよ。ここまできたら。…今日は無理したいんだ…。

ゴキブリ 変わってんな、お前。

カミキリ 違うよ。変わりたいんだよ。

ゴキブリ 意味わかんねぇ…。

間。

カミキリ よし、ここだ…。ゴキ、切るよ。

ゴキブリ オウ。

カミキリ 切ったら、すぐにゴキの背中を突き飛ばすからね。

ゴキブリ 突き飛ばす?

カミキリ うん。じゃないと、この体勢じゃ、ゴキひっくりかえっちゃうもん。出てる足でふんばって、思いっきり外に出るんだよ。いい? わかった?

ゴキブリ お前はどうすんだよ。

カミキリ 私は、ゴキを突き飛ばしたら、その反動利用して反対の出口まで飛ぶ。

ゴキブリ バカ、無茶言うな! そんなことできるわけないだろ。ホイホイの中をくぐり抜けるなんて。床のネバネバにちょっとでも体が触れたらそれで終わりなんだぞ。

カミキリ できるよ。

ゴキブリ できるもんか。

カミキリ ううん。できる。触角のない私ならできる。

ゴキブリ やめろ。無理だって。

カミキリ (ゴキブリの言葉には答えず)行くよ。三…二…。

ゴキブリ マジかよ! 知らねぇぞ!

カミキリ 一!

シャキーンという音。

一瞬暗くなり、ゴキブリにスポット。

ゴキブリ、前につんのめるように飛び出し転ぶ。

ガラガラという音。

ゴキブリが振り返ると、ホイホイの天井が崩れ落ちる。

ゴキブリ ルリ子! ルリ子!

ホイホイを持ち上げようとするゴキブリ。しかし、ホイホイは動かない。ゴキブリ、ガックリとして。

ゴキブリ クソッ! …バカ野郎。だからよせって言ったのに…。

舞台、明るくなっていく。

下手よりカミキリ。

カミキリ どうしたのゴキ?

ゴキブリ …ルリ子、お前無事だったのかよ…。

カミキリ 当たり前よ。そう簡単に死んでたまるもんですか。

ゴキブリ けど、ホイホイがつぶれたから、オレてっきり…。

カミキリ (ホイホイを見て)アア、これ。なんか結構ヤワイつくりなんだね、これって。あっちの出口から飛び出すときに、天井に羽が当たったんだけど、そしたらガラガラって。人間の作るものも大したことないね。ヘヘヘ。

ゴキブリ すげぇーな。お前。

カミキリ すげぇーだろ。

ゴキブリ …あのさぁ。へへへ。

カミキリ 何?

ゴキブリ オレ、ちょっと思ったんだけど、オレのためにここまでしてくれるってことは、…ひょっとして、お前、オレにホレてるとか?

カミキリ ううん。それは違うけど。

ゴキブリ アッ、そ。やっぱり…。…でも、ホント、アリガトな。オレなんかのために…。

カミキリ ゴキのためにやったんじゃないよ。

ゴキブリ そうなの?

カミキリ たぶん、私は私のためにやったんだと思う。

ゴキブリ 自分のため?

カミキリ うん。私、ここに来るまで、ホント死にたいくらい落ち込んでて、つらくて、苦しくて、それで、誰かに助けてもらいたかったんだと思う…。傷ついた自分のことなぐさめてもらったり、シルビアやベニ子の悪口聞いてもらったり、ドロドロした気持ち吐き出したりしたかったんだと思う。…でもね、そういうことしても、たぶんこのよどんだ気持ちは晴れなかったと思うんだ…。(間)けど、今、すごくスッキリしてるの。シルビアやベニ子のことイヤだったけど、それも消えちゃったの。かかってた雲がとれて心のお月様が顔を出したみたいな…そういう気持ち。自分でも不思議なくらいスッキリした気分なんだ。なんて言うんだろ。ゴキを助けたことで、自分も助けられたって言うか…。

ゴキブリ アア、もちつもたれつってことね。

カミキリ ううん、それも違うけど。

ゴキブリ アッ、そ。

カミキリ とにかくアリガト。

ゴキブリ いや、オレのほうこそ。…で、どうすんのこれから?

カミキリ どうするって、戻るよ、ビオトープに。だって、ユウスゲがチョー食べ頃なんだもん。

ゴキブリ アッ、そ。

舞台、すっかり明るくなる。

カミキリ じゃ、行くね。

ゴキブリ オウ。

カミキリ (下手へ去りつつ、振り返って)あっ、そうだ。今度またホイホイにつかまったらいつでも呼びに来てね。じゃ、バイバイ。ゴキ・ゲンヨー!

カミキリ、下手へ消える。

一人、残ったゴキブリ。

ゴキブリ オイ、待てよ。オイッてば! …ホイホイにつかまった時点で、呼びには行けねぇってぇーの。…ったく。なんだかわかんねぇけど、急に元気になりやがって…。変なヤツ。(あきれた感じで)あれでも絶滅危惧種かねぇ…。

ゴキブリ、上手へ去る。

軽い音楽が流れる中。(幕)

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