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えんぴつと消しゴム、それからカッターナイフ

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●3人 ●30〜40分程度

●あらすじ

ルミちゃんが自殺? それを止めようとする文房具たちの活躍!?

●キャスト

消しゴム
えんぴつ
カッターナイフ

●台本(全文)

舞台全体がゆっくりと明るくなっていく。

中央奥には左右に開くカーテンあり。

その前で、えんぴつと消しゴムがゴロリと横になって寝ている。

カッターナイフは下手、少し離れたところで同じように寝ている。

それぞれ背中には「えんぴつ」「消しゴム」「カッター」の文字。

ややあって、消しゴム、突然ガバッと起きあがり。

消しゴム ア〜。ヤダ。とってもヒマなんですけど!

消しゴム、横で寝ているえんぴつを揺さぶって。

消しゴム ネェネェ、起きてよ! ネェってば!

えんぴつ、眠そうなようすで起きあがり。

えんぴつ 何…。(消しゴムを見て)ひょっとして仕事?

消しゴム ううん。違うけどさぁ…。

えんぴつ だったら寝てなよ。

えんぴつ、再び横になろうとする。

消しゴム、再びえんぴつを揺さぶって。

消しゴム ネェネェ、ネェってば! 私、もう、寝てるの飽きちゃったよ。

えんぴつ けど、ほかにすることもないし…。ヒマなうちに寝てられるだけ寝てたほうがいいんじゃない?

消しゴム それにしてもヒマすぎない。おかしいよ、こんなの。

えんぴつ …そうね。確かにわりとヒマかも…。

消しゴム 「わりと」じゃないよ。「かなり」だよ。かなりヒマ。

えんぴつ そんなこと言ったって仕方ないじゃない。お呼びがかからないんだから…。

消しゴム だからそれがおかしいって言ってんのよ。(間。カーテンを振り返りつつ)ルミちゃん、何歳だっけ?

えんぴつ 歳? …え〜っと、私たち、たしかルミちゃんが入学したときに、新品でこの筆箱に入れられたんだよね。あれから…どれくらいたったっけ?

消しゴム 完全に二カ月はたってるよ。

えんぴつ ん〜。てことは、一五か一六歳じゃないの。たぶん。

消しゴム (ちょっと考え)やっぱりおかしいよ。

えんぴつ 何が?

消しゴム だってさぁ、二カ月だよ、二カ月。(えんぴつの頭を見て)それなのに、なんであなた、そんなにピンピンなわけ?

えんぴつ そりゃ…。ルミちゃんが使ってくれないから…。

消しゴム あのさぁ、ルミちゃん、高一だよね。学校とか宿題とか、普通いろいろあるはずだよね。えんぴつ使うことって。それなのにどーしてあなたは二カ月もほったらかしにされてるの?

えんぴつ それは私のせいじゃないよ…。

消しゴム (えんぴつの言葉をさえぎり、ジロリと見て)あなた、まさか不良品じゃないでしょうね。芯がポキポキ折れるとか、持つとネバネバするとか…。

えんぴつ 人聞きの悪いこと言わないでよ。私はHiが付いてるのよ、Hiが。正真正銘のブランド品なのよ。書き味チョーなめらかで、一本一五〇円もするんだから。

消しゴム 一回も使ってもらってないくせに…。

えんぴつ (胸をはって)使わなくても良さがわかる、それがブランドってものよ。

消しゴム そういうの負け惜しみって言うのよ。(間)私はね、あなたがどんなえんぴつでもいいの。一本一五〇円だろうが、一ダース一五〇円だろうが、そんなことはどーでもいいの。まじめに仕事さえしてくれれば。

えんぴつ 私がさぼってるって言うの!

消しゴム (きっぱりと)ええ、そうよ。

えんぴつ 自分のこと棚に上げて、よくそんなことが言えるわね。自分はどうなのよ。私に働けって言う前に、自分が働きなさいよ。私に説教するのはそれからにして!

消しゴム バーカ。

えんぴつ なんですって!

消しゴム バーカ。

えんぴつ もういっぺん言ってみなさいよ!

消しゴム バーカ。

えんぴつ ホントに言わないでよ!

消しゴム だって、バカはバカよ。いい。私は消しゴムよ。

えんぴつ ええ。知ってるわ。それくらい。

消しゴム 消しゴムっていうのは、書いたものを消すのが仕事なのよ。

えんぴつ ええ、そうよ。

消しゴム だったら、わかるでしょ! あなたに仕事がないのに、私の出番があるわけないじゃない。書く前に消す人がどこにいるのよ!

えんぴつ まぁ、それはそうかもしれないけど…。(間)そうとんがらないでよ。消しゴムなんだからもう少し丸くなれば…。

消しゴム 私だって丸くなりたいわよ。使ってもらえないからいつまでたってもこんなに角張ってるんじゃない…。

消しゴム、ちょっとしょげる。

えんぴつ (消しゴムの様子を見て、少し冷静になり)…でも、これだけははっきり言っとくけど、ルミちゃんが私を使わないのは、絶対、私のせいじゃないからね…。

消しゴム じゃあ、誰のせい。

えんぴつ たぶんキーボードのせいじゃないかな…。

消しゴム キーボード?

えんぴつ うん。たぶんそう。

消しゴム でもキーボードって、あれでしょ。音楽的なもんでしょ。ルミちゃん、そういうことに興味があるの?。

えんぴつ 違うよ。あなたの言ってるのは楽器のキーボードでしょ。私の言ってるのは、そういうのじゃなくって、パソコンとかに付いてるやつよ。

消しゴム パソコン? そんなの文房具と関係あるの?

えんぴつ 大ありよ。大あり。ルミちゃん、いつもキーボード打ってるの。カチャカチャって。そしたら画面に字が出る仕組みになってるから、いちいち筆箱からえんぴつだして手紙書くとか、そういう必要ないわけ。

消しゴム 間違ったときはどうするの?

えんぴつ それもキーボードの操作でできちゃうのよ。書くのも消すのも両方できるの。キーボードっていうのは。

消しゴム つまり、えんぴつのおしりに消しゴムがついているようなものね。

えんぴつ …ま、まぁ、そうね。

消しゴム じゃあさぁ、ルミちゃんは、それで宿題とかもやっちゃってるの?

えんぴつ ううん。そういうのはしてないみたい。ネットとかメールとか、それ系。

消しゴム 宿題は?

えんぴつ してないんじゃない。だって学校行ってないもん。

消しゴム 病気なの?

えんぴつ 病気ってこともないんじゃないかな。なんて言うんだろ。フトーコーみたいな感じ。部屋にいるときもベッドの上でうずくまってるか、パソコンの前にいるだけで…。なんかすごくケダルイ感じ…。最近、音楽とかも聞いてないもん。…あれじゃ、机に向かってノートに何か書いたりする可能性、ほぼゼロだよ…。

消しゴム あなた、やけに詳しいわね。

えんぴつ だって、(モデルのようなポーズで)これだけスマートでスラリとしてるんだもの、それを利用しない手はないじゃない。ホラ、こうやって…。

えんぴつ、奥のカーテンに歩いてゆき、カーテンの中に頭を差し入れ、しばらくして出す。

えんぴつ ときどきチャックのすきまから頭を出して、「ルミちゃんチェック」をしてるのよ。どう、すごいでしょ。

消しゴム …なるほど。

えんぴつ (得意げに)まっ、ずんぐりむっくりのあなたには無理だろうけど…。イタッ!

消しゴム、えんぴつを殴る。

えんぴつ 何すんのよ!

消しゴム 今度、私の前で「ずんぐり」とか「むっくり」とか言ったら、まっぷたつに折るからね。

えんぴつ …ホントのことを言っただけなのに。弾圧だわ。表現の自由に対する弾圧よ!

消しゴム 何が表現の自由よ。そっちこそ名誉毀損で訴えるわよ!

えんぴつ 望むところよ。(くるりと背を向け)次は法廷で会いましょ。

消しゴム もういいわよ。バカバカしい。そういう屁理屈ばっかり言ってないで、さっさと対策を考えてよ。対策を。

えんぴつ (向きなおって)対策?

消しゴム だからさぁ、使ってもらう工夫をするのよ。とりあえず、そのキーボードとかってのに勝つ方法を考えましょ!

えんぴつ そうは言っても…。

消しゴム アッ、そうだ。あなた、キラキラペンとかにはなれないの?

えんぴつ キラキラペン?

消しゴム うん。書くとキラキラの粉が一緒に出て、書いたところが光る、みたいなのあるでしょ。ああいうの。どう? 女の子ウケしていいと思うんだけど。

えんぴつ 私、えんぴつだよ。無理に決まってるじゃない。

消しゴム そこをなんとか。

えんぴつ 無理無理。絶対無理。

消しゴム (えんぴつをジロリと見て)あなたってダメね…。

えんぴつ あのさぁ、あり得ないでしょ、そういうこと。そんなのアイデアでもなんでもないよ。それにさぁ、もし私がキラキラペンになれたとしてよ。それって、消しゴムで消せないんだから、やっぱり、あなたの出番はないってことじゃない。

消しゴム …。

えんぴつ 何黙ってるのよ。

消しゴム アーア。

えんぴつ 急にため息モードに入るのはやめて。

消しゴム だって、揚げ足ばかりとってからかうから…。

えんぴつ 違うでしょ、それは。

消しゴム 私がかわいいからって、ねたんでるんでしょ…。

えんぴつ エエエ〜ッ…。趣旨不明…。なんで私があなたをねたまなきゃいけないのよ。あなたのようなずんぐり…。イタッ!

消しゴム、えんぴつを殴る。

えんぴつ 何すんのよ!

消しゴム 折る! 折ってやる! まっぷたつに折って、それからキッチリくっつけて、どこで折ったかわかんないようにして、ルミちゃんがさわったら、ポロッととれるようにして、笑いものにしてやる!

えんぴつ ゲゲゲゲゲ。おもしろいじゃない。できるものならやってみなさいよ。それなら、私にも考えがあるわ。折られる前に、あなたのおつむにこの芯を突き刺してやるからね。で、少しだけ出てる状態にしておいて、ルミちゃんが、消そうと思ってゴシゴシやると、なんかグルグル変な模様が書けちゃうようにしてやるわ!

消しゴム ヒッドーイ!

えんぴつ ひどいのはどっちよ!

えんぴつと消しゴム、もめる。

カッターナイフ、むっくりと起きあがり。

カッター うるさいなぁ〜。なんだよ、オマエら。兄弟げんかはやめろって。

二人で 兄弟じゃねぇ!

カッター エッ? 違うの? あんたら兄弟じゃないんだ。いつも一緒にいるからオレてっきり兄弟かと…。

えんぴつ こんな兄弟いるわけないじゃない。

消しゴム そうよ、そうよ。

カッター なんだ、そうだったのか。ただのデコボココンビか…。イタッ!

消しゴムとえんぴつ、両側からカッターナイフを殴る。

カッター イテテテテ…。なんだよ、ヒデェ〜なぁ。(頭をさすりながら)刃が折れるかと思ったぜ。

消しゴム (えんぴつに)ところで、誰、この人。

えんぴつ カッターよ。カッター。カッターナイフ。

消しゴム アア、それで、頭おさえてハが折れるとか言ってんだ。

えんぴつ そういうこと。

消しゴム 前からいたっけ?

えんぴつ ううん。一週間くらい前からかな。

消しゴム (カッターナイフに)ねぇ、あんた。

カッター なんだよ。

消しゴム あんた、なんでここに来たの?

カッター なんでって、そりゃ、あの子がオレのこと気に入ったからだろ。

消しゴム ルミちゃんが…(カッターナイフをしげしげと見て)あんたをねぇ〜。

えんぴつ あなた、どこから?

カッター ああ、百円ショップ。

えんぴつ ルミちゃん、百円ショップに行ったんだ…。

カッター そうなんだよ。あの子、店に入って来てさぁ。まわりのモノには目もくれず、迷わずオレのところにきたわけ。で、ぶらさがってたオレをジーッと見つめてさぁ〜。そのとき、オレ、ピンときたんだ。

えんぴつ 何を?

カッター アッ、この子、オレにホレてるなって。

消しゴム (小声で)バカだ、こいつ…。

えんぴつ それって、思いこみじゃないの?

カッター そんなことないって。だって、買ったあともさぁ、いきなり袋から出してオレのことギューッて握りしめたんだぜ。感じたね。熱いものを。なんていうか、こう、私を救ってくれるのはあなただけ、あなたが頼りよ、みたいな感じ。でさ、刃を全部伸ばしてさ、鋭く光るオレの横顔をうっとり見てたんだぜ…。どうよ。どうみてもメロメロじゃんか。

消しゴム でもさぁ、言っちゃ悪いけど、私たちでさえ使ってもらえないんだから、カッターなんて、さらに出番ないと思うな…。たぶんこのままこの筆箱の中で錆びていくだけじゃない。

カッター ワッ、何だよ。イヤなこと言うなよ。

消しゴム だって、あなた、どっちかっていうと文房具って言うよりは、工具とか、それ系でしょ。ここにいるの変じゃない?

カッター アッ。それはそうなんだよな。(軽く首をかしげて)オレもさぁ、なんで筆箱に入ってんのかちょっと疑問ではあったんだ…。

えんぴつ あれじゃないの。私の芯が短くなったときに、削るために…。

カッター ああ、なるほど!

消しゴム でも、今どき、そういう古風なことするかなぁ〜。(えんぴつを見て)だって、あなた最初は鉛筆削りで削られたんでしょ?

えんぴつ うん。

カッター じゃあ鉛筆削りが壊れたんだよ。それで…。

消しゴム あり得ないことじゃないけど…。

カッター 絶対そうだって!

消しゴム …もしそうだとしてもさぁ、とりあえず、(えんぴつを見て)この人に働いてもらわないと、あなたにも私にも出番がないわけで…。

カッター まぁ、それは当然そうだよな。(えんぴつを見て)なんとかガンバッテもらわないと…。

えんぴつ やめてよ。プレッシャーかけないでよ。私のせいじゃないって言ってるでしょ!

不意にジッパーの開く音。

パッと明るくなる。

消しゴム 何? なんなの!

えんぴつ (後ろを振り返り)ジッパーが!

カッター (後ろを振り返り)開いた!

消しゴム (後ろを振り返り)ルミちゃんだ!

えんぴつ、急に直立不動の姿勢。

そのまま、後ろ向きに歩いて、吸い込まれるようにカーテンのほうへ。

消しゴム アッ!

カッター えんぴつが!

えんぴつ (吸い込まれつつ)やったわ! ウワサをすればよ! やったぁ〜!

消しゴム ガンバッテ! 初仕事よ。

えんぴつ うん。ガンバル!

消しゴム そして、書き間違えて!

カッター できれば折れてくれ!

えんぴつ (笑いつつ)それはどうかなぁ〜。でも、とにかくガンバルから。バイバ〜イ。

えんぴつ、手を振りつつ、カーテンの奥へ消える。

見送る消しゴムとカッターナイフ。

ジッパーの閉まる音。

明かり、元の明るさに戻る。

消しゴム やったね。

カッター アア。

消しゴム (ウキウキとした感じで)たぶん次は私の番だわ。

カッター だといいな。

消しゴム 絶対そうよ。だってルミちゃん、久しぶりに字を書くんだよ。いくらキーボードっていうのでカチャカチャやってたとしても、全然違うじゃない、手で書くのとは。書き順とかさ、偏とか忘れてるはずだよ。だからさぁ、ツルッと書き間違えちゃってさぁ〜。(うっとりと)ア〜どんな気分かしら。キュッキュッ、キュッキュッって。ルミちゃんの書き損じを私がすっかり無かったことにしてあげるの。…ルミちゃん、きっと私に感謝するはずよ。そしてこうつぶやくの、「アアやっぱり消しゴムが頼りだわ」って…。アア!

カッター …。

再び、ジッパーの開く音。

パッと明るくなる。

消しゴム ホラ来た! 私の言ったとおりでしょ!

目をつぶって、その時を待つ消しゴム。

が、消しゴムは動かず、かわりにカーテンの向こうからえんぴつが戻ってくる。

ジッパーの閉まる音。

明かり、元の明るさに戻る。

えんぴつ、元気がない。

えんぴつ ただいま…。

カッター お、おかえり…。早かったな…。

消しゴム ? なんで? もう終わり?

えんぴつ …。

消しゴム なんとか言いなさいよ。もう終わったの!

えんぴつに詰め寄る消しゴム。

えんぴつ …うん。

消しゴム 早いよ。早すぎるよ! 一体ルミちゃん何書いたのよ!

えんぴつ (少し長い間)…遺書…かな。

消しゴム ハァ?

えんぴつ たぶん遺書だと思う。

消しゴム イショって、あのイショ?

えんぴつ うん。

カッター あの子、死ぬのかよ。

えんぴつ わかんないよ、そんなこと!

消しゴム なんて書いたの?

えんぴつ …「ツカレました。ワタシ死にます。ゴメンナサイ」

消しゴム なんであなたそんなことに協力すんのよ! 頭おかしいんじゃないの!

えんぴつ そんなこと言っても…。

消しゴム どうすんのよ!

えんぴつ どうって…。

消しゴム もしルミちゃんが死んだら、あなたのせいだからね。

えんぴつ なんでそうなるのよ! 私は…。

消しゴム 共犯者よ、共犯者!

えんぴつ なんですって!

えんぴつと消しゴム、またもめる。

カッター ちょっと待てよ。二人とも落ち着けって。

カッターナイフ、割って入って。

カッター いいか、お前たち。人間ってのはな。ときどきそういう風に思いつめたりするもんなんだ。けど、たいていの人間は本当に死んだりはしないもんなんだ。そういうもんなんだよ。だから、あの子が遺書みたいなもんを書いたとしてもだな。イコール、それがすぐに自殺につながるってもんじゃないって。だから、ちょっと落ち着けって。

消しゴム 新入りのくせにわかったようなこと言うじゃない。

カッター オレは刃物だからさぁ、こういうの結構わかるんだよ。

消しゴム (間。ちょっと冷静になり)ホントに? ホントに大丈夫?

カッター アア、たぶん。

消しゴム たぶんじゃダメ! 絶対? 絶対一〇〇パーセント?

カッター イヤ、絶対って言われると困るけど…。

えんぴつ 私、ちょっと様子見てみるね。

えんぴつ、カーテンに首を突っ込む。

消しゴム (心配そうに)どう?

えんぴつ わかんない…。うつむいてる。

消しゴム 座ってんの?

えんぴつ うん…。アッ!

えんぴつ、カーテンから首を引っ込める。

消しゴム どうしたの?

えんぴつ こっち見た。

ジッパーの開く音。

パッと明るくなる。

えんぴつ 来たよ!

消しゴム ど、どうする!

カッターナイフ、直立不動の姿勢になる。

カッター オ、オレだ…。

消しゴム カッターナイフ…。まっ、まさか!

えんぴつ やばいよ!

消しゴム ひっぱろ!

えんぴつと消しゴム、カッターナイフを引っぱるが、カッターナイフは、後ろ向きでジリジリとカーテンの奥へ。

えんぴつ ダメだ!

消しゴム ヤダ! キャ!

えんぴつと消しゴム、手をはなし倒れる。

カッター オイ! オイってば! どうすんだよ!

カッターナイフ、青ざめた表情でカーテンの奥へ消える。

ジッパーの閉まる音。

明かり、元の明るさに戻る。

消しゴム …そんなぁ〜。

えんぴつ 私、見てみる!

えんぴつ、カーテンに首を突っ込む。

消しゴム どう?

えんぴつ アッ!

カッターナイフの刃が伸びる音。

消しゴム 何?

えんぴつ 刃を出した。

消しゴム 

えんぴつ 手首に当ててる…。

消しゴム ヤダ。マジ!

えんぴつ、カーテンから首を引っ込める。

消しゴム どうしたのよ!

えんぴつ ダメ。もう見てられない…。

消しゴム ヤダよ私…。

うなだれる消しゴムとえんぴつ。

カッターナイフの刃を戻す音。つづいてジッパーの開く音。

パッと明るくなる。

カッターナイフ、真剣な顔で戻ってくる。

消しゴム …あんた、やったの?

カッター …。

消しゴム なんとか言いなさいよ。

カッター …。

消しゴム やったのね。…この人殺し!

消しゴム、カッターナイフの胸をたたく。

カッターナイフ、消しゴムの手を押さえて。

カッター …オレはやってない。

消しゴム やってない?

カッター アア。

消しゴム ウソ!

カッター 落ち着けよ。もしやってたら、ここに戻ってこれるはずないだろ。

消しゴム アア、…そっか。

えんぴつ アーよかったぁ〜。本気じゃなかったんだ。(カッターナイフに)やっぱりあなたの言ったとおりだったってことね。さすが刃物。スルドイなぁ〜。そっかそっか。そぶりだったわけね。アーよかったぁ〜。

カッター (真剣な顔で)…イヤ。そうでもないかもよ。

えんぴつ そうでもない? でも…。

カッター あの子、本気だった。オレ、手首に押し当てられたとき感じたんだ。…あのゾッとするような殺気…。あれは本気の証拠だ…。

消しゴム でもあんた、切らずに戻ってきたじゃない。

カッター それはそうだけど…。

えんぴつ アッ、こういうことじゃないかな。ルミちゃんは本気で死ぬ気で、遺書を書いて、本気でカッターを手首に押し当てたんだけど、最後の最後に思いとどまったんだよ。だからカッターの感じた殺気も本当なんだけど、結局ことなきを得たんじゃないかな。

カッター ならいいけど…。どうも腑に落ちないな…。

消しゴム (急に直立不動になって)キャッ!

消しゴム、カーテンの奥へ吸い込まれるように消える。

カッター オイオイ。どういうことだよ。

えんぴつ、カーテンの奥をのぞきこみ。

えんぴつ アッ。字を消してる!

カッター 字を…。

えんぴつ うん。消してる消してる。(ホッとした感じで)よかったぁ〜。これでもう安心だ。

カッター 安心?

えんぴつ そりゃそうでしょ。書いた遺書を消したってことはさぁ、死ぬ気が無くなったってことだもの。

カッター …そうか…。

えんぴつ (カーテンのほうを見て)アッ、戻ってくる。

カーテンの奥から、消しゴム戻ってくる。

消しゴム、元気がない。

えんぴつ よかったじゃない。初仕事が遺書を消すことだなんて、結構ドラマじゃん。

消しゴム バカ…。

えんぴつ バカ? 何それ?

消しゴム バカだからバカよ。

えんぴつ なんでこういうときにつっかかってくるかなぁ〜。アッ、ひょっとして照れてるの?

消しゴム …いい気なもんね。(間)…やっぱりルミちゃんは本気だよ。

えんぴつ 本気…って、まさか…。

消しゴム ううん。本気。

えんぴつ どうしてよ。どうしてそう思うのよ。

消しゴム …だって、私が消したの、最後のところだけだもん。

えんぴつ 最後のところ…。

消しゴム そうよ! 最後よ!「ツカレました。ワタシ死にます。ゴメンナサイ」の「ゴメンナサイ」だけ消したのよ!

カッター ってことは、「ツカレました。ワタシ死にます」…か。マズイよ、それは。死ぬ気度アップしてるじゃんか。

消しゴム エエ…そういうこと。ゴメンナサイっていう、まわりの人への配慮が消えて、なんて言うの、死ぬっていう決意表明だけが残ったんだもの…。

えんぴつ もしそうだとしたら…。(カッターを見て)次にあなたが呼ばれたら、それでジエンドってことじゃない。

消しゴム 私もそう思う…。きっと今度はやるよ。

カッター どうすんだよ。オレ、イヤだよ。

消しゴム 私だって…。(えんぴつに)ねぇ、どうする!

えんぴつ どうって…。…そうだ。(カッターに)とにかく隠れなよ。

消しゴム アア、そうね。そうよ。それがいい。(カッターに)隠れて、隠れて!

カッター 無理言うなよ。どこに隠れんだよ!

消しゴム 隅っこのほう、とか。

カッター 隅っこったって、筆箱の中なんだぜ。

えんぴつ (消しゴムに)アッ、じゃあさぁ、消しちゃえば。

消しゴム 消す?

えんぴつ うん。あなた、消しゴムでしょ。消すの専門じゃない。

消しゴム それこそ無理よ。私にイリュージョンやれって言うの。テンコーじゃあるまいし。

カッター (カーテンのほうを気にしつつ)オイ、どうでもいいけど、早くなんとかしてくれよ。一番怖いのはオレなんだぜ!

消しゴム わかってるわよ! ゴチャゴチャ言わないでよ! 考えがまとまんないじゃない。…えーっと、えーっと。…消すのは無理、消すのは無理…。アッ、そうだ。そうよ。消せないんなら、書けばいいんじゃない!

えんぴつ 書くって?

消しゴム メッセージよ、メッセージ。私たちの気持ち、ルミちゃんに伝えるのよ!

カッター できんのかよ。そんなこと。

えんぴつ でも、紙が…。

消しゴム あるよ、紙なら!

消しゴム、上手に走り去り、紙をもって、すぐに戻ってくる。

消しゴム コレ。コレ使お。

カッター なんだよ、それ。

消しゴム ネームシール。隅っこに挟まってたの知ってたんだ!

えんぴつ それいい! それにメッセージ書いて、カッターに貼りつければ…。

消しゴム きっと、ルミちゃん、気がつくよ!

消しゴム、持ってきた紙をえんぴつに渡しつつ。

消しゴム お願い!

えんぴつ うん。

えんぴつ、手にした紙を持ち上げ、自分の頭の上にのせる。

カッター (カーテンのほうを気にしつつ)早く!

えんぴつ (消しゴムに)なんて書く!

消しゴム …えーっと、えーっと。そうね…。…ルミちゃん死なないで下さい。死なないで生きててほしいです。生きてたら絶対いいこともあるし、使ってない文房具もいっぱいあって、もったいないし…。

えんぴつ 長いよ! そんなに書けないよ! もっと短く!

消しゴム 短く? うん、じゃあ…。…えーっと、えーっと。

カッター 早く! 早くしてくれ!

消しゴム うるさいわね! …えーっと、えーっと。「生きてて」。そうだ、「生きててヨ」って!

えんぴつ わかった!

えんぴつ、紙を自分の頭にゴシゴシこすりつけ、サッと消しゴムに渡す。

紙を受け取った消しゴム、カッターナイフの後ろにまわって、背中に貼りつける。

と、同時に。

カッター 来た!

消しゴム キャッ!

消しゴム、その場に伏せる。

カッターナイフ、すごい勢いでカーテンの奥に吸い込まれる。

ジッパーの閉まる音。

明かり、元の明るさに戻る。

間。

消しゴム、ゆっくりと起きあがり。

消しゴム …どう?

えんぴつ、おそるおそるカーテンの奥をのぞく。

カッターナイフの刃の伸びる音。

えんぴつ …あっ、刃を伸ばした…。

消しゴム 気づいた?

えんぴつ わからない…。

消しゴム ちゃんと書いたんでしょうね。

えんぴつ 書いたよ。ちゃんと。

消しゴム なら、どうして…。

えんぴつ (消しゴムの言葉にかぶせるように)アッ!

消しゴム 何!

えんぴつ 手首に…。

消しゴム ダメだよ! やめてルミちゃん!

えんぴつ アッ!

消しゴム エッ! まさか! …やっちゃったの?

えんぴつ (間)イヤ…。あれぇ? なんだろ…。…笑ってる。

消しゴム 笑ってる? カッターが?

えんぴつ ううん。ルミちゃんが。

消しゴム ルミちゃんが? 笑ってる? …ナゼ?

えんぴつ わかんない…。アッ、カッターを手首からはなした…。

カッターナイフの刃を戻す音。

えんぴつ 刃をしまった…。(間)アッ…ゴミ箱に…遺書…捨てた…。

消しゴム どういうこと?

えんぴつ わかんない。わかんないけど、とにかく思いとどまったみたい…。しかも、笑ってる。…ルミちゃんの笑顔初めて見た…。…かわいいな、ルミちゃん。…アッ、戻ってくる!

ジッパーの開く音。

パッと明るくなる。

カッターナイフ、首をかしげながら戻ってくる。

ジッパーの閉まる音。

明かり、元の明るさに戻る。

カッター なんか、助かった。…ような。

消しゴム …とにかく成功よね。

えんぴつ …うん、たぶん。

消しゴム (カッターに)あなた、何かしたの? ルミちゃんに。

カッター いや、オレは別に…。

えんぴつ でもルミちゃん、笑ってたよ。

カッター ああ、それ、オレにもわかった。最初、すごい殺気が出ててさ、オレを握りしめたあの子の手の力、ハンパじゃなかった…。で、オレの刃をピタッと手首にあてがって…。こりゃもうダメだ!って思った瞬間、スーッと殺気が消えたんだよな…。なんて言うのかな。我慢したっていうか、思いとどまったっていうか、そういうんじゃなくてさ。コロッと裏返ったみたいに殺気が消えて、すごく軽い雰囲気になったんだよ…。

えんぴつ メッセージが届いたのかな?

消しゴム そうとしか考えられないんだけど…。でも一体…。

消しゴム、腑に落ちない様子で、カッターナイフの後ろに回り込む。

カッターナイフの背中に貼られた紙を見た消しゴム、不意にプッと吹き出す。

えんぴつ どうしたのよ。あなたまで。

消しゴム わかった。

えんぴつ 何が?

消しゴム 見て、これ。

えんぴつもカッターナイフの後ろに回り込む。

えんぴつ、カッターナイフの背中を見て。

えんぴつ プッ! 何これ。

吹き出す、えんぴつ。

消しゴム でしょー。

えんぴつ うん、これは笑える。

カッター 何だよ。オイ。言えよ。何だよ!

消しゴム あんたすごいヨ。すごいカッターナイフだよ。

消しゴム、カッターナイフの肩を持ち、回れ右をさせる。

客席に向いたカッターナイフの背中には、

「生きててヨ」「カッター」の文字が並んでいる。

えんぴつ 「生きててヨ・カッター!」。今から死のうかっていう時に、これ見たら、かなり脱力するよね。

消しゴム うんうん。手にしたカッターナイフが、よりによって「生きててヨカッターナイフ」だもんね。

えんぴつ ホント、ある意味すごいヨ。すごいカッターナイフだよ。

消しゴム このバカらしさ、最高だよね。

えんぴつ ネーミングの趣旨がよくわかんないところが、かえってオシャレだよね。

カッター 何だよ。オイ。ほめてんのかよ。バカにしてんのかよ。

消しゴム (ニヤニヤしつつ)もちろんほめてるんだよ。

えんぴつ (ニヤニヤしつつ)もちろんもちろん。

二人で ハハハ。

カッター あやしいな…。

消しゴム (笑いつつ)そんなことないって。マジでこういうの商品化したら売れるかもよ。

えんぴつ うんうん。シリーズでいろいろ出したらウケるかも。

カッター そうか?

えんぴつ うん。「うれしカッターナイフ」とか。「大したことなカッターナイフ」とかさぁ。

消しゴム いいねいいね。だったらさぁ、「そんな小さなことどうでもいいじゃーナイフ」とかは?

えんぴつ それ、カッター入ってないじゃん。

消しゴム あっ、そうか。でもこの際いいんじゃない。カッターなんか入ってなくても。

えんぴつ そうだね。そうだね。別にいいよね。おもしろければ。

二人で ギャハハハハ。

カッター やっぱ、バカにしてる…。

消しゴム バカになんかしてナイフ!

えんぴつ プッ! 今のもカッター入ってないじゃん。やっぱカッターいらないんだ。

カッター ふざけんなよ。

消しゴム こりゃあ、わるカッターナイフ!

えんぴつ 今度はカッター入ってる! ギャハハハハ……。

消しゴムとえんぴつのおしゃべり、ワイワイとつづく。その横には、ちょっとしけた表情のカッターナイフ。

軽い音楽の流れる中。    (幕)

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