少人数向け演劇台本を無料提供。

主役を待ちながら

●2人 ●25〜35分程度

●あらすじ

白馬にまたがった王子様を待つ「動物(1)」と「虫たち」。キャラなしの二人は、相手を押しのけ王子のお供になろうと必死になるものの…。2003年に作った「ゴメンねジロー」の中で脇役だった二人が今度は主役!

●キャスト

動物
虫たち

●台本(全文)

中央に一本の木。

上手より動物(1)登場。

毛皮のコートを着ている。手には紙切れ。

動物(1)、紙切れとまわりの景色を見比べながら中央へ近づいていく。

動物(1) あ〜、もう、わかんないわよ、こんなんじゃ。(紙切れを上下させつつ)何これ。どうなってんの! はっきり言って地図とか苦手なのよね、私。こういうの見てると、なんか思いっきり破りたくなっちゃう…。(紙切れを破ろうとするが思いとどまり、胸を押さえて)アア…ダメよ、ダメ。短気をおこしちゃ。なんのためにここまで来たの。落ち着いて。落ち着くのよ。焦れば焦るほどチャンスは逃げていくものなんだから…。大丈夫。きっと大丈夫…。(息を整え、再び紙切れに目を落とし、指でたどるしぐさ)エエ〜っと…こうきて、こうきて、こうきたのよねぇ…。とすれば、もうそろそろのはず…。ウ〜ン…このあたりに目印の木があるはずなんだけど…。(キョロキョロして)アッ、あるじゃん!(走って木に近づき、木を見上げて)ここ? ここでいいの!(上手を振り返りつつ)森を抜けて一本道を歩いてくると…。(紙切れと木を見比べながら)真ん中に木があって…。(下手を見て)あっちには丘が見えて…。(舞台奥を見て)後ろは崖で…。(客席を見て)目の前がカボチャ畑…。ここだ!間違いない。絶対ここよ。(腕時計を見て)よかったぁ〜。間に合ったぁ〜。やったじゃない。(木の根元に腰を下ろし)それにしても…(ハンカチで汗をふきながら)アア〜疲れた。でも、うれしいぃ〜。(寝ころぶ。が、すぐ立ち上がり)アッ、でも、待って。ホントに誰もいないわよね。(木のまわりをぐるっと回って)よしよし。(さらに、上手に言って、様子をうかがい)後をつけられてるってことは…、ないな。よしよし。(再び、安心したように腰を下ろし)…あとは待つだけっ、と。

しばらくして下手より虫たち、キョロキョロしながら登場。

薄い服を重ねて着ている。手には紙切れ。

虫たち たしか、このあたりだと思うんだけど…。(下手を振り返って)丘を越えて一本道を歩いてくると…。このあたりに目印の木が…。アッ、あるじゃん。(木に駆け寄り、上手を見て)あっちには森があって…。(舞台奥を見て)後ろは崖で…。(客席を見て)目の前がカボチャ畑…。ここだ!間違いない。絶対ここよ。(腕時計を見て)よかったぁ〜。間に合ったぁ〜。やったじゃない。(木の根元に腰を下ろし)それにしても…(服を一枚脱ぎすて)アア〜疲れた。でも、うれしいぃ〜。(寝ころぶ。が、すぐ立ち上がり)アッ、でも、待って。ホントに誰も…。

虫たち、自分を冷ややかに見ている動物(1)に気づく。

虫たち アアアッ! 何かいる!

動物(1) 遅いわよ。気づくのが。

虫たち いつからいたの?

動物(1) さっきからよ。

虫たち ゴメン、気づかなかった。存在感なかったもんだから…。

動物(1) 悪かったわね、影が薄くて。(にらみつけて)それより、あんた誰?

虫たち えっ、アタシ? アタシは…。…あんたこそ誰よ。

動物(1) 誰だっていいでしょ。私は私よ。

虫たち …何でこんなとこにいるのよ。

動物(1) こんなとこって?

虫たち こんなとこっていうのは…つまり…木の下よ。

動物(1) いちゃいけない?

虫たち いけなくはないけど…。変じゃない、用でもあるの?

動物(1) 用ってたとえば?

虫たち たとえば…、たとえばきれいな空気を吸いに景色のいいところに来てみた…とか…。

動物(1) (そっけなく)ええそうよ。そのとおり。

虫たち (ホッとして)アア、そうなんだ。空気を吸いにね。なんだ、そうか。

虫たち、動物(1)の横に腰をおろす。しばらく二人とも沈黙。

虫たち …ねぇ。

動物(1)   何?

虫たち いつまで吸ってるつもりなの? 空気。

動物(1) 生きてる間よ。それが地上で生きてる者の宿命だもの。

虫たち そうじゃなくて、ここの空気をよ。…もう十分じゃないの…。

動物(1) いいでしょ。好きにさせてよ。私はここが気に入ったのよ。

動物(1)、寝ころぶ。

虫たち アッ、あんた、ちょっと。こんなところで寝ないでよ。

動物(1)、急にイビキをかきはじめる。

虫たち (焦って)ほっ、本気で寝ちゃってるじゃない! ねぇ起きて! 起きてよ! 邪魔よ、あんた。ここをどきなさい! もうすぐ王子様が来るんだから!

動物(1)、むっくりと起きあがり。

動物(1) フン。思ったとおりだわ。

虫たち チッ、ウソ寝だったか!

動物(1) やっぱりそういうことだったのね。

虫たち ひょっとして、あんたも?

動物(1) ええ、そうよ。王子様を待ってるの。白馬にまたがった王子様をね。

虫たち でも、どうしてそれを…。

動物(1) それはこっちのセリフよ。そっちこそ、何で知ってんのよ。

虫たち アタシ? アタシは…。頼まれたのよ。今日の昼、この木の前を白馬にまたがった王子様が通るから、怪しいヤツが来ないように見張りをしろって…。

動物(1) 誰に?

虫たち 偉い人によ。

動物(1) 偉い人って?

虫たち 偉い人は偉い人よ。百点取れる人よ。

動物(1) …ウソでしょ。

虫たち …ええ、…まぁ…。

動物(1) あなたホントは王子様のお供になりたいんでしょ。それで王子様がこの木の前を通るって聞いて、やってきたんでしょ。

虫たち 何でそれを…。

動物(1) わかるわよ。

虫たち どうしてわかったの?

動物(1) 私もそうだからよ。

虫たち アンタも?

動物(1) ええ。

虫たち おかしいわね。王子様から来た募集要項は、アタシが一枚抜き取って、あとは全部捨てたはずなんだけど…。

動物(1) (紙を取り出し)募集要項ってこれのこと?

虫たち それよそれ。まさしくそれよ! …でもどうしてそれを…。

動物(1) 私もあなたと同じことをしたからよ。王子様から届いた募集要項を一枚抜き取ってあとは捨てたの。だってホラ、(募集要項を読み上げはじめる)「お供募集。年齢、性別等一切不問。健康でやる気のある方一名。明日正午、地図の場所カッコ木の前カッコトジにて」(募集要項を虫たちに突き出すようにして見せながら)…一名よ、一名。たった一名の募集なのよ。でもね、一名だけがここに立ってれば百パーセント合格ってことでもあるわけじゃない。

虫たち そうよ。まったく同じ意見だわ。

動物(1) だったら話が早いわ。はっきり言うけどあなたにここにいてもらっちゃ都合が悪いの。今すぐ消えて!

虫たち そうはいかないわよ。アタシだって覚悟決めて来たんですもの。

動物(1) あなたの覚悟がどれほどのものかは知らないけど、私が先に来てたんだから、私に譲るべきじゃないの。

虫たち ズルして一番乗りした人にそんなこと言う資格なんかあるもんですか!

動物(1) あなただって、同じことしたんでしょ。

虫たち …まぁ、それはどうだけど。

動物(1) ねぇ、お願いだから譲ってちょうだい。募集要項捨てたこともしバレたら…。いいえ、もしじゃない。きっとバレる。時間の問題よ。…そしたら仲間からどんな目にあわされるか…。アア、考えただけでも恐ろしい…。ね、わかるでしょ。私にはもう帰るところがないの! だからお願い!

虫たち わかるわ、その気持ち。よーくわかる。でもね、残念ながらアタシも全く同じ境遇なの。だから答えはノーよ。

動物(1) (独り言のように)クソいまいましい。なんてやつなの…。

虫たち それにしても…(ふと気づいたように)あなた(毛皮を指さし)それ着てて暑くない?

動物(1) (ちょっと得意げに)ああ、これ。

動物(1)にスポット。動物(1)、モデル歩きになって前に進み出し一回転。毛皮を見せびらかすようにして動物(1)、ポーズ。

動物(1) ええ、まぁね。暑いのは暑いけどね。モノがいいから…。

虫たち、動物(1)の言葉をさえぎるように。

虫たち 脱げばぁ?

動物(1) ダメよ。それはダメ。この毛皮を身にまとってるからこそ、私は私なの。これを脱いだら私が私じゃなくなるじゃない。

虫たち 変なの…。

虫たち、毛皮にさわろうとする

動物(1) あっ、さわんないで! これ結構高いのよ。

虫たち そんな風には見えないけど…。

動物(1) ああ、ヤダヤダ。物の善し悪しがわからないんだワこのひと。(虫たちの服をしげしげと見て)センスがないのね、かわいそうに…。

虫たち 何言ってんのよ。センスがないのはそっちでしょ! 毛皮だかなんだか知らないけどゴワゴワした服着ちゃってさ。あんたよっぽど寒いとこから来たんでしょ。シベリアとかアイスなんとかランドみたいな。

動物(1) 違うわよ。寒いとか暑いとかじゃなくて、私たちケモノ地方の出身者はみんなこうなのよ。

虫たち ケモノ地方って…?

動物(1) エエ〜ッ! ケモノ地方を知らないの? おとぎ話の国にそんなひとがいたなんて驚きだわ!。

虫たち (ちょっと考えて)ゴメン。ピンとこないんだけど…。

動物(1) 何なのあなた。もぐりじゃないの。(上手からホワイトボードを持って来て、大きく「けも野」と書く)ケモノよケモノ。おとぎ話の有名人はほとんどケモノ出身なのよ!

虫たち そうなの…。

動物(1) そうよ。決まってるじゃない。あなた、いくらバカでも桃太郎くらい知ってるわよね。

虫たち ああ、桃太郎ね。知ってる知ってる。鬼退治の。

動物(1) そうよ、知ってるじゃない。あの桃太郎のお供ね。いたでしょ。イヌ、サル、キジ。そのうちのイヌとサル。あれがまさしくケモノ地方出身者よ。ほかにも山ほどいるわよ。ウサギとカメのウサギだってそうだし、カチカチ山のタヌキだってそうよ。どう、これでわかった!

虫たち アア、わかったわかった。要するに体に毛がもじゃもじゃ生えてるやつね。アッハッハッ。

動物(1) 何がおかしいのよ。

虫たち ゴメンゴメン。アタシたちの町では、毛が多いのは子供の証拠なもんだから、アッハッハッ。

動物(1) 毛が多いと子供? …あなた一体、どこから来たの?

虫たち 知りたい? フフフいいわ、そんなに知りたいんならお教えするわ。

虫たちにスポット。虫たち、モデル歩きになって前に進み出し一回転。服を一枚脱ぎ捨て。

虫たち 軽やかに、そしてあでやかに、あるものは毛虫から蝶へと美しく生まれ変わり、またあるものは強くたくましくツノをふりかざす。空を飛び、地にもぐる、生き物界の多数派。そう!アタシは(ホワイトボードに「ム市」と書く)ムシ出身。だからゴメンね。全身毛だらけでもぞもぞ動く毛虫のようなあんたを見てると、どうしても大人とは思えなくて…フフフ。

動物(1) ムシか…。

虫たち そうよ。ムシよ。ムシ。(胸を張って)種類の多さでは負けないわよ!

動物(1) そんなの自慢にならないわよ。(独り言)…それにしてもやっかいなことになったわ…。まさかケモノとムシ、両方に募集があったなんて…。なんとかお昼までにあいつを追い返さないと…。

虫たち どうしたの、顔色が悪いわよ。

動物(1) ううん。何でもない。大丈夫よ。(気を取り直したように)それはそうと、あなた、アレは持ってらっしゃったの?

虫たち アレって?

動物(1) 履歴書よ、履歴書。書いてあったでしょ、募集要項に。

虫たち ああ、持ってるわよ。

動物(1) ちょっと見せて。

虫たち ど、どうして見せなきゃいけないのよ。

動物(1) だって、あなたと私は、いわばライバル同士じゃない。競い合う中にもお互いを認め合う美徳が必要だと思うの。そういう意味から言ってよ、あなたの履歴書に万一不備があって失格なんてことになったら、かわいそうだと思って。…ああ、それとも本当は(自分の履歴書を取りだし)こういう履歴書持ってないとか?

虫たち 持ってるわよ!

虫たち、自分の履歴書を取り出す。

動物(1) じゃあ、字が書けないから絵で自己紹介してるとか?

虫たち バカにしないで! ちゃんと書けるわよ字ぐらい。さっき書いたの見たでしょ! アタシたちムシには足が六本もあるのよ。

動物(1) ???意味わかんない。バカじゃないの。それに、あなたどうしてそう何でも数で勝負したがるわけ?

虫たち いいでしょ、別に。たくさんってことはいいことよ。

動物(1) (上手を指さし)アッ王子!

虫たち ど、どこ!

動物(1)、虫たちがキョロキョロしているスキに虫たちの履歴書を取り上げる。

虫たち 何すんのよ! ダマしたわね!

虫たち、履歴書を取り戻そうと動物(1)を追いかける。

動物(1)、逃げつつ。

動物(1) 見てあげるって言ってるのよ。

動物(1)と虫たち、木のまわりで追いかけっこ。

逃げ回りつつ動物(1)、虫たちの履歴書を読み上げる。

動物(1) エ〜なになに…名前「虫たち」。…ちょっとタイム!

虫たち どうかした?

動物(1) いきなり変なんですけど。

虫たち 何がよ。

動物(1) 名前よ、名前。

虫たち アア、名前ね…。

動物(1) 「虫たち」ってどういうこと。

虫たち だから名前よ。悪い。

動物(1) 悪くはないけどさぁ、変じゃない。名前が複数形っていうのは。

虫たち しかたないでしょ。キャラが決まってないんだから…。

動物(1) (少し笑いつつ)それにしても変よ。だって、もしあなたが王子様のお供になれたとしてよ、旅の途中で悪者が現れたとするわよね、そこで王子様があなたによ、「あの悪者をやっつけるんだ虫たちぃ〜」て言ったとしてよ、そう言われて出てきたのがあなた一人だったらどう? 「オイオイ一匹じゃんかよ。一匹なら虫って言えよ。バカ王子」ってことになるじゃない。あなたが万一お供になれたとしても結局はこうして王子様に恥をかかせることになっちゃうのよ。いいのそれで!

虫たち わかってるわよ、そんなこと!

動物(1) わかってんなら、出直しなさいよ!

虫たち いいの、ほっといて! 名前とか役割は王子様に決めてもらうんだから!

動物(1) (ニヤリとして)ああ、そういうことか。ちゃんとした名前とか役割がほしいんだ。なるほどなるほど、そういうことか。いわゆるキャラ探しね。

虫たち …まぁ、そうよ…。アタシは、そのためにここに来たんだもの…。いけない?

動物(1) (大げさに)いけなくはないけどさぁ〜。なんていうの、ありがちなのよね、そういうのって。自分自身がわかんないよぉ〜、何をすればいいのォ〜、みたいな。で、自分じゃわかんないから誰かに決めてもらいたいィ〜、みたいな。要するにそういうことでしょ?

虫たち …まぁ、そうよ…。

動物(1) なら簡単よ。私が決めてあげるわ。

虫たち あんたが?

動物(1) ええ。まかして。う〜ん…ムシでしょ、で、名前っぽいのがいいのよねぇ…。アアそうだ、いいのがあるじゃない。すごく名前っぽいのが。

虫たち どういうの?

動物(1) ゲンゴロウ。どう。

虫たち イヤよ。そういうのは。オヤジっぽいじゃない。…なんていうか、アタシのキャラがにじみ出てるような名前じゃないと…。

動物(1) でも、キャラがはっきりしないから名前も複数形なんじゃないの?

虫たち それはまぁ…そうだけど…。

動物(1) (虫たちの履歴書を見ながら)ねぇ、あなた性別不詳ってなってるけど…。

虫たち エエ、まぁ…そうよ。

動物(1) そうかぁ〜、性別もわかんないのかぁ〜。アッそうだ。じゃあオカマキリなんていいんじゃない?

虫たち オカマキリ?

動物(1) うん、オカマのカマキリ。

虫たち もういいよ…。

動物(1) よくないわよ。大事なことよ。アッそうだ。あなたいろんな意味で不思議系だからさぁ。

虫たち うんうん。

動物(1) ナナフシギ。

虫たち やめて! あんた、アタシのことバカにしたいだけでしょ!

動物(1) そんなことないわよ。(ニヤニヤしながら虫たちの履歴書に目を通し)エ〜ッと、ナニナニ、セールスポイント「王子様のためならひと肌脱ぎます」…これどういうこと?

虫たち アア、それはね。

虫たち、服を脱ごうとする。

動物(1) 何してんのよ。

虫たち だからひと肌脱いでんのよ。アタシたちムシはね、こうやって気合いを入れるの。

動物(1) 肌…脱ぐ…。ゲッやめてよ、気持ち悪い。それってただの脱皮でしょ!

虫たち エエそうよ。よく知ってるじゃない。

動物(1) ウゲゲ。ア〜気持ち悪い…。生皮剥がしてるみたいで生きた心地がしないわ…。

動物(1)、毛皮のエリを立て、首をすくめる。

虫たち そう? 気持ちいいわよ。

動物(1) (小声で)やっぱり、こいつとは合わない…。

虫たち 何か言った?

動物(1) う、ううん。何でもない…。(虫たちの履歴書を見て)あっ、ねぇ、あなた、特技「虫の鳴き声」って書いてあるじゃない。

虫たち ええそうよ。

動物(1) 鳴いてみて。特技っていうくらいだから自信あるんでしょ。

虫たち うん、まぁ一応ムシだからね。声にはちょっとね。

動物(1) 聞かせて、聞かせて。

虫たち じゃあ、ちょっとだけよ。

暗くなる。虫たち、目を閉じる。

秋の夜長的な感じでいろいろな虫の音が静かに聞こえてくる。

明るくなって。

虫たち、満足げに目を開ける。

虫たち どう?

動物(1) どうって…。それじゃただの効果音じゃない。

虫たち でも、いい感じでしょ。

動物(1) ダメ。全然ダメ。あなた本当にキャラなしね。はっきりいってそれじゃモノマネよ。悪いけど「キャラ探し」はあきらめたほうがいいわ。あなたみたいなのを器用貧乏って言うのよ。いろんなキャラが混じり合ってるだけで結局これっていうオリジナルのキャラが出てこないでしょ。そんなんじゃ王子様のお供したって、キラリと輝く脇役になんて到底なれないわ。

虫たち ダメかしら…。

動物(1) ダメダメ。もっと自分を見つめ直さなきゃ。(間。優しく)ネ、わかったら帰りなさい。

動物(1)、うなだれている虫たちに履歴書を渡す。

虫たち、履歴書を手にしてトボトボと帰り始める。

が、ふと履歴書に目をやり立ち止まる。

虫たち ドーブツイチ? あんたドーブツイチっていう名前なの?

動物(1) (自分の手元にある履歴書を見て)し、しまった! 間違えた!

虫たち (履歴書を読みながら)種類不明、性別不明、鳴き声なし。何よこれ。あんたもキャラなしじゃないの!

動物(1) イッ、イヤ、それは…。

虫たち アタシにはさんざんオカマキリだとかナナフシギだとか言っときながら、自分だってキャラ未定なんじゃない!

動物(1) …エエ…まぁ…。

虫たち (履歴書を読みながら)エ〜ナニナニ、将来の夢「王子様に名前をつけてもらい、お供として大活躍した後、おとぎ話界のアイドルとしてひとり立ち、歌や映画の世界でも自分を試してみたい」…あんたも王子様の力を借りてキャラの立った脇役になりたいだけじゃないのよ!

動物(1) エヘヘヘヘ。

虫たち 笑ってごまかす気? それにしても、よくもまぁ、しゃあしゃあとこんなこと書けたもんね。…アアそうだ。今度はアタシがあんたの名前決めてあげるわ。「コダイモウゾウ」なんてどう? あんた現実をまったくわかってないみたいだから。

動物(1) イヤよ、そんなの。

虫たち じゃあ「大きなことばっかり言ってるけど本当は何にもできなくてごめんなサイ」は?

動物(1) それ名前じゃなくて文章じゃない…。

動物(1)、木に顔をうずめて泣く。

虫たち 今度は泣きまね?

動物(1)、泣き続ける。

虫たち アラ、本当に泣いてんの?(動物(1)の顔をのぞきこみ)ゴメン、言い過ぎたかも。アンタがいろいろ言うから、つい…。…ネェ、泣きやんでよ。…アタシこういうの苦手なんだからさぁ…。ああ、もう、どうしたらいいの? ネェ、どうしてほしいのよ。

動物(1) (ケロリとして)帰ってほしい。

虫たち クソッ、やっぱりウソ泣きか!

動物(1) ウソ泣きでも、泣けるだけいいでしょ。温かい血がかよってる証拠よ。血が緑色のあなたとはそこが違うの! アッカンベェ〜。

虫たち あんた、よくもそこまで! 昆虫代表としてあなたがた哺乳類に抗議します!

動物(1) なに力んでるのよ。バカみたい。昆虫代表? 笑わせるんじゃないわよ。あなたが「虫たち」っていう名前なのはね、そこらに生えてる雑草の一本一本にいちいち名前つけんのが面倒くさいのと同じ理由よ。ひと山いくらのそのあなたがよ、王子様のお供になんかなれるわけないじゃない!

虫たち もー頭に来た! これ以上話し合っても時間のムダだわ。決着つけようじゃないの。

動物(1) 望むところよ。

虫たち さぁかかってきなさいよ!

虫たち、服を脱ぎ始める。

動物(1) ゲェ〜。だから脱皮はやめろって言ってるでしょ!

虫たち うるさい!

動物(1) そっちこそウザイのよ!

取っ組み合いながら。

動物(1) 虫けらのくせに!

虫たち 何よ! ケダモノ!

しばらくのあいだののしりあいながら取っ組み合い。

虫たち、動物(1)の毛皮を引きはがす。

動物(1) 何すんのよ! 寒いじゃないのよ!

動物(1)、虫たちにその毛皮を巻き付ける。

虫たち やめてよ! 暑いでしょ!

さらにしばらく取っ組み合い。

お互いに疲れて荒い息。

にらみあったまま。

動物(1) ハァハァ…なかなかやるじゃない。

虫たち ハァハァ…あんたもね。

動物(1) それに…。

虫たち 何よ…。

動物(1) その毛皮なかなか似合ってる…。

虫たち あんたこそ、毛皮脱いだほうがイケてるよ。

動物(1) マジ?

虫たち エエ。

しばらくにらみ合っているが、やがて。

動物(1) ちょっとタイムしていいかしら。

虫たち エエ、いいわよ。

動物(1)、上手にさがり、姿見を持ってくる。

それに、自分の姿をうつして。

動物(1) ホントだ。私ってこんなだったんだ。

虫たち そのほうが絶対いいって。

動物(1) しかも体が軽くなった。

虫たち 顔も明るくなったし。

動物(1) ネェ、あなたも見てごらんなさいよ。

虫たち えっ、そう。…じゃあ。

虫たちも姿見に自分の姿をうつす。

虫たち エエ〜ッ! これがアタシ!

動物(1) ゴージャスでしょ。

虫たち 何だかすごく気持ちが落ち着くわ。

動物(1) 顔もすっきりしたわよ。

虫たち アタシ今まで脱ぐことばっかり考えすぎてたのかも。

動物(1) 私は毛皮を着こなすことしか考えてなかったけど…意外だわ。逆もまた真なりね。

虫たち ホント。

動物(1) アッ、そうだ。ネェネェこういうのもしてみたら。

動物(1)、虫たちにネックレスをつけてやる。

動物(1) ホラ、いいじゃない。

虫たち スッゴーイ!

動物(1) あげる。似合ってるから。

虫たち エ〜、いいの? こんなものもらって。

動物(1) 気にしないで。

虫たち じゃあ、お返し。これしてみて。

虫たち、動物(1)にポシェットを渡す。

動物(1) エ〜ッ、こんなの似合うかなぁ〜。

虫たち ダマされたと思って。

動物(1)、ポシェットをつける。

動物(1) ア〜、カワイイ!

虫たち でしょぉ〜。じゃあ、それはあなたのものよ。

動物(1) なんだかアタシ、生まれ変わったみたい。

虫たち 私もよ。

動物(1) アリガト。

虫たち 私こそ…。

遠くから、ザッザッという行進の音と馬のいななき。

動物(1) アッ!

虫たち 王子様!

二人、その場で凍りついたように立ちつくす。

目だけで、上手から中央まで、王子様の姿を追う。

目線が中央に来たとき、ザッザッという行進の音が止まる。

二人、王子様と目があったような感じでやや上を見上げて立ちつくす。

二人、かすかに首を横に振る。

馬のいななき。再び、ザッザッという行進の音。

二人、中央から下手に向かって目線を動かす。

行進の音、遠くなり消える。

動物(1) ねぇ…。

虫たち 何?

動物(1) どうして首をふったのよ。

虫たち 何だか思ってたのと違ったから…。あなたはどうして?

動物(1) アタシも。何か違う気がした…。お供の人、たくさんいたし、二列に並んでイチニッイチニッって。

虫たち 同じ服来てたしね。

動物(1) だよね。あんなのイヤだよね。

虫たち うん、ああいうのはイヤ。

動物(1) それにさぁ…。あの王子、何かダサくなかった?

虫たち そうそう。私もそう思った。

動物(1) 何、あの服。シマシマでさぁ。

虫たち 肩とか腰とかタマネギみたくふくらましちゃって。

動物(1) かなり勘違いしてるよね。

虫たち トシごまかしてそうだし。

動物(1) うん、絶対ごまかしてる。あれ王子じゃないよ。

虫たち 馬もしょぼかったよね。

動物(1) あれ、元は黒い馬だったりして。

虫たち トシとって白くなったわけ。

動物(1) ヨボヨボじゃん!

二人  アハハハハ。

しばらく間。

動物(1) これからどうする?

虫たち せっかくだからこの服見てもらいたいな。たくさんの人に。

動物(1) アタシも。それにもっと色々ためしてみたくなっちゃった。

虫たち そうだね。もっと似合う服あるかもね!

動物(1) きっとあるよ。

虫たち うん。きっとある。

動物(1) 探してみたいな。

虫たち うん、探してみたい。

しばらく間。

動物(1) どっちに行く?

虫たち (上手を指さし)私はあっちにする。

動物(1) (下手を指さし)じゃあ、アタシはあっち。

しばらく間。

動物(1) また会えるかな。

虫たち 会えるよ、きっと。

動物(1) 今度会うときはもっと驚かすよ。(ポーズ)

虫たち 私こそ。(ポーズ)

二人、目を合わせてニッコリとする。

軽やかな音楽が流れる。

動物(1)は下手へ、虫たちは上手へ歩き始める。

二人、中央ですれ違い、すれ違いざま、お互いの右手をパチンと合わせる。

動物(1) じゃあね。

虫たち じゃ。

二人、そのまま振り返らず別々に歩いて行きつつ。(幕)

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