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グルグルゴーモンマシーン

●5人 ●50〜60分程度

●あらすじ

とある王国のお話。その国では王様の命令で一切の武器を持つことが禁止され、狩人テルルの弓矢も取りあげられてしまうことに。逆らったテルルはお城に連れて行かれ、「グルグルゴーモンマシーン」を見せられる。そこでテルルは王国に隠された意外な秘密を知り…。

●キャスト

テルル
兵士A
兵士B
兵士C
大臣

●台本(全文)

上手スポット。

兵士Bがテルルを連れて登場。

テルルはしばられている。

ギィーッという扉の開く音。

進もうとしないテルルを、兵士Bは槍で脅かしながら部屋の中(舞台中央)へ入れる。

ギィーッという扉の閉まる音。

舞台、パッと明るくなる。

中央にはイス。

下手には、布のかけられた大きな箱。

その前には兵士A。

兵士B 連れてきました。

兵士A (テルルを見て)じゃ、とりあえず、そこに座ってもらおうかな。

座ろうとしないテルル。

兵士B、いきなりテルルの頭を殴る。

テルルのかぶっていた帽子吹き飛ぶ。

それでも座ろうとしないテルル。

兵士B、テルルの肩を突き飛ばし。

兵士B さっさと座れ!

床に倒れるテルル。

テルル、兵士Bを睨み返す。

兵士B なんだその目は! (槍の先をテルルに向け)お前なんか、この場で突き殺したっていいんだぞ!

しぶしぶ座るテルル。

兵士B フン! いちいち手間とらせやがって…。はじめから素直にそうすればいいんだよ。バーカ。

兵士A (兵士Bに)なかなか強情そうだね。

兵士B ハイ。そのようで…。

兵士A …さてと。(手にした書類をパラパラとめくりつつ)フムフム…。(テルルを見て)名前は…テルル、でいいのかな?

答えようとしないテルル。

兵士B コラ! ちゃんと答えろ!

兵士A アア、いいよいいよ別に。名前なんかどうでもいいって。(書類をパラパラとめくりつつ)エーッと、仕事は…ヘェ〜「狩人」ね。なるほどぉ〜。森で鹿とかとってるんだ…。(顔をあげ)で、君、なんでここに連れてこられたかわかってる?

テルル ……。

兵士A わかんないの?

兵士B とぼけんなよコラ!

兵士A (兵士Bに)まぁまぁ…。(テルルに)あのさぁ、素直になろうよ。ホントはわかってんでしょ。ここに連れてこられたワケ。

テルル わかりません!

兵士A ホントに?

テルル、うなずく。

兵士A (書類を見ながら)テルル君、キミさぁ、王様の悪口言ったでしょ。「王様はバカだ」って。

テルル …それは、森に来た兵士が、いきなり私の弓矢を取り上げようとしたから…。

兵士A それでキレちゃったんだ。

テルル キレたって言うか、私は「どうして弓矢を取り上げるんですかって」たずねただけなんです。「私は狩人です、弓矢を取り上げられたら狩りができません」って。そしたらその兵士が、「武器はすべて取り上げる、それが王様のご命令だ」なんて言うもんですから、それでつい…。

兵士A 「王様はバカだ」って言ったわけね。

テルル …ハイ。

兵士B 理由はどうあれ、王様の悪口を言ったことには変わりはないぞ!

テルル でも、どう考えてもおかしいじゃありませんか。狩人から弓矢を取り上げるだなんて。

兵士B キマリはキマリだ。この王国の民である以上、王国のキマリには従ってもらう!

テルル そんな変なキマリ、聞いたことがないよ!

兵士B しらばっくれるな!

テルル 知らないものは知らないんだ!

兵士A (テルルの顔をのぞきこみ)…キミひょっとして、ホントに知らないの?

テルル なんのことですか?

兵士A (書類を見ながら)アーそうか。ずっと森で暮らしてたから知らないんだ。アーそういうことか。あのね、去年、王様から直々のお触れ(布令)が出てね。「王国の民は武器を一切所持すべからず」ってことになったわけよ。わかる?

テルル 武器を一切所持すべからず…。

兵士A そう。だからね、寿司屋の包丁も(指を三センチくらい開けて)こんなに小さくなったし、大工のノコギリも(指を三センチくらい開けて)こんなだよ。

テルル ホントに?

兵士A ああ、そうさ。…だからさぁ、(下手に置いてあった弓矢を手にとり)キミの持ってたこういうのはさぁ、絶対禁止なんだよね。

テルル どうしてそんなお触れが出たんですか?

兵士A 危ないからだよ。

テルル 危ない?

兵士B ああ、そうさ。お前のようなヤツが弓矢を持ってたら、いつ王様の命を狙うかもしれないからな。

テルル 私がそんなことするわけないでしょ!

兵士B さぁどうだか。

テルル あり得ませんよ!

兵士A じゃあ王様に弓を引くことは無いと誓えるわけね?

テルル ハイ。

兵士B けど、もしシカの格好をした王様が、森にいたら射るんじゃないか?

テルル そんなシチュエーションあり得ないでしょ。

兵士B わからないぞ、それは。そういう趣味があるかもしれないし。

テルル どういう趣味なんですか…。(キッとして)とにかく私はただの狩人なんです。何ひとつ悪いことなんかしちゃいないんだ!

兵士B とぼけるな! 王様の悪口を言ったじゃないか! 王様の命令に逆らったり、王様のことを非難するのは、一番重い罪になるんだぞ!

テルル だから、それは…!

兵士B だからなんなんだ!

兵士A (兵士Bを制止して)まぁまぁ…。(テルルには優しく)口がすべっただけだよね。

テルル ……。

兵士A (間。書類をめくりながら)フ〜ン。…キミ、弓の名人なんだね。

テルル エエ、まぁ…。

兵士B アッ、ちょっと待てよ。お前、テルルとか言ったよな。それって、子供の頭にリンゴとか乗せて、それを的にしてウヒャウヒャ喜んでたあのテルルだな。

テルル それはテルでしょ。ウィリアム・テル。

兵士B じゃあ、テルにあやかってテルルって名前にしたんだろ。ニセの家系図とか作って。

テルル いい加減にして下さいよ!

兵士A (兵士Bに)まっ、いいんじゃない。(チラッと時計を見て)帰してやろうよ。

兵士B エエ〜ッ。こんなやつをタダで帰すんですか。…せめて誓約書を…。

兵士A (時計を指さし、小声で)いいんじゃないの、時間も時間だし。お触れのことも知らなかったみたいだからさぁ…。

兵士B (やや不満そうに)…いいならいいですけど…。

兵士A (テルルに)じゃ、今日のところは帰っていいよ。そのかわり、二度と王様の悪口は言わないでね。今度言ったら、勘弁しないからね。ハイ。お疲れさん。

兵士A、書類をまとめて帰ろうとする。

テルル …あの。

兵士A (振り向いて)何? まだいたの?

テルル 私の弓矢を返して下さい。

兵士A それはダメだよ。

テルル なぜですか?

兵士B お前、オレたちの話、聞いてなかったのかよ。キマリだよ、キマリ。

テルル でも困ります、それは。

兵士A 諦めてよ。王様の命令なんだからさ。

テルル いくら王様の命令でも…。だって、弓矢なしで一体どうやって狩りをしろって言うんですか。寿司屋や大工とおんなじように(指を三センチくらい開けて)こんな弓矢にして、それで狩りをしろって言うんですか? そんな弓矢じゃネズミ一匹とれませんよ。

兵士B この野郎。猟師の分際でごちゃごちゃ言うんじゃねぇ! 黙って聞いてりゃ調子に乗りやがって。無事に帰れるだけでもありがたいと思え!

テルル (ちょっと興奮して)なんて横暴な。一体いつの間にこの国はこんなに窮屈になったんですか。

兵士B ダメだコイツ。全然反省してない。

テルル 何言ってるんです。何も悪いことをしてない私が、一体何を反省しなければいけないんです! とにかく弓矢を返して下さい!

兵士A 困ったなぁ〜。頼むからさぁ、弓矢は諦めてよ。

テルル 絶対イヤです。

兵士A …いいじゃない。(弓矢を手に取り)弓矢のひとつくらい…。

テルル 「くらい」とは何ですか「くらい」とは! 弓矢は狩人にとっては命の次に大事なものなんですよ!

兵士B 命の次? (ちょっと笑って)じゃあ、命のほうが大事なんだろ。

テルル どういう意味ですか。

兵士B どういう意味って、そういう意味だよ。

テルル、兵士Bを睨む。

兵士B なんだその態度は!

兵士A まぁまぁ…。(テルルに)とにかくさぁ、王様が決めたことだから、従ってよ。

テルル イヤです。

兵士A でも、みんなそうしてるんだしさぁ。

テルル 他の人は関係ありません。

兵士A でもさぁ、王様が…。

テルル 王様、王様って、あなたたち王様が決めたことならなんだって聞くんですか。

兵士B 聞くさ。

テルル バカな王様が決めたバカなキマリでも?

兵士B お前、今のは聞き捨てならんぞ! もういっぺん言ってみろ!

テルル 何度だって言ってやる。バカだからバカなんです。王様はバカだ!

兵士B (兵士Aを見て)どうします?

兵士A ヤレヤレ。こりゃぁしかたないな。アレ使おうか。

兵士B わかりました。では連れてきます。

兵士B、サッと上手へ消える。

兵士A、面倒そうに下手の大きな箱にかけられていた布をとる。

箱には、おどろおどろしい絵。「グルグルゴーモンマシーン」と書かれた札がついている。

兵士A これが何かわかる?

テルル …。

兵士A これ、グルグルゴーモンマシーンって言うんだよね。(札を指さし)…ここに書いてあるからわかるか…。

テルル …私をどうするつもりです。

兵士A …今にわかるよ。

兵士B、下手より、縄にしばられた兵士Cを連れてくる。

兵士B、イヤがる兵士Cを引っ立ててグルグルゴーモンマシーンのほうへ連れていく。

兵士C、悲痛な面持ちで。

兵士C やめろぉ〜。やめてくれぇ〜。これだけはイヤだぁ〜!

兵士B うるさい! 観念しろ。脱走兵のくせに!

兵士A (兵士Cを指さしつつ、テルルに)あいつさぁ、兵士のくせに脱走しちゃってさぁ、…やっぱ、そういうのダメじゃない。だから、根性をたたきなおさなきゃなんないんだよね。(兵士Cに)…さっ、入った入った。

兵士C イヤだぁ〜! グルグルゴーモンマシーンだけは勘弁してくれぇ〜!

兵士B もう遅い! さぁ、入れ!

兵士C イヤだぁ〜!

兵士B、イヤがる兵士Cを箱の中に押し込め、ドアを閉める。

兵士A スイッチオン。

兵士B 了解。

兵士B、箱についているレバーを引く。

箱の中から、キキキィーという気持ちの悪い音と、ガンガンという音。

それに混じって、兵士Cの叫び声。

兵士C 助けてくれぇ〜! ギャー! なんだこれはぁ〜! やめてくれぇ〜。ゴメンナサ〜イ!

ややあって。

兵士A それくらいにしといてやれ。

兵士B ハッ。

兵士B、レバーを元に戻す。

キキキィー、ガンガンという音、止まる。

兵士B、ドアを開け、箱から兵士Cを出す。

兵士Cは、放心してヨレヨレの状態。立ち上がることもできないまま。

兵士C (大げさに)地獄だ…。オレはこの世の地獄を見た…。

兵士A どうだ。このマシーンの恐ろしさがわかったろう。

兵士C、うなずく。

兵士A もう二度と脱走なんかするんじゃないぞ。

兵士C …ハイ。二度と致しません。

兵士A 今度脱走したら、一日中、この中に入れてやるからな。

兵士C ヒィ〜、それだけはお許しを! この中に入れられるくらいなら、死んだほうがましです!

兵士A 明日からは気持ちを入れ替え、王様に忠誠を尽くすと約束するか。

兵士C ハイ。もちろんです。

兵士A うん、わかればよろしい。(兵士Cに書類を渡しつつ)じゃ、この誓約書にサインをしてもらおうか。

兵士C ハイ。

兵士C、書類にサイン。兵士A、それを受け取って。

兵士A (兵士Bに)よし、連れて行け。

兵士B ハッ。

兵士C、兵士Bにかかえられるようにして、下手に消える。

兵士A、それを見届け、テルルに。

兵士A さぁ、キミはどうする? あんな目にはあいたくないだろ?

テルル こんなことをしていいと思ってるんですか。

兵士A …これも王様の命令なんでね。どう? イヤでしょ?

テルル 私は…。

兵士A 私は?

テルル …私は納得できません。

兵士A (首を振って)ダメダメ。それじゃ答えになってないよ。グルグルゴーモンマシーンに入ってこの世の地獄を味わってから王様への忠誠を誓うか、それとも入れられる前に王様への忠誠を誓うか。道は二つに一つだよ。

テルル …。

兵士A ホントにガンコだねぇ〜。あのさぁ、さっき見たでしょ。日頃鍛えてる兵士でさえあんな風になっちゃうんだから、キミなんかがこの中に入ったらどうなるか…。(腕組みをして)たぶん目も脳みそもグルグル回転しちゃって、二度と弓矢なんか使えなくなるんじゃないかな…。イヤ、最悪の場合はもっとヒドイことになるかも…(間)どうする? もう言わないって約束してくれるだけでいいんだけど…。

テルル …でも。

兵士A そんなに意地をはらなくてもいいんじゃないの? キミだって王様のこと、心底憎んでるわけじゃないでしょ?

テルル ええ、まぁ、それは…。

兵士A 狩人の弓矢は例外にしてくれるように、大臣に頼んでおくからさぁ。

テルル ホントですか?

兵士A うん。約束する。すぐにってワケにはいかないと思うけど、現場からの声ってことで上にあげとくからさぁ、申し訳ないけど、ちょっとだけ、我慢してくれないかなぁ。

テルル …。

兵士A キミの弓矢は、そのときまで大事に保管しておいて、王様の許可が出たら、すぐに森に届けさせるから。ネッ。どう、それで?

テルル …でも、その間、狩りができないのは困ります…。

兵士A (小声で)これは内緒の話だけど、森に帰ったら、別の弓矢を作って、それで狩りをすればいいんだよ…。

テルル そういうのいいんですか…。

兵士A いいの、いいの。要するに見つからなきゃいいんだから。(ウインクして)わかる? わかるよね。

テルル …まぁ、なんとなくは。

兵士A というわけだからさぁ、納得してよ。キミがあの弓矢を大事にしてるのはよくわかるけど、このマシーンに入れられるよりはいいでしょ。

テルル ……。

兵士A わかってくれるよね。

テルル …ええ。まぁ…。

兵士A よーし。一件落着!

兵士A、テルルに近寄り、縄をほどく。

兵士A、書類を取りだし。

兵士A じゃ、一応ここにサインしといてくれる。

テルル サイン? (書類を見て)「もう二度と王様の悪口は言いません」。…これにサインを?

兵士A うん、誓約書がないとさぁ、我々も仕事したっていうことになんないからさぁ、…頼むよ。

テルル …。

テルル、割り切れない様子でサイン。

兵士A ハイ。じゃ、もう帰っていいよ。ゴクロウサン。アリガトね。

兵士A、書類をまとめてウキウキした感じ。

テルル、とまどいつつも上手へ。

扉の開く音。

テルル、上手に去る。

////////////////////

兵士B、兵士C、下手より出てくる。

兵士B 終わりました?

兵士A うん。終わり終わり。

兵士B サインは?

兵士A (書類を見せつつ)もらったよ。

兵士B (ガッツポーズで)ヨッシャー!

兵士A さっ、片づけようか。

兵士C 明かり消しますか?

兵士A そうだね。

明かり消える。中央のみぼんやり明るい。

兵士A、兵士B、兵士C、中央に集まって。

兵士B しかし、さっきのヤツ、かなり強情でしたね。

兵士A そうだね。就業時間ギリギリになってあれはちょっとキツイよね。

兵士B 残業になるかと思いましたよ。

兵士A ホントホント。(グルグルゴーモンマシーンを指さしつつ)アレがあってよかったよ。

兵士B けどマジで焦りましたよ。時計見たら五時だったんで、(兵士Cを見て)彼、もう帰っちゃったんじゃないかと思って…。

兵士C ボクだってビックリしましたよ。今日はもう終わりだと思って着替えてたら急にお呼びがかかるんだもの…。

兵士A もし、帰っちゃってたらヤバかったよね。

兵士B そりゃヤバイですよ。ひっこみつかないもの。…ホントいてくれて助かった。

兵士C で、どうでした? ボクの演技。

兵士A サイコーサイコー。

兵士B やっぱ、違うよ。迫力が。

兵士C そうっスか。うれしいっス。

兵士B あの、箱から出てきたときのさぁ、「オレはこの世の地獄を見た…」っていうセリフ。あれ好きなんだよな。

兵士A 箱の中に入ったときの、「やめてくれぇ〜。ゴメンナサ〜イ!」って言うのもいいよね。

兵士B アア、それもいいですよね。

兵士C ありがとうございます。

兵士A あとさぁ、音響っていうの。あの音もよくできてるよ。

兵士C (黒板とバケツを手にとり)アア、これですか。

兵士C、黒板を指でひっかき「キキキィー」という音をだす。次にバケツをたたいて「ガンガン」という音。

兵士A アハハ。それそれ。

兵士B あのバカ、こんなのにダマされやがって。アハハハハ。

兵士A (兵士Cの肩に手をおき)それもこれもキミの熱演があってこそだけどね。

兵士B ヨッ。千両役者!

兵士C やめて下さいよ。ただのバイトなんですから…。

兵士B アレ、キミ、バイトだったんだ。

兵士C ええ、そうですよ。

兵士B オレ、てっきり、プロの役者かと思ってた。

兵士C まさかぁ〜。…えっと、あの、あなたはバイトじゃないんですか?

兵士B オレ? オレは契約だよ。

兵士C ケーヤク?

兵士B 契約社員。まっ、兵士だからさぁ、社員って言うのも変だけど…。歩合でやってんだ。

兵士A 歩合制なの?

兵士B ええ。さっきみたいなヤツを一人反省させたらいくらって感じの契約で…。要するに誓約書にサインさせた数で決まるんですよ、毎月の給料が。

兵士A アア、なるほど…。だからいつもサインさせるとガッツポーズとかしてるんだ。

兵士B エヘヘヘヘ…。そうなんですよ…。いくらガンバッテも、サインまでいかないとカネにならないもんで…。

兵士A そっかぁ。そうだったんだ。前々から随分仕事熱心っていうか、怖い人だなぁ〜って思ってたんだよね。

兵士B イヤイヤ。ホントはいい人なんだけど無理してやってんですよ。アハハ。生活のためですよ生活の。

兵士C 結構大変なんですね。

兵士B そりゃぁ、(兵士Aを見て)そちらさんとは違うよ。

兵士A イヤイヤ、私だって、似たようなもんさ。

兵士B エッ? そうなんですか?

兵士A (小声で)派遣だよ派遣。短期の。

兵士B 派遣…だったんですか?

兵士C エエ〜ッ! ボク、てっきり正社員だと思ってました。

兵士B オレも。

兵士A まさか!

兵士C じゃあ更新とかあるんですか?

兵士A うん。三カ月ごと。だから変わんないよ、キミたちと。

兵士C そうだったんですか。イヤァ〜、驚きました。

兵士A (小声で)あのさぁ、ここだけの話だけどさぁ、お城の兵士って、みんな私たちと同じらしいよ。

兵士C 同じって…?

兵士A バイトとか契約とか派遣とか、そういう感じ。

兵士B マジですか?

兵士A らしいよ。

兵士C ヘェ〜…。

兵士A 武器とかも適当なの持たされてさ。

兵士B (自分の槍の穂先をグニャグニャ曲げて)ってことは、他の兵士も全員こんなゴムの武器を持たされてるってことですか?

兵士A うん。そうらしいよ。アブナイからね。ホンモノ持たせると。

兵士C …そうだったんだ。…でも、そう言われてみれば(箱の扉を開け放し)これだって、タダの箱だからなぁ…。

兵士B やめとけよ。誰かに見られたらマズイぜ。

兵士C アッ、そうですね…。

兵士A、箱の扉を閉めつつ。

兵士A …ヤバイヤバイ。こんなとこ、誰かに見られたらクビになっちゃうよ。…秘密厳守、口外無用が採用条件だからね。

兵士B アア、それオレも言われました。しかも大臣じきじきに。

兵士C アッ、ボクもそうです。

兵士A 私もそうだよ…。そうか、みんな大臣から言われてたのか…。

兵士C つまり、これってかなりのシークレットってことですよね。

兵士B そりゃそうだろ。ニセモノの兵士に、ニセモノのゴーモンマシーンだもの。

兵士C ひょっとして、お城もハリボテとか。

兵士A まさか、そこまでは…。

兵士C でも、どうしてこんなことするんスかね。

兵士B カネがないのかな?

兵士A そんな風にもみえないけど…。まっ、どうでもいいじゃない。こっちは言われたとおり働いて、それで給料もらってんだから。

兵士B そりゃそうだ。

兵士C ですよね。お金さえもらえれば別にどうでもいいわけだから…。

上手より、テルルの声。

テルル なんてことだ!

兵士B 誰だ!

兵士A 明かりを!

兵士C ハイ!

明るくなる。

上手に立っているテルル。

兵士B …お前。

兵士A い、いつからそこに?

テルル 「あのバカ、こんなのにダマされやがって。アハハハハ」あたりかな。

兵士B お、お前が聞いたことは全部ウソだ! えっと、えっと、ああ、そうだ。今のは、忘年会でやる「もしもの兵隊」っていうコントの練習だ。(兵士Cに)なっ、そうだよな。

兵士C あっ、ハッ、ハイ。

テルル もう少し、マシなウソをついたらどうです。

兵士B コッ、コイツ。

兵士B、槍をテルルに向ける。

テルル おもしろいですね。刺して下さいよ。ゴムの槍で。

兵士B クッ、クソ…。

兵士A、兵士Bの肩に手を置き。

兵士A やめときなよ。もう、ダメだよ。完全にバレてる…。(テルルに)あの、テルルさん。あなたどうして、ここに?

テルル (中央に歩みつつ)帽子を取りに来たんですよ。(落ちていた帽子を拾い、兵士Bをチラッと見て)この人に飛ばされた帽子を。

兵士B …。

テルル それにしても随分ふざけたことをしてくれるじゃありませんか。

兵士A いや、だからこれは…。

兵士B いろいろあるんだよ。

兵士C わかって下さい。バイトもつらいんです。

テルル 一体、いつからこんなことしてたんですか?

兵士B いつって…。

兵士C ボクは、半年ほど前からです。

兵士B アア、オレもだ。

兵士A 私は、一年くらいになるかなぁ。

テルル (兵士Aに)あなたが一番古いわけですか…。(間)あなた、ホンモノの兵士を見たことあります?

兵士A いえ…。

テルル 一度も?

兵士A ええ、この仕事を始めたときには、もう、ホンモノの兵士っていうのはいませんでしたね。それから後も一度も見たことないです。

テルル つまり、この国には、一年以上も前から、ホンモノの兵士が一人もいないってことですか…。信じられない…。その上、ニセモノの兵士とニセモノのゴーモンマシーンを使って、人々を押さえつけてたわけですよね。

兵士A ええ、まぁ…。

テルル しかも、ニセモノの兵士は責任感ゼロ。(兵士Bを見て)自分の成績を上げるのに夢中な人とか、(兵士Aを見て)ことなかれ主義の人とか、(兵士Cを見て)お金さえもらえればっていう人とかばかり…。いやはや、あきれてものが言えませんよ。

三人  スミマセン…。

テルル (兵士Aに近づき)とにかく、私の弓矢を返してもらいましょうか。

兵士A アッ、ハイ…。

兵士A、下手に置いてあった弓矢をテルルに渡す。

受け取ったテルル、弓を引くマネをして、感触を確かめる。

その様子を見ていた兵士A。

兵士A …あのぅ。

テルル 何です。

兵士A …こんなときに、こんなこと言うの、とっても心苦しいんですけど…。あの…もしよかったら…私たちの仲間になりませんか?

テルル ハァ? どういうことですか?

兵士A どういうことって…。つまり、その…。こういう仕事…してみません?

テルル 私にニセモノの兵士をやれと?

兵士A ハイ…。(頭を下げて)…そうしてもらわないと、私たち…。(頭を下げたまま兵士Bと兵士Cを見て)なぁ。

兵士C エエ、そうしてもらわないと…。

兵士B オレたちクビになるもんな…。

テルル クビ?

兵士A 秘密厳守ですから…。テルルさんに知られてしまったってことは、就業規則違反なわけで…。…就業規則違反は即クビなんですよ。だから仲間になってもらえないかと…。

兵士C お願いです。テルルさん。今クビは困ります!

兵士B 頼む、仲間になってくれ!

テルル お断りします! 正規の兵士ならともかく、どうして私がニセ兵士をやらなくっちゃならないんですか。

兵士A やっぱり…。

B・C ダメですか…。

兵士A (ガックリうなだれ)アア…家に帰ったらきっとひどく怒られる…。一家八人、明日からどうやって暮らしていけばいいか…。

兵士C この不景気ですからね…。ボクだって、もし次のバイトが見つからなかったら、学校やめるしかないけど…。中退じゃ、就職もままならないしなぁ…。アア、お先真っ暗だぁ〜。

兵士C、ガックリとヒザをつく。

兵士B、立ちつくしたまましんみりと。

兵士B オレなんかもう死ぬしかないよ…。今さらやりなおせないもん。…みんな、今までアリガトね。明日の新聞に水死体の記事が出てたら、それオレなんでヨロシク。(間)…もっとみんなとここで働きたかったけど…。ウウウ…。

兵士A わかる。その気持ち…。

兵士C わかります。ボクも。

うなだれる三人。

テルル ちょ、ちょっと待って下さいよ。何もそんなに落ち込まなくてもいいじゃありませんか。もっとちゃんとした仕事を探せば…。

兵士C (キッと睨んで)テルルさん。あなた何もわかっちゃいませんね。今、街にはちゃんとした仕事なんてそうはないんです。これだってやっと見つけたバイトなんです…。

兵士B そうそう、そのとおり! 今どきオレみたいなモンをまともに扱ってくれるとこなんかほかにあるもんか!

兵士A …テルルさん。二人の言うとおりなんです。あなたは森にいたから知らないかもしれませんが、よほどのエリートか、文句を言わない家畜みたいなヤツか、今は、そういうのしか相手にしてくれない世の中なんです。ここみたいなおいしい仕事、滅多にあるもんじゃありません…。

テルル …そうなんだ。

兵士A だからお願いです。仲間になって下さい。大臣には私たちからお願いしますから!

テルル いや、でも…。

兵士A いいじゃないですか。森で狩りをするよりはずっと安定した生活ができますよ!

兵士B 大臣は話のわかる人だから、きっと雇ってくれるって!

兵士C ボクよりいい時給でって、頼んでみますから!

三人、テルルを下手へひっぱって行こうとする。

テルル、ふりほどいて。

テルル ちょ、ちょっと待って下さい。みなさんのお気持ちはよーくわかりましたから…。(腕を組み、考える仕草)…そうだ。じゃあ、こうしましょう。今から大臣のところへ行って…。

三人  ありがとうございます!

三人、再びテルルを下手へひっぱって行こうとする。

テルル さっ、最後まで聞いて下さい。…いいですか。大臣のところへ行って、みんなでこう言うんです。「バイトはイヤだ」「契約はイヤだ」「派遣はイヤだ」ってね。

兵士C エエ〜ッ。でも…。

兵士A 無理ですよ、それは…。

テルル 無理なもんですか。当然のことですよ。いいですか。あなたたちは、兵士なんですよ、兵士。それがバイトや派遣のままで、しかもゴム製の槍を持たされてるなんて…。このままでいいわけがないでしょ。

兵士A …それはそうですが。

兵士B でも、なぁ…。大臣、絶対怒るぜ。「贅沢言うな」って。

兵士C ボクたちその場でクビですよ…。

テルル でも、おかしいことはおかしいって言うべきです。…もし大臣がみなさんのことをクビにするなんて言ったら、その時は大臣をクビにしてやりましょうよ。

兵士B 無理無理。相手は大臣だぜ。

テルル 大丈夫。正義は勝つ!

兵士A ですが、逆らったら牢屋に入れられるかも…。

テルル (笑って)そんなことできるもんですか。

兵士C どうしてわかるんです?

テルル だって、このお城の兵士は、みんなニセモノで、ゴムの槍を持っているんでしょ。それにひきかえ(弓を前に突き出し)こっちにはこれがあるんだもの。

兵士B なるほど!

兵士C そうか。テルルさんが味方してくれれば、大臣だって手が出せないわけだ。

兵士A さすが、テルルさん! 弓が上手なだけじゃなくて、頭もキレる!

兵士C しかもいい人だ!

テルル とにかく、こんなインチキいつかはバレます。もしそうなったら、どのみちあなたたちはクビにされるんです。そうなる前に、不正をただし、身分を保証してもらうんです! それがあなたたちのためでもあるし、この国のためにもなる、そうは思いませんか。

兵士A …言われてみればその通りです。

兵士B だよな。バレるよな、こんなインチキ。

兵士C ええ、バレますよ。絶対バレる。

兵士A バレたらクビだ。

兵士B それならいっそ先手を打って。

兵士C 正しいことを正しいことだと言いましょう。

兵士A それが私たちのためにもなるし。

兵士B この国のためにもなる!

兵士C よーし、そうと決まったら、今すぐ大臣のところへ!

テルル じゃあ、行きましょう!

三人  オーッ!

テルルを先頭にして下手へ去る。

暗転。

////////////////////

大臣の部屋。中央奥には赤いカーテンの小部屋。

大臣、ロッキングチェアーに座って、うつらうつらとしている。

突然、ドアをけやぶる音。大臣、驚いてイスから転げ落ちる。

上手より入ってくるテルルたち四人。

大臣  な、な、なんなんだ。キミたち。

兵士A (大臣を指さし)テルルさん。あれが大臣です!

テルル 大臣!

大臣  だ、誰?

兵士C この方は、狩人のテルルさん。

兵士B オレたちを助けるために現れた正義の味方だ。

大臣  狩人? 正義の味方? キミたちを助けるために…? どういうこと?

テルル (キッと睨んで)大臣! どうして、この国には兵士がいないんですか!

大臣  ヘーシ? …いるじゃない、(兵士Aたちを指さしつつ)そこにも、そこにも。

テルル 私が言っているのは、ホンモノの槍を持ったホンモノの兵士のことです。

大臣  (兵士たちを見て)ひょっとしてバレてる?

うなずく兵士たち。

大臣  アイタタタ。(間)…キミたち、確かグルグルゴーモンマシーンの担当だよね。

うなずく兵士たち。

大臣  ってことは、マシーンのことも?

うなずく兵士たち。

大臣  アイタタタタタタ。まいったなぁ〜。どうしたもんかなぁ…。(間。テルルを見て)キミ、テルルって言ったっけ?

テルル ええ。

大臣  黙っててくれないかなぁ…。

テルル お断りします。

大臣  タダでとは言わないよ。

テルル お断りします。

大臣  …あっそう。(間)だったらさぁ、働いてみる気ない? 優遇するけど…。

テルル 大臣までそんなことを…。お断りします!

大臣  …あっそう。だったらさぁ…。

テルル 大臣! まず私の質問に答えて下さい。

大臣  質問? …アア、兵士がいないわけ?

テルル エエ、そうです。

大臣  それは…まぁ…いろいろあって…。あっ、そうそう、そうだ。王様のご命令なんだよね。

テルル 王様の?

大臣  うん、そう。最近はさぁ、バイトの子とかのほうがマジメだとかおっしゃって、それで…。

テルル バカ言っちゃいけませんよ。ハンバーガー作るのとはわけが違うんですよ。バイトや派遣のニセ兵士が、命がけで国を守る気になると思いますか?

大臣  そんなこと言っても、王様が…。

テルル だったら王様に会わせて下さい。

大臣  (あわてて)ダメ、ダメ。それはダメだって!

テルル いいえ、会わせてもらいます。会って、この人たちをちゃんとした兵士として雇ってもらいます! そうすればこの人たちだってきっと責任を持ってバリバリ仕事をするようになるはずです!

三人  そうだ、そうだ! ガンバレ、テルルさん!

大臣  無理に決まってるだろ。狩人のキミが直接王様に会うなんて。

テルル そんなこと言ってる場合じゃないでしょ。もし今、まわりの国が攻めてきたら、大臣、あなたどうするつもりですか!

大臣  そ…それは…。

テルル ゴムの槍で戦うんですか? 常識で考えて下さい。こんなこと、いつまでも続くはずがないでしょ!

大臣  …うん、まぁ…たぶん。

兵士C テルルさん、もう一押しです!

テルル はっきり答えて下さいよ。大臣はこの国のこと、どう思ってるんですか!

大臣  …それは…その…。

テルル アア、なんてことだ。こんな人が大臣だなんて! もういいです。王様! 王様はどこです!

兵士A テルルさん。王様はあのカーテンの向こうです!

テルル (カーテンに向かって)王様! 王様!

テルル、カーテンに近づき、開けようとする。

大臣  ヤメなさい!

テルルを必死でとめる大臣。

テルル はなせ。はなすんだ!

大臣  イヤ、それだけは。それだけは絶対ダメです!

テルル みんな、大臣を!

三人  オウ!

三人、大臣を押さえつける。

大臣  やめろ! やめるんだ!

テルル いいえ、やめません! 王様!

テルル、カーテンをサッと開ける。

そこには玉座。

玉座には冠をかぶった人形。

テルル こっ…。これは…。

兵士C 人形…。

兵士B まさか…。

兵士A これが私たちの王様…?

大臣  アア…。もうおしまいだ…。

テルル どういうことですか大臣。説明して下さい。

大臣  …。

テルル 本当の王様はどこにいるんですか。

大臣  …王様は…いません。

テルル いない? いないっていつから。

大臣  二年前…。

テルル 二年前? 逃げたんですか? よその国に。

首を横に振る大臣。

テルル じゃあ一体…。

大臣  亡くなられました…。

テルル 死んだ…。

兵士A 王様が…。

兵士B 死んでたなんて…。

兵士C …信じられない。

テルル …病気ですか。

首を横に振る大臣。

テルル …殺されたんですか…。

うなずく大臣。

テルル まさか、あなたが…。

大臣  めっ、滅相もない!

テルル じゃあ誰に。

大臣  …兵士たちに。

テルル 兵士? どこの国の。

大臣  …この国の…です。

テルル 一体どういうことです。

大臣  兵士たちが反乱を…。…クーデターが起こったんです。

テルル クーデター…。

兵士A 知らなかった…。

兵士B オレもだ。そんなことがあったなんて…。

兵士C ボクもです。ボクも全然知らなかった…。

テルル どうして国民には知らせなかったんですか、そんな大事件。

大臣  それは…その…。遺言で…。

テルル 王様の?

沈黙する大臣。

テルル 黙ってたらわからないでしょ。王様じゃないなら、誰の遺言なんです!

大臣  (間)…だ…大臣の…。

テルル ? ダイジン? 大臣はあなたでしょ?

沈黙する大臣。

テルル …ひょっとしてあなたもニセモノ?

うなずく大臣。

兵士A 大臣じゃなかったんですか。大臣。

大臣  うん。

兵士B それじゃ、あなたは一体?

大臣  使用人として、大臣の身の回りのお世話をしておりました。

兵士C だからエラそうな感じがしなかったんだ…。

テルル ホンモノの大臣もそのクーデターで?

大臣  …イエ。クーデターを鎮圧したのは大臣です。けれども、その時の心労がたたって…。王様の後を追うかのようにお亡くなりに…。シクシク。

テルル なるほど…。で、その大臣が死ぬときに、クーデターのことはふせるようにっていう遺言があったわけですね。

大臣  ハイ…。他にもいくつか…。

テルル 他にも?

大臣  エエ。

大臣、机の引き出しから遺言を取りだし読む。

大臣  「ひとつ。この国には王様をおくべからず」「ひとつ。この国には兵士は不要なり」「ひとつ。武器を持つ者から武器を取り上げるべし」…以上です。

テルル ワケがわからないなぁ…。

大臣  大臣は、こうおっしゃってました。「王様がいるから、それに取って代わりたくなる者が出てくる。兵士がいるから争いが起こる。武器があったから、お城は血まみれになった」と。

テルル …そして、その遺言をあなたに託したわけですね。

大臣  ハイ。大臣は、今際(いまは・読み「イマワ」)のきわに、「お前が私の代わりをしろ。そしてここに書いてあることを守ってくれ」とおっしゃって、この遺言を私の手に…。とっさのことで、私、中身も見ずに思わず「ハイ」と答えてしまいましたが…。…遺言を守ることが、これほど大変なことだったとは思ってもみませんでした…。考えてもみて下さい。王国なのに王様がいないなんて変じゃありませんか。お城に兵士がいないのだっておかしいですよ。カッコつかないでしょ。武器を取り上げるったって、テルルさんのような狩人がおとなしく弓矢を渡すと思いますか?

テルル それはそうでしょう。

大臣  だから、仕方なく人形に王冠をかぶせたり、バイトの兵士を雇ったり、グルグルゴーモンマシーンを使って脅かしたりと…。…わかって下さい。こうするしかなかったんです。

テルル なるほど…そういうことですか…。あなたなりに努力したってことはよくわかりました。

大臣  そう言って頂けると、苦労した甲斐があります。…シクシク。

テルル でも、あえて言わせて頂きますが、やっぱり、今の状態は変です。国として変です。(兵士たちに)そう思いませんか?

兵士A たしかに…。

兵士B 王様から兵士まで全員ニセモノなわけだからな…。

兵士C これじゃ、国とはいえませんよね。

大臣  …そのことは大臣も重々わかってらっしゃったようです。私に遺言を託された後、「この遺言を守れば、国としての体裁がつかなくなるかもしれない。こんな国、無いのも同然だとか、近々滅ぶぞとか言うヤツがいつか出てこよう。しかし、いろいろ言われても気にするな。実態のないものが滅んだりはしないよ」と言われました。

テルル なんだか責任逃れのような気がするなぁ…。

大臣  でも大臣は国の行く末、人々の幸せを真剣に考えてらっしゃった立派な方です。それは確かなんです! …大臣は最期にこうおっしゃいました。「いろいろ不都合はあってもかまわない。人々を傷つけなければ、それで十分責任は果たしていると思え…」と…。

テルル でも、この人たちを見て下さい。この人たちをバイトや派遣や契約のまま働かせ続けて、それでいいんでしょうか? 弓矢を取り上げられた狩人はどうすればいいんでしょう? 盗賊から、人々を一体誰が守るんですか? いや、盗賊だけじゃない。まわりの国がもし今攻め込んできたら、それこそひとたまりもありませんよ。亡くなられた大臣が、クーデターの再発をおそれて、その遺言を残したんだってことはよくわかりますが、いつまでもその遺言にしばられ続けるのはおかしいんじゃありませんか?

兵士A その通り! このままじゃ物騒で、私たち家族は夜もおちおち眠れない!

兵士B その通り! バイトや派遣のままでは、オレたちだってやる気が出るもんか!

兵士C その通り! 自分の国は自分で守るべし!

テルル どうですか、大臣。

大臣  …ですが。

テルル あなただってツラいでしょ。このまま国中の人にウソをつきつづけるのは。

大臣  それはその通りですが…。

テルル もう十分じゃありませんか? 十分頑張ったと思いますよ。天国の大臣だって、これ以上あなたを苦しい目にあわせたくはないと思いますがね。

大臣  …ウウウウウ。

大臣、堰を切ったように泣きくずれる。

テルル、優しく。

テルル 一人で責任を抱え込まないで、みんなで力を出し合い、新しい国を作りませんか?

大臣  新しい国? できるんですか、そんなことが。

テルル できますよ、もちろん。不都合をひとつずつ解決してゆけばいいんです。

大臣  ひとつずつ?

テルル エエ。まず第一の改革。この人たちを、今日からこの国の正式な兵士に! どうですか?

大臣  …ハ、ハイ…わかりました。そのように致します…。

三人  テルルさんバンザイ! テルルさんバンザイ! テルルさんバンザイ!

テルル あっ、それから、大臣は、このまま大臣を続けて下さいよ。なんたってこの国を一人で切り盛りしてきたわけですからね。

大臣  私が、大臣に?

テルル エエ、ホンモノの大臣に。(三人に)いいよね、それで。

三人  バンザイ、大臣! バンザイ、大臣! バンザイ、大臣!

テルル (大臣に)いいかな。それで。

大臣  …ハ、ハイ。私でよければ…。

テルル じゃ、そういうことで。

テルル、上手へ去ろうとする。

大臣、それを見て。

大臣  ちょっとお待ちを!

テルル (振り向いて)まだ何か?

大臣  もう一つ大事なことが。

テルル なんだっけ?

大臣  兵士も大臣もホンモノにしたからには、(人形を指さし)やはりアレもあのままというわけには…。

テルル アアそうか。アレがあったか。(間)困ったなぁ〜。王様の血筋は?

大臣  絶えております。

テルル 親戚とかは?

大臣  隣国にはおりますが、それではこの国が乗っ取られる可能性がございます。

テルル なるほど…。

考え込むテルル。

大臣  テルル様。

テルル ん。

大臣  ここはやはり、テルル様が王に…。

テルル 私が? いやいや、いくらなんでもそれは…。

大臣  けれどもこの国のことを今一番憂えているのはテルル様ではありませんか。そんなテルル様こそ、王にふさわしいのではないでしょうか。(三人に)なぁ、みんな、どう思う。

兵士A テルル様以外には考えられません!

兵士B テルル様のためなら、オレは命を捨てられます!

兵士C テルル様の下で、国づくりの手伝いをさせて下さい!

大臣  (テルルに)いかがですか。

テルル …しかし。

大臣、玉座に座る人形の頭から、冠をはずし、人形を下手に投げ捨てる。

大臣、テルルに近づき、冠をテルルの前に示しつつ。

大臣  ぜひ王に。テルル一世として。

テルル  テルル一世…。

三人  バンザイ、王様! バンザイ、テルル一世! バンザイ、王様! バンザイ、テルル一世!

テルル みながそこまで言うのなら…。

戴冠式の音楽、鳴り響く。

兵士A、マントをテルルの肩にかける。

大臣、うやうやしくテルルの頭に王冠をのせる。

テルルが、玉座につくと、盛大な拍手の音と歓声。

三人  バンザイ、王様! バンザイ、テルル一世! バンザイ、王様! バンザイ、テルル一世!

////////////////////

だんだんと暗くなってゆき、真っ暗な中でテルルにのみスポット。

テルル独白。

テルル …狩人だった私が、今や国王とは…。不思議なこともあればあるもの…。(立ち上がって)しかし、こうなったからには、是が非でもこの国を良い国にせねば!

下手に控えていた大臣にもスポット。

大臣  さぁ王様。みなの者にご命令を!

テルル よし、まずは国の平和を守り、人々に安心を与えるため、国境線を固める。全軍を四つにわけ、東西南北に配置せよ! (ちょっと笑って)もちろんバイトや派遣は不可だぞ!

大臣  ハハァ〜。

大臣のスポット消える。

再び、すぐに大臣にスポット。

大臣  王様。兵を四つに分け、東西南北に配置したところ、各方面とも、十分に守備するには兵士の数が全然足りないことが判明しました。このままでは国境線を守りきれません。いかが致しましょうか。

テルル よし。兵の数を倍、イヤ三倍に増やせ。

大臣  ハハァ〜。

大臣のスポット消える。

再び、すぐに大臣にスポット。

大臣  王様。兵士の数を三倍に増やしましたところ、支払う給料も三倍になってしまいました。このままでは、あと三カ月でお城の金庫が空っぽになってしまいます。いかが致しましょうか。

テルル そうか。しかたない。税金を倍、イヤ三倍に増やせ。

大臣  ハハァ〜。

大臣のスポット消える。

再び、すぐに大臣にスポット。

大臣  王様。税金を三倍にしたところ、民衆が騒ぎ出しました。納税を拒否する者が続出しております。いかが致しましょうか。

テルル なんたること! みなのために使う税金だということがわからんのか。…エーイ、兵をさらに増やし、税金の徴収に当たらせろ。

大臣  ハハァ〜。

大臣のスポット消える。

再び、すぐに大臣にスポット。

大臣  王様。人々が、口々に王様の悪口を…。いかが致しましょうか。

テルル かまわん。そういうヤツは、ひっつかまえて例のグルグルゴーモンマシーンを見せてやれ。

大臣  ハハァ〜。

大臣のスポット消える。

再び、すぐに大臣にスポット。

大臣  王様。

テルル なんだ。

大臣  ハイ。悪口を言う者が多すぎて処理しきれません。いかが致しましょうか。

テルル わからず屋たちめ! ならばグルグルゴーモンマシーンを五倍、イヤ十倍に増やせ!

大臣  ハハァ〜。

大臣のスポット消える。

再び、すぐに大臣にスポット。

大臣  王様。

テルル まだ、何かあるのか。

大臣  グルグルゴーモンマシーンを恐れた人々が、隣国に逃げ出しはじめました。隣国からも弾圧に対する抗議の手紙が届いております。

テルル なんだと。我が国のことに口だしするとはけしからん! エーイ、増やせるだけ兵を増やし、外敵に備えよ。それから国境線を封鎖し、逃げ出す者をすべて捕らえよ!

大臣  ハハァ〜。

大臣のスポット消える。

再び、すぐに大臣にスポット。

大臣  王様!

テルル もう驚かんぞ。なんでも言ってみろ。

大臣  グルグルゴーモンマシーンを十倍にし、兵を増やせるだけ増やしましたところ、お城のお金は完全になくなりました。

テルル ならば税金を…。

大臣  ハイ。そうおっしゃられるだろうと思いまして、税金はさらに倍に致しました。

テルル そうか。よしよし。

大臣  しかし王様。もう誰も税金を払おうと致しません。

テルル なんだと!

大臣  みな口々に、「王を倒せ」と叫びながら、城門の前に集まり始めました。

テルル 「王を倒せ」だと? バカどもめ血迷ったか。…よし、兵を門の前に立たせ、槍で威嚇して追い返せ。

大臣  …王様。

テルル なんだ。

大臣  ほとんどの兵士は国境線に張り付いており、残った兵はわずかです。しかも、この騒ぎに驚き逃げ出す者や、人々の側につくものなどで……誰も王様を守ろうとする者はおりません…。

テルル 何。一人もか。

大臣  ハイ。

テルル クソッ。大臣、外の様子を見てこい。

大臣  ハハァ〜。

大臣、下手へ消える。

一人になったテルル、うつむきながら独白。

テルル …私が何をしたというんだ。…なんでこんなことになる。王国を、王国の人々を守ろうとしただけなのに…。(間)なぜ、人々には私の気持ちが伝わらないんだ…。どうしていっときの我慢ができない。なぜ、国を愛そうとしない。…私にはそれがわからない…。

大臣、下手より走ってきて。

大臣  王様。城門が破られました。民衆はもうそこまでせまってきています。どうか、この城を捨て、お逃げ下さい。

かすかに人々の叫ぶ声。

テルル 逃げる? この私が? バカなこと言うな。私は王様だぞ。王様がなぜ逃げなければいけないんだ。

大臣  しかしこのままでは…。

テルル、ゆっくりと玉座の横に置いてあった弓矢をとる。

大臣  王様、何をするおつもりですか。

テルル 見ればわかるだろう。

大臣  まっ、まさかその矢を、人々に向けて…。

テルル、黙ってうなずく。

大臣  それはなりません!

大臣、テルルの足にしがみつく。

テルル、大臣を振り払い。

テルル はなせ! こうでもしないと、ヤツらにはわからないんだ!

大臣  人々を傷つけてはなりません。それだけは!

テルル …あいつらは人ではない。言葉の通じない獣だ。…そうに決まっている。

ワーワーという人々の叫び声、だんだんと大きく。

テルル (耳をすまし)ホラ見ろ、お前にも聞こえるだろう。あの叫び声。あれは人間のものではない。あれはオオカミだ。オオカミの群れが鳴き叫んでいる…。

大臣  いいえ、人間です!

テルル イヤ、違う。

大臣、テルルにしがみつきつつ。

大臣  テルルさん。目を覚まして下さい! 人とオオカミの区別がつかないんですか!

テルル バカを言うな。私は狩人だぞ。聞き違うはずはない。あれはまさしくオオカミだ。オオカミの鳴き声だ!

大臣  テルルさん!

テルル エエ〜イ、狩りの邪魔だ。はなせ! オオカミを仕留めないと、オレがやられる! やるかやられるかしかないんだ!

テルル、大臣を蹴飛ばす。

ワーワーという人々の叫び声、さらに大きくなる。

テルルにのみスポット。

テルル さぁかかってこい。オオカミども。弓の名人テルルの腕前、とくと見せてやる。

テルル、矢をつがえ、客席に向けて弓をひきしぼる。

ワーワーという人々の叫び声、さらに大きくなる。

叫び声、フッと消え、次の瞬間、舞台真っ暗に。

一瞬の間。

矢の放たれる音が、暗闇に響いて。(幕)

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