少人数向け演劇台本を無料提供。

It’s a Smoky World

●2人 ●20分程度

●あらすじ

ちょっと気まずい感じの高校生男女。ランドのアトラクションの中、なにやら不思議な世界が…。アニメかラジオドラマのシナリオにしてもいいかもしれません。

●キャスト

タカシ
ノゾミ

●台本(全文)

暗い中。

舞台正面を向いて座る高校生風の男女(タカシとノゾミ)。

黙っている。

舞台ソデから、女性の妙に明るい声。

声   それでは、いってらっしゃーい。

ノゾミ、ソデのほうを見て、少しだけ手を振る。

タカシは無言のまま。

ガタン、ゴトンという音。

二人、少し揺れる。

ザザーッという水の音。

少し前のめりになる二人。

「小さな世界♪」流れる。

カクテル光線風の照明。

タカシ、イライラした感じで後ろを少し振り返り。

タカシ なんで二人やねん。

ノゾミ 知らんわ、そんなん。…前後が団体さんやからやろ。

タカシ 並んどる人いっぱいおんねんから、詰めて乗せたったらええんちゃうん。

ノゾミ せやけど、せっかく一緒に来てんねんから、一緒がエエやん。

タカシ かまへんのんちゃうん。別れたら別れたで。

ノゾミ かまへんの? 別れても…。

タカシ「別れる」という言葉にギクリとして。

タカシ …そういう意味とちゃうやろ。

ややあって、口を開くノゾミ。

ノゾミ ……ちょうどええやん。二人っきりやし。ちゃんとハナシしよ。

タカシ ナニがやねん。

ノゾミ とぼけんといて! タカシ、あたしのこと、ムシしてたやん。

タカシ してへんわ。ボケ。

ノゾミ 絶対してた。今かて目そらしてるやんか。

タカシ そらしてるんちゃうわ。生まれつきこんな目ぇなんじゃ。

ノゾミ …前はそんなんちゃうかったよ。

間。

タカシ …疲れてんねん。

ノゾミ …なんで修学旅行でランド来て、彼女と二人でおって疲れんの? それとも何、ウチ、彼女とちゃうのん?

タカシ …………。

ノゾミ なんかしゃべってぇや。こんなん嫌やわ。

タカシ ……。

ノゾミ ウチのこと嫌い?

タカシ そんなこと一言も言うてへんやろ。

ノゾミ ほな好き?

タカシ ……。ええやろ、もう。こんなとこでそんなハナシ。

ノゾミ なんでいっつもはぐらかすん。

タカシ はぐらかしてへんわ。シチュエーション的におかしいやろ言うてんねん。見てみいや。人形がみんなこっち見て笑ろてるぞ。

ノゾミ そんなん関係ない。笑いたい人には笑わしといたらええねん。

タカシ 人ちゃうわ。人形じゃ。

ノゾミ 笑いたい人形には笑わしといたらええねん。

タカシ 変な開き直りかたすんなや。わけわからんわホンマ…。

タカシ、まわりをグルリと見回し。

タカシ ……それにしても、これだけみんな笑ろとると、かえって気持ち悪いな。

ノゾミ かわいいやん。……あたしも人形さんたちくらいかわいかったらよかってんけどなぁ…。……せめてサユリくらいやったらなぁ…。

タカシ なんでサユリやねん。

ノゾミ …さぁ、なんでやろ。ふと口をついて出たわ。…なんでかなぁ。

タカシ 嫌な言い方するなぁ。

ノゾミ ゴメンな。嫌な女で。

タカシ お前なぁ、ええ加減に…。

ゴトン。という音。前後に揺れる二人。

タカシ アッ、止まった。

ノゾミ ゴーストたちがイタズラしたんちゃう。

タカシ それ、違うアトラクションのやつやろ。

ノゾミ やっ、よう知ってるやん。初めて来たくせに。

タカシ アホ。三回目じゃ。

ノゾミ そうなん。

タカシ USJは五回行ってる。

ノゾミ 誰と?

タカシ ええやろ、誰とでも。なんでいちいち引っかかるねん。

ノゾミ 別に。生まれつきやから、気にせんといて。

タカシ くそハゲ!

ノゾミ ハゲてへんわ。

タカシ アーア、もう。(足でボートを蹴るしぐさ)早よ動けや。

ノゾミ エエやん。そのぶん長いこと乗ってられんねんから。アッそうや。せっかく止まってるんやから写真とっとこ。

タカシ やめろや。

ノゾミ なんで?

タカシ アトラクション内は、フラッシュ撮影禁止ぃ。

ノゾミ かまへんやん。誰も見てへんねんから。

ノゾミ、カメラをかまえる。

タカシ やめとけって。

ノゾミ 何があかんの? 意味わからんわ。

タカシ 怒られるぞ。

ノゾミ 誰に。

タカシ 誰か、そのへんにおるんちゃうか。管理しとるヤツが。

ノゾミ そんなんおったって怖わないわ。ウチはなんも悪いことしてへん。真実を伝えたいだけや。

タカシ なんやねん、真実いうて。これ作りもんやで。

ノゾミ 作りもんの真実を伝えるんや。

タカシ アホらし。お前、いつから報道カメラマンになったんや。

ノゾミ 今なった。ああそうや。ウチ、報道カメラマンになるわ。それがええわ。今度、進路指導の先生に言うとこ。

タカシ (あきれて)…ほんまもんのアホや。

ノゾミ アホちゃう。(カメラをかまえたまま)ウチ、今、めっちゃホンマのこと知りたいねん。見えてるもんのホンマの姿。あの人形のことも、タカシのことも、ウチのまわりで起こってることの全部全部がなんでこんなことになってんのか全然わからへんから、そやからいつでも不安で、ビクビクして、自分に自信がもてへんかったんや。ようわかったわ。せやから、写真にとって、ちゃんと見て、納得したいねん。自分自身に真実を伝えるんや。邪魔せんといて。

ノゾミ、シャッターを切る。

フラッシュ光る。

ゴトン。という音。

ノゾミ アッ、動き出した。

舞台ソデから煙(無くても可。無い場合は照明でそれっぽく)。

ノゾミ ゲホッ、ゲホッ。何これ。煙やん。火事ちゃう?

タカシ ゴホッ、ゴホッ…。イヤ、燃えてるような感じとちゃう…。くさないし。…なんかの演出やろ。

ノゾミ ゴーストたちの?

タカシ せやから、それは別のやつや。

ギギギーッという音。

波の音。

右に傾く二人。

ノゾミ なんか変に曲がらんかった?

タカシ わからん。霧で前が見えん。

ノゾミ 大丈夫かな。

タカシ 大丈夫やろ。ランドやねんから。

「小さな世界♪」流れる。

カクテル光線風の照明。

ノゾミ アッ、明るくなった。

タカシ なっ、言うたとおりやろ。

ノゾミ、キョロキョロとまわりをみて。

ノゾミ でも、なんかおかしない?

タカシ 何が。

ノゾミ ここどこ? どこの国?

タカシ …インドやろ。あの人形、笛みたいなん吹いてるし。

ノゾミ よう見て。…あれ、笛ちゃうわ。(短い間)…あれ、…パイプや。

タカシ パイプ?

ノゾミ 煙出てるもん。…あっちの子らはタバコ吸うてるし。

タカシ えっ、タバコ? まさか。…アカンやろ、ここで吸うたら。一番アカン場所ちゃうん。

ノゾミ 待って…あれ、タバコちゃうわ。…あれ、麻薬とかそんなんやわ。顔がいってもうてるもん。

タカシ そんなわけ…(別の方向を見て)…あっ、あいつら、注射器回し打ちしてる…。

ノゾミ なに、ここ…。

タカシ 気色ワル…。みんな、ヘラヘラ笑ろてるで…。

ノゾミ ワッ、あいつ、笑いながらナイフ振り回してる!

タカシ ゲゲゲ。メチャメチャやないか!

暗くなる。

やがて明るく。

ノゾミ なんやったん。今の…。

タカシ わからん。

ノゾミ どこの国?

タカシ 知らんわ。

ノゾミ タカシ、三回目ちゃうん。

タカシ 前とちゃうし…。

ノゾミ 改修したんかな。

タカシ こんな改修、ヘビーすぎひんか。子供やったら百パー泣いてるで。

ノゾミ うん。絶対、夜泣きするわ。ウチでもしそうやもん。

タカシ お前はせぇへんやろ。

ノゾミ するわ。夜泣きくらい。

タカシ (ノゾミの顔を見て)お前、夜泣きの意味ちょっと間違えてるやろ。

ノゾミ 間違えてへん。夜泣いたら、それが夜泣きや。

タカシ やっぱり間違えとる…。

ノゾミ そんなに言うんやったら、今、泣いたろか。ええねんで、ここで泣いても。

タカシ (小声で)わけわからん…。逆ギレもええとこや…ホンマ…。

舞台ソデから煙(無くても可。無い場合は照明でそれっぽく)。

ノゾミ アッ、また煙や。

タカシ どないでもええけど、勘弁してくれや…。ゲホッ、ゲホッ…。

「小さな世界♪」流れる。

カクテル光線風の照明。

ノゾミ 戻った…。(あたりを見回し)ここは普通やね。たぶんサバンナちゃう。サバンナ。

ノゾミ、シャッターを切る

タカシ イヤ、サバンナかもしれんけど、何か変やぞ。みんなメッチャ痩せてるやん

ノゾミ そう? けど、フツーにシマウマがいてるし……。アレッ、倒れた。アッ、あっちも、あっちも。サイも倒れはった。

タカシ なっ、おかしいやろ。地面もひび割れてるし。

ノゾミ 言われてみるとそうやなぁ…。

タカシ こんなん、気が滅入るだけやないか。しょーもない…。

ノゾミ ホンマやわ。ようさん骨、散らばってるし。なんでこんな骨だらけなん?(間)…あっ、ウチわかった。これ…ひょっとして…あれちゃう。

タカシ なんや。

ノゾミ カリブの海賊につながってしもたんとちゃう。あそこホネホネの船長さんとかいてはるやん。間違ってあっちにつながったんやと思わへん。そう考えたらすべての謎が解けるやんか。

タカシ …オレには、お前の頭の回路のつながり方のほうが謎めいてるわ。ありえへんやろ。ランドの構造上、どう考えても。

ノゾミ …違うか。……あっ、けど、見て。あそこの男の子。鉄砲持ってるやん、やっぱりカリブの……。

タカシ ちゃうわ。あれ、狩りや。アフリカの子供が狩りをしてるんや。

ノゾミ けなげやなぁ。まだ子供やのに。

ズドーンという発射音。

少し長い間。

タカシ …見たか。

ノゾミ …見た。

タカシ 撃ったぞ、あいつ。

ノゾミ でも、動物やなくて人が倒れたよ…。どういうこと? …見て、あそこ! 子供らが村を襲ってる! 逃げてる人を……子供が撃ってる。

タカシ アカンやろ、これは…。

暗くなる。

やがて明るく。

ノゾミ 抜けた…。

タカシ めっちゃ、コワかったな…。

ノゾミ 殺戮やんか、完全に。

タカシ サツリクって、お前、難しい言葉知ってんな。

ノゾミ 書けへんけどな。

タカシ 俺も知らんわ。

短い間。

ノゾミ 虐殺と言うてもエエくらいや。

タカシ …そない続けざまに難しいこと言わんでも。

ノゾミ どうしても言葉のはしばしに知性が出てまうねん。悪い癖や。

タカシ …お前。

ノゾミ 何。

タカシ おもろいのはおもろい。

ノゾミ それだけ?

タカシ 十分やろ。なかなかこの状況でおもろいこと言えんぞ。

舞台ソデから煙(無くても可。無い場合は照明でそれっぽく)。

ノゾミ また煙や。

タカシ 大丈夫か。

ノゾミ 心配やったら抱きしめてみたら。

タカシ アホ…。

「小さな世界♪」流れる。

カクテル光線風の照明。

まわり明るく。タカシ、ノゾミの肩にまわそうとしていた手をひっこめ。

タカシ (あたりを見回し)ここは問題なさそうやな。

ノゾミ うん。女の子が踊ってるだけやし。

ノゾミ、シャッターを切る

タカシ やっと普通になった…。これでこそ子供の世界や。

ノゾミ ……けど、あの子、胸出てるよ。

タカシ 南の国やからやろ。

ノゾミ けど、あっちの子、下もつけてない…。

タカシ アッ。…ホンマや。えらい開放的やな。

ノゾミ 踊ってるうちに脱げてしもたんかなぁ。

タカシ アア、そうかもな。一日中踊ってるわけやから、緩んだりもするんやろ。本人、気づいてるんかもしらんけど、そのへんが自分ではどうすることもできひん人形の悲しいとこや。

ノゾミ アッ、あっちの人はちゃんと服着てはるわ。

タカシ ホンマや。けど、あれ、大人ちゃうか。

ノゾミ うん。オヤジみたいやなぁ。

タカシ 場違いやなぁ。

ノゾミ あのハゲかた気持ちワルいわぁ。

タカシ しかも、アイツ、手に持ってんの札束やろ。ここで何を買う気ィやねん

ノゾミ わかってへんなぁ、アトラクションの趣旨を。

タカシ とことん場違いやなぁ。

ノゾミ アレッ…。あれ、見て。

タカシ どこ。

ノゾミ、指をさす。

ノゾミ あっち、…あっち。ベッド…。

タカシ ベッド? エエエエェ。まさか。

ノゾミ そのまさかやわ。

タカシ アカン。あれは絶対アカン。

ノゾミ 最低! どういうつもりなん。

タカシ オレ、あとでランドの社長に言うとくわ。さすがに洒落にならんやろ。

ノゾミ ホンマやわ。夢売らんと、体売ってるんやもん。

タカシ どないなってんねん。

ノゾミ 狂ってるわ。

暗くなる。

やがて明るく。

タカシ ……ひどかったな。

ノゾミ ……もうイヤや。

タカシ けど、ここで降りられへんやろ。

ノゾミ いつまで続くん。

タカシ わからん。

舞台ソデから煙(無くても可。無い場合は照明でそれっぽく)。

ノゾミ またや。コワイ。

タカシ オレもコワイわ。

ノゾミ どないしょ。

タカシ 目ぇつぶっとけ。

ノゾミ つぶったら、よけコワイ。

タカシ ほな、開けとけ。

ノゾミ けど、何見てたらええのん。

タカシ オレ見とけ。

暗くなる。

ゆっくりと明るく。

無音。

ノゾミ 静かやね。

タカシ ああ、静かや。

ノゾミ (まわりを見て)人形、動いてないよ。

タカシ ああ、動いてないなぁ。

ノゾミ それに全部倒れてる。

タカシ 壊れたんかなぁ。

ノゾミ あれ、何?

タカシ どこ?

ノゾミ ほら、人形のまわりになんか飛んでるやん。

タカシ ああ、ホンマや。あれなぁ……。あれ、ハエやな。

ノゾミ ハエ。…ああ、ホンマや。ハエや。

タカシ あれは本物みたいやな。

ノゾミ けど、なんで、人形にハエがたかってんの。

タカシ なんか臭いがするからちゃうか。

ノゾミ 臭い? 死体やから?

タカシ 死体いうことないやろ。死体風なだけで。

ノゾミ …なぁ、タカシ。ウチ、なんかさっきからごっついイヤな感じすんねんけど、よう見て。人形の目。みんなウチらのほう見てへん。

タカシ そういう風に作ってあるんちゃうか。

ノゾミ 作った? 作ったって、誰が作ったん? おかしない。さっきのも、その前のも、前の前のやつも。一体、誰が作ったん? どんなつもりで作ったん? こんなん、作ろうおもて作れるもんなん。

タカシ それはそうや。オレもそう思う。……けど、答えがわからん。

間。

ノゾミ アカン。ウチ、もう限界や。視線に耐えられへん。全員がウチらを責めるように見てる…。

ノゾミ、ボートから降りようとする。

タカシ、ノゾミを抱きとめて。

タカシ 落ち着け。

ノゾミ ムリです!

タカシ ムリでもガマンや!

ノゾミ こんなんイヤや。

タカシ なんとかなるって。

ノゾミ ならへんわ。ウチなんかなんともならへんねん。いつでもそうや。

タカシ 大丈夫や。ガンバレ!ノゾミ。

短い間。ノゾミ、落ち着きを取り戻し。

ノゾミ やっ、ひさびさやわ。

タカシ 何がや。

ノゾミ ノゾミいうて呼ばれたん。

タカシ アホか。

やや見つめ合う二人。

ノゾミ …もう、どないなってもええわ。

タカシ せやから、さっきから言うてるやろ。簡単にあきらめんなや。

ノゾミ あきらめたんちゃう。その逆や。

頭をタカシの肩につけるノゾミ。短い間。

タカシ …アア。そやな。

イイ感じになったところで、再び舞台ソデから煙(無くても可。無い場合は照明でそれっぽく)。

ノゾミ アッ、煙。

タカシ なんやねん、ホンマ。

ノゾミ ゲホッ。ゲホッ。

タカシ ゴホッ。これ…。ゴホッ。これ…。

ノゾミ 何、どなしたん。

タカシ これ、今までのと違う。これ、何かが燃えてる煙や。

ノゾミ …前のほうから来てる。ゲホッ。

タカシ ゴホッ。何が燃えてんねん。

ノゾミ あれちゃう。あの向こうの山。

タカシ 山? ああ、あれか。ホンマや。…派手に燃えとるな。

ノゾミ 目が痛い。…木が燃えてんの?

タカシ イヤ…ああ、あれは…。ああ、あれ、人形やな。ゴホッ。

ノゾミ 人形…。

タカシ 壊れた人形が山積みにされとる。

ノゾミ 壊れた人形?

タカシ ああ。

ノゾミ なんで?

タカシ わからん…。いらんからちゃうか…。

ノゾミ (ゆっくり顔を上げ)ホンマや。しかも燃やされてるのにまだ笑ろてるやん。エエ加減笑うのやめたらええのに…。

タカシ わかってへんねん、人形やから。自分が壊れたんも、燃やされてることも。

ノゾミ ゲホッ、ゲホッ。ウチらはどうなんの。

タカシ とりあえず、このままやったら、突っ込むぞ。

ノゾミ ほな、もうこれで終わりちゃう。

タカシ なんでそう思うねん。

ノゾミ アトラクションって、だいたい最後が一番コワイもんやん。

タカシ アアそれもそうやな。そしたら、ここ乗り切ったらええわけや。ウッシャ〜。ノゾミ、ハンカチで鼻と口押さえて、頭下げとけ。

ノゾミ タカシは。

タカシ オレは、水かぶって、ノゾミの上に覆いかぶさる。

赤い照明。

メラメラと燃える音。

タカシ、自分のカバンの中身を捨てて、水をくみ、かぶる態勢。

タカシ 早よ、せぇや。

ノゾミ (バッグの中身を探しつつ)ちょっと待ってぇや。

タカシ 何してねん。

ノゾミ ハンカチが出てけぇへんねんもん。

タカシ ほな、オレの使えや。

ノゾミ イヤやそんなん。可愛いの持ってきてんねんから。

タカシ そんなこと言うてる場合ちゃうやろ。

ノゾミ ほな、ティッシュにする。

タカシ ティッシュは燃えるやろ。ティッシュ以外でもっと……アッ、あかん。もう間にあわへん! しっかりつかまれ!

ノゾミ おかぁちゃーん!

暗くなる。

ザバーン。ゴゴゴッ。ドンドン。そして静かな水の音。

「小さな世界♪」が流れ、しだいに明るくなる。

ボートの中で倒れている二人。

タカシ、目をさます。

タカシ …ノゾミ。

ノゾミ …あっ、うん。

タカシ 大丈夫か…。

ノゾミ う…うん。

舞台ソデから、女性の妙に明るい声。

声   おかえりなさーい。ボートが完全に止まるまではお席から立たないでくださーい。

ゴンゴンという音。

二人、少し前後に揺れる。

声   足下にお気をつけてお降りくださーい。

二人、ボートから下りる。

一瞬暗くなり、パッと明るくなる。

笑い声や、明るい音楽、アトラクションの音などなど外の喧噪。

ノゾミ、空を見上げて。

ノゾミ まぶし…。

タカシ なんやってんやろな。

ノゾミ わからへん。

タカシ 写真は?

ノゾミ、バッグからカメラを取り出し液晶を見る。

ノゾミ アカン。報道カメラマン失格やわ。一枚だけで、肝心なとこ全然写ってへんもん。

タカシ、液晶をのぞき込み。

タカシ 最初のとこだけか。

ノゾミ うん。

タカシ しゃーないわ。撮れてたら撮れてたでコワイし。よかったんちゃうか。

ノゾミ そやな。…けど。

タカシ けどなんや。

ノゾミ、液晶を見ながら。

ノゾミ これはこれでコワイかも。

タカシ なんで。

ノゾミ この写真…。

タカシ 写真がどなしてん。

ノゾミ これ見て。これ人形ちゃうやん。…これ、人やわ。(間)…ここに写ってんのウチらや。人形に混じってウチらが写ってる。

タカシ (カメラをのぞき込んで)どういうこっちゃ。

ノゾミ ようわからん…。わからんけど、…これ作り笑いやね。…ウチらいっつも、こんなアホみたいな作り笑いしてたんかなぁ。

タカシ そんなことないと思うけど…。

ノゾミ そやんなぁ。

間。

タカシ アア…けど、…こんな感じやったんかもしれへんな。

ノゾミ そやろか。

タカシ かもしれん…。

ノゾミ 今はどやろか。

タカシ どないやろなぁ。ようわからへんけど…。

少し長い間。

タカシ とりあえず…。手ぇつながへんか。

ノゾミ …うん。そやね。

二人、手をつないで、ゆっくりと上手へ歩き出す。

ちょっと立ち止まり、後ろを振り返る二人。

一瞬、舞台赤く染まり、メラメラと燃える音。

…すぐに元に戻る。

二人、しっかりと手をつなぎ、まっすぐ前を向いて上手へ去る。

「小さな世界♪」流れる中、幕。

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