少人数向け演劇台本を無料提供。

ユメでアイましょう

●3人 ●20〜25分程度

●あらすじ

早朝の教室。一人座っていたツトムの前に、昨夜、ツトムの夢を見たというミユキが現れる。どうやらミユキは夢の中でツトムとつきあっているらしく…。主人公は座ったままなので、机の上に台本を置いておくことが可能。道具も少ないので、公演まで時間がない場合に役に立つかもしれません。

●キャスト

ツトム
ミユキ
マナベ

●台本(全文)

中央にイスと机。ツトムが正面を向いて座っている。

ツトム、顔をあげ。

ツトム それはある日の朝のことでした。誰もいない教室でボクはただボンヤリと、することもなく座っていました。(間)…と、そこへ、不意に。まったく不意にドアを開けて彼女が…やって来ました…。

ガラガラとドアの開く音。

上手よりミユキ。

ミユキ オハヨ。ツトム!

ツトム (ミユキを見て)…アッ…オハヨウ。

ツトム、正面を向いて。

ツトム それは隣のクラスのミムラさんでした。…下の名前は確か…。

ミユキ ミユキだよ、ミユキ!

ツトム (ミユキを見て)エッ…アア…ミムラ…ミユキ…さん…。

ツトム、正面を向いて。

ツトム ボクは彼女と一度も話をしたことがありませんでした…。まぁ顔くらいは知っているという程度で…。それなのに、そのときのミムラさんは、いきなりボクのことをツトムと呼び…ニコニコと…はしゃいだふうで…ボクのそばに駆け寄ると、こう言いました…。

ミユキ 待った?

ツトム エッ? イヤ、別に…。…どうして?

ミユキ だって、少し遅れちゃったから。

ツトム …約束してたっけ?

ミユキ うん。したよ。

ツトム いつ?

ミユキ 夜。

ツトム 夜?

ミユキ うん。

ツトム 夜って?

ミユキ 昨日の。

ツトム 昨日の夜に? ボクとミムラさんが? …ここで会おうって?

ミユキ うん。

ツトム …ゴメン。よく覚えてないんだけど…。

ミユキ そっか。忘れちゃったのか…。まっ、仕方ないよ。夢の中だったからね。

ツトム ハァ? 夢の中?

ミユキ うん。そうだよ。

ツトム、正面を向いて。

ツトム からかわれているのだと思いました。エイプリルフールという言葉とどっきりカメラという言葉が頭に浮かびました。けれども(ミユキをちらりと見て)ミムラさんの表情には、ボクをからかってやろうとか、ダマしてやろうとか、そういうヨコシマな感情はみじんも感じられませんでした。(間)ボクは、この状況に対して冷静にならなければ…と思い…。

ツトム、ミユキを見て。

ツトム あのさぁ…ミムラさん…。

ミユキ ミユキでいいよ。

ツトム アッ…そう。…あのさぁ…ミユキさん…。

ミユキ 「さん」はいらない!

ツトム エッ、でも…。

ミユキ ダメ! 「さん」は禁止! 言って! ミユキって。

ツトム ……ミユキ。

ミユキ 何? ツトム。

ツトム あの…エッと…さっき「夢の中」って言ったよね。

ミユキ 言ったよ。

ツトム それって、あれかなぁ…。キミの…。

ミユキ 「キミ」もヤダ! そういう言い方キライ!

ツトム アッ、ゴメン…。あの、…エッと…。つまり、ミユキのさぁ、夢の中にボクが出てきたってこと、…かな?

ミユキ うん。そうだよ。

ツトム で、その夢の中に出てきたボクと、今日、教室で会う約束をしたんだ…。

ミユキ そう。

ツトム アーなるほど。

ミユキ やっとわかってくれた。

ツトム わかったっていうか、なんていうか…。あのさぁ…それはさぁ…たまたま…ミユキがそういう夢を見たからで…一応「夢」だからさぁ…。

ミユキ、ちょっとしょげる。ツトム、それを見て。

ツトム アッ、イヤ、違うんだよ。迷惑とかそういうんじゃなくってさ、ボクのことをわざわざ夢に見てくれたわけだから、そういう意味でボクとしてもなんて言うか、すごく光栄だけどさぁ…。夢は夢なんじゃないかなって…。

ミユキ でも、ツトム、ちゃんと来てくれてたし…。

ツトム、正面を向いて。

ツトム 少しドキッとしました。そういえばナゼ今朝にかぎって一時間も早く目が覚め、そして一時間早く家を出たのでしょうか…。

ちょっと考え込むツトム。

ミユキ、ツトムをなぐさめるかのように。

ミユキ 気にしなくていいよ。夢の中のことだもん。忘れちゃうことだってあるよ。

ツトム (顔をあげ)…ねぇ。ひとつ聞いてもいいかな。

ミユキ 何?

ツトム その夢の中で、ボクは、他に何か言ってた?

ミユキ 言ってたよ。

ツトム なんて?

ミユキ (恥ずかしそうに)ヤダ。言えないよ、そんなこと。(キョロキョロして)だって、ここ学校だよ。

ツトム エェ〜ッ。そんな言い方されたら気になっちゃうよ。ねぇ、教えてよ。

ミユキ ダーメ。ちゃんと思い出してくれなきゃ、ヤダ。

ツトム そんなこと言われても…。…ヒントだけでも。

ミユキ ヒント? いいよ。ヒントはね。ウーンと…。

ガラガラとドアの開く音。

ミユキ、上手を振り向き。

ミユキ アッ。じゃあね。また今晩ね!

ミユキ、上手へ。

ツトム ねぇ。ヒントは?

ミユキ、上手へ去りつつ、振り返って。

ミユキ (自分のおしりを指さし、意味ありげに)今日は赤だよ!

ミユキ、走り去る。

ツトム …今日は、赤? なんなんだ。何が赤いんだ。…ボクはミムラさんのなんの色を知りたがったんだ…。(ギクリとして)まっ、まさか…。イヤイヤ。まさかそんなこと…。(小声で)それじゃヘンタイだよ…。(間)…けど、夢だもんな。何があったっておかしくない…。っていうか、夢の中のボクがしたことでなんで悩まなきゃいけないんだよ…。しかも自分が見た夢でもないんだし…。(キッパリと)そうだよ。人の夢だもん。責任ないじゃん。

ツトム、正面を向いて。

ツトム その日の朝の、ちょっと不思議な出来事については、それ以上考えることもないまま、退屈で、それでいてあわただしい、普段どおりの一日が過ぎていきました。授業を受け、給食を食べ、下校して、日が暮れて、夜になって…。寝る前に少し朝のことを思い出しはしましたが、気にせず眠り…。これといった夢を見るでもなく、朝になり…。目覚ましの鳴る一時間前に目が覚めて…。(間)…そうなんです。一時間早く目が覚めてしまったんです。…でもそういうことって、よくあるじゃないですか。誰だってあるでしょ。遠足の日は早く目が覚めちゃうとか、明日は六時に起きるぞって決めて寝ると、目覚ましが無くても六時ちょうどに目が覚めるとか。…ただ単にそういうことだったと思うんです。でも、そういうことだったとしても、そういうふうに目が覚めたということは、何かしらボク自身の中に、無意識にしろ、ワクワクするような気持ちがあったということかもしれません。だって、考えてもみて下さい。女の子の夢の中にボクが出てきたんですよ。そしてその子は、夢の中の約束を信じて、朝早くボクの教室を訪ねてきたんです。しかもそこには偶然ボクがいて…。これは一種の出会いではないでしょうか。エエ、出会いです。ドラマです。…だからボクはこのドラマの続きが見たくて、次の日の朝も一時間早く家を出て、学校に行き、教室に入って座っていたのです…。

ガラガラとドアの開く音。

上手よりミユキ。

ミユキ オハヨ!

ツトム オハヨウ。…で、どうだった?

ツトム、正面を向いて。

ツトム ボクは軽い気持ちでそうたずねました。すると彼女は…。

ミユキ ヤダ。ツトムったら…。いきなりそんなこと…。

ツトム、正面を向いたまま。

ツトム ミユキは急に顔を赤らめました。そして、妙にモジモジしながら…。

ミユキ うれしかったよ。

ツトム …と、言ったのです。この短いやりとりの中で、二つのことがボクにはわかりました。一つは、昨晩もミユキはボクの夢を見たということ。そしてもう一つは、その夢の中に出てきたボクは、ミユキと…。…かなり親密な関係になったに違いないということです。(間)しかし、いくらなんでも、どの程度親密になったか、そんなこと聞けるわけありません。少なくとも、早朝の教室でする会話ではない、とボクには思えました。…それに、もし、そういうことを夢の中のボクがしていたとして、「どの程度親密になったか」を、今ここにいるボクが全く覚えてないというのは、いかがなものでしょう。…もちろん、ミユキの夢の中のことです。ボクが覚えているはずはありません。けれども、覚えてないことを知ったミユキはどう思うでしょうか。…おそらく、ミユキは傷つくに違いありません。「忘れるようなことじゃないでしょ」。激怒してこの教室を出て行くかも。…ボクはそうなることがイヤでした。もう少し、誰かがこの教室に入ってくるまで、彼女にいてもらいたかったのです。だからボクは…。

ツトム、ミユキを見て。

ツトム ボクも…。

ツトム、正面を向いて。

ツトム …と言ったのです。

ミユキ よかった! ねぇ、ツトム。

ツトム、ミユキを見て。

ツトム 何?

ミユキ 今晩どうする?

ツトム アア、今晩か…。…ミユキはどうしたい?

ミユキ ディズニーランドがいい。

ツトム、正面を向いて。

ツトム …と、ミユキは言いました。ディズニーランドか…。ボクは真剣に考えました。果たして夢の中のディズニーランドはオールナイトで営業しているのか…と。だってそうでしょ。せっかく行ったのに「本日は終了しました」なんて札がかかってたら…。ミユキの悲しそうな顔がパッと浮かびました。けれどもボクの心配をよそに(チラッとミユキを見て)ミユキはとてもうれしそうで…。デートが楽しみでしかたない、というふうでした。

ツトム、ミユキを見て。

ツトム じゃあ、そうしようか。

ミユキ うん。

ガラガラとドアの開く音。

ミユキ アッ、じゃあね!

ミユキ、上手へ去る。

ツトム、正面を向いて。

ツトム その晩、ボクはドキドキしてなかなか寝付けませんでした。果たしてミユキの今夜の夢の中で二人はちゃんとディズニーランドに行くことができるだろうか。楽しくデートできるだろうか…。いろいろなことが頭に浮かんでは消えてゆきました…。(間)実は、ボクはディズニーランドに行ったことがありません。それに…女の人とデートをしたことも…。考えれば考えるほど目がさえてしまい、寝返りをうつばかりで、少しも眠くなりませんでした。こうなったら朝まで起きておこう。そう決めたとき、ハッとしました。一番いけないのは寝ないことではないか。ボクが寝ないとミユキの夢の中にボクは現れないのではないか…。そんな気がしたのです。だからボクは、こっそりウィスキーを飲み、それから学校帰りに買った「ディズニーランドパーフェクトガイドブック」を枕の下にいれ、目覚ましをいつもより一時間早くセットして目をつぶりました…。(間)そして次の朝…。

ガラガラとドアの開く音。

上手よりミユキ。

ミユキ オハヨ!

ツトム オハヨ。…あの…ディズニー…は…。

ミユキ オモシロかったね!

ツトム、正面を向いて。

ツトム ボクは心の中でガッツポーズをしました。それからしばらくミユキとボクはスプラッシュマウンテンやら、ジャングルクルーズやら…二人で乗ったアトラクションの話をして…。話をしたといってももっぱらボクは聞き役で、ミユキが…。

ミユキ ホント、サイコーだったよね。

ツトム、正面を向いて。

ツトム と、言うと、ボクが。

ツトム、ミユキのほうを見て。

ツトム うん。サイコーだった。

ツトム、正面を向いて。

ツトム …というように、相づちを打つだけなのですが、ミユキの話は驚くほど具体的で、すれちがった人の服がダサかったとか、あそこで食べたハンバーグの味はどうだったとか…。聞いているうちにボクはだんだんと本当に二人でディズニーランドに行ったような気がしてくるほどでした…。やがて機関銃のように喋り続けたミユキはフッとボクに顔を近づけ…。

ミユキ ねぇ、今晩はどうする?

ツトム、正面を向いたまま。

ツトム と、言いました。

ツトム、ミユキを見て。

ツトム ベイブリッジとか…どう…?

ツトム、正面を向いて。

ツトム と、ボクは答えました。

ミユキ うん。いいよ。

ガラガラとドアの開く音。

ミユキ じゃあね。

ミユキ、手を振って上手に消える。

ツトム、手を振って見送る。

ツトム、正面を向いて。

ツトム その日の夜はベイブリッジに行きました。その次の日はカラオケ。その次は公園でボート…。ボクは毎朝、ミユキが話してくれるデートの様子を聞き、そしてツカノマその夢にひたり、そして次のデートの約束をして…。そんな日が続きました。気がつくとボクはミユキのことが好きになっていました。もちろんミユキもボクのことが好きだったと思います。…しかし、ミユキは決して夢の中以外でデートを…つまり、本当のデートをしようとは言いませんでした。(間)…ボクはちゃんとつきあいたいと思いましたが…でももし、現実につきあったとして…うまくいくだろうか…と考えると不安になりました。……ミユキは夢の中のボクと同じくらい、本当のボクを好きになってくれるだろうか…。失望されるのではないだろうか…。そう考えると、とても言い出せなかったのです。ある夜のデートで、ボクはミユキにからんできた三人のヤクザを、アッという間に殴り倒したそうです。次の日の朝、「カッコよかったよ、ツトム!」と言われ、ボクは「あんなのチョロいチョロい」と胸をはりました。…が、本当のボクにそんなことできるわけありません。無理です。(間)…ちゃんとつきあいたいという想いでときどきせつなく、苦しく、いてもたってもいられなくなることがありましたが、ボクはガマンしました。…ミユキの夢を壊したくなかった…というか、ミユキの夢の中のボクを壊したくなかったからです…。(間)だからボクは、毎朝ほんのひとときミユキと語り合えることで十分だ、それで満足しよう…そう自分に言い聞かせたのです。(間)…そんなある日。

ガラガラとドアの開く音。

ツトム (上手を見て)オハヨ!

上手よりマナベ入ってくる。

ツトム、正面を向いて。

ツトム それは同じクラスのマナベさんでした。(間)…どうしてこんなに早く…。もうすぐミユキが来るっていうのに…。

ツトム、マナベを見て。

ツトム …どうしたの。こんな時間に。

マナベ …うん。ちょっと。

ツトム ちょっとって?

マナベ ムラカミ君、いつも早くから来てるみたいだから…。

ツトム ああ、オレ? うん、まぁ…。…なんか用?

マナベ、カバンから手紙を取りだし。

マナベ これ。

ツトム エッ?

マナベ、ツトムに手紙を渡し、上手へ去る。

ガラガラとドアの開く音。

出ていったマナベを見送り、おもむろにツトム、手紙を広げる。

ツトム、正面を向いて。

ツトム 手紙でした。つきあってほしい…という…。

ガラガラとドアの開く音。

上手よりミユキ入ってくる。

ミユキ オハヨ!

ツトム、あわてて手紙を握りしめ、手を机の下にかくして。

ツトム アッ、…オ…ハヨウ。

ミユキ 誰? さっきの子。

ツトム アア、…同じクラスのマナベさん。

ミユキ フ〜ン。

ツトム べ、別になんでもないよ…。…朝練か何かじゃないかな。もう行っちゃったし…。

ミユキ …そう。ならいいけど…。(間)アッそうだ。アレおかしかったよね。なんであんなことするんだろ…。あのゾウの鼻の動かし方ありえないよね。あれってさぁ、鼻っていうより…。

ツトムにのみ照明。

ツトム、正面を向いて。

ツトム ミユキはいつものように話し始めました。動物園で見たゾウのことや、ペンギンのこと、ソフトクリームのとけかた…。壊れていた噴水…。ボクもいつものように相づちを打ち、ミユキの話を聞いていました。けれども、その日はどういうわけか、いつものような生々しさが感じられませんでした。ナゼだろう…。ボクは考えました。そしてすぐにそのワケがわかりました。…手紙です。マナベさんからもらった手紙を握りしめていたからです。その握りしめた手紙の感触、バリバリとした紙の感触の生々しさが、ミユキの夢の中へ入って行こうとするボクをさえぎりました。そして、その手紙の感触は手の中だけにとどまらず、掌(てのひら)から腕へ…、肩から首へ…、やがて体中に広がってゆきました。ボクは焦りました。ミユキに気取(けど)られはしないかと…。…ボクは、気持ちを落ち着けようとグッとこぶしに力を入れました。その瞬間、掌の中で、手紙がパリッと小さな音をたてました。「メヲサマセ」。ボクの頭の中でもパリッと音がして、何かが割れたような気がしました。…ミユキの声が遠くなっていく。彼女の影が霧の中に消えていく…。

パッと明るくなって。

ツトム …気がつくとそこに…ミユキの姿はなく…。

ガラガラとドアの開く音。

上手よりマナベ入ってくる。

マナベ …ねぇ。

ツトム アッ。…マナベさん…。

マナベ 読んでくれたかな…。

ツトム ア、…うん。

マナベ 返事もらえる?

ツトム ア、うん。…いいけど。

ツトム、正面を向いて。

ツトム ボクは、マナベさんとつきあうことにしました。マナベさんのことが好きだったからではありません。ボクはミユキの夢とつきあうことよりも、目の前の現実とつきあうことに決めたのです。…けれども…。

マナベ やった! 私ね。前からずっとムラカミ君のこと好きだったんだけど、ムラカミ君、全然私のほう見てくれなくて、話しかけようと思っても、なんかいつも遠くのほう見てるみたいで…。でもそこが良かったって言うか、ムラカミ君って、結構クールでしょ。でも優しいっていうか、いざとなったらオレが守ってやるみたいなとこもあるし、それにさぁ、軽くないっていうか、堅苦しいってことじゃないんだけど、浮気とかしなさそうだし、…えっと、血液型たしかA型だよね。A型の男の子って…。

ツトム、チラッとマナベを見て。

ツトム マナベさんは、ボクのことについて、延々と話し続けました。

ツトムにのみ照明。

ツトム、正面を向いて。

ツトム …ムラカミ君はいつも遠くを見てる。ムラカミ君は結構クール。ムラカミ君は優しい。ムラカミ君は軽くない。ムラカミ君はA型…。ボクはマナベさんの話を聞きながら、ひょっとしてこれは夢の話ではないかと思いました…。夢の中に出てきたボクのことを、マナベさんがひたすらしゃべり続けているのではないかと…。ふとそんな気がしたのです。(ギクリとして)もしそうなら、ミユキの思い描くツトムと、マナベさんの思い描くムラカミ君と、どちらか一方が本当のボクだと、一体誰が言えるでしょうか。…そもそもボクの思い描くムラカミツトムだって…。(間)イヤ、しかし、今はそんなことを考えるべきじゃない。もっと気をたしかに持とう。「メヲサマセ」。これは夢じゃないんだ。現実にこだわろう。…ボクは大きく深呼吸をしました。そしてマナベさんからもらった手紙をギュッと握りしめ…。

パッと明るくなって。

ツトム マナベさん。

マナベ 何?

ツトム (手紙をひろげ)この手紙に書いてあるムラカミ君ってオレのことだよね。

マナベ …そうだけど。…どういうこと? 言ってる意味がわかんないんだけど…。

ツトム (マナベの言葉には答えず、手紙を指さしながら)あとさぁ、ここに書いてあるマナベヨシコっていうのは、キミのことで間違いないんだよね。

マナベ 当たり前でしょ。何が言いたいの?

ツトム イヤ、ちょっと事実を確認しておきたくて…。…エーッと、あと、もうひとつだけ確認してもいいかな。

マナベ いいけど…。何?

ツトム 今日の下着の色は何?

マナベ バカ!

マナベ、ツトムの頬を殴り、手紙を奪い取って上手へ走り去る。

ガラガラというドアの音。

ツトムにのみ照明。

ツトム、殴られた頬を手で押さえ。

ツトム …イタイ。

ツトム、正面を向いて、ポツリと。

ツトム どうやら今のは夢じゃなかったらしい…。けど、夢でなくても消えていくことはあるわけだ…。なるほどね…。

ツトム、腕組みをして目をつぶり、そのままゆっくりと机に頭を伏せる。

暗くなって。(幕)

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