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OH! 文化体育祭

●7人 ●60〜70分程度

●あらすじ

体育祭を文化体育祭に! 生徒会本部からの突然の提案により学校中は大騒ぎに。新聞部の穂波と春菜はハリキッて取材を始めるものの…。

●キャスト

穂波(三年・新聞部部長)
春菜(二年・新聞部)
都島(三年・生徒会長)
柳沢(三年・生徒会副会長)
藤堂(二年・演劇部)
池田(三年・バスケ部部長)
早川(三年・陸上部部長)

●台本(全文)

新聞部部室。「部員倍増!(めざせ四人)」の張り紙。壁には、「新聞部で青春しようぜ!」「今、新聞部がアツイ!」といった新入生勧誘用のプラカードが無造作に立てかけてある。

中央にテーブル。穂波(三年、部長)がヒマそうに漫画を読んでいる。

上手より春菜(二年、部員)。部室に駆け込んできて。

春菜 穂波先輩! スクープです。スクープ!

穂波 (特に驚きもせず)あっそう。

春菜 聞いて驚かないで下さいよ。

穂波 (漫画から目をはなさず)体育館の裏で野良猫が子供を生んだ話なら、三日前聞いたけど。

春菜 違いますよ。あの猫ちゃんたちは、お引っ越しをして、今はヤマダさんちの裏の空き地で平和に暮らしてます。だから、それはもういいんですよ。そんなんじゃなくて…。

穂波 (めんどくさそうに)じゃああれかな。校長のヅラがおニューになった話…。

春菜 惜しい!

穂波 …惜しいのかよ。

春菜 校長は絡んでます。

穂波 (顔をあげ)ひょっとして、校長が、嫌がる教頭にヅラを勧めたとか?

春菜 アー、ちょっと離れた。ヅラは関係ないんで横に置いて下さい。

穂波 …でも、ヅラ以外,校長に興味ないし…。

春菜 ヒント、生徒会。

穂波 生徒会? 全然わかんない。何?

春菜 実はですね。こうこう、こういうことなんです!

穂波 そこ、はしょんなよ。

春菜 だーかーらぁー。生徒会長が校長を口説き落としたんです。

穂波 ハァ? マジで? あの都島が校長を口説いた? それって不倫じゃんか。最悪。見たくねぇ〜。

春菜 違うんですよ。口説き落としたんですけど、別に校長をゲットしたわけじゃなくて、話を通したっていうか、了承を得たっていうか…。

穂波 了承? 何の?

春菜 実は、今度の体育祭なんですけど。

穂波 …体育祭がどうかしたわけ?

春菜 文化祭になるんです。

穂波 ? ハァ? わけわかんないんですけど。

春菜 だーかーらぁー。体育祭を文化祭みたくして、…つまり、文化体育祭にするんです!

穂波 なんで?

春菜 よくわかんないんですけど、勝ち負けを決めたり、仲間同士で競い合うっていうのはよくないとかなんとか…。

穂波 それを都島が校長に直談判したわけ?

春菜 ハイ。で、一応オッケーもらったみたいなんです。

穂波 けど、突飛すぎるだろ、いくらなんでも。

春菜 それが、校長も結構乗り気で…。

穂波 乗り気?

春菜 「我が校らしい品格のある大会にしてくれるのなら大いにやってくれて構わない」って言ったらしいんです。

穂波 品格のある大会…。(ちょっと考えて)…そうか、あのヅラ野郎、礼儀とか礼節とかそういうの大好きだからな…。都島のやつ、そこにつけこんで…。

春菜 どうやらそうみたいです。校長って、「女性は女性らしく」とか「日本古来の伝統がどうの」とかって、マイク持つたんびに、ジジクサイことばっか言うじゃないですか。そういう校長のジジクサ〜イツボに、ピッタリはまったんですよ。都島さんの提案が。

穂波 …ピッタリはまるのはカツラだけじゃなかったということか。

春菜 で、都島さん、「生徒会の力で、女子校のあるべき姿を取り戻してみせます」って大見得きったそうです。

穂波 「女子校のあるべき姿」…。…うん、なんとなく見えてきた。都島って、茶道部の部長もやってるし、文化的にとか、おしとやかにとか、そういうマダム系のしきたりが大好きな礼儀オタクだからな。自分の任期中に、なんとかして自分好みの校風にしたくて、それで一番汗くさいイベントである体育祭を狙い打ちしてきたに違いない。…けど、そうすんなりいくかどうか…。少なくとも手続きとして…。

春菜 今度の生徒総会で本部案として提出するそうです。

穂波 なるほど、そのためにまず根回しして、校長の内諾を取り付けたってわけか…。都島らしいな…。けど、春菜、なんでそんな話知ってるわけ。

春菜 それはですね。こうこう、こういうことなんです!

穂波 だから、そこをはしょんなっつーの!

春菜 じゃあ、私が見てきたことを見て下さい!

部室、暗くなり、廊下のシーン。

都島(生徒会長)と柳沢(副会長)上手より歩いてくる。

それを追いかけて、池田(バスケ部部長)と早川(陸上部部長)登場。

池田、後ろから都島の肩をつかんで。

池田 ちょっと待てよ!

都島 なにすんのよ。

池田 なにすんのよ、じゃねぇよ。お前、正気なのかよ。

都島 人の肩をつかんでおいて、いきなり「お前、正気なのかよ」はないでしょ。

池田 理由を説明してくれ。

都島 なんのことかしら。

池田 今度の体育祭のことだよ。

都島 それなら先ほど体育祭実行委員会の人たちに説明した通りですけど、何か?

池田 ふざけんな! なんで体育祭がなくなんだよ。

都島 私は、体育祭を廃止するなんて一言も言ってません。少し開催形式を変えて、より本校にふさわしい平和的なイベントにすべきだということを提案しただけです。

池田 平和的なイベント?

都島 そうよ。紅白とか、別に緑でも黄色でも紫でもなんでもいいけど、結局わざと色分けして争わせてるだけじゃない。イヤでしょ、そんなの。

池田 イヤじゃねぇよ。

都島 とにかく、文化的な体育祭、つまり文化体育祭としての開催を生徒会本部としては希望しています。

池田 聞いたことねーよ、そんな話。

都島 詳しいことは五月の生徒総会で説明しますから。

都島、立ち去ろうとする。

池田 逃げんのか。コラ。

都島 池田さん。

池田 なんだよ。

都島 あなた女性でしょ。

池田 悪いかよ。

都島 前々から思ってたんだけど、感心しないわね。そういう言葉づかい。

池田 どこがだよ。

柳沢 (池田の口調を真似て)「ちょっと待てよ!」「ふざけんな!」「イヤじゃねぇよ」「聞いたことねーよ」「逃げんのか。コラ」「なんだよ」「悪いかよ」「どこがだよ」以上、八フレーズです。

都島 どうもありがと。

早川 (柳沢に)あいかわらず嫌な性格してんな。柳沢。

柳沢 アア、早川さん、いたんだ。

早川 いたよ。いて悪いか。

柳沢 別にいいけど、珍しいなと思って。

早川 珍しい?

柳沢 いつも怖い顔してグランド走ってるもんだから…。止まってる早川さん、久し振りに見たなーと思って。でも、止まってても怖い顔は変わらないのね。

早川 ヤナギサワァ〜!

柳沢に詰め寄る早川。

柳沢 キャーッ!

都島 なんて野蛮なの。品格のかけらもないじゃない。そういう粗野な振る舞いが校内に蔓延するのは、粗野な学校行事が堂々と行われているところに原因があるんじゃないかと、私たち生徒会本部は思っているの。だからこそ、より文化的な体育祭の開催を計画しているんです。つまり、あなたがたのそういう態度こそが、今回の動議の根本にあるってこと、忘れないでね。いい。これは、あなたたちのためを思ってのことでもあるんですからね。

池田 屁理屈こねんじゃねぇよ。

早川 あのさぁ、ひとつ聞くけどさぁ、あんたらの言う文化体育っていうものが、もしも、もしも実現したとして、部活対抗リレーとかはどうなるわけ。

柳沢 (手にした資料をめくって)今のところ、入ってないけど。

都島 (柳沢に)ああいう競技が一番、文化体育祭の趣旨に合わないからね。

柳沢 (池田に)そういうことだけど何か?

早川 何かって…。部活対抗リレーは、体育祭の目玉だろーが。

池田 そうだよ。なんで入ってねぇんだよ、都島!

都島 しつこいなぁ。部活対抗リレーなんていうのは、足に自信のある運動部だけが勝手にエントリーして競い合う、ただの自慢大会じゃない。そういう学校行事の私物化は許しません。

早川 けどさぁ、OBとかも見に来るし、急に中止なんて無理に決まってんじゃん。

池田 そうだよ。OBにどう説明すんだよ。うちらバスケ部と早川の陸上、この伝統の対決なくして体育祭が盛り上がるわけねぇじゃんか。どっちが一位とるか、OBだってスゲー気にしてんだからな。

都島 まったく話にならないわ…。あのねぇ、特定の部活のOBために学校行事をしてるわけじゃないのよ。

早川 じゃあ、他のリレーとかはどうすんだ。そっちだけ残すのって不公平だろ。

柳沢 他のリレー競技は形を変えて残す予定です。

早川 形を変える?

都島 詳しいことは広報のほうから後日説明があると思いますけど、一言で言えば、ただ早さを競うといった形にはなりません。それじゃ、普通の体育祭ですから。

池田 だからさぁ、なんで普通じゃいけねぇんだよ。なんでスポーツがいけねぇんだよ。だったらオリンピックも認めねーのかよ。

都島 話を飛躍させないでくれる。スポーツをやりたい人はどんどんすればいい。ただ、そうでもない人たちを巻き込んで勝った負けたと騒ぐのはおかしいでしょって言ってるだけ。

池田 それはお前が運動オンチだからだろ。

都島 なんとでも言ってちょうだい。とにかくこの件については、校長にも趣旨説明して、内諾を得ていることですから。

柳沢 (紋切り型で)「我が校らしい品格のある大会にしてくれるのなら大いにやってくれて構わない」と校長先生はおっしゃいました。それに対して生徒会長は「生徒会の力で、女子校のあるべき姿を取り戻してみせます」と力強く答え、校長先生は大変感激しておられました。

池田 校長がなんと言おうとゼッテー反対だからな。

都島 「ゼッテー」ね…。とにかく、本事案については、生徒総会で承認を得るつもりなので、他に用がないのなら、これで。

都島と柳沢、下手に消える。

池田 クソッ。ふざけんな!

池田と早川、上手へ消える。

新聞部部室のシーンに戻る。

上手より春菜。部室に駆け込んできて。

春菜 穂波先輩! スクープです。スクープ! …とまぁこういうことなんです。どうですか。わかりました?

穂波 すごくよくわかった。

春菜 号外出しましょうよ。号外。

穂波 でもさぁ、号外って、定期的に新聞出しててこその号外じゃん。うちら、ここんとこ、まともに活動してないからさぁ、いきなり号外っていうのもなぁ…。

春菜 そっかぁ…そうですよね。(壁の「部員倍増!(めざせ四人)」の張り紙に目をやり)穂波先輩と私の二人だけになっちゃったから…。(春菜頭を下げて)…スミマセン。

穂波 なんで春菜があやまんの?

春菜 だって、藤堂たち三人が辞めるの、もっと強く私が止めてれば…。

穂波 しかたないよ。部活変わるの自由だし、強制できないもん。

春菜 けど三人そろっていきなり「辞めます」っていうのはいくらなんでもヒドすぎませんか! しかも同じ学年なのに私にだけ内緒にしてたんですよ!

穂波 まぁ私にまとめる力がなかったのもあるしさぁ、それに、今どき新聞部じゃないだろっていうのもなんとなくわかる気がする。だって今度の一年生だって、入学して三週間経つけど一人も見学にこないじゃん。そういう時代なんじゃないの。

春菜 でも私、新聞部がなくなるのイヤです。

穂波 私だってイヤだけどさぁ。三年の私が引退したらさぁ、二年の春菜一人に全部押しつけて、それでも頑張ってって言えないよ。

春菜 私は頑張ります。だって藤堂たちに負けたみたいでくやしいもん。

穂波 (間)…わかった。春菜がそう言うんなら、私も頑張ってみるよ。基本的にクライの似合わないし。

春菜 そうこなくっちゃ! じゃあどうします。さっきの廊下での出来事、記事にします?

穂波 そうだなぁ、何にしても、とりあえず生徒会に取材申し込んだほうがいいかな。事実関係はっきりさせないとさ。春菜が見てきたことだけじゃ、きちんとした記事になんないもん。

春菜 なるほど。さすが先輩。で、紙面で生徒会をメッタギリにするんですよね。

穂波 イヤイヤイヤ。一応報道だからさ、あくまで公正中立でいかないと。うちらが色眼鏡で記事書いたらマズイよ。たとえば文化体育祭に反対したら生徒会から睨まれるし、賛成したら早川さんたち運動部に睨まれるじゃん。そういうのじゃなくてさ、両方をキチンと取材して、それで生徒みんなの役に立つような紙面作りをするべきじゃん。

春菜 でも、テレビとかだと、大体政府の言ってることとかに文句つけるっていうのが普通みたいな感じがするんですけど…。

穂波 それはさぁ、まぁ、客観的に権力側の問題点を指摘するのが報道の役割だから、そうなることが多いんだろうけど、うちらはむやみに生徒会を敵視する必要ないよ。

春菜 そっか。そのほうが盛り上がると思ったんだけどなぁ…。

穂波 大丈夫大丈夫。今回の話、ほっておいても盛り上がるって。

春菜 そうですか。

穂波 だって、生徒会長の都島とバスケ部の早川、私、中学の頃から知ってるけど、あの二人チョー仲が悪いし、しかもなんか変に人望があるっていうか、取り巻きが多いわけ。だから、ただでさえ派閥ができやすい上によ、プラス文化部対運動部みたいな対立の構図もあるわけじゃない。だから、どこからどう見ても、火花が散るっていうか、すんなりおさまるような問題じゃないって。

春菜 そっか。そうですよね。

穂波 ヘタしたら血の雨が降るかもよ。

春菜 火花に血の雨ですか。ゾックゾクしますね。

穂波 とにかく生徒会に取材申し込も。一応私が取材するからさ、春菜、写真お願いね。

春菜 ラジャー。

春菜、ケータイを取り出す。

穂波 いや、それはどうかな…。なんかもうちょっとサマになるやつっていうか、本格的なもののほうが…。

春菜 そうですか、アア、じゃあ私、写真部の友達にカメラ借りてきます。

春菜、部室を飛び出し、上手へ消える。

穂波 (開けっ放しのドアを見て)春菜はりきってるな…。(つぶやくように)…文化体育祭か。(立ち上がって)よっしゃ、とりあえず、やってみっかな。

暗転。

生徒会本部の部屋。都島と柳沢が座っている。

下手より、穂波と春菜。ノックしてドアを開ける。

穂波 アッ、どうも、こんにちは…。新聞部ですけど…。

柳沢 お待ちしてました。こちらにどうぞ。

都島 まぁ、座って。

穂波 では早速なんですが…。

都島 体育祭の件でしょ。取材に来てくれてありがとう。私たちのほうからお願いしようかと思ってたところだったから、助かったわ。さすが新聞部さん、いいところに目をつけたわね。…で、何からお話ししましょうか?

穂波 (ノートを開きながら)…エーッとですね…。…エーッと。アッ、そうだ、春菜、先に都島さんの写真を…。

春菜、都島にカメラを向ける。

都島、カメラをさえぎり。

都島 アッ、ごめんなさい。写真だったらコレ使ってもらえない。

都島、カバンから写真を取りだし春菜に渡す。

春菜 …キモノ。

都島 そーなのよ。私って茶道部の部長もやってるでしょ。まぁ茶道自体も十年以上お稽古続けてるんだけどね、それで、この前、お茶の先生が主催した野点(のだて)があって、それ、そのときのなんだけど、日差しの感じがいいでしょ。お庭の感じとかも。だから、ぜひ、それにしてほしいのよ。

春菜 (穂波に写真を見せ)…どうします。

穂波 …まっ、それはそれで、一応預かっておこうか…。

都島 じゃあ、よろしくね。できればカラーでお願いしたいんだけど考えてみて。あと、必ず返してね。それと汚さないように。以上。

穂波 エーッと、じゃあ、まず、最初の質問ですけど…。今回の文化体育祭の…。

都島 (話をさえぎって)趣旨は、「平和」「徳育」「健康」です。まず一番目の「平和」。これはイコール「争わない」ということ。ですから、体育祭から勝敗という概念を一切排除します。順位、タイム、点数化といった勝敗に結びつく可能性のある従来の競技形態はすべて改めます。第二に「徳育」、これは体育祭といえども学校教育の一環として行われる以上、参加する生徒が真に涵養(かんよう)されるべきイベントでなくてはならないという観点から、洗練された文化的要素を盛り込むべきであろうとの考えに基づくものです。そして第三に体育祭の根本的な狙いとして、各人それぞれに合わせた無理のない体力作り、つまり、健康増進ということを、一つの大きな柱としたいと思っています。以上。

穂波 アッ、ハイ…。エッと…それでですね…。

都島 (たたみかけるように)おかしいでしょ。ヨーイドンで一斉に同じ距離を走らせて、無理矢理順位を決めるっていうのは。

穂波 …それはまぁ。

都島 ゆっくり走りたい人だっているし、歩いたっていい。紅組に入れられたからって、紅組の応援しなきゃなんないっていうのも何か変だと思いません?

穂波 …あの、なんていうか…。都島さんの言うこともなんとなくそうかなっていう気はするんだけど、具体的なプログラムとしてはどういう感じになるのかなぁ…。ちょっとイメージがわかないっていうか…。抽象的すぎて…。

柳沢 (都島に)呼びますか?

都島、軽くうなずく。

柳沢 (ドアを開け、上手に向かって)藤堂さん、いいかしら。

藤堂、上手より登場。

春菜 藤堂…。

藤堂 (春菜を無視して、柳沢に)何でしょうか。

柳沢 今、新聞部の方たちが文化体育祭のことで取材に来てるんだけど、ちょっと説明してあげてくれない。

藤堂 わかりました。(穂波に)ご無沙汰してます。

穂波 アッ、うん。

藤堂 (春菜に)元気?

春菜 …ぬけぬけと。

穂波 やめなよ、春菜。

春菜 でも…。

都島 藤堂さん、(春菜を見て)知り合い?

藤堂 ハイ、一年のとき新聞部に入部していたことがあって…。二カ月で辞めましたけど。

都島 そうなんだ。ずっと演劇部かと思ってた。

柳沢 確か何人かで移ったんだよね。

藤堂 三人です。春菜だけが新聞部に残って…。

柳沢 へぇ〜。

春菜 (ブツブツと)一緒に頑張ろうって言ってたのに…、お陰でこっちは大迷惑…。

穂波 (春菜を目で制止して、柳沢に)元気でやってる? あとの二人も。

藤堂 ハイ、バリバリ元気ですよ。演劇部が合ってるみたいで。

春菜 (イヤミな感じで)そりゃよかった…。

穂波 やめなって。

春菜 でも…。

穂波 (春菜を後ろに下げて)すみません。ゴメンネ、藤堂さん。エッと話の続き…説明お願いできる。具体的なプログラムについて。

藤堂 まず、お断りしておきますが、今回の文化体育祭ではプログラムという言い方はしません。すべてシーンと呼ぶことになります。

穂波 シーン…。

藤堂 ハイ。(資料を見ながら)たとえばシーン1「走るか走らないかは自由だぁ〜」では、全校生徒がトラックに出て、思い思いにトラックを回って、適度に体をほぐしたら退場門から出て行ってもらいます。

春菜 なんじゃそりゃ。

穂波 それだけ?

藤堂 イエ、それだけではつまらないので、ここで一つ仕掛けをするんです。予めグランドには人数分の番号をふったボールを転がしておきます。そして必ずどれか一つを拾ってもらうんです。

穂波 何のために?

藤堂 役決めです。

穂波 役決め…。

藤堂 ハイ。シーン1「走るか走らないかは自由だぁ〜」で選んだボールの数字がその日一日のその人の番号になります。そして、たとえばシーン3「たまたま転がす大玉転がし」では番号二、五、九、二二、二八、三一、三六…の人…というふうにそのつど出演者が呼び出されるわけです。つまり誰がそのシーンの出演者になるかは、番号を呼ばれるまでわからないんです。

穂波 …出演者?

藤堂 ハイ、出演者です。

穂波 あの、ちょっと話がそれるんだけど、その「たまたま転がす大玉転がし」っていうのは、一応玉転がしなんだよね。

藤堂 そうですね。一応は玉転がしと考えて頂いて結構です。ただし、「たまたま転がす大玉転がし」の場合、出演者は置いてある玉のどれを転がしてもかまいません。人数制限もないので、一人で一つの玉を転がすこともあるかもしれませんし、五人で押す場合もあるかも…。

春菜 不公平じゃんか。

藤堂 不公平? そうかなぁ。人数やルールを厳密にすれば公平だというのは違うんじゃないの。ベースを統一すればするほどスピードとか力とかそういう潜在的能力の差が浮き彫りになるだけでしょ。スタートがあって、コースがあって、ゴールがあって、ヨーイドンで走り出したら、早い人が勝って、遅い人が負ける、そんなの当然じゃない。それを明らかにすることが公平なのかなぁ。本当に公平にしたいというのであれば競技ごとに個人個人の能力に合わせたハンディを設定しないとさぁ。

春菜 そんなことできるわけないじゃん。

藤堂 でしょ。だからこそそういう競争原理に基づく体育祭のあり方を根本から改めて「文化体育祭」にする意義があるんじゃない。

春菜 けど、そんなことしたら…。。

穂波 やめなよ、春菜。

春菜 でも先輩…。

穂波 取材だよ。

春菜 …ハイ。

穂波 (藤堂に)なんとなくわかってきただけど、それにしても、結局、大玉は転がすんだよね。

藤堂 もちろんです。大玉転がしですから。

穂波 じゃあ、ゴールがあるわけでしょ?

藤堂 イエ。

春菜 ないのかよ。

藤堂 あいかわらず頭カタイね、春菜は。今までの概念に縛られすぎだよ。私たちがやろうとしている文化体育祭はそういう物差しでは計れないんだってば。

春菜 じゃあどうやって成立させるわけ。競技を。

藤堂 シーンです。

春菜 クッ…、で、結局どうやってそのシーンってやつを終わらせるつもり。

藤堂 ある程度転がしたら、転がしかたのユニークさを評価してもらいます。見ている人に。スタンディングの拍手で。ちなみに玉の大きさもいろいろですし、形も丸いとは限りませんから、同じような転がし方はたぶんないんじゃないかな…。それに転がさないっていうのもありだし…それはそれでおもしろいから。

春菜 おもしろくないよ。

都島 実際に見てもらったほうがわかりやすいんじゃない。

藤堂 そうですね。じゃ、シーン3「たまたま転がす大玉転がし」スタート!

生徒会室、暗くなる。

早川、四角い段ボール箱を持って下手より登場。

箱を自分の前に置き、跳び箱のようにして飛び越え、飛び越えた後、振り返って箱を取り、また自分の前に置いて飛び越えつつ、上手に向かって進んでいく。

中央まで来たとき、飛びそこねて四角い箱の上に乗ってしまう。箱へこむ。

早川、へこんだ箱を手に取り、高く掲げる。

上手より、ほどよい大きさの玉を転がしながら出てきた池田、早川の様子を見て、玉を手に立ち上がり、バスケットのシュートの要領で早川の持つ箱に玉を入れて、ガッツポーズで下手へ去る。

池田も手を振りつつ上手へ去る。

拍手の音。

生徒会室、明るくなる。

都島、柳沢、藤堂も拍手。

春菜 何これ。

藤堂 まぁこんな感じ。

穂波 つまり、体育祭全体をパフォーマンスにするわけ?

藤堂 まぁ大ざっぱに言えばその通りです。ただ、全体を通して一つのメッセージを伝えられれば…とは思っていますが。

穂波 どういう?

都島 「ゴールはまだ見えない」これでいくつもりよ。

柳沢 つまり、私たちは全員道半ば、それぞれがそれぞれのスタンスでゴールを目指している途中ですよね。だからそんな我々の現状を踏まえて、「ゴールはまだ見えない」をテーマにしてみました。逆に言えば、ゴールは自分で決めてほしいんです。人に設定されるんじゃなくて。

都島 結構深いでしょ。

穂波 「ゴールはまだ見えない」…。確かに一理あるような気もするけど…。都島さんは茶道部、柳沢さんはESS、藤堂さんは演劇。今回の提案、どうかすると、文化部の運動部系への挑戦みたいに受け取られる可能性もあるんじゃないですか。

都島 そんな心配いらないんじゃない。だって、運動部は運動部ごとの個別の大会で力を発揮すればいいわけだから。

柳沢 全員参加のイベントということで、十分理解してもらえると私たちは思っています。

穂波 でも、すでにバスケ部や陸上部あたりから不満が出ていると聞いていますが。

都島 そういう人たちの誤解を解くために、新聞部があるんでしょ。

穂波 イヤ、…私たちは、生徒会本部の意図していることを客観的に伝えたいだけで、生徒会本部の味方というわけじゃないから…。

春菜 それが報道というものなんです! 事実を正確に伝えるのが新聞部の活動なんです。やみくもに生徒会の味方をする気はありません!

藤堂 (ちょっと笑って)バカみたい。

春菜 何ですって!

藤堂 そういうのつまんなくない?

春菜 つまんないですって!

穂波 落ち着きなよ春菜…。(藤堂に)どういうこと。

藤堂 私、今、演劇部で脚本担当してるんですけど、やっててすごく楽しいんです。作ってるっていうか、伝えてるって感じがして。…そのほうが本当っていうか、ウソだけどホントみたいな。だから、事実をありのまま伝えることには全然魅力を感じられないんですよ。…それに、生身の人間が書く以上、客観的に伝えるなんてこと、不可能だと思うんです。だって人間はカメラでもコピー機でもないんですから。

春菜 だったら新聞部に入らなきゃよかったじゃん。

藤堂 だから、すぐ辞めたんじゃない。

春菜 勝手だよ。

藤堂 それこそ人の勝手でしょ。

穂波 やめなって、春菜。

春菜 じゃあ、聞くけど、リレーとかはどうすんの。いくらなんでも普通にトラック走るしかないんじゃないの。それとも踊りながら走るとかするわけ?

藤堂 アア、リレーね。(書類を見ながら)シーン8なんかがわかりやすいかも。シーン8「ドラマチックリレー」

穂波 ドラマチックリレー?

藤堂 ハイ。ドラマチックリレーではバトンは使いません。バトンではなく、台本をまるめたものをバトンの代わりにしてもらいます。

春菜 わけわかんない。

都島 実際に見てもらったほうがわかりやすいんじゃない。

藤堂 そうですね。じゃ、シーン8「ドラマチックリレー」スタート!

生徒会室、暗くなる。

池田、中央に立ち、下手を見ている。

下手より、早川。台本を手に走ってくる。

早川、池田にバトンタッチの要領で台本を渡す。

池田 ありがとう池田さん。すぐに覚えるわ。

池田、しゃがんで、渡された台本をひろげる。横から早川ものぞき込み覚える箇所を指さしたりしつつ、二人でセリフを覚えている様子。

やがて、二人で頷きあって、台本を置いて立ち上がり。

早川 (セリフっぽく。以下同じ)どうしよう私。

池田 何があったの一体。

早川 私、忘れ物をしてきてしまったわ。

池田 忘れ物?

早川 コーナーを回るとき、靴が脱げてしまったらしいの。

池田 ホントだ。片方の靴がない!

早川 困ったわ。どうしよう。片方の足が痛くなってきた。

池田 わかった。私、脱げた靴をとってきてあげる。

早川 ダメよ。そんなことしたら遅れてしまう。

池田 バカ。そんなこと言ってる場合じゃないでしょ。犬がくわえていってしまったらどうするの。犬のヨダレは思いのほかクサイのよ。

早川 でも…。(間)あなた、私のために逆走するって言うの。

池田 そうよ。友情のためだったら、逆走だって厭わない。

早川 ありがとう池田さん!

池田 待っててね、早川さん!

池田、台本を丸め、バトンのようにして手に持ち、下手へ走り去る。

生徒会室、明るくなる。

都島 …とまぁ、こんな感じ。

藤堂 バトンにする台本はそれぞれ違うので、見ている人もいろんなテーマを楽しめるようになってます。

都島 どうかしら?

池田、下手より、早川の靴を手に出てきて。

池田 どうかしらじゃねーよ。

池田、早川に靴を投げる。

早川、靴を履きつつ。

早川 まったくバカバカしい。

池田 こんな茶番、ゼッテー認めねーからな。

穂波 あの…。もしもし。あなたたちいつからそこに…。

池田 うっせーよ。時間と場面の省略だっつーの。

藤堂 演劇的手法です。あしからず。

池田 とにかく、こんなカッコ悪いこと絶対やんねぇぞ。

都島 結構ノリノリだったくせに。本当はやりたいんでしょ。

池田 やーらーなーい。

早川 死んでもやるか。

柳沢 生徒会は生徒による自主的かつ民主的な組織ですから、言論の自由は保障し、少数意見もできるだけ尊重します。ただし、これだけは覚えておいて。多数決で決まったこと対して、意味無く反対し続けるのは、アウトロー、反体制派、テロリストのすることだからね。

池田 テロリストだと!

早川 なんでそっちが多数派だと思うわけ。

池田 ずいぶんな自信だよな。

都島 生徒会総会を開けばハッキリすることです。どちらが正論か。

池田 (都島の胸ぐらをつかんで)思い通りにはさせないからな。

都島 脅迫には屈しません。

池田 絶対勝つ。勝って、お前の低い鼻をへし折ってやる!

都島 低いは余計でしょ。

早川 (柳沢に)それだけ多数決にこだわるんなら、もし、生徒総会で否決されたら、今まで通りの体育祭にしてくれるんだろうな。

柳沢 もちろん。民主主義ですから。

都島 本部案が否決されれば、当然、そうなります。あり得ないことですけど。

池田 忘れんなよ、その言葉。

都島をにらむ池田。にらみ返す都島。

二人を写真に撮ろうとする春菜。

藤堂、カメラのレンズの前をさえぎり。

藤堂 ハイ、取材おつかれさまでした。記事のほうよろしくお願い致します。新聞部さん。

春菜 トード〜。

にらみ合う春菜と藤堂。

少し離れたところでは、柳沢と早川がにらみ合っている。

にらみ合う三組の間に立ちどうしていいかわからない穂波。

三組、一斉に顔をそむけて。

六人 フン!

暗転。

新聞部部室。穂波、記事をまとめている。

その横には春菜。

春菜 アーむかつく。

穂波 そうカッカしなさんな。

春菜 先輩は平気なんですか。

穂波 何が?

春菜 藤堂ですよ、藤堂。アイツ調子に乗って、いつのまにかすっかり生徒会にも入り込んでるんですよ。抜け目がないっていうか、絶対何かたくらんでる!

穂波 考えすぎだって。

春菜 先輩、甘いですよ。藤堂が亜矢と美咲連れて出ていったときも、全然平気な感じだったし…。

穂波 だって、しかたないじゃん。部活なんだから。イヤイヤいてもらっても、こっちだって困るし。

春菜 それはそうですけど…。

穂波 さっ、とにかく記事まとめよ。

春菜 …。

穂波 なんとなく生徒会がやろうとしてることも見えてきたし、取材としてはうまくいったと思うよ。…ホラ、元気出して。

春菜 …わかりました。

穂波、原稿用紙にペンを走らせる。

その様子を見て春菜。

春菜 先輩、あいかわらず手書きですか…。

穂波 言葉を埋めてく感じがして、こっちのほうがしっくりくるから。…それに、春菜の仕事とっちゃ悪いし。

春菜 私、入力専門ってことですか。ひどいですよ先輩!

顔を見合わせて笑う二人。

暗転。

バックにスライド。新聞の一面。

都島の着物姿の写真。

見出し「見えてきた文化体育祭の全貌」「生徒会本部、可決に自信」「運動部の動向が焦点。生徒会総会で決着なるか」「ゴールは見えない!」等々の文字。

明るくなる。

新聞部部室。穂波座っている。

春菜、アンケート用紙の束を手に、部室に飛び込んでくる。

春菜 ヒャッホー! 先輩、これ見て下さいよ。アンケート、こんなに!

穂波 オオッ。

春菜 (アンケート用紙を机に広げつつ)何枚あるかな…。

穂波 昨日の分もあるから、ザッと見て、二百枚くらいじゃない。

春菜 まだ二日ですよ。新聞出してから。すごくないですか。

穂波 思ったよりも反響あったね。

春菜 新聞にアンケート用紙つけたの大正解ですよ。

穂波 まぁね。

春菜 このままいったら、明日あたり、アンケートの回収箱、あふれちゃうんじゃありませんか。もっと大きいのに変えます?

穂波 そこまでしなくってもいいでしょ。全校生徒が答えたとしても五百枚ちょっとなんだから。

春菜 そっか、あと三百枚か…。

穂波 全員答えるわけないじゃん、強制じゃないんだから。

春菜 でも最低でもあと百枚はいってほしいな。

穂波 だね。三百集まったらすごいと思うよ。全校生徒の半分以上の意識がわかるわけだから。

春菜 それにしても、反響があるっていいですよね。私、「ガンバッテ」って声かけられちゃいましたもん。

穂波 私も、「次号、楽しみにしてるから」って言われた。あんまり親しくない子に。

春菜 なんか、私たちが注目されてるみたいでゾックゾクしてきますよね。

穂波 うん。

春菜 けど、実際、どっちが多いんだろ。賛成と反対。

春菜、机の上のアンケート用紙を眺める。

穂波 都島たちは自信満々だったけど、そんなにうまくいくかなって気もするし…。

春菜 私、どっちかっていうと本部案には反対。だって、なんか別物のイベントになっちゃいそうだもん。

穂波 けどさぁ、うちの体育祭って…。まぁ体育祭だけじゃないんだけど、なんか全体的におとなしいっていうか、はっきり言ってつまんないじゃん。そういうのがあって出てきた話だと思うんだよね。だから、「自分たちで変えていこう」「おもしろくしよう」っていう熱意みたいなものはみんなにも伝わったんじゃないかと思う。だから、みんなの意思表示の結果として、アンケートだってこんなに集まってるんだろうし。

春菜 それはそうですけど…。…どうしても藤堂に仕切られてるみたいな気がして…。

穂波 私情は抜きでいこうよ。このアンケートきちんとまとめたら、方向性、見えてくるはずだし。

春菜 …ですね。

穂波 とにかくまず集計。集計結果が出たらその結果速報で次号いくから。

春菜 ラジャー!

暗転。

バックにスライド。新聞の一面。

見出し「アンケート結果まとまる! 有効回答者数三八五名」「賛成四八%、反対三三%、どちらともいえない一九%」「予想以上の反対に生徒会本部の対応は?」「ますますゴールは見えない!」等々の文字。

明るくなる。

都島、柳沢、藤堂、集まって話をしている。

都島 (新聞を手に)思ったほど、支持が伸びてないみたいだけど、どうなってるの。

柳沢 まだ、全校的に広報が行き届いてないのかも…。

都島 (藤堂に)なんとかなんないの。

藤堂 放送部は賛成でまとまってますから、昼休みの放送の中で生徒会本部案の趣旨説明の時間をとってもらうつもりです。会長、出て頂けますか。

都島 もちろん。

池田、早川、集まって話をしている。

池田 (新聞を手に)なんで、半分近くも賛成しやがんだ。信じらんねぇ。

池田、新聞を投げ捨てる。

早川 バスケと陸上、ソフト、それに轟の柔道部と山口の剣道部は反対で固まってるけど、運動部の中でも卓球やダンスは賛成にまわるってウワサ聞いた。

池田 卓球とダンスか…、あいつらやる気薄いからな。

早川 卓球の長沼、たしか轟とつきあい長いから、轟に頼んでみたらどうかな。

池田 なるほど。

早川 ダンスはどうする?

池田 あいつら、楽しく踊れりゃそれでいいってヤツらだからな…。チャラチャラ、ニヤニヤしやがって…気持ちの悪い。

早川 ああそうだ、体育館の使える場所、少し増やしてやったらどうよ? バスケ部に体育館、追い払われたとか言ってたから。

池田 追い払ったんじゃねぇよ。練習のじゃまだから外でやれって言っただけだ。

早川 十分追い払ってるじゃん…。

池田 そうか?

早川、深くうなずく。

池田 ウ〜ン…わかった。体育館使わせてやるよ。

早川 オッケー。その他は…と。テニス、バトミントン、水泳、このあたりは部ごとにまとまってるって感じじゃないんだよな。揺れてるっていうか。

池田 アーめんどくさい。いざとなったら呼び出して全員シメル!

都島、柳沢、藤堂、集まって話をしている。

都島 どうだった。放送。

藤堂 わかりやすかったと思います。

都島 (藤堂に)これで八割くらいいく?

藤堂 さぁ、どうでしょうか。文化部の中で言えば、会長の茶道部と副会長のESS、あと私たち演劇部は百%賛成で、合唱部、美術部もほぼ賛成でまとまっているようでけど…。

柳沢 けど、何?

藤堂 一番部員の多い吹奏楽部がまだ態度保留の状態です。

都島 なんで?

藤堂 吹奏楽は、応援がらみで結構運動部とのつきあいが多いから、たぶんそのせいだと思います…。

都島 困ったわね。

柳沢 …そういえば、たしか吹奏楽からは、今年度の予算要求として、オーボエとクラリネットの購入が出てたはず…。あれをすんなり認めてやれば少しは…

都島 オーボエ? あっそう。なんだかよくわかんないけど、この際、通してやれば。

柳沢 了解。

都島 ただし…。

柳沢 大丈夫。もちろん、今回のこととは直接関係ないという前提で動くから。

都島 (藤堂に)…あと、出番を増やしてやればどうかしら? 要するに演奏したいわけでしょ、大勢の前で。開会式と閉会式だけじゃなくて他にも何か。

藤堂 シーンの変更ですか…。わかりました。やってみます。

柳沢 …それはそうと、一番の問題は部活をしてない人たちの動きなんだけど…。

都島 帰宅部か…。

柳沢 浮動票になってて、動きが読めないんだよね…。

都島 基本的にやる気のない人たちだから、体育祭自体に関心がないのかもしれないわね。何かいい手、ないかしら。

柳沢 …だったらシーンの数を減らして、今までの体育祭よりも早く終わるという形にしてみたらどう? 楽できるとわかれば賛成にまわるような気がするけど…。

都島 (藤堂に)できる?

藤堂 やってみます。

池田、早川、集まって話をしている。

池田 都島たち、影でコソコソ動いてるみたいだな。

早川 …吹奏楽は「あなたたちが主役なのよ」とかなんとか言われて、とうとう生徒会についたらしい。

池田 汚いマネしやがって、都島のヤツ。

早川 まぁ、こっちも卓球とダンスはおさえたけど…。でもまだ半分はいってないと思う。

池田 クソッ、再来週生徒総会だってのに、このままじゃ都島の思うつぼじゃんかよ。

早川 マズイよな…。

池田 それにしても、なんで都島たち、急にこんな変なこと言い出したんだろうな? 体育祭なんだからさぁ、変な小細工しないで純粋に体動かしてればそれでいいじゃんか。それをパフォーマンスだかなんだか知らねぇけど、無理矢理ヘンテコなイベントに変えようとしてんだから、どう考えたっておかしいのはあっちだろ。

早川 …思うんだけどさぁ、ひょっとしたら、都島も柳沢も推薦狙ってんのかもよ。それで、こういうイベント成功させたっていうのを、実績っていうか、評価の対象にしてもらおうと思ってんじゃん。なんかそんな気がする。

池田 もしそうなら、絶対許さん! (壁を殴って)そういう不純なのが一番嫌いなんだよ!

都島、柳沢、藤堂、集まって話をしている。

柳沢 池田たち、このままほっといていいわけ。ずいぶん生徒会のこと攻撃してるけど…。

都島 言わせておけばいいのよ、基本的に粗野な人たちなんだから。

柳沢 だけど、いろいろ私たちのことも個人攻撃っていうか…中傷してるみたいだし…。ムカツク。

都島 気にしない、気にしない。私たちは私たちの理念があってやってることなんだから。

柳沢 でも、どうして池田や早川は、ここまで強硬に反対するのかなぁ…。わけわかんない…。

都島 そう? 別に。だって、池田さん、昔から私のこと嫌ってるから。それででしょ。

柳沢 そりゃ、私と早川だってそうだけど、それとこれとは基本的に別の話だし。生徒会活動に対して、好き嫌いで動かれちゃさぁ…。

都島 同じなのよ。あの人たちから見れば。

柳沢 ったく。公私混同にもほどがあるぜ。

都島 敵と味方しかないのよ。体育会系の人間には。だって、たとえば、相手チームに上手な人がいたとしてよ、試合中に絶対その人のこと褒めたりしないでしょ。逆に自分たちにとっては邪魔者っていうか、そういう目で見てヤジったり。所詮そういう世界の人たちなのよ。

柳沢 私たちが、少しでもみんなのためにいい方向に変えていこうとしてるのに、どうしてそう狭い物の見方しかできないのかなぁ。ホント、バカなんだから。

新聞部部室。穂波と春菜。

春菜 なんか、アンケート結果出してから、いろんなところで、トゲトゲした雰囲気かもしだしてるんですけど…。

穂波 生徒会も池田さんたちも一歩も退かないって感じだよね。

春菜 だんだん話が大きくなってきたっていうか…。

穂波 …もう一回アンケートやってみよっか。

春菜 それ、いいですね。

穂波 今やったら、前回よりも生徒総会の投票結果に近いものが出てくるはずだし…。

春菜 私もそう思います。

穂波 よし、やるか。

暗転。

バックにスライド。新聞の一面。

見出し「第二回アンケート調査実施」「あなたの声を聞かせて下さい」「生徒総会まであと二週間」「ゴールが見えてくるかも!」等々の文字。

明るくなる。

新聞部部室。穂波座っている。

春菜、アンケート用紙の束を入れた袋を手に、部室に飛び込んでくる。

春菜 先輩、先輩、今回も大成功です! これ見て下さいよ。(袋を見せつつ)まだ新聞配ってから一日しか経ってないのにスゴすぎません!

穂波 マジ、凄いね。

春菜 ヘッヘッヘッ。(アンケート用紙を袋から出して机に広げつつ)何枚あるかな…と。

穂波、机に山盛りになったアンケート用紙を見て。

穂波 エエ〜ッこんなにあるの。

春菜 ヒェッヒェッヒェッ。回収箱ギュウギュウに膨らんでましたから。

穂波 ちょっと多すぎない…。

春菜 たぶん千枚はあるんじゃないですか。

穂波 千枚?

春菜 エエ、それくらいはあると思いますよ。こりゃぁ集計大変だぞぉ〜。ヒェッヒェッヒェッ。

穂波 ちょ、ちょっと。春菜。

春菜 なんですか?

穂波 おかしくない。

春菜 何がですか。

穂波 だって、全校生徒五〇八名じゃない。各クラスに人数分配ったんだから、全部集まっても五〇八枚以上にはならないよ。

春菜 アア、そうか。

穂波、机の上のアンケート用紙を確認する。

穂波 なんだこりゃ…。これも、これも、これも…。…全部「反対」。

春菜 アアッ、ホントだ!

穂波 しかもこれ、コピーだよ。

春菜 誰かがワザと…。

穂波 回収箱の中身入れ替えたんだ。

春菜 じゃあ、本物のアンケートは? ちゃんと答えてくれた人の分は…。

穂波 これを入れたヤツが持っていったんじゃない。

春菜 どうします、先輩!

穂波 こうなった以上、アンケートは中止するしかないよ。

春菜 妨害工作に屈するんですか!

穂波 イヤ。すぐに号外を出す。そしてこのことをみんなに知ってもらう。それしかないよ。

春菜 ハイ!

暗転。

バックにスライド。新聞の一面。

見出し「号外!」「集計箱から大量のコピー」「反対千枚、賛成ゼロ!」「アンケートの集計不能に」等々の文字。

暗い中で、池田の怒鳴り声。

池田声 ふざけんじゃねぇよ!

明るくなる。新聞部部室。穂波に詰め寄る池田。心配そうな春菜。

池田 (号外を手に)何でウチらが犯人みたいになってんだよ! 証拠出せよ、証拠!

穂波 だから、池田さんたちが犯人だなんてことは一言も…。

池田 けど、この書き方じゃ、どー見てもウチらの誰かがやったみたいにみえるだろうがよ。

穂波 そういう意図は全然ないし、私たちは、ありのままの事実をそのまま書いたわけで…。

池田 ありのままの事実? 笑わせんな、でっち上げてるだけだろうが。大体、コピーして入れ替えるなんて、そんなわざとらしいことしたってすぐバレんだから、逆に言えば、こっちがやったんじゃなくて、都島たちがウチらを陥れるためにやったって考えたほうが自然なんじゃねぇの!

都島、入ってくる。

都島 聞き捨てならないわね。

池田 都島…。

都島 勝手に妄想を広げるのはやめてくれない。

池田 何だと!

穂波 ちょっと二人とも…。

都島 (穂波に)悪いんだけど、あの記事の元になったアンケート用紙、見せてくれない。何か犯人につながる証拠が見つかるかもしれないから。

池田 そりゃそうだ。是非見たい。

都島 ついでだから、一回目のもお願い。筆跡の比較ができるから。

穂波 アッ、それは…ちょっと…。…いろいろあって…。

池田 なんだよ。はっきり言えよ。

穂波 …二回目のはともかく、一回目のアンケートには、名前を書いてくれてる人もいるし…。

都島 だからいいんじゃない。

穂波 でも、集計結果以外は一切公表しませんって条件でとったアンケートだから…。

池田 そんなこと言ってる場合じゃねぇだろ。

穂波 ゴメン、でもそれだけは…。

都島 じゃあとりあえず、二回目のアンケートだけでも出してちょうだい。本部に持ち帰って検討させてもらうから。

穂波 持って行くの?

都島 当たり前でしょ。役員全員でじっくり調べるつもりよ。だって、ヘタをしたら、生徒会が悪者にされかねませんからね。(池田をにらんで)…さっきの池田さんの発言、聞いたでしょ。

穂波 持って行くのは…。ゴメン。やっぱりできない。これは新聞部のアンケートだから、あくまで新聞部が責任を持つべきだと思う…。

都島 どう責任を持ってくれるの?

穂波 それは、わからないけど…。でも、(アンケート用紙の入った袋を手に)これは犯人捜しの道具じゃないと思うし…しちゃいけないと思う。

池田 けどさぁ、そしたら、ひょっとして、おたくら新聞部がアンケート結果、意図的に操作しても誰もわかんねぇってことじゃんか。

都島 それはそうよね。

池田 つまり、一回目も二回目も、結局全然信用できないってことになるけど、それでいいんだな。

都島 それもそう。(池田に)あなたも十年に一度くらいは正気に戻るのね。

池田 毎朝正気に戻ってるっつーの。

都島 夜は正気じゃないんだ。

池田 うるさい!

都島 (穂波に)で、どうなの?

穂波 …ゴメンナサイ。

都島 わかりました。

池田 わかんねぇよ。ほっといていいのかよ、都島。

都島 報道の自由ってやつじゃないの。

池田 ケッ。

都島 とにかく、生徒総会まであと十日。大事なときだから、これ以上混乱させるようなことはやめてちょうだいね。

春菜 混乱って…。私たちはただ…。

都島 ただ? ただ何?

春菜 みんなに正しい情報を伝えようと思って…。

都島 結局全然正しく伝わってないでしょ。

池田 大迷惑なんだよ!

都島、池田、出ていこうとする。

穂波 ちょ、ちょっといい。あの、ひとつ提案なんだけど…。

池田 ハァ?

都島 何かしら。

穂波 公開討論会を開かない? そこで、お互いの意見や疑問点をぶつけ合うってどうかな。それなら、いろんなことが事前にわかって、生徒総会のときにも議事進行がスムーズにいくと思うんだけど…。

都島 それを新聞部主催でやろうっていうの。

穂波 ダメ?

都島 それが、新聞部としての責任の取り方だと考えていいのかしら。

穂波 うん。(池田に)どう?

池田 ちゃんと仕切れるんだろうな。公平に。

穂波 もちろん。

池田 こっちはかまわねぇよ。何にも悪いことはしてねぇんだから。

穂波 都島さんは?

都島 いいわよ、別に。事前説明の一環として、無駄ではないでしょうから、新聞部さんがキチンとセッティングしてくれるなら、問題ないんじゃない。

穂波 ありがとう。じゃあ詳しいことは後で連絡するから。よろしく。

暗転。

バックにスライド。掲示板の文字。

「本日午後四時より体育館にて新聞部主催の公開討論会開催」

「生徒総会まであと一週間」

「文化体育祭は是か非か」

「みんなで語り合おう!」

明るくなる。

体育館。下手に池田、早川座っている。上手には都島、柳沢。

中央には司会役の穂波。

穂波、緊張した面持で。

穂波 …それでは、只今より…。

会場声 声が小さい!

〔注〕会場からの「声」については、実際の公演会場の客席に、セリフを言う人をあらかじめ配置しておくとよいかもしれません。

穂波 スミマセン…。それでは只今より新聞部主催による公開討論会を始めたいと思います。…ではまず、生徒会長の都島さんのほうから来る生徒総会で提出予定の事案、文化体育祭についての趣旨説明を…。

会場声 そんなのいいよ。

会場声 省略、省略!

会場声 静かにして下さーい。

早川 (穂波に)あのさぁ、ちょっといい。趣旨はさぁ、新聞部さんの記事とか、放送とか広報とかでもうある程度わかってんだから、肝心なとこから始めちゃえばいいんじゃないの。時間もったいないよ。

会場声 そうだそうだ!

柳沢 (穂波に)私は、誤解のないように、初めに会長のほうからキチンと説明してもらうべきだと思うけど。

穂波 エッと…。じゃあ…。

池田 とにかくさぁ、文化体育祭ってものがどういうものかは知らないけど、体育祭は体育祭で伝統のあるものだと思うんだよ。会長さんは、伝統大事にするタイプなのに、なんで今回だけ伝統を無視すんのかが全然わかんない。

都島 ですから、それを今から説明して…。

会場声 運動オンチは黙れ!

都島 (会場に)なんですって!

会場声 どうせ推薦とりたいだけだろ。

穂波 (会場に)個人攻撃はやめてください。あとでちゃんと質疑の時間をとりますから、静粛に…。

会場声 カッコつけんな新聞部!

会場声 さっさと犯人見つけろ!

会場声 そうだそうだ!

会場声 生徒会だろ黒幕は!

都島 今、言ったの誰! 出てきなさい!

会場声 (複数人で)くーろまく! くーろまく!

柳沢 (穂波に)なんなのこれ。こんなんじゃ話にならないでしょ。

会場声 そうだよ。静かにしなよ!

会場声 うるさい。黙ってろブース。

会場声 ひどい!

会場声 ひどくない!

会場声 ちょっといい加減にしなさいよ!

穂波 会場は静かにして下さい。あとで質疑の時間をとりますから…。とりあえず…。

会場声 とりあえず犯人捕まえろ!

会場声 賛成!

会場声 異議ナーシ。

穂波 あの、ですから、今日は公開討論会ということでお集まり頂いているので、アンケートの件についてはまた別の問題として考えていくことにして…。

会場声 別の問題じゃないでしょ。

会場声 疑われてる人がいるんだよ!

会場声 謝れよ、生徒会!

柳沢 (会場に)どうして生徒会が謝らなければいけないんですか!

会場声 犯人だからだよ!

会場声 そんなこと言ってる人が犯人なんじゃないの。

会場声 なんですって!

会場声 落ち着こうよ、みんな。

会場声 うるさい!

穂波 静粛に、静粛にお願いします!

都島 (池田に)あそこで騒いでるの、運動部の連中でしょ、なんとかしなさいよ。

池田 バカ言うな。あっちでキーキー言ってんの茶道部だろうがよ。

柳沢 (穂波に)ちゃんと仕切りなさいよ。司会でしょ。

穂波 静かに、静かにして下さい!

会場声 うるさい!

会場声 静かに!

会場声 うるさい!

会場、混乱。椅子の倒れる音、怒鳴り声。

穂波 静かに、静かにして!

暗転。

スライド。文字流れる。

「今年度の体育祭の開催に関する連絡事項」

「体育祭については、従前より生徒会本部並びに体育祭実行委員会を中心とした生徒諸君の自主的活動の場であるとの認識から、その運営・実施に当たって、学校側としては、極力、生徒諸君の主体性を尊重してきましたが、今般、その運営方針を巡って一部生徒間で対立が生じ、その対立が全校的に波及したことは誠に悲しむべきことです。

ついては、このような状況下においては健全な体育祭の開催は不可能であると判断し、今年度の体育祭は中止することとしました。

全校生徒は、動揺することなく、これを機にさらに気持ちを引き締め、よりいっそう学校生活を充実させて下さい。

なお、部員の減少と一連の事態の推移に鑑み、新聞部は無期限活動停止とします。 以上

○○女子高等学校校長 山下 巌」

明るくなる。

新聞部部室。穂波と春菜。

穂波、黙々と机を整理している。

春菜 どうしてこうなるんですか。先輩。

穂波 …。

春菜 おかしくないですか。私たちは取材をして、新聞を出して…。それのどこがいけないんですか。

穂波 …。

春菜 校長だって、自分が最初にオーケーを出したからこうなったくせに、てのひら返して…。ひどくないですか。

穂波 …。

春菜 なんとか言ってくださいよ、先輩。

穂波 ゴメン。

春菜 なんで謝るんですか!

穂波 ゴメン。

春菜 先輩!

穂波 …結局、みんなに迷惑かけただけだし。

春菜 そんなことないですよ。

穂波 ううん。だって、煽るだけ煽って体育祭自体を台無しにしちゃって…生徒会や運動部のみんなにも悪いことしたと思う。…それに私の代で新聞部も潰しちゃったし。

春菜 先輩のせいじゃありません。

穂波 人望がないんだよ。たぶん。

春菜 私、先輩のこと好きです。

穂波 ありがと。…でも、ホントゴメン。

春菜 これ以上、謝らないで下さい。なんか私まで悲しくなってくるから…。

間。

上手より、藤堂。新聞部部室のドアの前まで来て立ち止まる。

穂波 なんか寂しい引退になっちゃったな…。…どうすんの春菜は。

春菜 私は…。私は、新聞部続けます!

穂波 続けるって…。

春菜 私、一人になっても、学校が認めてくれなくても、新聞作って、いつか新聞部復活させます。そう決めたんです。

穂波 なんで…。

春菜 …すごく楽しかったから。…さっき、穂波先輩、煽るだけ煽って迷惑かけたって言ったけど、私、それでも楽しかったです。私たちの新聞読んでくれる人がいて、それについて考えてくれる人がいて。なんか喧嘩する人もいたりして。すごくワクワクしました。だから、私、思うんです。今回はうまくいかなかったかもしれないけど、それでも、こんなにワクワクしたんだから、もっともっといい新聞作ったら、もっとワクワクするんじゃないかって。だから私、やめたくないんです。だから先輩もやめないで下さい。

穂波 …なんか、大きくなったね、春菜。

春菜 先輩のおかげです。

穂波 そんなことないよ。私なんかなんにもしてあげられなかったし…。ホントダメな先輩で…。自分でもよくわかってる。ゴメンね…。

春菜 先輩。

穂波 何?

春菜 ひとつお願いしていいですか。

穂波 …。

春菜 もらいたいものがあるんです。

穂波 何を?

春菜 バトン、下さい。

穂波 バトン?

春菜 先輩の万年筆、頂けませんか。私、それバトンにして、先輩の気持ち、引き継ぎたいんです。

穂波 …わかった。いいよ。私の気持ちなんか大したことないけど、こんなものでよかったら受け取って。

穂波、春菜に万年筆を渡す。

春菜 大切にします。

穂波 うん。なんか私もスッキリした。ありがとう。

春菜 じゃあ、失礼します。

春菜、穂波に一礼して、ドアを出ていく。

ドアの前には藤堂。

春菜 藤堂!

藤堂 こんにちは。

春菜 何よ。まだ何か用?

藤堂 うん、まぁね。できれば入っていきたかったんだけど、感動的シーンだったみたいなんで、ここで待ってた。

春菜 ムカツク! 最後まで人のことバカにして…。

藤堂 別にバカにしてなんかないけど。

春菜 で、何? いまさらなんの用?

藤堂 バトンのアイデア、パクらないで。

春菜 そんなこと言うためにここにいたわけ!

藤堂 冗談だよ。冗談。あいかわらずだねぇ。

穂波、ドアのところへ来て。

穂波 どうかしたの?

春菜 藤堂が…。

穂波 ああ、藤堂さん。…何?

藤堂 ちょっと体育館までつきあってもらえませんか。

穂波 体育館に?

藤堂 ハイ。

春菜 先輩、行っちゃダメです。これは、文化体育祭を潰されたことに対する仕返しに違いありません!

穂波 (藤堂に)そうなの?

藤堂 あり得ません。

穂波 だよね。じゃあ一体…?

藤堂 聞こえませんか。あの声。

遠くからざわめき。

穂波 何、あれ?

藤堂 実はですね…。

都島、柳沢、池田、早川、上手より登場。

柳沢 (藤堂に)遅いわよ。何してるの。

藤堂 すみません。ちょうど今、説明しようと思っていたところです。

池田 (穂波に)いいから来いよ。

池田、穂波の手を引いて連れて行こうとする。

穂波 な、なんなの…。

都島 みんなが待ってるの。

穂波 みんな?

都島 そうよ。どんどん集まってきちゃって。…聞こえるでしょ。

ざわめき大きくなってくる。

藤堂 体育祭の中止と新聞部の無期限活動停止に反対して、生徒たちが体育館に集まってきているんです。なので、二人にも是非来てもらいたくて。

穂波 でも、校長が…。私たちが起こした騒ぎだからって…。

池田 お前らが悪いんじゃねぇよ。

早川 校長がおかしいんだって。

ざわめきの声、はっきりと聞こえてくる。

声は「中止反対」「廃部反対」の繰り返し。

穂波 なんでこんなことに…。

柳沢 偶発的…とでも言ったらいいのかな。詳しいことはわからないんだけど、どうやら文化部の誰かと運動部の誰かが体育館でもめて、言い争っているうちにお互いの仲間がどんどん集まってきて、最初は両方ともかなりエキサイトしてたみたいだけど、そのうち、ちょっとした集会のようになったらしくて…。で、そうこうするうちに、結局、体育祭を中止にするのは納得いかない、新聞部の無期限活動停止はないだろうってところで意見が一致したみたい。激しくぶつかっているうちに化学反応が起きたってことかな。

都島 さっき見てきたけど、あれだけの人数が要求している以上、生徒会本部としても無視できないと判断しました。今から、体育館にいるみんなの意見を聞いて、明日にでも臨時の生徒会総会を開催し、その結果を持って私たち執行部は、生徒代表として学校側との交渉に入ります。

池田 あの通りだから、あえて意見を聞くまでもないけどな。

都島 それでもちゃんとした手続きを踏むべきです。

池田 わかったよ。とにかく、行こうぜ。

春菜 先輩、やりましたね。

穂波 …うん。でも、またみんなに迷惑がかかるんじゃ…。

池田 関係ねぇよ。

都島 体育祭等の行事および部活動は、生徒による自主運営が原則です。学校側の一方的な通告に無条件で従うべきではありません。つまりこれは生徒会として対応すべき事案であって、あなたたちが迷惑をかけるかけないといったレベルの話ではありません。いわば正義・道理の問題です。わかるでしょ、新聞部なら。

池田 (穂波に)これ以上、グダグダ言ったら、結構大きめの骨を折るぞ!

声、より大きくなってくる。

穂波 ありがとう、みんな。

柳沢 別に、本部が招集したわけじゃないからお礼は結構。自然発生的にこうなって、正直、私たちも少し驚いてる。うちの学校にもこんなパワーがあったんだなって。

早川 なんだかんだ言っても仲間なんだってことだろ。

藤堂 (穂波と春菜に)ということなので、よろしく。

柳沢 行きましょう。時間がない。

穂波 うん。

穂波、柳沢、早川、上手へ去る。

春菜 藤堂。

藤堂 何。

春菜 ひょっとしてこれもあんたの筋書き? 最初からこういう結末にしようっていう…。

藤堂 まさか。ここまで読み切れる人なんていないって。それに…。

春菜 それに?

藤堂 これが結末なんじゃなくて、ここからがはじまりなんじゃないの。

春菜 …そうか。そうかもね…。

藤堂 学校全体がもっと元気になればいいかなと思って、文化体育祭のアイデアもそこから出てきたんだけど、思いがけず別な形で盛り上がってきてさ。ホント、この先、どう転ぶかわからないけど、それでもなんだか気持ちがたかぶるっていうの。リアルな感じで。

春菜 ゾックゾクする?

藤堂 そう。チョーゾックゾクする。

春菜と藤堂、少し笑う。

藤堂 これから忙しくなるかもよ。マスコミさんは。

春菜 うん。

藤堂 とりあえず、来て。主役がいないとはじまらない。

春菜 うん。

春菜、藤堂、上手へ去る。

後には、都島と池田の二人。

都島、新聞部のドアを閉め、つぶやくように。

都島 さてと。行きますか。

都島、上手へ去ろうとする。

池田 オイ。

都島立ち止まって振り向く。

都島 

池田 お前の事、キライはキライだが…。

都島 何よ。

池田 大キライじゃないからな。

都島 そりゃ、どうも。

都島と池田、足早に上手へ去る。

「反対」「反対」「反対」「反対」「反対」「反対」…。

声、大きくなる。

体育館に穂波たちが到着したらしい。一瞬静まりかえり、次の瞬間。

歓声。拍手。(幕)

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