●20人程度以上できるだけ多く ●30〜40分程度
●あらすじ
無言劇。なのでセリフは一切なし。主な登場人物は4人。特定の役があるのはあと6人。その他はザワザワと大勢。大きな道具としては岩が一つ。これを神様にする方法。
●キャスト
さがし物をする男
ためらう女
ヨッパライ
動かそうとする男
女子高生二人
老婆
主婦三人
その他の人々(多数)
●台本(全文)
舞台中央に岩。
薄暗い中、上手より「さがし物をする男」登場。
手には懐中電灯。
男、懐中電灯であちこちを照らしつつ、中央へ。
岩のまわりをそわそわと歩きつつ、下手に去る。
ややあって、再び現れ、また同じように何かをさがすようなそぶり。
立ち止まって、ポケットの中やカバンの中を調べたりもするが、さがし物は見つからないらしい。
次第にイライラとした感じになり、上手へと足早に去る。
(間)
上手より「ためらう女」登場。
明らかに元気がない。鬱々とした表情。とぼとぼと中央へ。
岩にもたれかかるようにしてうなだれる。
オルゴールの音。どうやらケータイが鳴っているらしい。
女、バッグよりケータイを取りだし、耳に当てようとするが、閉じる。
再びケータイの音。女、出ようとするが途中でやめる。
鳴り続けるオルゴールの音。
女は、バッグから薬のビンを取り出す。
おもむろにフタを開け、一錠手にとり、しばし見つめる。
女、口に入れようとするが、そのときオルゴールの音消える。
女、ハッと我に返ると何度も首を振り、薬を投げ捨てると、悲愴な表情で下手へと去る。
(間。明るくなる)
上手より、「ヨッパライ」。
手には一升瓶。フラフラしながら中央へ。
岩に寄りかかってしゃがみ込む。
あぐらをかいて、一升瓶からグビグビと酒を飲み、満足げな表情。
ふと、転がっている薬を見つけ、手に取る。
おつまみにしようとでも思ったのか、そのまま薬を口に持っていくが、やっぱりやめて酒を飲む。
満足げな表情。
再び薬を口に持っていくが、何かいいことを思いついたらしい。
薬を左のてのひらに乗せ、その左手を右手で下からたたき、はねあげた薬を口で受けようと試みる。
しかし、相当酔っているので失敗。
この動作を何度か繰り返すがどうしてもうまくいかない。
「ヨッパライ」、とうとう立ち上がると、何を思ったのか薬を鼻の穴に入れ、客席に向かって発射する。
騒ぐ客席(たぶん)を見て大満足のヨッパライ。
一升瓶を手に、上手へと去る。
(間)
下手より、「動かそうとする男」登場。
スタスタと中央まで来ると、メジャーを取りだし、岩の高さや長さ、幅を細かく計り、メモ。
上着を脱ぐと、岩に手を掛け、動かそうとする。
しかし、まったく動かない。
男は諦めず、押したり引いたりを繰り返す。が、岩はビクともしない。
何度目かのチャレンジの後、ふと何かを思いついた様子で男は下手に走り去る。
再び現れた男の手には棒。
男は棒の一端を岩と地面の間に差し込み、反対側の端を肩に乗せ、テコのようにして力を入れる。
それでも岩は動かない。
男、忌々しそうに足で岩を蹴る。
相当痛かったらしい。男は足をかかえて倒れ込む。
男、しばらくして立ち上がると、地団駄を踏み、岩を睨みつけつつ下手へと去る。
(間。舞台全体暗くなる。以後、登場人物にのみ明かり)
下手より再び「ためらう女」登場。
表情、さらに暗い。
バッグから薬のビンを取りだしフタをあけると、入っていた薬をすべて手に盛る。
舞台中央、客席に向かって決意の表情。ゆっくりと手を口の前へ。
しかし手がワナワナと震え、薬、パラパラとこぼれ落ちる。
結局、薬はすべて地面に落ちてしまい、女、両手で顔を覆う。
虚脱した表情で女は岩のほうに倒れ込み、シクシクと泣き続ける。
上手より、「ヨッパライ」登場。
さらに酔っている。手には一升瓶。
酒を飲みつつ、中央に来ると、気持ち悪そうに岩にもたれかかる。
やがて岩からずれ落ち、座る様な形でその場に寝てしまう。
下手より、「動かそうとする男」登場。
手には鎖。ブルンブルンと振り回し中央へ。
男、気合いを入れ、岩に鎖を巻くと、残りの一方を持ち下手へ。
下手には、鎖を巻き取る装置があるらしい。ゴーゴーという音とともに次第に鎖は下手へ引っぱられ、岩と下手ソデとの間でピンと張る。
さらにゴーゴーという音。しかしだんだんとガガガッという引っかかるような音にかわり、バキッという音とともに鎖が切れる。
下手より男、たるんだ鎖を手に現れる。
憤りと悔しさのあまり髪の毛をかきむしりつつ中央へ。
諦めきれないのか、岩の前まで来ると体に鎖を巻き岩を動かそうとするが、ビクともしない。
男、うなだれ、その場にしゃがみこむ。
上手より「さがし物をする男」登場。
あいかわらず、手には懐中電灯。先ほどよりもいっそう落ち着かない様子で、キョロキョロとさがし物をしている。
泣き崩れている「ためらう女」や、あぐらをかいたまま寝ている「ヨッパライ」、鎖を体に巻きつけしゃがみこんでいる「動かそうとする男」などが男の懐中電灯に照らし出されるが、男はまったく興味を示さない。
やがて、岩の横に立ち、懐中電灯で岩のくぼみを丹念に調べはじめる。
ややあって、何かを見つけた様子。
顔を近づけ、それとわかると、笑顔でバンザイ。そしてガッツポーズ。
手を合わせて空を見上げたり、地面をたたいたり、尋常ではない喜びよう。
(舞台全体明るくなる)
下手より二人づれの女子高生。
うなずいたり、笑ったり、楽しそうに話をしている感じ。
ふと、一人が岩のまわりの様子に気づき立ち止まる。
もう一人も気づき、顔を見合わす。
二人の目の前には、岩を囲む様にして、すがるように泣き崩れている「ためらう女」、目をつぶり座禅をしているような感じの「ヨッパライ」、鎖を体に巻きつけ修行する行者のように体を揺すっている「動かそうとする男」、岩を指さしたり天を仰いだりしつつ、喜色満面の「さがし物をする男」がいる。
二人、興味ありげに近づき、ケータイで写真をとる。
ケータイで写真をとった女子高生二人は、納得した様子で上手へ去ろうとするが、何を思ったのか一人がふと立ち止まると、岩の前に戻って手を合わす。
もう一人も、同様に。
二人、上手へと去る。
入れ違いに下手より老婆。
どうやら二人の様子を見ていたらしい。
二人の去ったほうを目で追いつつ自分も岩の前に近づき、お財布から小銭を取り出すと、お賽銭的に岩に小銭を投げて、手を合わす。
上手より、三人づれの主婦登場。ペチャクチャとおしゃべりをしているような感じで中央へ。
ふと、一人が岩に気づき、三人、目の前の光景に立ち止まる。
老婆、岩にお辞儀をした後、主婦三人の前を通って上手へ去ってゆく。
老婆は通りすがりに何かささやいた様子。
ささやかれた主婦たちは、少し相談するような仕草。やがてうなづくと、三人並んで岩の前に立ち、小銭を投げて手を合わす。
不意に「動かそうとする男」、ガチャリと鎖を振る。
ドキリとする三人。
「ためらう女」のケータイからオルゴールの音。
さらにドキリとする三人。
「ヨッパライ」、音で目が覚めたのか、急に立ち上がると、目を閉じたまま、三人に向かって大きく「おいでおいで」のゼスチャー。
三人、なんとなく岩に近づきひざまづく。
「さがし物をする男」、バンザイをしながら三人に近づく。
三人、見様見真似で、ひざまづいたままバンザイを繰り返す。
「さがし物をする男」、今度はガッツポーズ。
三人もつられてガッツポーズ。「さがし物をする男」、一緒に喜んでくれていると思い、一人一人の手をとって頭を下げる。
なぜか感動しはじめる三人。
最後は、四人で手をつなぎ、フィナーレ的な感じで盛り上がる。
頭を下げ、上手へ去る「さがし物をする男」。
三人なにやら感動が冷めない様子。
一人は上手へ、一人は下手へ、もう一人は客席に降りてゆき、それぞれ数人を連れて戻ってくる。
集まった人々、半信半疑で岩に手を合わす。
そのとき「動かそうとする男」がガチャリと鎖を鳴らす。
「ほらねぇ〜」的な三人。
驚く人々。
今度は「ためらう女」のケータイからオルゴールの音。
「でしょぉ〜」的な三人。
どよめく人々。
「ヨッパライ」は立ち上がり、「おいでおいで」のゼスチャー。
主婦三人ひざまづく。
上手より「さがし物をする男」。人々の前をバンザイをしながら下手へと去る。
三人、祈るように手を上げ下げしはじめる。見ていたまわりの人たちもつられて同じように。
下手より「さがし物をする男」。今度は人々の前をガッツポーズをしながら上手へと去る。
主婦三人もその他の人々もガッツポーズをしながら立ち上がり、全員手をつなぎフィナーレ的な感じで盛り上がる。
(暗転。オルゴールの音)
(しばらくして少し明るくなる)
岩には鎖がはちまきの様にまかれ、お金がたくさん貼り付けられている。
半円状に岩を取り囲む人々(参加人数に応じて何重かに調節)。
全員、頭には鎖をまいている。
岩に向かって頭を下げたり、祈るポーズ。中には手を合わせてから、岩にお金を貼り付けている者も。
そこへ上手より「動かそうとする男」登場。手にはツルハシ。
どうやら岩を砕くつもりらしい。
人々を押しのけ、岩に近づくとツルハシを振り上げる。
それに気づき、押しとどめようとする人々。
しばらくもめるが、最後はツルハシを取り上げられ、男、追い払われる。
苦々しい顔で上手へ去っていく「動かそうとする男」。
上手に向かって、ツルハシを投げつけ、バンザイをする人々。
やがて全員で手をつなぎ、岩を半円状に取り囲み手を上げ下げする。
そこへ「ヨッパライ」。手には一升瓶。上手よりヨロヨロと岩の前に歩いていく。岩に貼り付けられたお金を見つけ、
剥がし取ろうとする。
半円状の人の輪、ブルブルと震える。全員冷たく怒った表情。
やがて中央の「ヨッパライ」をおしつつむように小さな輪となり、しばらくして元の大きさに戻る。
もうそこに「ヨッパライ」の姿はない。一升瓶だけが岩の前に転がっている。
下手より「ためらう女」。
泣きながら岩に近づきヨロヨロと倒れ込む。
岩をたたく女。
半円状の人の輪が再びブルブルと震え、「ためらう女」をおしつつむように小さくなっていく。
ふと、オルゴールの音響く。
「ためらう女」のケータイが鳴ったらしい。
一瞬、輪の動きが止まる。
(短い間)
輪が、少しあとずさりするかのように広がる。
(短い間)
輪を作っていた人々、ゆっくりとしゃがんでいく。
全員がしゃがんだ後、輪の中央、岩の前、「ためらう女」がゆっくりと立ち上がる。
オルゴールの音、少しずつ大きくなっていく。
女に向かって手を上げ下げする人々。
とまどう女。
しかし、しだいに歓喜の表情となってゆく。
さらに歓喜の表情から、無表情へと変わる。
オルゴールの音が小さくなってゆき、だんだんと暗くなる。
(暗転)
(暗い中)
上手より、「さがし物をする男」登場。
手には懐中電灯。地面を照らしながら歩いてくる。
男、中央まで来て、ふと、後ろに気配を感じ、胸騒ぎをおぼえ舞台奥を照らす。
懐中電灯の光で大勢の人がとぎれとぎれに照らし出される。
どうやら背面に立つ人々はケータイを手にしているらしい。
たくさんのケータイから、同時に同じオルゴールの音が鳴りはじめる。
次の一瞬。一斉にケータイが開かれる。
暗い中で、液晶の画面に照らされ、たくさんの顔がぼんやり浮かび上がる。
恐怖で後ずさりする男。
懐中電灯を投げ捨て、転がるように下手へ逃げ去る。
(短い間)
「ためらう女」舞台奥から静かに現れ、「さがし物をする男」が残していった懐中電灯を手に取る。そして何度か自分の顔に向けて明滅させた後、自分の顔を下から照らしながら、持っていたケータイを岩の上に置く。
女はゆっくりと岩の後ろに回り込むと、正面に向き直り、無表情のまま沈み込むように(溶け込むように)岩の陰に消える。
背光のように残っていた懐中電灯の明かりも消え、岩のみに。
人々、中央に集まりはじめ、祈りをささげるかのように、順々に岩にケータイを置いていく。
岩、光るケータイで装飾され、発光。
オルゴールの音はいつまでも鳴りやまない。(幕)